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097:あわただしい準備
――『町おこしの賦』第4部:標茶町ウォーキング・ラリー05 瀬口薬局は、二番スタンプ所に指定された。したがって参加者たちは、早い時間に訪れてくる。 標茶町役場からは、大型スクリーンとスタンプ台一式が届けられた。「ウォーキングを楽しく」と書かれたパンフレットも届いている。 ――ビデオはエンドレスにしてあります。繰り返し流れますので、来訪者にはこのソファに座って、五分間見てもらうだけで構いません。 標茶町役場の観光課斉藤課長は、それだけを伝えてあわただしく出て行った。恭二の父・恭平は調剤室に向けてあったソファを、ビデオに向かうように改めた。学校から帰ってきた恭二は、店内を眺めて、「いよいよだね、父さん」とねぎらいの言葉をかけた。 「ウォーキングなんて、やったことがない。質問されたらどうしよう」 恭二は父が何度もビデオと向き合い、ウォーキングに関する本を読んでいることを知っている。 「質問は受けつけません、とでも貼り紙しようか」 ふざけていうと、「それもいいな」との答えが戻ってきた。 標茶町ウォーキング・ラリーの責任者・宮瀬哲伸は藤野温泉ホテルで、社長の藤野敏光と打ち合わせをしている。 「来訪者は、五百人と予定しています。ただし一泊二日コースは、その二割くらいだと思います」 宮瀬の説明に、藤野は目を丸くしていった。 「百人の宿泊はムリですよ。八十人は収容できますが、ほかにも泊まり客がいます」 「宿泊の方は、ほかのホテルにもお願いしてあります。入浴の方は一度にどのくらい可能ですか?」 「男湯が三十と女湯が二十というところです。五百人が一遍にきたら、十回に分けてもらわなければなりません」 宮瀬は考えこんでしまう。藤野は心配そうに、宮瀬を見ながらいった。 「入浴もそうですが、バスタオルやタオルも足りません。それにここで夕食となると。食堂は五十人が限度です」 宮瀬はほかの温泉ホテルへ、分散させる道を思い描く。うかつだったと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年07月22日 05時06分12秒
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