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仮面ライダー99




          【仮面ライダー99】

            マシラウ計画


ここは蜀寡唖の秘密基地、メルカトル図法で描かれた世界地図を
背にして、黒頭巾の彫像から周波数の低いボスの声が聞こえる。ピ
ラミッドのようなアタマをした怪人や、人体模型のような顔をした
怪人、失敗した電送人間のような怪人がずらりと並ぶ。

「ボス、このままでは我らは、にっくき本号猛めに邪魔されて、世
界征服の悲願は達成できません」
「地獄大使、何を弱気になっておるか、我が蜀寡唖は無敵だ!」
「ははーっ、しかし、わたしの可愛い怪人たちはみな、あやつの手
にかかって殺されてしまいました」

 ピラミッドのような頭をふりながら、地獄大使は無念そうな表情
を浮かべた。長年の戦いの疲れか、生身の顔の部分は深い皺に被わ
れ、彼を哀れな老人に見せていた。

「ボス、わたしに良い考えがあります」
「何だ、ゼネラルシャドー、いうてみよ」
「ははっ、そも、仮面ライダーどもの邪魔さえなければ良い事、な
らば、彼らのいない過去の時代にタイムトラベルをしてしまえばよ
いか、と、考えます」
「ふむ、それはよいところに気がついた。して、どのような方法で
過去へいくのじゃ? タイムマシンは完成しておるのか?」
「はい、わが蜀寡唖の科学力をもってすればいともた易きこと、一
ヶ月の準備期間さえいただけば、作戦を実行に移してごらんにいれ
ましょうぞ、クーックックックックックッ、ポ!」

               ●

かくして、1973年12月31日、蜀寡唖史上最強最大の作戦、
「マシラウ計画」が実行にうつされた。

ちあきなおみが「喝采」を歌いおわり全国のお茶の間がしんみり
した時、すでに都内各所に配備された戦闘員たちは、発売されてま
もないカップヌードルをすすりながら作戦開始の合図をまっていた。
やがて村田英雄の王将がおわり、美空ひばりがお祭りサンバの歌
詞をオリジナルのまま歌いおえ、紅と白の玉入れによる勝者判定に
入ったころ、青梅街道、五日市街道、甲州街道、環状8号線、日光
街道、東海道の蜀寡唖各基地から、FJ56V(改)蜀寡唖人員輸
送車がぞくぞくと発進していく。世界にほこる豊田自工謹製のF型
エンジンは、腹の底に響くような野太い排気音をあたりにとどろか
せ、戦闘員たちはこぶしを振り上げて出陣の歌を歌う。

雪が降る     見よ蜀寡唖
吹雪が荒れる   進め蜀寡唖
地球は征服    偉いぞ蜀寡唖
魔王の使い    地獄の蜀寡唖
刃向かう相手は  ゆるさんぞ
突撃 それゆけ  モンスター
人呼んで     地獄の蜀寡唖
人呼んで     地獄の蜀寡唖

やがて行く年来る年が終わりに近づき、鐘の音が去りゆく年を告
げる時刻になった。

「作戦、開始っ!!!」

27.68メガヘルツのハンディトーキィが、全戦闘員に指令を
告げた。スズキ自動車謹製T500改二輪自走式迫撃砲小隊が、ま
ず都内各幹線道路を制圧する。構造上の欠陥により、戦闘員2名は、
6速ミッションの噛み込みによる後輪ロックにて転倒、殉職を遂げ
たが、彼らの尊い犠牲により、作戦は順調に進行した。
ついでRV125改サイドカーに乗った怪人アキレスの作戦指揮
車が気勢を上げ、まず環状線に進入、隊列は徐々にその間隔を広げ
ながら環状線全域に広がり、蜀寡唖による輪ができた。

「速度、上げえーっ!!」

一列縦隊になった蜀寡唖軍団のつくるリングは徐々に速度を上げ、
内側は反時計回り、対向車線は時計回りのまま、ぐんぐん速くなる。
相対速度が時速246キロになったとき、最終指令が飛んだ。

「マシラウ装置始動、最終進入開始っ!!!!!!!!」

甲州街道交差点手前1キロ地点で指令を受けたアキレスは、右折
の準備をして身構えた。この地点で右折することにより、高速回転
体によってわずかにゆがんだ時空の裂け目にクサビを打ち込み、三
次元空間に直交する第4の次元軸に沿って時空間を移動する、その
重要な役目を持ってマシラウユニットを任されているのだ。アキレ
スは、サイドカーに積んだユニットのスウィッチを入れると、タイ
ミングをあわせるためにアクセルを少し開けた。

そのとき、

「まてぇぃっ!」

凍てつく大気をふるわせて豪快なバリトンが響きわたる。

「な、なにやつ」

ヘルメットをかぶっていないので視界は広いアキレスは、右なな
め前方推定六階建てのビルの屋上に立つ人影を見た。どこからとも
なく流れる景気のいいメロディー、ちゃんちゃんちゃちゃーちゃち
ゃんっ。ぶあついクチビルにぎょろりとした目、冬だというのに開
襟シャツの胸をはだけ、そこからもじゃもじゃと豪快な胸毛がはみ
だしている。

「るぁいだあーっ、へーんしぃんっ!」

ラジオ体操第二のイントロのような動きをしながら飛び上がると、
男は仮面ライダーに変身していた。名乗る間もあらばこそ、そのま
まビルの屋上からアキレスめがけて飛び降りる。

「らいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ、き、ぃぃぃいっく!!」

多くの怪人を爆発させた恐怖のライダーキック、アキレスは思わ
ず避けようとして、上体を左に泳がせた。しかも反射的にアクセル
を開いたからたまらない、左カー特有のその運転特性により、アキ
レスのサイドカーは思いっきり左折を始めた。

「ま、まて、アキレス、とまれ、とまれぇぇぇぇぇぇ」

ハンディトーキィからボスの悲鳴が聞こえたが、覆水盆に返らず
落果枝に戻らず過ぎたるは及ばざるがごとしは少し違う(^^)、勢い
のついた蜀寡唖軍団は、右折する予定の甲州街道を左折し、調布方
面に向かってどんどん進みはじめた。

「い、いかんーっ」

ボスの絶叫をかき消すような轟音と雷鳴がとどろき、マシラウユ
ニットがその機能をフルに発揮しはじめた。おお、見よ! アキレ
スの眼前の大気が音を立てて渦巻き、その大気のトンネルのはるか
向こうに、見た事のない景色が蜃気楼のように揺らいだ。

「う、うをわぁぁぁぁぁ・・・」

次の瞬間、うずは猛烈な勢いでアキレスを飲み込み、その後に続
く全長40キロに展開した蜀寡唖軍団に、一気に覆いかぶさってい
った。瞬間風速82メートルの嵐は環状線を一周すると裏返しにな
って奇妙にねじれ、反対車線を走る軍団の正面から襲いかかる。そ
の空気のトンネルの軌跡は、ちょうどアジの開きのように展開した
メビウスの輪になった。と、次の瞬間、それはほんとうにほんの一
瞬のことであったが、路上にあったすべての運動体は、きれいさっ
ぱりその姿を消していたのだ。


続く



ちゃんちゃちゃーん、ちゃちゃちゃちゃん!




          【仮面ライダー99】

            迫る蜀寡唖


 1999年1月1日、7人づつ7つのグループで出来ている警視
庁捜査一課は、激増する都市型犯罪に対して、新しい対応策を模作
していた。その試みのひとつである、ここ八王子にある道路監視セ
ンターでは、首都圏にこそっと設置されたNシステムの映像情報を
リアルタイムで受け取り、無数のパソコンによって効率よく解析す
る仕事がおこなわれている。

「うん?」

FBIから協力のために来日していた情報部長のタキ・カズヤは、
赤く反転した数字に思わず声を上げた。確認のため、手元の端末で
20秒間の再現映像を呼び出し、こんどは仰天した。甲州街道に設
置したNシステムのカメラは、何もない空間からぞくぞくと押し寄
せてくる謎の機動部隊を映し出していたのだ。

「緊急事態発生!」

担当係官の中山和美がクールな声で読み上げる。

「エリア4の2に侵入者多数、概算で1000名を超えてなお増加
中、旧式の兵器で武装しています。先頭車両は12分後に4の3に
到達の予定」

読み上げながら和美は、陸上自衛隊へのホットラインを開いてい
た。有事を想定して、個別の端末ごとに衛星通信によるLANも構
築されているが、正常時にはファイバーによる超高速通信が両者を
つないでいる。コンピューターで処理された対象の行動軌跡と現実
の映像が、陸自のシステムに転送される。

「な、なんだ、これは!」

佐竹一等陸佐は画面を見て絶句した。そこに映っているのは、ガ
イコツ模様のタイツを着た怪人たちの、全長12キロに及ぶ群れだ
ったのである。仮想敵国の制圧部隊を想像していた自衛隊では、肩
透かしをくらって緊張が少しとけた。機動車両は旧式の二輪と、も
はや現役配備を解かれたトラック、武器は誘導装置を持たない火器
ばかりだ。テロとしては大掛かりだが、封鎖すれば簡単に排除でき
るだろう。

いっぽう道路監視センターでは、FBIのタキが遠くを見ながら
考え込んでいた。

(見た事がある・・確かに俺は、あいつらを知っている。あれはい
つのことだ? あいつらとは戦った事があるぞ。そう、あれはまだ
俺が捜査官だったころだ。どこだ? メキシコか? いや! ちが
う、ここだここだ、この日本だ、そうだそうだ!!)

「お、おもいだした!!」

突然叫びだすタキに、監視センターのスタッフはいっせいに注目
した。

「蜀寡唖だ、あいつらは蜀寡唖の怪人だ! 地球征服をたくらむ悪
の集団だ! 」

意味がわからずあっけにとられているスタッフをしりめに、タキ
は受話器を取り上げてダイアルをまわ・・そうとしたがプッシュホ
ンだった。ダイアルならば指が覚えていたのだが、番号が出てこな
い。しかたないので紙にダイアルの絵を描いて、指でなぞるナンバ
ーを書き取ってプッシュした。

「お掛けになった電話番号は、現在使われておりません・・・」

そうだった、局番に3をつけなきゃと思い直してもう一度掛ける。

「はい、立花モータース!」
「もしもし、おやっさんはいるか? 蜀寡唖が出た!」
「・・・あの、東兵衛でしたら、3年前に他界しました・・」
「・・・・・そ、そうか、では、本号猛はいますか?」
「ああ、はい、いますよ」
「もしもしっ、ほ、本号か?」
「おおぉー、たぁきぃ! ひさしぶりだなぁ」
「しょ、蜀寡唖が出たぞ、場所はB地点だ」

 いきなりのシンプルな座標指定にもたじろぐことなく、本号猛は
阿吽の呼吸で切り返す。

「わかった。じつは、ライダー隊の伝書鳩からも報告が来ているん
だ、今から俺は行く」

               ●

いっぽうこちらは蜀寡唖軍団、アキレスのおかげで過去へ進むは
ずが未来へ到着してしまったことを、ボスはすでに気がついていた。

「諸君、われわれは誤って未来へ来てしまった。とりあえず、第七
秘密基地へ集合せよ」

ハイディトーキィの指示に従って、軍団は河口湖を目指した。沿
道にたむろする市民は、突然降ってわいた珍妙な集団を、もの珍し
そうに眺めている。と、アキレスが突然叫んだ。

「ラ、ライダーだ」

バックミラーに、後方からぐんぐん迫る黒い影、コーナーではパ
パンパンとアフターファイアの音もいさましく、RGV250γが
近づいてきた。

「ん? お、おかしい、こんなにスピードの出るのはライダーのサ
イクロン以外にはないはずなのに、こいつはどう見ても違う。。」

ゆるい右コーナーでハングオンの姿勢になると、RGVはすさま
じい勢いで追い抜いていった。続いて、漢字のいっぱい書いてある
旗を立てたバイクの集団が、あまり速くないスピードで近づく。ち
ょっと見はアマゾンのジャングラーに似ているが、ヘッドライトや
カウリングは、はるか上についている。貧弱な身体の若者たちが、
ハチマキをしめて乗っていた。と、若者のひとりが、にやにやと笑
ってエアガンで蜀寡唖の戦闘員を撃った。

「隊長、攻撃を受けました」

即座に蜀寡唖の反撃が始まった。チイチイパッパの優しい警官し
か知らぬ哀れな若者たちは、迫撃砲の的にされ、一瞬のうちに吹き
飛ばされて即死した。びしゃびしゃと道路に撒き散らされる臓物を
見て、後方に続く改造されたちゅうぶるの高級車たちは、顔面蒼白
になって急停止したが、あっという間に取り囲まれて、拉致される。
いかに粗製濫造とはいえそこは強化人間、訓練すら受けていない暴
走族がかなうはずもなかった。

「お、おれたちをどうするんだ」

涙をうかべて叫ぶ赤い髪の若者に、アキレスは答えた。

「おまえたちは、改造して戦闘員になぁるのだぁ」
「そ、そんなこと、犯罪だぞぉ」
「わっはっはっはっ、我らは悪の組織だ、犯罪はあたりまえだ」
「う、うったえてやるぅー」
「安心しろ、脳改造をうければ、どんなつらーいことも感じずに、
平気でいきていけるのだ、イーッイッイッイッイッイッ! 」

やがて軍団は調布、国分寺を通過、国立市へ入った。最後尾はま
だ吉祥寺である。
いっぽう、監視を続けていた道路監視センターでは、民間人への
攻撃と同時にこれを無差別テロと断定、交差道路をすべて封鎖する
とともに鎮圧部隊が八王子郊外に送り込まれた。山梨県下には戒厳
令が敷かれ、蜀寡唖軍団との決戦の火ぶたは、今まさに切って落と
されようとしていたのだ。


つづく


ちゃんちゃちゃーん、ちゃちゃちゃちゃん!




           【仮面ライダー99】

            イモリゲスの恐怖


蜀寡唖出現からわずか3時間で、八王子道路監視センターの中に
対策本部が設置された。警視庁対都市テロ部隊と、陸上自衛隊本土
防衛大隊の混成であり、指揮は田中一郎警視総監の委任を受けて、
奥根小太郎警視正がとる。

「蜀寡唖の動向は?」
「現在立川市を通渦中・・・あ、通信が入っています」

中山和美がコンソールのスイッチを入れると、蜀寡唖の交信が入
った。

「・・り返す、各軍団は、ツバメ怪人の指示に従い、富士樹海に潜
伏せよ」
「ブラック軍団了解」
「シャドゥ軍団了解」
「暗闇軍団了解」
「地獄軍団了解」

じっと聞いていた奥根警視正は、少し考えこんだあと、命令を出
した。

「よし、彼らを富士樹海に閉じ込めよう」





いっぽうそのころ、蜀寡唖の首領は、小平市を流れる玉川上水の
ほとりにある、秘密基地にたどりついていた。25年間放置されて
いた基地は、水爆にも耐えられるシェルターになっているせいか、
内部はまったく変りなく、起動スイッチを入れるときちんと作動を
開始した。
蜀寡唖の進んだ科学が開発した沸騰型軽水炉が、徐々に反応を始
めて臨界値に達すると、超高性能電子計算機が起動する。世界に先
駆けて実用化した紙テープリーダーがパンチ穴の配列からプログラ
ムを読み取り、高性能シリコントランジスターで構成された巨大な
演算装置がそれを実行する。地上の樹木に隠されたTVカメラは、
三管式のイメージオルシコンによって鮮明な映像を送ってくる。や
がて、背後の巨大なスクリーンに、プロジェクターがあの懐かしい
世界地図を映し始めた。

「おお、何もかも出発した時のままだ」

計画では1949年の世界に到着するはずだったので、基地建設
に必要な設備は全部運んできたのだが、間違って未来にきたので手
間が省けた。

「しょくん、これよりこの基地を本部として、世界征服の作戦を実
行に移す。我々は手違いによって未来へきてしまったが、案ずる事
はない、我々にはこの高性能電子計算機がある。おろかな人類ども
には想像もつかぬ我らの科学力で、世界をわが手につかむのだ!」

基地の中の科学者や幹部たちは、整備の手を休めて右手を高くか
ざし、勝利の宣言をした。

「イィーーー!! 」





陸上自衛隊朝霞駐屯基地。アメリカの監視衛星からのデータがC
RTに映像を映している。

「この熱源が、18分前に突然出現しました」

サーモグラフィのデータが地図に重ねられ、作戦指令室の壁の大
型液晶ビジョンに投影される。熱源の場所は、小平市郊外の玉川上
水のほとりを指していた。

「ただいま、スーパーコンピューターによる解析を急がせておりま
すが、付近の大気汚染監視センサーによりますと、炭酸ガスの増加
は報告されていません。おそらく、蜀寡唖の動力は原子力によるも
のであると思われます」
「ふむ、これは慎重に破壊せねばなりませんな」
「はい、くれぐれも、汚染物質を拡散せぬよう、慎重な配慮が必要
です」
「それにしても、彼らの情報管理はまことにずさんですなぁ、まさ
か、罠、ということはないでしょうな」
「確かに、中波帯によるAM変調での平文ですから、まるで放送局
なみです。罠ということも考えられますが、Nシステムの映像も戦
略衛星からの情報も、すべて彼らの通信内容を裏付けています」
「そうか、では、今夜10時に、この交差点のガソリンスタンドが
イモリゲスと呼ばれる改造人間に襲われるわけだな」
「それにしても、イモリなんかと人間をくっつけて、戦闘能力が上
がったりするんでしょうか?」
「・・・サイコさんの考えることはわからんよ」




午後10時、スタンドの従業員になりすました自衛隊員が待機し
ていると、電話が小さくチンと鳴った。受話器をとりあげると、ツ
ーという音、電話線が切られたのだ。

「電話線が切られました」

繋がったままの携帯電話で移動指令室へ報告がはいる。情報を遮
断したつもりの蜀寡唖遊撃隊は、何も知らずに安心してドアに向か
った。

「蜀寡唖の怪人がドアに向かった」

対面のビルから暗視装置で見張っている隊員が逐一知らせる。

「イーッ!」

ガイコツマスクの戦闘員が、とんぼ返りをうちながら飛び込んで
きた。待機していた隊員は、落ち着いて銃を構えると、太股めがけ
て発射した。

「ぱんっ!」
「イー、イーッイーッ!」

哀れな声をあげてのたうちまわる戦闘員の背後から、こんどは無
気味な怪人が現れる。だが、やはり隊員は落ち着いたまま、電磁警
棒を構えてどつきまわした。バチッバチッという景気のいい音がし
て、2万4千ボルトの静電気が怪人を直撃する。たちまちのうちに
蜀寡唖の遊撃隊は捉えられた。

「イモリゲス、捕獲しました」
「ごくろう、戦闘員とともに岸和田研究所に移送せよ」
「了解」

 隊員は怪人たちを拘束衣に押し込むと、富士山麗にある岸和田科
学研究所へ運び込んだ。白衣を着た長髪の博士がパイプをくゆらせ
ながら嬉しそうに受け取る。怪人たちはただちに解剖室に運び込ま
れ、局部麻酔を打たれて解剖が始まった。

「お、おい、なにをする、や、やめろ、やめんか」

 意識が戻ってうろたえるイモリゲスの目に、天井の鏡に映った自
分の臓物が見えた。岸和田博士は、助手の安川を従えてかまわずに
解剖を続ける。

「ふん、人工心臓は進んでおるな、収縮式ではなくてスクリュウの
連続タイプだ。人口えらは・・なんじゃこりゃ、渋を塗った和紙じ
ゃないか、ふむふむ、再生力の強さは・・なんと、DNAの加工で
はなくて、イモリの細胞をそのまま移植して貼り付けてあるのか、
なんとも強引な手術じゃな、さて、つぎは戦闘員といくか」
「イーッ、イーイー!」

 なんとも哀れな声を上げて、戦闘員が命乞いをするが、博士と助
手は、まるで壊れた時計を分解する子供のように、満面に神妙な笑
みをうかべて、戦闘員の腹部に油性マーカーで線を引くのであった。


                          つづく


 ちゃんちゃちゃーん、ちゃちゃちゃちゃん!



【仮面ライダー99】

             ライダー参上           


樹海に潜伏した蜀寡唖軍団は、ツバメ怪人の誘導によって風穴の
入り口にたどりつき、地下から河口湖の第7秘密基地へと到達した。

「諸君、ごくろう」

本部基地から首領がテレビ電話で挨拶する。白黒だ。

「これより、われわれの世界征服計画を伝える、まず、アキレスは
暗闇軍団を率いて八王子第三小学校を襲い、子供たちに毒蜂エキス
を注入せよ」
「はっ!」
「しかるのち、地獄大使がロボットと化したこどもたちを操り、多
摩ニュータウンの集会所を襲い、これを占拠する。そして・・・」

そこまで言いかけた時、突然第7秘密基地の外で爆発音がした。

「な、なんだ、いまの音は!!」

ドアを飛び出した戦闘員は、お約束通りはねとばされてしりもち
をついた。イーッイーッという声が哀れをさそう。

「な、なにやつ!!」

ダブルの革ジャンを着てベルボトムをはいた中年のおっさんが、
やけにきばりまくってかっこをつけて入ってきた。男は口にくわえ
たバラをビッと投げると、フォークダンスのような手振りをしてか
ら飛び上がる。

「へんしんっ! ぶぃ、すりゃぁああああーっ!!」

腰のベルトがぴかぴかひかり、男は仮面ライダーV3に変身した。

「ど、どうしてここへ」
「うわっはっはっはっはっ、蜀寡唖の怪人め、おまえたちのクルマ
に取り付けた発信機とポータブルGPSでつけてきたのだ。この基
地はすでに包囲されている、あきらめて降参しろ」
「う、うぬーっ、ゆるさんっ!」
「とうっ!」

ふたりがジャンプすると突然景色がかわり、いつのまにかおなじ
みの滝の上に出ていた。景気のいい伴奏にあわせてばしゃばしゃと
水をかきあげ、戦闘員を交えてV3とアキレスがどつきあう。だが、
アキレスは意外と手強く、高速で走り回っては、V3に的確なダメ
ージをあびせる。さらに、ツバメ怪人がアキレスの援護をするので、
V3は反撃のきっかけをつかめない。あやうし、V3。そのとき、
ちょっと目つきの悪いぎょろ目のおじさんが、森の中から現れた。

「まてぇっ!」

男が両手をばんざいすると、なぜかその手におわん型のヘルメッ
トが現れた。かぽっとかぶる。おお、みよ、いつのまにか彼の洋服
はすっかり着替えられて、ライダーマンに変身していた。

「ろーぷあぁぁぁむっ!!」

手の先についたスズメバチの巣のようなかたまりからロープが伸
びて、あっけにとられて棒立ちになっていたアキレスの足首を捕ら
えた。この機を逃さずV3がジャンプして襲いかかる。

「ぶいすりゃあ、かーいてん、きりもみぃ、きぃぃぃいーっくぅ!」

アキレスは逃げようとしたが、捕らえられた足を軸にして回転を
始め、そこへカウンター気味にキックが命中したからたまらない、
2秒ほど静止して息詰まらせておいて、ぱたりと倒れると、アキレ
スは盛大に爆発して果てた。
 かなわぬと見たツバメ怪人は上空に舞い上がったが、陸上自衛隊
の誇る迫撃ミサイルが発射され、逃げ惑うツバメ怪人にどこまでも
追いすがり、命中した。戦車をも砕く大量のTNT火薬の前には、
しょせんタンパク質でできた身体などひとたまりもなく、こっぱみ
じんにふきとばされて樹海に散った。

 V3とライダーマンは勝利のポーズをとるとお互いの眼を熱く見
つめ、頷きあった。

「ライダーマン、ありがとう」
「よかった、さあ、本部へ乗り込んで首領をやっつけよう、先輩ラ
イダーたちが待っている」

 ふたりは、愛車にまたがると、景気良く青白い煙を撒き散らして、
タイヤを鳴らして発進し、玉川上水の本部へ急いだ。


                ●

「イモリゲス死亡」
「アキレス爆死」
「ツバメ怪人爆死」
「第七秘密基地壊滅!」

 次々と伝えられる無念の知らせに、蜀寡唖のボスは歯噛みしてい
た。今まではかなりイイ線いっていた作戦が、今回は、最初からま
ったく通用しない。ライダーはおろかたかが警官隊にすらもコケに
されて、たかいたかいプライドがずたずたにされてしまったのだ。
 だがしかし、それは必ずしも彼我のテクノロジーの差ばかりでは
なかった。エリートを気取って世界をどうこうという程度の連中の
アタマなぞ、どんな社会でもしょせんたかが知れているものだ。
  
「ボス、基地の周りが包囲されています」

 監視テレビを見ていた戦闘員が叫んだ。イーだけではなくてセリ
フも言えるのだ。ほんとは青ざめているのだが、デストロイヤータ
イプのマスクのためによくわからない。

「うぬ、怪人軍団を出動させよ!!」

 追い詰められてやっとまともな作戦が出た、最初から総出撃すれ
ばライダーのひとりやふたりは敵ではなかったのに、今までは、な
ぜか律儀にタイマン張っていたのである。発情期の動物園のような
にぎやかな叫び声を上げて、数え切れないほどの怪人たちが飛び出
していった。


               ●

「敵が出てきます」

 監視カメラの回線にはダミーの映像を流しておいて、機動隊と自
衛隊の混成部隊は、6箇所の秘密の出入り口を見張っていた。換気
口から忍びこませたシュノーケルカメラとマイクで敵の動きは筒抜
けである。
 カモフラージュされた出入り口から出てきた怪人たちは、ダミー
の映像を信じて監視カメラのある場所へ音も立てずに忍び寄る、だ
が、そこには誰もいなかった。

「ぷしゅぅっ!」

 敵を捜して無防備にあたりを見回しているバッファロー怪人の背
中に、吹き矢が刺さった。

「うわっはっはっはっ、このわしの皮膚にそんなものが通用するか、
わしの皮膚は鉄のように硬・・ぃ・ノ・・・・ダ・・」

 言い終わらぬうちに怪人はどうと倒れた。うろたえて駆け寄る無
数の怪人にも、タングステンカーバイト鋼の吹き矢が襲い掛かり、
ゾウをも眠らす強力麻酔が注入される。全員が倒れたことを確認す
ると、3人一組の隊員がてきぱきと拘束し、灰色のバスの中へと運
んでいく。五日市街道は、次々と発進するバスで灰色に見えた。

「う、うううぬぬぬぬぬぅっ・・・・」

 脳溢血寸前までいきりこんだボスが立ち上がったとき、アジトの
ドアがばんっと開いた。とびこんできて中腰であたりをうかがうぎ
ょろりとした眼、もじゃもじゃのもみあげ、そして分厚い唇が重々
しく開き、どすの効いた低い声が基地内に響き渡る。

「観念しろ、蜀寡唖! おまえたちはもうおしまいだっ!」


                          つづく

 ちゃんちゃちゃーん、ちゃちゃちゃちゃん!

           


【仮面ライダー99】

           ライダーよ永遠に


「観念しろ、蜀寡唖! おまえたちはもうおしまいだっ!」

 とびこんできた男を見て、蜀寡唖のボスは戦慄した。歳をとって
かなり太ってはいるものの、まぎれもない、あのにっくき本号猛の
面影そのままの、25年後の姿だったのだ。これが同窓会ならば、
かつてのいじめっこですら懐かしく思えるかも知れないが、つい昨
日までさんざん苦汁を嘗めてきた宿敵の、相手だけが歳をとった再
会である。

「ぴろーん、ぴろろろろーん」

 ライダー変身のイントロサウンドが響き渡る。腕を大きくまわし
て肩の運動。

「るぁいだぁあああああ、へぇーんしぃんっ! 」

 腰のベルトの巨大なバックルが開き、赤い風車がぐるぐるまわる、
回転がどんどん上がって真っ赤なフラッシュがぴかぴかする、よい
子が失神しないように点滅の回数は以前より少なくなっている。な
みいる怪人たちはフェアプレーの精神で、変身が終わるのを静かに
待っている。

「・・・・とぉっ!」

「ちゃららん、ちゃららん、ちゃららんちゃららんちゃららん! 」

 景気の良い伴奏とともに、あの懐かしの仮面ライダー1号が現れ
た。今ではもう見られなくなった、浅間山レースのようなライダー
スーツにネッカチーフ、銀色の半長靴にセミロングの手袋、スワン
の二眼ゴーグルを思わせる大きな眼がきらりとひかり、あざやかに
空中前転二回宙返りをきめると、すたっと舞い降りた。斜に構えて
右手でガッツポーズをとり、そのこぶしをわなわなと握り締めてか
ら指差し発言。

「この基地は完全に包囲した、おまえの負けだ、蜀寡唖!!」

「うぬぬ、おぉのれぇライダー、わぁたしがあいてだぁ!」

 逃げられぬと観念したのか、いつも声だけ出していた彫像がごご
ごと左右に開き、真紅のマントに包まれた怪人が現れた。その頭は、
かのこ饅頭のように、緑色の蛇がもじゃもじゃと絡み合っている。

「おまえがボスかっ!」

 まずは叫んでから、ライダーは猛然とキックを放った。むかしよ
り太ったぶんスピードは落ちるが、質量の大きい分だけ強力になっ
たライダーキック、だが、ボスの身体には通用しなかった。

「わっはっはっ、わしが、自分より強い改造人間を作るはずがある
まい、おまえの力ではわしはたおせんのだっ」

 おお、当然といえばあまりに当然な理屈、IQ300を誇る本号
猛には、その主張の正しさがただちに理解出来た。だが、男には、
無理だとわかっていても立ち向かわねばならない時もある。哀愁を
背中に漂わせながら、ライダーはファイティングポーズをとって睨
み付ける。その時、遠くからかすかな排気音が近づいてきた。

「くわぉおーん、くわん、くわん」

 鈴木自動車工業が世界に誇る高性能2サイクルエンジンの雄たけ
びは、蚊の鳴くような音からどんどん大きくなって近づき、テーマ
ソングの伴奏が始まる。エンジン音が最高潮に達したとき、ドアが
吹き飛ばされて、新サイクロン号が飛び出してきた。

「とぅっ!」

 急停止の反動を利用して前方宙返りをしたまま、その男はボスの
頭にキックを浴びせた。

「うぅぬ、お、おまえは・・」

 ぴしぴしとひびの入った頭を押さえながらボスが叫ぶ。

「仮面ライダー、2号」

 ライダーを倒すために生み出されたバッタ型改造人間2番型、一
文字隼人もまた、脳手術の前に脱走して仮面ライダーとなっていた
のだ。なんというルーズな管理だ>蜀寡唖の警備隊。そして、弱い
敵でも数が増えると強くなるというランカスターの法則により、ボ
スの優位は消え去った。あせるボス。ゆとりのライダー。

「お、おぉのれぇえぇ」

 蜀寡唖のボスはわなわなと震え、ひびの入った蛇アタマを振った。
すると、アタマはぱらぱらと崩れ落ち、その下から巨大な一つ目怪
人の顔が現れた。

「それが貴様の正体か!」

 少し驚いたライダー達めがけて、その目玉から怪光線が発射され
た。だが、われらがライダーは、科学を超越したスピードで、飛ん
でくる光線をひらりとかわし、床をごろごろと転げまわって逃げる。
 武器は一流アタマは二流、みさかいなく乱射する怪光線のために、
本部のあちこちは崩れだしてきた。このチャンスを逃さず、どうと
崩れ落ちる天井の陰で態勢を立て直したライダーは、同時にボスに
襲いかかった。

「るぁるいぁだぁだぁぁあ、だだぶぶぅぅぅるうるぅ、ちょちょぉ
ぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉおおぉぉっぉっぷぷぅ!」

 ふたりの仮面ライダーの全エネルギーを集約したその技は、力道
山の空手チョップの一万倍の威力を持ち、アフリカ象一千頭を即死
させるいりょくがあるのだ。さしもの蜀寡唖のボスも、この技を受
けてはひとたまりもない。断末魔の叫びをあげ、なぜか空中にはじ
きとばされてから爆発して果てた。

 そのとき、今まで電気が消えていた彫像の眼が怪しく光り、いか
にもヤバそうなブザーが鳴った。自爆装置だ。台座の部分にあるタ
イマー装置では、ずらりと並んだニキシー管の数字が刻々とゼロに
近づいている。あやうし、ライダー!

「どっかぁーん、ぼかんぼかぁーん!」

 ものすごい大爆発に、地上の自衛隊員は思わず身を伏せた。すぐ
に手元のガイガーカウンターに目をやる。大丈夫、自然線量をゆっ
くり刻むだけだ。ほっとして立ち上がる彼の目に、彼方から走り来
る2台のバイクが映った。ライダーマンとV3だが、若い自衛隊員
は知りもしない。あやうく狙撃しそうになるところを、FBIのタ
キが制止した。

「せ、先輩たちは、」

 V3ホッパーの映像により基地の爆発を見ていたふたりは、心配
して駆け寄る。だが、瓦解した基地のあたりには、何一つ動く影は
なかった。無言で爆発の跡を指差すタキの肩をぽんと叩くV3。

「大丈夫さ、きっと彼らはどこかで生きているよ」
「そうだな、また、ピンチになったらどこからか現れてくるよな」

 空を流れる雲を見つめる三人の頬を、やがてくる春を感じさせる
ようなやさしい風が撫でる。雲の切れ間からこぼれる光が、幾筋も
のシャワーとなって地上に降り注ぐ。

 一陣の風が、降り注ぐ光の中を駈け抜けていった。

 



                           完


           



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