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藤の屋文具店

藤の屋文具店

はじめてのC 1~7

    *このシリーズは、1995年にキャンプを始
     めたころに書かれています。


          【はじめてのC】

             胎動


 僕は、いわゆるアウトドアというものが、特に好きというわけで
はない。たとえば大昔、町内で行く海水浴なんかでも、浜茶屋のあ
の不衛生な感じにはほとほと困ったものである。砂の粒子が敷きっ
ぱなしのゴザの目にざらざらと詰まり、肌が触れるたびにビニィル
のゴザはみちょっという湿った音を立ててまとわりつく。トイレの
周囲には誤爆がそのままに放置され、表面にうっすらと薄膜が張っ
たソレには、信じられぬほど太ったメタリックグリーンの蝿がタッ
チアンドゴーを繰り返し、手も洗わずに人様に触れようと顔のまわ
りを飛び回る。想像してるだけでも。。。。

 ただ、野外で遊ぶのは好きだ。バギーやボートを持って海へ行っ
たり、自転車を持って山の中の公園まで行くのは好きで、子供がで
きてからもよくそうしていた。ようするに、僕は、衛生的なメンテ
ナンスができないままでいるのが、嫌なのだろう。
 ヘビやトカゲを捕まえたり、怪しげな地中の幼虫を拉致監禁して
つれて帰ったりするのは、高校生のころまでやっていた。自分でチ
ューニングした自転車で海まで行き、潜って採ってきた底ものの生
物をトウフ屋のボテに積んで帰ってきた事もある。
 山登りもした。1キロワットの発々を担いで三ッ峠の山頂まで登
り、アマチュア無線のコンテストに出た事もある。相模原から自転
車で三浦半島まで出かけ、野宿しながら遊び回ったこともあった。
 アウトドアとは少し違うが、日曜大工のたぐいもよくする。レン
ガ敷きやブロック積み、大工というより土木に近いいろんな工作、
見栄えの悪さに目をつむるなら、ドリルとノミでホゾ組み加工だっ
てできる。原始時代に放り出されても、そこそこの文化を築ける程
度の技術は持っているぞ。

 それでも僕は、今まで、ただの一度も「キャンプ」をしたことが
なかったのである。知識はあった。ガソリンバーナーを使うにはポ
ンピングしてタンクを加圧せにゃならんとか、ランタンのマントル
は空焼きしてから使うとか、テントの表示は動かない死体の収容数
を表示してあるとか、その手のうんちく小噺はよく知っている。い
わゆる耳年増であるなぁ。
 どうしてキャンプをせんかったかというと、めんどくさそうだっ
たからである。何種類もの棒を立てて紐で引っ張り、なんとかノッ
トという手品のような結び方でびしびし引っ張り、じめじめした狭
い空間で窮屈に寝泊まりする。そんなうっとおしいことするくらい
なら、ホテルのほうが良いではないか。
 それに、風呂もない、トイレも汚い、虫はわんさか、そんなとこ
ろに寝泊まりしては、自然のいいとこなんてかすんでしまう。精神
修養せにゃならんような心を病んだおっさんではない僕としては、
きれいだねぇ自然は素晴らしいねぇ、と、ささっといいとこだけ味
わってこれる、日帰り山遊びの方が向いていたのである。

 そんな僕がなんでキャンプなんかに興味をもったのだろう。じつ
はよーわからんのだよ。

 最初はキャンピングカーが欲しかった。トイレやシャワーや洗面
所のついたアレである。みみっちいやつじゃなくて、モーターホー
ムと呼ばれるマンションみたいなアレ。でも、高くて買う気にはな
らない。一番安いリアルタというやつでも、実勢価格で600万も
する。使用頻度を考えたら更にものすごく高い。
 手の届きそうな価格のやつも検討した。クリーニング屋のあのク
ルマに、二段ベッドなんかを内臓したアレである。イスがかちゃか
ちゃと変形してベッドが出現するさまは、ナントカ戦隊の合体メカ
みたいで感心したが、自動車のシートとしては落第だったし、1.
7メートルの車幅のせいで、レイアウトはとても窮屈そうだった。
 これなら、マイクロバスの後ろを荷物室にしてあるクルマ、トヨ
タがコースターに設定している「ビッグバン」に、組立式のベッド
を積んでいった方が良いと思った。

 そんなことを考えていた去年の夏、三国海水浴場の濁った水に辟
易した子供たちのリクエストで、僕たちは千里浜の海岸で海水浴を
してみた。浜辺にクルマを乗り入れ、パラソルとテーブルとチェア
を広げ、クーラーボックスから冷えたジュースを出してゆったりと
過ごした。これで、携帯シャワーと着替え用のテントさえあればな
ぁと思った。
 で、その後、田舎のよろず屋の店先の日除けのようなテントを、
クルマの屋根に取り付けた。テールゲートに吊るす着替えテントも
買った。僕は、しねしねと準備をするタイプなのである。
 そうこうするうち、ひやかしで入ったアウトドアショップで、僕
たちは巨大なドームテントの実物を、見てしまったのである。


                           つづく

キャンプ1


          【はじめてのC】

             開始


 たいがいの入門書には、ドームテントのことは、設営が簡単なこ
とだけが特徴のように書かれている。奴凧がよつんばいになったみ
たいな構造のドームテントは、ポールと呼ぶ柱の数が少なくてすみ、
テンションをかけて強度を補うために、細く軽くてすむ。反面、床
面積を大きくすれば天井も際限なく高くなっていくので、あまり大
きなテントに向いた構造であるとは言えない。
 大きなテントは、むかし流行ったファンシーケース、パイプで組
んだ直方体にビニールの袋をかぶせたアレだが、あれを適当に拡大
したような構造をしていて、これをロッジ型と呼ぶ。これは、どん
なプロポーションにでも設計できるが、複雑で重く、組み立てるの
がめんどくさそうである。
 キャンピングカーでさえ、ちまちまとイスを組み変えてベッドに
するのが嫌で、でかいのが欲しいと考える、そんな僕たちにとって、
テントなんてものはそもそも眼中になかった。

 そんな僕たち一家が出会ったのが、「コールマン・ドーム2」と
いう、巨大なドームテントだった。底辺が3メーター四方の正方形、
高さはほぼ2メートル。ピラミッドよりはおっぱいに近い形のその
テントは、四畳半より確実に広かったのである。
 これがショップの店内に設営されていたもんだから、子供たちは
大喜びである。しかも中には、モスグリーンのベルベット表皮を持
つダブルサイズのエアーマットが敷いてあり、僕がそれまで持って
いたテントへのイメージは、ぐわらぐわらと崩れさった。
 
 僕は、だいたいが、せこせこしたものが嫌いである。ちまちまし
た工夫より、圧倒的な量や努力で強引に目的を達成する、多少のロ
スには目をつむり、結果オーライでぐいぐい加速する、そんなやり
方がたいそう好きである。いわば、完全主義者の対極にある、ザル
のような人間なのだ。
 そんな、興味のないぶぶんについてはとことんものぐさな僕にと
って、アメリカ人向けの製品は相性が良いらしい。今まで見たホー
ムセンターのテントはまっぴらだと思っていた僕たちは、アメリカ
製のこのテントに、ひとめ惚れしてしまったのである。いや、今ま
で心に抱いていた条件を満たす理想の存在として空けておいた空白
に、ぴたりと納まったというべきか(^^)。
 テントの可能性を瞬時にして見直した僕は、ただちに、深見町の
別荘から関連資料を運び出してきた。小学館のビーパルは創刊号か
ら全部揃っているので、テント関連のやつをごっそりと。さらにR
Vマガジンやガルヴィにオートキャンパー、その前身のドマーニ、
ターザンやポパイやモノマガジンにグッズエキスプレスの特集号ま
で引っ張り出してきて、テントに関する情報をチェックする。一番
気に入ったのは、空気で柱を膨らますタイプのエアーテントだった
が、コストの面で難があり、やはり大型ドームテントが良いとの結
論に達した。

 更に、広告ビラを頼りにあちこちの店を見てまわり、一番安いと
思われる店で購入することに決めた。こうなってくると、奥さんが
俄然乗り気、シュラフはこのタイプがいいわよ、バーナーは操作が
ややこしいのはダメよ、テーブルはこれじゃ狭いわ、マットはたっ
ぷりとしたあの膨らましのやつがいいわ、限りないもの、それはよ
くぅぼぉ~~である。
 僕が道具を揃えるときのクセは、とにかく欲しいものを全部、徹
底的に並べ立て、そこから、自分の使用状況から考えて必要なもの
から順番に購入していく、そういう買い方をする事である。で、テ
ントとマットとシュラフ、安売りしていたガスバーナーを最初に買
った。これは、家庭用のボンベを使う、屋外向けのガスコンロであ
る。

 さて、庭でパーティしたときに、これらの道具をずらりと並べ、
ひととおり使用してみた。うん、テーブルが小さい。それと、クル
マから張り出して使うタープも、その下で料理までしようとするに
は小さい。紙コップと紙皿では風が吹くと飛んでいってしまうので、
キャンプ用の食器も欲しい。ナベやフライパンも、家庭用ではかさ
ばる。夜のためにランタンも必要だ。なるほど、専用の道具にはそ
れなりの意味があるもんだ。
 特売期間が終わらぬうちにと、奥さんと一緒に夜中の買い出しに
出かける。ロゴスの超特価テーブルと超特価クッキングセットを買
う。ランタンは、メンテナンスと安全性を第一に、電池式のものを
ふたつ購入。器具はメンテナンスの簡単なものほど良い。僕がトヨ
タのクルマをひいきにしているのは、世界で一番信頼できる、その
商品企画のコンセプトにあるからだ。それくらい僕は、ものぐさな
のである。細かい事はいわねぇよん。

 さて、食器とタープは、どうしたものか。。。


                          つづく


キャンプ2

          【はじめてのC】

             試運転


 ぶっつけ本番という言葉がある。たいしたプラクティスもなしに
いきなりとりかかる、そういう意味であり、言外に、それでじゅう
ぶんだといった、自分の実力を自慢するニュアンスを漂わせて使用
するケースが多い。失敗したときでも、準備不足にその責任を転嫁
して、己の無能さに失望しなくても良い、たいそう便利な方法では
ある。

 僕は、初めて使用する道具を自在に操れると信じられるほどには、
自信家ではないので、キャンプ道具をいろいろと稽古してみること
にした。
 まずタープ、これはようするに日除けである。ビニールシートの
ような本体を、ポールとロープでもって屋根のように張るのである
が、柱にするポールを立てておくために使うのは、地面から引っ張
ったロープだけである。このようなシンプルな構成のものは、たい
てい、使いこなすことが難しいものである。
 
 天気の良い平日の午後、昼食は吉野屋で6分ですませ、スターリ
ング・モスのようにワゴンRを走らせて配達をかたずけた僕は、買
い求めた超特価処分6800円也のオートバックス・ヘキサタープ
を抱えて、深見町の庭の芝生に立っていた。
 この、ヘキサタープという形式は、いちばん張りやすいと本に書
かれているタイプなので、ひたすら安直を望む僕にはこれしかない、
と、思わせる、最良の形式であった。それでも心配なので、ひとり
で張るときにらくちんな、ポールホルダー付きペグというものまで
用意しておいたのである。

 芝生の上にタープを広げる。その名のとおり六角形である。長い
方で5メートルもあるので、けっこう大きいもんだ。本来なら一人
が柱を持って立ち、もう一人がそれをロープで地面に引っ張るので
あるが、一人で立てる時には工夫しなくちゃならん。なんで一人で
立てる稽古をするかというと、僕は他人の力をあてにするのが嫌い
だからである。サッカーや野球はもちろん、テニスのダブルスだっ
て嫌いなのだ。全責任を負う代わりに好きなようにやりたいぞ、僕
は。
 で、あらかじめ幾何学的にわりだした位置にペグを打ち、同じく
計算した長さにロープを調節して縛る。その後、タープを引っかけ
たポールを立ち上げて、徐々に長さを延ばしてロープの張りを調節
するのだ。なんだ、簡単にできてしもうた。標準セットの内容だけ
でひとりで立てられるではないか。片づけるとき、鳩目(グロメッ
トと呼ぶらしい)に結んだロープは、そのままで結わえておいた。
次に使うときに楽だからである。僕はものぐさなのだ。

 翌日、今度はテントを張ってみた。伊賀の影丸で敵の忍者が使っ
ていた「七節棍」みたいなポール、細かく切断されたパイプの中に
ゴムを通して、簡単に延ばしてホールドできるようになったやつだ
が、最初に2本をセットすると、テントは海老反る。つぎに残り2
本をセットすると、あらふしぎおっぱいテントはむくむくと立ち上
がるのである。
 これも、ひとりですべてやろうと思うと若干コツがいるが、なに、
しょせんものぐさなアメリカ人の工夫した道具、すぐにコツを覚え
たぞ。通りがかる近所の人が、またなんかやっているわと眺めてい
く。

 いよいよ日曜日、子供の運動会に行った奥さんを見捨てて、深見
町の別荘へ出発。末っ子の進がついてきてしまった。進は、最近や
たら僕をマークしていて、カルガモのようについてくる。畑仕事を
するというので両親も乗せていく。
 途中で少し買い物をしてから到着。ただちにクルマを芝生に乗り
入れ、屋根に付けたサイドタープをセットする。次にタープを張る。
端にポールを2本追加して、サイドタープと連結してみた。広い。
 さらにテーブルとイスをセットする。遊びにきた某人妻をほった
らかしにして、黙々と設営、テントを張る。ガスレンジを運ぶ。ダ
ブルサイズのエアマットをふくらます。シュラフを広げる。安売り
の電動ポンプは能無しなので、足踏みポンプでがんばる。進が乱入
してきて能率低下。ジョグやシャワーもならべる。記念撮影。

 ひととおりセットアップしたので、買ってきた弁当で昼食。両親
もいっしょにテーブルで食べる。女子高生からOLまで、いろんな
人がちょくちょく遊びにくるので、慣れっこになった親は、客がい
てもいつもと変わりない。子供もそうだ。
 食べ終えてコーヒー飲んでいるうちに、明が自転車でやってきた。
二つ目のマットは明が膨らました。彼はけっこうご機嫌である。中
学生になってからは、勉強も自主的にやるようになったし、ほんと
に手がかからんので楽である。ぐだぐだと世話をやかなあかんよう
な子供に育たんで良かった。干渉されるのは嫌だが、たとえ自分の
子供といえど、人に干渉するのはもっともっと嫌だぞ。

 のんびりと芝生の手入れなどしながら過ごす。奥さんがやってき
た。ざざっと道具のチェックをする。キッチン用にもうひとつテー
ブルがほしいな、いくつかチェックが入る。
 5時半になったので、撤収の稽古をする。雨を想定した手順で次
々と装備をたたみ、タープは地面につけないように折り畳む。すべ
ての道具を収納したあとで、クルマのタープを収納する。なかなか
手際よく撤収できたぞ。うん、よしよし。

 さて、来週は、いよいよ庭で一泊キャンプである。ふふ。

キャンプ3

          【はじめてのC】

          あぶない土曜日


 大陸から張りだした低気圧が日本海上空を覆い、北陸地方はぐず
ついた天気となっています、福井県地方の今日は、南の風くもりの
ち雨、ところにより雷をともなう雷雨になるでしょう。なお、県下
には強風波浪注意報が出されています。

「やっぱいくかぁ」
「うん、あぶのなったら家に逃げ込めばいいんやもんねー」
「ほぉや、それに、こういう天候んときに設営と撤去の稽古やっと
けば、キャンプ場でパニックにならんですむしな」
「ほんなら、先いっててのぉ」

 ゴジラが出てきそうなどんよりとした空の下、明と進を連れて、
僕は一足先に深見町へとクルマを走らせていた。カーマガジンXと
いう過激な雑誌に、詐欺のようなクルマとこきおろされたルシーダ
は、それでも僕のようなチビにはゆったりとしたクルマである。親
子5人が乗ってキャンプ道具を運ぶには、今日の時点でもこれに勝
る道具はまだない。マニアの誉めたたえるオデッセイもバナゴンも
スペースギアも、雪道や駐車場や荷物の量を考えると、僕の使用形
態では完全に失格である。満タンの航続距離が600キロを切るエ
スティマもあきまへん。

 小雨の中、深見町の庭の芝生でタープを張る。今回は、ポールを
支えるパイプのついたペグを使ってみた。ポールを自立させておい
て、ロープでピンと張る。確かに設営は少し楽なのだが、ポールの
位置をあとで移動することができない。やはり、ベテランが使わな
い道具には、それなりのわけがあるわけか。
 続いてテントを張る。だいぶ慣れたが、雨の中での設営はやはり
大変である。明は黙々と手伝っている。カーサイドタープとヘキサ
ゴンタープとテントを連結する。雨に負けない生活エリアができた
ぞ。続けてテーブル、イス、ガスコンロ等を取り出して広げる。明
はエアマットを膨らましている。

 奥さんが昇を連れてワゴンRでやってきた。おなじベストセラー
カーでも、こちらはマニア雑誌に受けがいい。大メーカーを誉める
だけの度胸のない評論家も、スズキなら安心して誉められるわけだ。
 これをトヨタが作ったなら、某車のコピーだといってねちょねち
ょ騒ぐのだろうが、使う方にしてみれば、そんな理屈はどうでもよ
い。ルシーダもワゴンRも、ともに便利な道具である。マニアとそ
の成れの果てどもで、勝手に何でもいえばよろしい。

 さて、タープの下のテーブルの上で、奥さんが料理を始めた。レ
トルトのご飯を暖め、レトルトのシチューを暖め、ソーセージをゆ
でるのである。なんだそんなものか等と馬鹿にしてはいけない、最
初はそういうもので稽古するのである。でも、あまり将来に期待で
きないかも知れないという予測を、僕は払拭できないような感覚も
ある。うるるる。
 雨はさらさらと降り続いている。元来雨風に強いはずのヘキサゴ
ンタープであるのだが、有効面積を広げるために端をポールで持ち
上げてあるので、あちこちに雨が溜まってしまった。ガーゼでコン
ソメを漉すみたいな状態になっている。張り綱を引っ張っても、そ
う簡単には流れたりしない。あらこんなーところにあっまみぃずぅ
がぁ~である。いろいろ工夫したすえ、テントの入り口を突っ込む
ためのポール1本を残して、本来のヘキサゴンの張り方に戻すこと
にした。やってみなくちゃわからんことが多いものだ、現実は。

 食事もすみ、コーヒーなんぞ飲みながら一服、風呂に入ることに
した。トイレとフロは家の中のものを使うことにしてある。キャン
プ場でもそういう行動になるわけだからして、さしずめ家は管理棟
かシャワー棟のようなもんだ。風呂場がきれいに磨いてあるので、
奥さんが嫌みをいう。こないだGFが遊びにくるんでせっせと洗っ
たんやろ。ああそうじゃわい(^^)。
 風呂から上がって一服していたら、進が庭で叫んでいる。テント
がうごいてるよぉー。げげげ、びっくりして庭へでる。テントは無
事だが、風がかなり強くなり、タープがモスラのように羽ばたいて
いた。すみやかに張り綱を締めあげるが、状況は変わらない。そう
だポールを低くするんだ、対策を思い出してポールをいっぱいまで
下げた。とりあえずは治まった。

 だが、風はだんだん強くなり、タープはふたたび羽ばたきをはじ
めた。テントのほうもゆっさゆっさと揺れだした。強風用のストー
ムガードシステムというのがあるのだが、まだそれを使用してはい
ない。おっぱいのようなドームテントは、女性ランナーのそれのよ
うに揺れ続けている。さて、僕はここで決断を迫られることになっ
た。すなわち、万全の対策を施して強行するか、撤収するかである。
 カーサイドタープまでがガラモンのようにシャンシャンと足踏み
を始めたので、即座に撤収の判断を下す。僕は、やるときはやるが、
やらないときはやらないのである。

 強風の中、テーブル、チェアなどの備品をさっさと片づけ、ター
プを仕舞った。次にテントをガレージの中までほいほいと移動する。
設営段階で予測していた行動なので、撤収はスムーズに行えた。
 ガレージの中で、テントにエアマットとシュラフをセットし、や
っと落ちつけた。カーサイドタープを片づけてふと見ると、芝生の
はしに泥の塊がある。犬のくそじゃあるまいなと注意して見たら、
塊はもぞ、と、動いた。げ! 近づいて良くみると、以前から庭に
住み着いていたガマである。子どもたちに教えた。みんな、コール
マンのバッテリーランタンやら懐中電灯やら持って、わらわらと寄
ってきた。わが家の子供は両棲類も爬虫類も、ことのほか好きなの
である。

 今回新たにわかったことは、食事に使うにはディレクターチェア
でないと不便だということ、クーラーボックスを置くためにも、ベ
ンチが必要だということ、ちゃちなテーブルより、シンク付きのキ
ッチンテーブルのほうが効率が良さそうということ、等である。

 さて来週は、千里浜で海水浴バージョンのお稽古である。

キャンプ4


          【はじめてのC】

            渚にて


 梅雨のなかやすみというやつか、すこーんと晴れた日曜の朝、家
族全員で深見町の別荘まで出向く。親たちは、深見町で一日庭いじ
りである。僕たちは、昨日チェックしたリストにしたがい、ガレー
ジからキャンプグッズをクルマに積み込む。当初の予定では楽勝で
積み込めるはずだったが、先日買い求めたディレクターチェアがか
なりかさばっていて、どうもうまくない。しょうがないので、防水
バッグに入れてルーフキャリアに積む事にする。ソフトバッグはか
なりめんどくさい。19000円で広告にでていた、FRPのジェ
ットバッグというのを買った方がいいな。

 テールゲートに取り付けた純正ラダー、これは、マイナーチェン
ジ後のモデルにしか装着できないみたいにカタログには載っていた
のだが、あのトヨタが、売れている車種のマイチェンぐらいでプレ
ス型を変えるはずは絶対あるまいと発注してみたら、何の問題もな
くくっついた、そういういきさつのあるラダーに登って、5脚のイ
スを屋根に積んだ。イスはアルミのため非常に軽いが、かさばるの
でバッグは一杯になってしまった。
 3列目のシートを右側だけ畳み、テーブル、ツーバーナーコンロ、
携帯シャワー、ジャグ、ナベカマ、食器、ゴムボート、着替えテン
ト、バーナースタンド、すのこ、やかん、クーラーバッグなどを積
む。うーむ、海水浴セットでもけっこうな量だ、キャンプセットだ
とこれにテントとタープとキッチンテーブルが加わる、なんか考え
にゃならんな。

 予定より遅れて11時に出発、すいている北陸高速を淡々と走っ
て金沢をめざす。途中気になってサンルーフのガラス越しにルーフ
キャリアをチェックさせる。大丈夫だ。サービスエリアで簡単に食
事して、金沢西で降りる。能登有料道路に入る。目的地は千里浜、
今浜インターで降りて、なぎさドライブウェイに入る。ここは、ク
ルマで走れるかっちりした砂浜が続いているのだ。
 去年の夏は迂回させられたのに、今はフリーで走れる、どうやら、
海水浴シーズンだけ浜茶屋のビーチを迂回させるようである。この
浜はかなり沖まで浅いので、子連れの海水浴にはたいへん都合がよ
ろしい。僕たちはここがたいそう気に入ったので、今年の夏はもっ
ぱらここへ通おうという魂胆なのである。

 けっこうな数のクルマがぱらぱらと砂浜に散らばっている。てき
とうなとこにとめてクルマから降りた。うわ、すごい風。高速道路
から眺めたときに白く波が立っていたが、やっぱり風が強いんだ。
 とても、ボートを膨らませて遊べるような雰囲気ではないので、
テーブル広げてお茶飲んでボート遊びして・・・はあきらめた。予
定を変更して「千里浜なぎさモビレージ」を下見に行こうというこ
とになった。なぎさドライブウェイを終点まで行ってさがす。どこ
だかよくわからないうちに川を越えてしまった。ま、どうせトイレ
評価が「C」のキャンプ場には行かない予定なので、「能登千里浜
国民休暇村」のほうを見に行く。

 こちらはすぐにわかった。ずんずんと奥まで入って駐車場にとめ
る。オートキャンプのエリアに徒歩で侵入。うーん。テントの場所
はデッキになっていて、キャビンタイプの骨組みまでセットしてあ
るではないか。しかも、駐車スペースのすぐ隣には、どっしりとし
たテーブルとイスが据え付けてあり、そのそばにはバーベキュー炉
まで建設してある。これじゃ道具なんていらんではないか。
 ぞろぞろとキャンプサイトを偵察、誰もいない。トイレは非常に
綺麗である。なるほど、評価「A」もうなづけるわい。奥の方へ行
くと、テントの骨組みのないサイトもあった。ふむ。こちらはテン
ト持参のキャンパーのための場所だな。海水浴場の矢印があったの
で行ってみる。遠い。泳ぐなら、チェックアウトしてから砂浜へク
ルマごと移動すべきだな。
 帰りに本館へ寄って、キャンプ場の予約をする。出向いてきて予
約をするようなやつはいないらしく、受付のおねーさんが少しパニ
ック。わかいおねーさんがうろたえるさまはたいそうせくしぃであ
る。ひそかに嬉しがっていたら、あまりせくしぃでないおにーさん
にバトンタッチされてしもうた。くそ。

 パンフレットをもらって砂浜へ向かう。途中の松林でイスを広げ
てみる。買ったばかりのディレクターチェア、パイプというパイプ
にポリの袋がかぶさっている。みっともないしきたなくなるので、
せっせと引きちぎる。わが家では、クルマが納車になったときもシ
ートのポリエチレンカバーを仇のように引きちぎる。わりとそうい
う性格なのである。
 まだ寒いというのに、昇が泳ぎに行ってしまったので、砂浜へク
ルマを移動することにする。イスをとりあえず室内に放り込んで砂
浜へ出た。日射しが強い。でも寒い。昇は海に浸かっている。温感
神経が鈍いのであろう。
 砂浜にイスを並べてみたが、別に楽しいわけもないので片づけは
じめる。ふたたび屋根に登り、バッグの中に押し込む。ラダー用の
ハンガーを購入してイスを運ぶことにしよう、屋根にはFRPのバ
ッグを取り付けよう、出来たら、カーゴトレーラーを購入しよう、
そんなことをぶつぶつと呟きながら、テールゲートに着替えテント
をセットした。携帯シャワーとすのこを取り出し、昇に身体を洗わ
せる。水が冷たいともんくをいいさらす。あたりまえじゃ、あほ。

 装備をいいかげんに収納して帰路につく。6時半頃に深見町に到
着。荷物をガレージに格納して両親を乗せ、「十千萬」というドラ
イブインで夕食。ものすごく量が多い。パックをもらって食べきれ
ないカツと海老フライを持ち帰る。

 月曜に、とりあえずFRPのルーフボックスを注文することに決
めた。116X97X35のサイズで19000円というやつが雑
誌の広告に載っていた。これは安いぞぉ。

キャンプ5

          【はじめてのC】

           ビルドアップ


 千里浜で気づいたいくつかの問題は、そのままでもなんとかなる
とはいうものの、できるなら解決したい、もっとらくちんにやりた
いというとめどない欲望となって、僕たちの心に居座った。

 新婚当時ファミリーカーとして使っていたハイエースは、ロング
バンという大きさのせいでとても便利だった。なんせ、4輪の自転
車だのサンドバギーだのを荷室にほうりこんで、それでも5人がゆ
ったりと乗れたのである。
 くらべてルシーダ、車輪とボンネットが前に出ている分だけ室内
は短く、僕が好むところの「坐薬シェイプ」のデザインのため、荷
物のスペースはさらに狭い。3列目のシートをはね上げて2列目を
前へスライドさせて、250のバイクを1台積むのが精いっぱいで
ある。これをRVと呼ぶのは恥ずかしくないかえ、宣伝屋さん。

 むかし、ハイエースの時にも、全長3メートルのホバークラフト
を運ぶためにトレーラーを引っ張っていた僕としては、こんどはき
ちんとしたメーカーの既製品にしてナンバー付けて、どきどきせず
にお出かけしましょ、そう考えてもみた。
 で、去年あたりからせっせと資料あつめて見積もりとって、30
万ちょっとで軽トラックの荷台程度のトレーラーは買えることがわ
かったのだが、今年はキャンプ用品をたんまり買い込んでしまった
ので、予算がなくなってしまったのであるよ。

 後ろに引っ張れないなら屋根に積もう、そう思って取り付けたル
ーフキャリアであったけれど、イスやシュラフは防水バッグに入れ
なきゃいかん。で、防水バッグを買いました、はい。
 それがねー、説明書読んでみたらあなた、屋根に付けっぱなしだ
と紫外線でベルトがぱーになるから、使わないときははずしておけ
と書いてある。そんなめんどくさいの嫌ですわたし。しかも、ぐに
ゃぐにゃしてるので入れにくいことおびただしい。
 そんなときに頭にひらめくあの広告、悪魔のささやき天使の居眠
り。ドライバーという、歴史がある割にお気楽な雑誌に出ていたジ
ェットバッグ、なんと19000円という破格の価格である。
 ただちに電話をかけて在庫を確認、買いますと宣言したあとで銀
行振り込みで送金した。夕方、配達中の携帯電話にシルバーは遅く
なるから黒いのはどうですかと入る。シュラフは熱くなってもかま
わんので、黒でいいですと答える。

 驚いたことに、翌朝、商品は届いた。

 ルシーダのバーに合わせて穴を開け、ちょっと渋いリンケージに
CRCをスプレーしてから取り付けた。なかなかよろしい。パール
イエローの坐薬を彩る、シルバーのタープケースと黒のジェットバ
ッグ、そして黒いテールゲートラダー、いかにも、遊びにいくぞ~
のココロである。
 庭の芝生で眺めているうち、もすこしいじりたくなってきた。以
前、イレクターというパイプでタープをこさえようと計画した時、
あぁ、この計画は、その重さのために中止したのだけれど、それを
積むためのケースとして購入しておいた塩ビの下水管、あれをルー
フの右側につけたらかっこええぞ。そんなイケナイ考えが浮かんだ。

 僕は、わりとたんねんに物事を考え考え計画練り練りのタイプな
のだが、行動にうつしだすとガンガンいくところがある。石橋を叩
いて確認したら、バイクに乗ってすっとんでいくわけである。
 ホームセンターでボルトナットに座金を買い求め、ドリルでパイ
プに穴をあけ、同一線上にはないスーリーのルーフバー3本をクリ
アするための切り欠きを入れて、塩ビの下水管を屋根に取り付けて
みた。

 げ、下水工事のおっさんクルマじゃ。。。

 これはいかんと画材屋に走る。幅45センチのカッティングシー
トを2メートル買い求める、色は金色。すこすこと霧吹きでママレ
モン水を吹き付け、格闘の末に金色の筒が出来上がった。
 筒の両サイドにねじ込み式の蓋を取り付け、車検の時に文句いわ
れないように、手で回せるナットを使って取り付けた。工具を必要
とする取り付けだと、記載事項変更を求められるからである。

 おお、まるでバズーカを登載した西部警察かウィンスペクターの
特装車両のようじゃ。よしよし。調子に乗った40過ぎのおじさん
は、いくらでも悪のりする、30ミリのスティクレター、プラチナ
万年筆から出ているアルファベットのシールであるが、これで彩り
を添えようと思い立った。じゃーん。左サイドのタープケースにも
同じく、「 PDE01675 MECHAGOZIRA 」なん
てぐわいに入れてしまったのである。頭の中にはスタートレックが
あったのは、おじさんなら誰でも想像がつくところであるなぁ。

 さて、テールゲートにもまだ、なんか積めそうだぞぅっと。。


キャンプ6

          【はじめてのC】

             初夜


 真夏のような金曜日とはうってかわって涼しい土曜日、昼食がす
んでからあわただしく準備をはじめる。1時になったので両親と交
代に店番、もって行くべき道具を計算用紙に書き出す。ちなみにメ
ー12というコクヨの製品である。やがて2時の交代、奥さんが昇
を連れて謝りにいく。同級生の男の子とじゃれていて激突し、相手
が唇を少し切ったのである。帰ってきてからベッドで泣きじゃくっ
ていたので、せんせに怒られたんか? と聞いたら、全然怒られて
えんと答えていた。連絡帳で事情がわかった母親にも僕にも、誰に
も怒られはしなかったので、良心の呵責を感じたのだろうか。おか
あさん、僕を殴って、等と口走っていたとの報告。よしよし。他人
を傷つけて泣くようになれば、男の子は一人前である。

 持っていく食べ物を裸にしてポリ袋に詰める。ゴミの体積を減ら
すためである。野菜は切っていく、本に書いてあったからである。
 駐車場のルシーダの屋根に登り、ジェットバッグにシュラフを詰
め込む。駐車場には、いかにもアタマの悪そうな高校生が数人、た
むろしていた。ハンバーガー喰ったりジュース飲んだりして、ゴミ
を放置する程度のあほである。今日は程度の低い本が一緒に捨てて
あった。なるほど、こういう連中が買うのか。

 準備ができたので深見町へ向かう。途中で食パンとチャコールと
カセットガスを買っていく。芝生の上で荷物をいったん出し、ガレ
ージから引きだしたテントやタープ、キッチンやゴムボート、シャ
ワーなどと一緒に整理して積み込む。サードシートの右側を畳んで、
なんとか積めた。時刻はほぼ4時、予定を一時間近くもオーバーで
ある。高速に乗って休憩なしで金沢西まで走る。能登有料道路に入
る。道路案内が非常にまぎらわしい。現地到着6時30分。

 指定された13番サイトにルシーダを駐車、テーブルとイスは大
きな木製のが据え付けてあり、テントは同じく木製のデッキが据え
付けてあるところへ張るようになっている。その他の場所は、松の
木が無秩序に生えている・・・有無を言わさぬ親切な設計じゃ。

 ただちにタープを張る。キッチンやバーナーをセット、携帯用の
バーベキューコンロをセットしてチャコールに点火、奥さんは進と
水を汲みにいった。僕と明はつづけてテント設営に入る。げげ、デ
ッキのほうがテントの床よりわずかに小さい。しょうがないので四
隅を落とす、ドームテントなので、強度上は大した問題もないだろ
う。なんか、ちゃぶ台からはみだした蝿よけネットみたいじゃ。

 さて夕食。薄暗い中で食べていると、バーベキューコンロが崩壊
した。熱で変形して噛み合わせの爪が外れたらしい。高さも低くて
使いにくいし、これは今後使わないことにする。安くて悪い商品の
見本だな、これは。ガスでフライパンを使って食事を続ける。カセ
ットフーのツーバーナーは便利だ。ホームセンターで買ってきた9
800円のキッチンセットもたいへんよろしい。ロゴスのベンチも、
クーラーバッグや食器のコンテナを置くのに重宝、クルマの中でも
トランクの二段仕切りとして働いていたし、これで1980円なら
文句はないぞ。
 問題はタープ、今回のようにサイトの自由度が低いと、ペグやロ
ープの位置に制限を受けるので、たいへん張りづらい。ここはひと
つ、自立式のスクリーンテントを購入することにしよう。もひとつ、
蛍光灯のランタンだけでは暗いので調理と食事が不便である。数を
増やすなり強力なものを買い足すなりせにゃあ。あと、塩も常備し
とく必要があるな。そんなことをメー12(コクヨのメモ帳)に書
き出す。
 明がせっせと膨らましていたエアマットが完成した。コールマン
のダブルに比べて、ロゴスのシングル、ラダータイプは、とてもと
ても貧弱である。5歳児にはこんなもんでいいか。

 食後の一服、インスタントコーヒーをマグカップで飲む。なかな
か冷めないところが便利。道をはさんだとなりのサイトでは、備え
付けのバーベキュー炉でゴミを焼いている。煙がそこらじゅうを風
に吹かれて漂う。キャンプ管理者に対する親切のつもりなのかも知
らぬが、結果的にまわりに迷惑をまき散らしているわけだ。ひとこ
ろ、割り箸を使っている食堂で演説していたおばはんと一緒で、ひ
とりよがりの優等生であるな。こういう奴は、自分のルールに従わ
ぬ他人を責め、そのくせ自分は公共のルールに従わぬ。注意しても
理解できるアタマには思えぬのでほっておく。

 明と昇は早々に就寝、進はしっかりお昼寝をしたので起きている。
くそ。うーだらこだらとうるさい事このうえない。こいつだけがま
だ親離れしていないのである。僕らが二人でいると必ず邪魔しに入
ってくるので、奥さんがはよ寝んかいと怒る。わが家では、子供は
王様ではないのだよ。

 雨は降らぬものの、涼しい。トレーナーを着てシュラフに潜り込
む。夏でも冬装備、晴れでも雨装備、アウトドアの心構えはどこで
も生きている。


キャンプ7


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