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藤の屋文具店

セピア



              セピア

             駄菓子屋さん


 昭和30年代、僕のお小遣いは一日20円だった。学校が終わっ
て家へ帰ると、10円玉をふたつ握り締めて駄菓子屋へと走る。柴
田神社の入り口近くのその店は、正方形のガラスが六枚はまった木
製の引き戸が並んだ内側に白いカーテンの引かれた、当時のどこに
でもある小さな商店である。
 店内は、正面に木製のカウンター、事務机くらいの高さで、その
向こうは畳の部屋になっていて、ちゃぶ台なんかがのれんの隙間か
ら見えたりする。客のいるこちら側は土を叩いた土間で、言うなれ
ば縁側に低い台を置いたような陳列である。

 小学二年生には少し高いカウンターの上には、いろいろなおもち
ゃやクジやお菓子が並んでいて、甘辛く煮しめたスルメや試験管に
入った酸っぱいゼリーみたいの、これは短い竹ひごでつついて食べ
る。あと、アイスクリームについてくるような木製のしゃもじに、
なんか甘いものを塗りつけたやつ、とか、冬だったら、ガラスのは
まった蓋を持つ浅い塗り箱に入れられた水羊羹なんてのもある。他
にも、小さな四角い箱にボール状のオレンジ味のガムが四つ入った
のとか、ザラメのまぶしたミニバナナ型のカステラだとかが並んで
いた。
 クジは、ザラ半紙でつくった小さな単語カードみたいのが一回5
円で、一枚とってぺろりとなめると、「スカ」とか「三等」とかい
う文字が浮き出てくる。商品は、やっこ凧とか模型飛行機、これは
竹ひごと角材でこさえて和紙を翼に貼るアレ、銀玉鉄砲、キーホル
ダーなんかがあって、よく当たったのは、暗いところで光る般若の
キーホルダーである。この、一攫千金のクジより人気があったのは
駄菓子とクジのコンビネーションで、一番ポピュラーなのは甘納豆。
 ポチ袋よりも小さな袋に甘納豆が詰められて、画用紙くらいの台
紙にずらりと貼りつけられていた。一回5円でひとつむしりとると、
内側に「スカ」とか「特等」とか書いてある。当たりは、台紙の上
のほうに貼りつけてある巨大な袋で、鉄人28号なら鉄人と正太郎
が特等で、ブラックオックス、バッカス、PX団の首領、敷島博士
といったぐあいに続く。アトムだと、アトム、お茶の水博士、ウラ
ン、コバルト、シャーロックホームスパン、なんて調子だ。

 カウンターの左側には木製の長いすがあって、背後の壁にはコミ
ックスの原型みたいなマンガ本が並んでいる。妖怪とかお化けのマ
ンガがほとんどで、スパイみたいなのもあった。店で読んで帰るの
なら一冊5円、借りて帰ると10円だ。借りるときは、最低3人で
違うものを借りて、みんなで読みまわす。そういう知恵は、駄菓子
屋で学んだ。夏の暑い盛りには、一本5円のミカン水かレモン水、
ガラス瓶に入って真っ赤や真っ黄色のそれを栓抜きで抜いてラッパ
飲み。自然食主義者が卒倒しそうなものばかり売っていた。
 店主はおばちゃん。ときどき若いおねーさんが店番している。お
ばちゃんは優しいのだが、おねーさんはちょっと怖い。クジをちょ
っとずるして覗こうとしたりすると、眼が吊り上って超音波の声を
出す。マンガをちょっと立ち読みしただけで5円とられた子もいる。

 いちばんわくわくするのは、新しいくじのセットが入った時で、
特等も一等もきちんと揃っていて、時々、見たことのない新しいも
のが入って来た時には、子供たちのちょっとしたニュースになった
りする。新しいくじは、封を切った時には当たりくじが特定の場所
に固めてあるので、おねーさんが開けると、最初は当たりくじを隠
してしまうので、絶対に当たらない。半分くらいになると少しづつ
入れていくのだ。運良くおばちゃんの時に売り切れて新しいのを開
けると、僕は右端のいくつかをスカと一緒に取って、2等あたりを
もらって帰る。残りの当たりは、そっと左端に隠しておいて、次の
日に当てるのである。子供の知恵をあなどってはならないのだよ。




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