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藤の屋文具店

自動車マニア実践講座 21~25

         【自動車マニア実践講座】

             主義主張


 何事でもそうですが、知識や経験が豊富なだけでは、マニア
として一人前とは言えません。なにかしら普通のドライバーと
は違うカッコイイ理念というか思想を持ってはじめて、そこら
へんの付和雷同の羊のような小市民ドライバーとは違う、いっ
ぽん筋の通った硬派のクルママニアとして認めてもらうことが
可能になります。と書くと、何かたいそうなことのように思え
ますが、なに、こんなもんはみんな、すでにあるパターンの中
から適当に拾った受け売りですから、中学生程度のオツムがあ
れば誰にでも簡単にできます。

 一番ポピュラーなのは、「国家権力は悪い」です。クルマを
運転している人ならたいてい、駐車違反や速度違反で罰金を払
った経験がありますから、心情的に警察やその背後にある国家
に対して、ある程度の恨みを抱いています。だから、彼らを貶
めるような理屈に対しては、受け入れやすいわけですね。技法
としては、とにかく国の企画する計画に対して因縁をつけるこ
とです。とはいえ、口汚く罵るだけではただのぱぁですから、
皮肉まじりにちょっと小馬鹿にした感じでけなすのが良いでし
ょう。
 誰かに反対意見を言われたら、「利権の温床である」と言え
ばおっけいです。これさえ大声で叫びつづければ、しっかりし
た自分の考えを持った反骨精神のある勇者、として認めてもら
えます。意味などわからなくてもいいです。おばあちゃんが親
鸞上人の苦労の成果を横取りして「南無阿弥陀仏」と唱えてい
れば極楽浄土にいけるようなものですね。

 政治的なものはちょっと、という成熟した精神をお持ちの方
には、「ラテンは楽しい」というのもあります。ラテンという
のは、フランスやイタリアやスペイン等の、お酒飲んで歌うた
って女くどいて火を焚いて踊りまわることが好きな人たちの国
のことらしいのですが、本当はどうだか知りません。人生を楽
しむことの達人といったイメージで、自動車雑誌のもの書きさ
んが宣伝してきただけかも知れません。
 で、そういった国のクルマ、といってもスペインはペガソ以
降はノックダウンしかできない自動車後進国になったので除い
て、フランスとイタリアですが、これらの国のクルマのことを
最上であると信仰することです。単に趣味の好みの問題ですか
ら、政治的な意見と違って青筋立てて怒る人は少ないですから、
うすらみっともないお子様ディベートに巻き込まれる心配はあ
りません。フランス最高イタリア最高、やっぱ運転するならラ
テンのクルマっしょぉ! のノリですね。

 あと、そうですね、すこし高尚なとこでは、地球環境のこと
をバックボーンにするというのもかっこいいです。もちろん、
真剣にやるなら、専門知識と地道な実験や退屈な統計処理など
の専門教育が必須で、これがなければお調子者のたわごとなの
ですが、そんなことは専門家におまかせしといて、マニアとし
ては、雑誌の意見の切り売りで十分です。
 今の日本では、二酸化炭素問題やリサイクルの効率はブーム
が去り、ひたすら窒素酸化物と炭化水素が流行してますので、
これを信仰しましょう。口当たりの良い能書きは、綺麗なおね
ーさんの代わりに初老のじいさまが表紙でスカしているクルマ
雑誌なんかに必ず載っていますので、780円持って本屋に走
りましょう。読んで唱えりゃあなたもマニア、小難しい理屈は
省略して、「乗らなきゃいいんだろうけど、でも、俺はクルマ
が好きなんだよなぁ、ははは」と視線を落としてつぶやけば、
文科系の女子大生ならぐらっとくるかも知れません。


         【自動車マニア実践講座】

             登竜門


 どんな世界もそうですが、マニアというものは禁欲的なもの
にあこがれる傾向があります。みぃはぁな下賎の民とはちがう
んだぞぉーっというえっへんのことです。特にクルマの場合は、
映画や高速道路チケットの収集と違って、お金持ちがやってく
れば、F50でもイスパノスイザでも簡単に手に入れられる世
界ですから、新参者にでかい顔させないためにはいろんなハザ
ードが欲しくなりますね。今までなあなあでやってた暖かい世
界に、知らんやつがやってきてその日からでかい顔をするとい
うのは、マニアでなくったって厭なものだからです。ましてや、
それこそすべてのマニアの世界ですから、これは人生最大の問
題になりますね。

 そこで、マニアとしてデビューする、ようするに先輩達に認
めてもらうためには、いくつかの審査をパスする必要が出てき
ます。いちばん一般的なのは、マニュアル車の運転が出来るこ
とです。笑わないでください、自動車マニアという場合、日本
ではそれはほとんど運転が好きな人を指し、その運転というの
は、ただひたすら速く走ることが士農工商のトップにある、そ
ういう状況だからです。エンジンのOHができることより、1
0万キロ無事故で過ごすことより、高速道路で230キロ出し
たりヒルアンドトゥのできることのほうが自慢になる、そうい
う世界なのです。
 運転の好きな人の憧れの対象といえば、今も昔もレーシング
ドライバーです。かつての大レーサー、生沢徹や田中健次郎な
んかは、街乗りはATで通していましたが、現代の日本の雑誌
で書いてる程度のプロのレーサーだと、「フェアレディに乗る
ならMTでないといけない、ヒルアンドトゥーで坂道発進でき
なきゃ乗る資格はない」などということを書いたりしますから、
信者のようなマニアは、素直に右へならいしたりしますね。
 もっとも、このような幼稚な「かっこよさ」は、あるいは、
マニアに受けるようにあえて書いているのかも知れません。本
当の一流のトップレーサー以外は、生活のためには必死で副業
に精を出さないと食っていかれませんから。

 具体的なはなしをすると、自動車マニアに必要な技能は、M
T免許、ヒルアンドトゥー、パワースライドとカウンターステ
ア、こんなところです。いずれも、ものものしい名前がついて
はいますが、雪道の運転などではだれでもやってしまっていた
程度のことですから、パーツショップで主催しているイベント、
ダートトライアルやジムカーナなどに参加すれば、操作として
はすぐに身につきます。
 別にできなくてもかまわないのですが、口うるさい先輩マニ
アだとうだうだ言いますから、簡単なことなので稽古しとけば
いいでしょう。となりに好きな女の子が乗っているときには、
掛け声とともに技を出すとかっこいいかも知れません。
 ふぅるぶれぃきんぐぅぅぅうーひぃぃるあんどとぅぅぅぅぅ
ーぱわわぁあーぁすらいどぉうううううぅ、かぁああああうん
たぁぁああああーあすてぇいあぁぁぁああー! おお、かって
の、低IQ絶叫型アニメ主人公みたいで、かっこいいですねぇ。

 でも、必要も無いのにそんなことやりたくない、免許はとも
かく、乗るんならATのほうがいいと思う人は、別の方法もあ
ります、JAFの競技ライセンスを取りましょう。講習会を受
けてサーキットをそろそろ走るだけで国内B級がもらえて、そ
れから公認の競技に出れば今度はA級ライセンスの講習会を受
けられます。才能はまったく必要がなく、きちんと規則を守る
ことが確認されれば、誰にでもとれます。じつは、こっちのほ
うがほんとは大切な能力だからです。
 他人にばかり口うるさいマニアに運転技能を試されるような
ことを言われたとき、黙ってA級ライセンスを見せてやれば、
その程度のボンなら沈黙します。はったりとしては、とてもリ
ーズナブルですので、持っていても損はないでしょう。

         【自動車マニア実践講座】

            マニアの流派


 お友達とクルマ談義を楽しむには、共通の下敷きが必要です
ね。ラッセル車が煙突立てたみたいなクルマの写真がずらっと
並んでいる雑誌を、温泉につかってほけーっとした時のような
顔で立ち読みしてるおにぃちゃんと、英国製のぶらさがりのス
ーツで、CGを片手に喫茶店でくつろぐヤンエグでは、対話が
成立しがたいわけです。類は友を呼ぶというかハエはうんこに、
蝶は花に群がるというか、まあ、自分にあった世界を見つける
には、そういう雑誌を読んでみるとわかりやすいでしょう。

 コンビニなんかに大量にある雑誌で、エアロパーツとワイド
なアルミホイールを付けて車高をちょっと下げたやつが載って
いるやつなんかだと、掲載された広告を眺めてみれば「包茎を
女性に知られずにそっと治したい、お口の匂いとワキガの気に
なるおにぃさん」といった人物像が頭に浮かびます。
 小さい本屋には置いていないような雑誌、表紙にはひたすら
クルマしか描いてなくて、中を開いてもおちちの谷間の見える
おねーさんなどどこにもいない、そういう上品なやつですが、
そんなのだと、年収三千万円以上の人のための上品なセダンや、
平日なら温泉に一泊できるような価格のカーワックスなんかの
広告ばかりです。包茎の人や、ペンダントを買ってウハウハ女
にもてたい人はいないみたいです。

 どちらがマニアとして上級かというと、実はまったく同じレ
ベルです。単にお小遣いが多いか少ないかという程度で、AM
Gと正月珍走隊の区別は、堅気の社会人にはまったくわかりま
せんね。でも、人が猿を醜いと感じやすいように、少しだけ違
う仲間というものは、当事者にとっては反発の対象になりやす
いものですから、お互いに馬鹿にしあっていたりします。学生
運動のセクトみたいで、傍から見れば滑稽ですが、当事者にと
っては人生の一大事だったりします。

 参考までにいくつか例をあげると、一番生活レベルが高いの
は、手作り時代のフェラーリやマゼラティなんかで外国、じつ
はヨーロッパのことですけど、の公道パレードみたいのに参加
してああ楽しかったというタイプ。
 次が、現代の高性能車でサーキットランを楽しんでタイムや
テクニックをえっへんするタイプ。この下に、経済的な意味の
上下ですけど、国産や中古車で山道をドリドリするタイプがあ
ります。
 系統の違うものでは、プラスティックやウレタンで出来た羽
根や鰭をぺたぺた貼り付けたり、ぶりぶりとかっこいい音のす
る排気管をつけて得意になるタイプや、アメリカの貧民窟のマ
ニアのクルマを真似てうっとりしているタイプがあります。
 さらに、離れたものでは、クルマのメカニズム一筋、とか、
デザイン一筋というタイプや、腐ったクルマを直すのが大好き
なサビ取りマニアというのもいたりします。ひたすら文献を漁
り、あらゆるウンチクを収集してはところかまわず言いふらす
勉強家もいますね。

 趣味ですから、どこに所属してもまったくかまわないので、
自分が楽しいと思うところを選べばよいでしょう。社会的な認
知はいずれも低く、フェラーリでファンファンと騒音を立てる
のも巨大スピーカーでずんどこやるのも、はたまた住宅地でラ
ッカースプレー吹くのも、顰蹙のかいかたは同じです。ま、道
楽というのはそういうものですね。

          自動車マニア実践講座

             目的意識


 自動車マニアの溜まり場によくいるのが、まるでこの世のすべて
を知っているかのように話す人です。話だけ聞いていると、新車の
開発から整備やチューニング、運転テクニックから果ては法律の解
釈やら政治経済まで、ダ・ビンチとセナと武村健一が憑依している
ように語る御仁がいらっしゃいます(俺だ俺だ(^^))。このような
人は、実際には、あまり尊敬はされていません。表面ではわっしょ
いしてもらえるのですが、陰ではかなり低い評価、というのが普通
です。
 あなたが、仲間内でそこそこに尊敬されたかったら、べらべらと
しゃべることは得策ではありません。知っていることを垂れ流しに
していると、沈黙した時に知らないことがバレるからです。勤続3
0年の駅員は、自販機のおつりをちょんぼしただけで懲戒免職にな
り、暴力団は被災者に粉ミルクを配るだけで「意外といいやつじゃ
ん」と言われるようなものです。限りある知識を有効に活用したけ
れば、出し惜しみするほうがリーズナブルですね。

 さて、マニアの会話というものは、基本的に遊びです。お金のた
めに集まってお話するなんてことはないわけですから、目的は楽し
みがメインになります。したがって、楽しくない話は価値がないわ
けなのですが、話している人と聞いている人とでは評価が違うため
に、いろいろなトラブルが出てきます。
 たとえば、自分の知識を自慢したいと強く願う人は、私のように
こうやって演説しているだけなら害はないのですが、自分の自慢の
ためだけに誰かや何かを批判したりすると、周りは不愉快なのに自
分は良い気持ち、というアンバランスな状況になっちゃいますね。

 ようするに、マニアどうしの会話というものは、商取引や法廷で
の会話と違って、正しいと思うことを主張するだけでは、良い効果
を得られないわけです。ましてや、おたんこ弁護士が良くするよう
に、間違いを承知で無理な理屈をぺたぺた貼りつけて強弁したり、
揚げ足とりで相手を非難したりしていては、目の前の目的であるえ
っへんや、本来の目的である楽しい道楽の手法としては、完全に落
第になってしまいますね。

 善人なをもて往生す、いわんや悪人をや、という有名な言葉があ
ります、としよりのもらってくるカレンダーなんかに書いてあるア
レですが、ようするに、自分は正しいと思ってえっへんするような
奴は、あの世でいちばん評価が低いあほんだらであるということで
す。まわりを見渡してみれば一目瞭然ですが、町内なんかでどうに
もならんようなイカレタおばはんは、詐欺師や万引き常習犯より、
へんな宗教やってる人のほうに圧倒的に多いわけで、自分の正義を
疑わないような迂闊な人ほど、世間さまの迷惑であることが多いと
いうことを忠告している言葉なのです。

 では、どうしたらよいかというと、大きな目で判断をすることで
す。自慢が目的なら、相手に感心してもらうことを念頭に置くべき
であって、知っている事実をただ並べたり、かんからかんの正義や
メートル原器のように厳密なことを主張することに夢中になってい
ては、本末転倒になってしまいます。素晴らしい理念に燃えた市民
運動家が、平凡な市民に理解を求めようとして、得意そうに議論を
吹っかけ、果ては罵りあいになり、運動そのものの評判を落とすよ
うなもので、骨折り損のくたびれ儲け、見守っているつもりがスト
ーカー、てなもんです。

 本物のクルマを正確に縮小すると、やけに細長く見えて、少しも
「らしく」ありません。碁石の白は、膨らんで見えるために実は少
し小さめに作られています。素晴らしい絵画は、写真のように正確
に映像を描写することでは生まれません。コンピューターのデータ
交換と違って、人間の心が受け取るものは、厳格な事実だけが真実
を伝えるとは限らないわけで、SF映画の設定を真顔で批判してい
ては、その映画を楽しむことはできないようなものですね。

         【自動車マニア実践講座】

            靴屋と画家


 ダビンチだかのエピソードで、こういうのがあります。彼の
描いている絵を見て、靴屋が、この靴の形はおかしいとケチを
つけたところ、彼は謙虚に教えを請い、正しい形に描きなおし
たそうです。ここまでは、一流の人物なら誰でもそうするであ
ろう普通のことですね。で、自分の意見が偉い画家に聞き入れ
られて有頂天になった靴屋のおっさんは、調子に乗って足の形
にもあれこれ批判をはじめたところ、靴屋は靴のことだけ話せ
ばよろしい、と、冷たくたしなめられたということです。

 自分の仕事に真剣な人なら誰でもわかることですが、専門の
教育や訓練を受けていない人が、それを専門にしている人に語
る偉そうな批評というのは、ひとかけらの価値もない思いあが
った見当はずれであるケースが、とても多いですね。たとえば
わたしなんかが、そこいらの雑誌で聞きかかじったことをもと
にクルマの批判をあれこれやったところで、メーカーの技術者
がそんな簡単な事を知らないわけはないですから、世間ばなし
以上の価値はないわけです。
 自分でクルマを一台ばらしてみれば良く理解できるのですが、
このような複雑な部品をひとつひとつ設計して組み立てる作業
というものは、いいかげんな気持ちでほいほいとやっつける、
そんな甘いものではありません。ちょっとクルマに興味がある
程度のド素人が、メーカーの技術者に、ここをこうすればきっ
と良くなる、なんて言ったら、彼らは苦笑するだけです。傍か
ら見たら、無知ゆえの恥ずかしい暴言、背中がぞびぞびして、
深夜に思い出して奇声を上げたくなるほどの、こっ恥ずかしい
幼稚な行為以外の何物でもありませんね。

 マニアや、その慣れの果てである評論家によくあるのが、こ
の、「足の形を得意そうに批評する靴屋」です。例をあげるな
ら、別にセンスが良いわけでもない初老の自動車評論家が、男
のファッションだのダンディな行き様なんて事を語ったり、果
ては生産車の内外装をコーディネートしてモーターショウに展
示したことまでありましたが、彼の自動車評論家としての才能
の是非はさて置くとして、そのプロデュースされたクルマの美
的なセンスというのは、少なくともデザインの専門教育を受け
た僕にとっては、目を覆いたくなるほどにひどいもので、色彩
学の課題なら再提出間違いなしでした。落第です。
 もちろん、自動車マニアが、たとえば政治の話や環境の話、
ファッションやスポーツの話をしたり、メーカーの姿勢やクル
マのデザインについて語るのは、悪いことではないのですが、
小さな世界で発言力の大きくなっただけの人は、自分で自分自
身をしっかりと戒めるだけの自制心を持たないと、用水路のカ
エルというかひょうたん池のコイというか、お山の大将になっ
てしまって、専門家から見たら無知丸出しのひとりよがりのた
わごとを、得意になっていつまでも大声で語るような、うすら
みっともないことになってしまうわけですね。

 さて、このような、どこにでもいる愉快なお調子者を他山の
石として、意味はわかりますよね、よその山に転がっているつ
まんない石ころでも、自分の宝石を磨く役には立つという、わ
りとキツーイ諺ですが、そうやって、ご自分をかっこいい自動
車マニアにするように、利用していけば良いわけです。本講座
の締めくくりとして自動車マニアの心構えをひとことで言うな
ら、次の通りです。

 身のほどをわきまえましょう。

 オレのことだ。。。。


                          完



 




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