Bright Eyes『I'M WIDE AWAKE,IT'S MORNING』『DIGITAL ASH IN A DIGITAL URN』
去年の日記を見てみると、2003年ベスト・ディスクの第三位にBright Eyesの『Lifted or The Story is in the Soil,Keep Your Ear to the Ground』を選んでいて、こんなコメントしています。「タイトル長過ぎ!! インディー界のボブ・ディランとの評価も伊達じゃない傑作。歌うべき内容がありすぎて、歌詞カードびっしり。シンガー・ソングライター万歳!」…それから約2年ぶりの新作。2枚同時発売。1枚はフォーキーというよりカントリー。1枚はエレクトロニカ風味なロック。先行シングル「Lua」「Take It Easy(Love Nothing)」はなんと、全米シングル・セールス・チャート1位、2位独占という状態。ヒップホップとアイドルポップに占領されたトップ40にロック系の作品がこれほど評価されたということ自体が事件である。もちろん、そこにはちゃんとした理由があって、大統領選の際にブルース・スプリングスティーンやREMとともに行ったVote For Changeツアーでの知名度の向上によるおかげだろう。でもまさか、ここまですごい結果が導き出されるなんて誰が想像しただろうか…? だって「Lua」なんて、アコギと歌だけのシンプル極まりない曲なんですよ…! 僕は前作の傑作ぶりに驚いたものでしたが、まさかブライト・アイズのようなインディー・ギターポップのアーティストが現代アメリカのロックを代表する存在になるなんて思いもしませんでした。さて、カントリーな『I'M WIDE AWAKE,IT'S MORNING』も、エレクトロニカ風味な『DIGITAL ASH IN A DIGITAL URN』も、前作に較べると作風自体はシンプルで分かりやすいものになっています。それだけ最大公約数に訴えるサウンドに仕上がっていると言えましょう。相変わらずの詩人ぶりは、以前の混乱状態で泣き叫んでいるような鬼気迫る感じは薄れ、よりリリシズムに溢れている気がします。ひょっとすると、そこらへんが「文学的音楽ファン」から見れば、物足りないのかもしれませんが、そんなのは音楽を聴く上で正しい態度とは言えないでしょう! ブライト・アイズの中心人物であるコナー・オバースト(現在24歳!)の、かすれ、震え、調性無視して時に絶叫するヴォーカルは、まさしく感情の塊としか思えず、つまりブライト・アイズの音楽とは、純粋な感情表現なのです。そんなことが出来るなんて、僕らは信じられるでしょうか…いやいや…これを聴いてみてください。すると「純粋なもの」というやつを信じてみたくなってきます。今、ブライト・アイズはボブ・ディランはおろか、ニール・ヤングやジョン・レノンすら引き合いに出されて批評されているようですが、僕は『I'M WIDE AWAKE,IT'S MORNING』を聴いて、グラム・パーソンズを連想しました。まさしく、これは現代の『GP』と言っても過言ではないアルバムであり、「Lua」は「She」の21世紀ヴァージョンなのです。