その6

その6     イエロースプリングスⅡ

そこは、今まで訪れたなかで一番美しい森だと思いました。
小道を右に行くと、つきあたりに泉があります。
イエローというより、オレンジ色といったかんじの岩場に、水が湧き出し
小さな流れを作っていました。
考えていたよりも、こじんまりとしていました。
木漏れ日がやさしくふりそそぐその地は、わたしたちを癒す力を持っています。

すれちがう人は皆、What a nice day!(なんてステキな日でしょう!)
などと声をかけてきます。年配の人も、若い人も変わらず挨拶します。
でも、人は少ししかいないのです。日本にこんなに美しいところがあるとしたら、
おそらく、人であふれかえっていることでしょう。

来た小道を逆のほうに行くと、谷川があるということなので、
次にそちらのほうに向かって歩き出しました。
妹はかなり先を歩いています。

ゆっくりおいしい空気を吸い込みながら歩いていると・・・
突然ある考えが、わたしの中に流れ込んで来たのです。

石が「わたしを持って返れ!」と話しかけているのです。
そもそもわたしに石をコレクションする趣味はなかったですし、
この旅の中でも、石のことなど考えたこともありません。
この石の意思?はそれこそ石のように確固としていましたから、
わたしは何の疑問をさしはさむ余地もなく、その石を探しました。

数歩歩くと、そこに半分土に埋まった小石が見えました。
ああこれだとすぐにわかったので、手に握り谷川に向かいました。
谷川までは、ある程度の距離があったと思うのですが、
その間中、わたしには「約束」という言葉が心に浮かび、
大きな鷲(または鷹)があるストーリーを聞かせてくれたような気がしました。
わたしは、文章を書くこと自体は好きですが、お話を作ったりすることは
あまりありません。なぜ次々とストーリーが浮かぶのか、いぶかしく感じます。
たぶん、わたしが作っているのではないのでしょう。
やはりなにものかが、わたしに話しかけているのだとしか思えません。

その時のわたしは、わたしといっしょに、ある女性が同じ風景を
見ていることを強く感じました。わたしの目を通して見ているのです。
霊が憑依したというわけでは決してありません。
その女性は、昔の人だと思いますが、その時代に生きたまま
わたしの目を通して、この場面を見ているのです。
時空を超えてしまえば、可能なことだとは思いますが・・・
なんとも不思議です。

谷川へたどり着き、石を洗ってみました。
そこにあらわれた石は、猛禽類の頭の形をしていました。
鷲鼻で、上下のくちばしを分ける筋までがあるのです。
これが、わたしと「イーグルの石」との出会いです。

                      つづく

イエロースプリングスの石



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