その4

その4 新しいオウチ

 家に帰りついたら、まずケージを組み立てました。ここが今日からワインの個室?になります。
最初は緊張してなにも食べないかもしれないと店員さんは言っていましたが、ワインは用意しておいた、ふやかしたエサ(子犬には水でふやかしたドライフードをあげます)をぺろっとたいらげました。
体重約2キログラム、生後69日のチビちゃんですが、なかなかの食いしん坊のようです。 
「きみはワインっていう名前になっちゃったね」
などと言いながら夫は子犬をなでています。
「そう言えば、トイレは買わないで帰ってきちゃったね。やっぱりすぐ必要だよ。」
「じゃあオレが買ってくる」
ということで、夫が近くのペットショップまで買いに行きました。
お留守番のワインとわたしは、ぎこちなくいっしょに遊んでいました。こんな小さな犬と遊ぶのは初めてです。はえ始めた歯がかゆいのか、さかんに甘え噛みをしてきます。さすが猟犬、こちらの手には穴があきそうです。これから強く噛んではいけないことも、教えて行かなければ・・・。
 そうこうするうちに、夫がトイレを買って帰ってきました。3方が高くなった緑色のトイレでした。
このときに深くは考えなかったのですが、これはオス犬用のトイレでした。成犬になると、オスは足を上げておしっこをしますから、それにあわせて3方に高さをつけてあるわけです。
ワインはこれをベッドと思いこんでしまったせいか、トイレをなかなか覚えてくれませんでした。結局一生の間、このトイレはベッドと兼用ということになってしまいました。
トイレのトレーの上にシーツをひき、これをクリップのようなもので固定するようになっています。ここでまた問題が発生!ワインはあっという間にトイレシーツをひきはがし、おもちゃにしてめちゃくちゃにしてしまうのです。
仕方がないので、トレーの下にシーツをひくようにしました。トレーはスノコになっているので、おしっこは下に落ちて行きます。シーツの汚れはスノコの上からは見えませんから、この使い方は結構お勧めかもしれません。ただし長い間使うとプラスチックのスノコに臭いが染み付いてしまいます。うちのように居間にトイレを置いている家ではきついことになります。
 さてワインは我が家での第一夜を迎えましたが、夫とわたしにとっては地獄のような数週間の始まりとなりました。もともと臆病なところがあるワインは、ケージのなかで1匹で眠るということができなかったのです。ヒーンヒーンという鳴き声は、いつの間にかウォーンウォーンという遠吠えのようにエスカレートして行きます。
 あたりの家々の窓がガラッと開き
「なんだろう?子猫かな。でもそれにしてはすごい鳴き声だね。」
などと会話しているのが聞こえてきます。
子犬といっしょに眠るのならば、生涯いっしょに眠ってあげなければなりません。互いの安眠のためにも別々がよいと考えたので、ここは心を鬼にしてなんとかしなければなりません。
 ケージのまわりをダンボールで囲い、さらに毛布をかけたりしましたが、焼け石に水といった感じでした。1時間も鳴いているとやがて疲れてしまい、ワインも眠りにつきました。
でもこれが次の日も、その次の日も続いたのです。ヒンヒン鳴く時間は少しずつ減って行きましたが、夫もわたしも身が細る思いでした。
数週間たち、ようやくワインも静かに眠るようになってきたある日、夫が泊まりでいないことがありました。この日ワインはまたヒンヒン鳴いたのです。夫のベッドの方が距離的にワインに近い位置にあるのですが、そこに人がいないことを敏感に察知したようです。わたしは夫のベッドを拝借することにしました。ワインはようやく落ち着いて静かになりました




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