わたしは灰猫
わたしは灰猫青山繫晴 著アラスカで育った咲音は、父の死をきっかけに生まれ故郷の日本を訪れる。目的は、4歳で別れた母に会うため。しかし、そこに母はおらず、代わりに謎の老婆、灰猫と出会う。森の中に突然現れるという神秘の泉の出現を待ちながら、二人は「同盟」を組み「練習」をすることになる。久しぶりに小説を読みました。ここ数年仕事ではプログラム作りが過酷で目がやばいことになってるし、プライベートでは釣り三昧。おまけにコロナ禍で図書館は1時間のうち20分を除菌作業で使用できない不自由な状態。街の本屋はつぶれていく。あれだけ時間を使っていた読書がまったくできていない。そんな中で電子書籍で本書を発見。もうなんでもポチポチと買ってしまえる世の中が怖い。財布が軽くなるにつれ、心は重くなっていく。まあ正月くらいいいだろうと思い、ポチっと買ってしまい一気に読み終えてしまいました。一気に、と言っても流し読みしたわけではなく、一つ一つの言葉の重み、美しさ、日本語の妙を噛みしめながら、味わい深く読みました。言葉の一つ一つが洗練された清らかな純文学です。娯楽小説しか読まない私にはハードルが高いかと思いきや、青山氏が紡ぎだす美しい情景描写に魅了され引き込まれました。これが、日ごろ言論空間で国への想いを情熱的に語る青山氏が生み出す言葉なのかと衝撃を受けました。咲音の父がアラスカで死を選んだように、灰猫が泉の出現を待ったように、そして咲音が母を求めたように、みんな解放を求めて、生まれる前の苦痛のない魂に返りたいと願いながら生きている。これが青山氏の死生観、本来の感性なのかと思うと、どんな思いで批判の多い議員活動を続けているのだろうかと複雑な気持ちになりました。18年4カ月温めた作品の重さを感じるすばらしい小説でした。わたしは灰猫【電子書籍】[ 青山繁晴 ]価格:1650円 (2021/1/11時点)楽天で購入