紙の梟
紙の梟貫井徳郎 著「人ひとりを殺したら死刑」という世の中を舞台にした短編のミステリ小説。死刑制度の是非を問うお堅い社会派小説なのか?とちょっと構えて読んでしまったが、それは小説内で登場人物たちが自問自答する様子を描いているだけで、読者に特定の思想を押し付けるような印象はなかった。悪い意味の例えではないが、薬丸岳さんの作品のように繰り返しこの種のテーマを扱った作品が書かれるようなら、著者の思想も見えてくるだろうが、そういうのはあまり見えない方が読む側としては純粋に物語を楽しめるのでうれしい。決して愉快な話ではないが、小説として娯楽性がある作品で楽しめた。「人ひとりを殺したら死刑」この「設定」を逆手に取った残虐極まりない猟奇的な犯罪、そしてその動機には実にミステリ小説らしいオチを用意している。また地震で閉ざされた別荘地で起こる連続殺人事件などなど、ミステリ好きにはたまらないような話もおさめられているので楽しい。最後はさすがにこのテーマに対しての主人公の葛藤があれこれと描かれるが、そのこと自体より、それによる社会的リンチや、分断、ネット社会の闇などなど、むしろ現代社会の病巣に対する皮肉が込められた作品である。(ように思った)新年早々いい小説読んだ。紙の梟 ハーシュソサエティ [ 貫井 徳郎 ]