カテゴリ:サー・カズオ・イシグロ作品の翻訳
おはようございます、ひなこです。
![]() 8月19日 キャロルは、後ろから見る分には結構好きだ。 窓から見てる。 庭を歩き回ってる。フェンスの近くの低木の薔薇のつぼみを触りながら。 彼女は大抵ビキニを着てる。でも今日は服を着てる。 後ろから見れば、可愛く感じる。 長い黒髪で、かなり痩せてる。 でも、顔が嫌いだ。気持ち悪い。 いつも小さな丸眼鏡をかけてる。日光浴してる時ですら。 で、鼻をつんって上げて、お高くとまってる感じ。 でもそういうのは別にどうでもいい。 顔なんだ、顔を見るのが嫌い。 だってなんだか自分みたいなんだもん。 だって、前に見たことある気がするから。 8月20日 もう家で一人でいることはない、絶対。 1階には、ママとジョンがいるから行けない。 庭には、彼女がいるから行けない。キャロルのことだ。 ベッドの下に雑誌を何冊か隠し持ってるけど、もう読み飽きた。 ママが昨日僕の部屋へ来て、僕がジョンと喋らないと小言を言いだした。 囁き声でずっと喋り続けて、大きな声で話せないもんだから、指で僕を突っつき続けて。 それから、誰かが2階に上がって来た。だから僕のことを睨んで出て行った。 僕は、まだ奴とは喋らない。 奴のことは嫌いだ。 あいつはデカくて、デブで、僕が何かするのを待ってる感じ。そうすれば、僕を怒鳴れるから。 この前の朝、僕が階段にいた時、ママが自分の寝室から僕に向かって叫んだ。 自分とジョンのために、紅茶を持ってこいって。 ジョンが砂糖を入れないことを僕は知っていた。だからすごく沢山の砂糖を入れてやった。 僕が2階に戻った時、ママが僕にドアを開けないで、トレイを部屋の外に置いておけって叫んでいるのが聞こえた。 僕は聞こえなかったふりをして、中に入った。 2人共真っ裸でベッドの中にいた。で、ジョンは腕と胸に入れ墨があった。 ママは僕に、トレイを置いてとっとと出ていけと言った。 続く。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年06月28日 07時00分08秒
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