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外資系経理マンのページ

小説(22)

その日から、というより紹介されたその時から、松田の領分に大沢は深くコミットするようになっていった。その日も、紹介されるとすぐに、
「川越さん、松田さんと今後のうちあわせします」
と川越の了解をとると、比較的おおきくずっしりとした黒い上側がふたのような形であくビジネスバックをもって経理の島にきて、安藤の机のわきにそのビジネスバックを置き、安藤の席にすわった。
「ちょっと、ファイルとか見ていいかしら?」
松田は、別に断る理由もないので了解した。この女性が月次のパッケージを作る算段について、ひらめきのアイデア、みちびきをしてくれるのであれば、願ったりである、とも思った。

月次のパッケージは、外資系の経理マネージャーにとって、おおきなタスクのひとつになっている。要は、日本ベース、もしくは日本の会計ソフトで作成した試算表の数字を本社がつくったパッケージに入れていく作業なのだが、会計基準の違いをただす必要があったり、注記事項で伝えるべき簿外情報があったりと、けっこう手間を食う。最近はERPソフトの普及で、仕訳入力と同時に本社のホストコンピュータに数字が反映される、といったことも多くの外資系でおこなわれてきている。そのために、経理マネージャー募集のスペックにも
SAP経験者(導入経験者尚可)などとあったりする。
しかし、会社の状況が全部、本社に筒抜けになるため、それをいやがる外資トップは多い。また、ERPソフトは、会社の業務全体をひとつの統合システムソフトウエアで管理しようというコンセプトのソフトだから、日本の商慣習にあわない部分もあったりする点、また導入にケースによっては億単位のお金がかかる点などで、抵抗する外資トップも多い。もちろん、この小説の舞台になるような中小規模の外資の場合、導入までの時間はかかる。

 松田は、ひきつづき仕訳の入力をおこなっていたが、アメリカへ出張にいくという事実が、すでに頭のかなりの部分を覆っていていた。ときおり、大沢の方も見遣った。5センチ幅のファイルをひざの上に置き、足をくんで窓際にむいてその内容を読んでいた。安藤は律儀に、アメリカに送ったファイルはすべてファックスのカバーシートと一緒に綴じ込んでいた。それをじっくり読み込んでいけば、見えてくるのは確かであった。それは、大沢にまかせるか、松田は思った。
 それにしても、入社2か月でアメリカ出張。本社はニューヨーク。ニューヨークといえば「危険な街」というイメージだ。そこへ英語もろくすっぽ話せないのに出張とは。でも、恵に話せば「がんばってきなさいよ」と言ってくれるだろうなあ。
「まつさん、ユーエーでいいよね」
「とくにこだわりはないよ」
「でも、けっこう一杯みたいだからどうなるか。」
松田は航空会社のこだわりはなかった。
「松田さん、ちょっとすみません」
大沢がファイルを見ながら松田を呼んだ。
「なんですか」
「会計ソフトはなにをつかってるんですか?」
「PCA会計です」
「見せてもらえます?あっ、それからアメリカで日本の証憑を見たいっていってるらしいから、去年一年の証憑を送るように手配して下さい。証憑は社内?」
「いえ、書類倉庫ですが」
「すぐとりよせられますか?」
大沢はなにやらカタカタ電卓をたたきながら、書類を読みこんでいるふうであった。話をするんなら 手をやすめてこっちを見てほしいと思ったが、そんな松田の思いは通じるはずもない。
「もう夕方なんで、あした受付になると思いますよ。あさって着で書類は事務所に届きますが」
「じゃあ、届き次第、アメリカに送るようにしてください」
そう言うと、それまで見ていたファイルに綴じ込んであったものを何枚かコピーして、その日はかえっていった。
「なんか、わたしあの人あわないなあ」
そばで、松田と大沢のやりとりを聞いていた広田がぽつりと言った。
そして松田もこころのなかでつぶやいた
「おれもあわない」

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