「友達」からの電話柴は水を、ごくりと飲み干した。すると、松林は、冷蔵庫に冷してあったクーラーポットの水をとりだし、あいたグラスに水をそそぎ、ポットはテーブルの上に置いた。「おいしくない?」 松林が不安げに、柴の顔をみる。 「いや、そんなことはないよ。」 「でも、なんだい?その噂というのは。」 「ううん、知らなかったらいいのよ。しらなかったら。」 松林は、何ごともなかったかのように、スプーンで、カレーを口に運ぶ。 「なんかさ、不思議なのよ。」 「なにが?」 「実をいうと、柴さんとカレー食べるのって二度目なのよ。」 柴のカレーを食べる手がとまった。 「どういうこと?」 「なんかさ、変な夢をみて、宝くじ売り場であなたと会って以降、自分がいま現実社会にいるのか、夢のなかにいるのか、わかんなくなってきたのよ。」 「家で寝てたのに、気が付くと電車の中だったり。」 柴は、自分とまったく同じ状況に、松林がおちいていることがわかった。 「だからね、寝るのが恐いのよ。」 松林はそういうと、カレーを食べるスプーンを置いた。 「夢のなかで話し掛けた男が現実の社会にでてきたり、もう、何を信じたらいいか。」 「それに、」 少しおいた間がじらされるように感じられた。 「そういえば、なんでわたしがこの会社にはいったか言ったっけ?」 「聞いてない。」 そのとき、携帯の音がバイブにしてあったため、テーブルの上をガガガと振動にあわせて動きはじめた。 「ちょっとごめん。」 松林は携帯の画面をみると、部屋の外に出ていった。 五分、十分待ったが、かえってこない。ドア越しの窓から外をみると、そのアパートの階段のところで、携帯で話をしている。 時間はすでに11時半近くになっている。電車の乗り継ぎを考えると、そうゆっくりもしていられない。 カレーは、柴はすでに食べきり、松林はすこしカレーのルーにからまった御飯がすこし、それこそひとくちではいりそうなくらいの量が残っているだけであった。 そのとき、松林が帰ってきた。 「友達?」 そういいながら、それはないだろうと柴は思った。なぜなら、友達なら、柴の前で話をしたって、なんら問題はない。 ということは男か? 「うん、まあ、そういうこと。」 「さっき、なに話してたっけ?」 「会社にはいったきっかけというか。」 「そうか。そういえば、時間だいじょうぶなの?」 肝心の話をはぐらかされたような気がしたが、 「だいじょうぶじゃない。」 まだ、その時間なら電車は間に合った。 柴は、うそをついた。 「とまってく?」 松林のひとことに、一瞬びっくりもしたが、おそるおそる聞き返した。 「いいのか?」 「なんかさ、柴さんにそばにいてほしいのよ。夜が恐いっていうかさ。」 それは柴も同じだった。 |