10 トレジャーギルド

Mission10 トレジャーギルド


 ここは、ポケモン広場。
今までこの話には登場していなかったのだが、
広場の郊外には、プクリンの顔をした建物が存在している。
草木も眠る丑三つ時、暗闇に潜むは3つの影。
「腹減ったな……」
「まったく、そこまで恨まなくてもいいじゃない」
「レイのヤツが戻ってきてから、ろくなことがねえな……」
3つの影は、三者三様に愚痴をこぼす。
彼らは探検隊イジワルズ。
以前、ウィンズのリーダー、レイを陥れようとしたが失敗し
それ以来、あてもなく辺りをさまよっていたのだ――。
「ところでダークネス、こんなプクリンドームに何の用なの?」
「ケケッ……サペント、腹減ったんだろ?ルビィも」
赤い眼を光らせ、リーダーは仲間達に話を振る。
「まさか、あのドームの中から盗もうってか?」
「そのまさかよ……ケケッ」
少し間を置いて、今度はルビィ。
「手は考えてあるの?」
その問いに、ダークネスは含み笑いを浮かべる。
「任せとけ……ケケケケッ」
次の瞬間、3匹の姿はそこから消えていた。

 数時間後、今日もポケモン広場に朝日が昇る。
しかし。
「うわわわあああっ!!!?」
突然、大きな地震が広場一帯を襲った。
ウィンズのリーダー・レイは、大声を上げながら飛び起きた。
続いて、仲間達がそれぞれの部屋から一斉に出てくる。
「な、なに、今の!?」
「大きな地震だったな」
「あー、びっくりした!」
仲間達も一様に驚いていた。しかし1匹足りない。
「あれ、イオンは?」
レイがそう言ったら、その足りない1匹――イオンが下から上がってきた。
「基地ハ問題ナイ。少シノ修理デヨサソウダ」
彼は基地の見回りをしてきていた。いつもながら冷静である。
「サンキュー、イオン。それじゃ、外も見回りしてくるか」
レイは仲間達に呼び掛ける。
「多少だが修理が必要だったか?イオン、俺も付き合うぜ」
グレアが言った。
外に出るメンバーは、レイ、ルナ、ロットで決まった。

 ポケモン広場は、いつもとは違う意味でにぎやかだった。
一行が見たところでは、あちこちに物が散乱しているのを見かけたが
建物が壊れたところは見受けられなかった。
レイを先頭に、その左後ろにロット、右後ろにルナ。
歩いていくうち、3匹はカクレオンの店にたどり着く。
「あれ、見慣れないポケモンがいるよ」
ロットが言う通り、店の前には見たことのない鳥ポケモンが1羽。
遠巻きに眺めるだけでも、相当あわてているのがわかる。
「ええーーーーーーっ!? セカイイチの入荷予定は無いんですか!!?」
とてもあわてた様子でまくし立てている。
「はい、申し訳ありませんが」
店番のカクレオンが、本当に申し訳なさそうに言う。
「ど、どうします?」
鳥ポケモンの横に、ディグダがいた。
レイ達から見ると気付きにくい位置にいたのだ。
「あれ、あのディグダ……」
「なんか見覚えあるわね」
「え?」
レイとルナは、ディグダに近づく。
「あれ?レイさんにルナさん?」
彼は、一行がハガネ山で助けたディグダ――マウタだった。
そして何の前置きもなく言った。
「皆さん、助けてくださいませんか?」

 外に出かけていたウィンズの3匹は、店の前で出会った2匹を連れて
基地に帰ってきていた。
鳥ポケモンの方は、ペラップのノーテという名前だった。
「それじゃ、あなたはギルドに?」
「はい、ハガネ山の一件の後でした。父も一緒に」
どうやら、父のマルグも元気らしい。
「ギルドか、俺も知ってるぜ。あちこちで宝を探しまわっている、大所帯の探検隊だってな」
グレアはこういう話には詳しい。
「はい。こちらがギルドの副リーダー、ノーテさんです」
ノーテは、右羽を前に当てるあいさつをした。
「それで、一体何があったの?」
本題。
「私から話しましょう」
そして、ノーテは事のいきさつを語り始めた――

 発端は今朝のこと。
ノーテはギルド本部の地下にある食料庫に向かっていた。
ギルドの親方である、フォリスのために朝食を用意するのはノーテの日課である。
「さて、と……」
しかし、ノーテは妙なことに気づいた。
なんと食料庫が荒らされている!
さらに悪いことに、フォリスの大好物であるセカイイチが
ごっそり消えているのだ。
「ええーーーーーーっ!!?」
思わず声を上げてしまう。
――セカイイチが無い、つまり朝食を用意できないなんて……
そんなことを親方様に知られてしまったら……
ノーテは、この局面を切り抜ける手段を考えた。
文字通り頭をフル回転させて。
しかし何も思いつかない。無情にも時間は過ぎてしまう。
すると突然、後ろから声がする。
「どーしたの?」
「うわあっ!?」
親方が現れた。
――今一番会いたくない方に会ってしまった。
だが、食料庫に行ったきり戻ってこないというのであれば
様子を見に行きたくなるのは自然なことであり。
「ねえ、ボクのセカイイチは?」
いつもの楽しげな口調。
「そ……それが……」
勝手に食料庫を探して回る親方。しかし。
「あれ?ボクのセカイイチはどこ?」
屈託ない笑顔。でももう限界だ。
――開き直る!それしかない!
「……えー……セカイイチは……
 何者かに……ごっそり、盗まれちゃいました!
 ここには、もう、1個も、残っていません!」
――もう……ヤケだ!!
「あはっ、あははははっ、あははははははははっ!
 あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!
 あははは……は……」
思い切り笑ってみせた。笑いながら、ちらりと親方の顔を見る。
しかし。
「……うるうる……」
もう今にも泣きそうだ。
「うるうるうるうるうるうる……」
――わーっ!いかんっ!
「うううっ……ううううううっ……」
突然、地響きが聞こえてきた。
ノーテはこの場から逃げようとした。が。
――足が……翼が……動かないっ……
「うあ……うああああ……うあああああああああ!!!」
ノーテの目の前で、親方は大声を上げて泣きだした。
「ひーっ!」
目の前には手がつけられない状態の親方、辺りは激しい地響き、
そして自分の足と翼は動かない。
絶体絶命とはまさにこのことだと、ノーテは感じ取った。
しかし動けないことに変わりはない。
「ぴえええええええええっ!!!」
親方の叫びに呼応するかのように、地響きは激しさを増していく。
次の瞬間!

「たあーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

……目の前が、真っ白になった。

「……というわけなんです」
ウィンズのメンバー達は絶句した。親方の恐ろしさに。
「つ、つまり、さっきの地震は親方さんが起こしたの?」
おびえながらルナが問う。
「はい」
ノーテが話を続ける。
「カクレオンさんの店にもセカイイチが無いとなると、
 残る手段は、リンゴの森で採ってくるくらいでしょうかね」
「それで、あなた方にお願いしたいんです」
マウタはウィンズに頼もうとしている。
「ところで、ギルドの他のメンバーは?」
レイが聞き返す。
「親方様のアレのせいで、みんな動けないんです。
 私もどうやって本部を出てきたのか、覚えていなくて」
ノーテが言うと、マウタがその言葉を引き継ぐ。
「実は、ボク達も本当はもう限界なんです……」
ここで突然、ノーテは床に頭をこすりつけた。
「な、なにを!?」
びっくりするルナにかまわず、ノーテは懇願する。
「お願いです、助けてください!
このまま手ぶらで本部に帰ったりしたら……親方様は……きっと……」
今度は飛び上がるノーテ。
「うわああああああああああああああ!!!」
あわてふためきながら、辺りを無造作に飛び回る。
もはやその顔は青を通り越して真っ白である。
「わかった、行ってくるよ」
レイが決める。
「なんだか怖いけど、レイが行くなら」
「あたし、がんばっちゃうよ!」
そんな一行を前に、ノーテは。
「ありがとうございます、皆さんよろしくお願いします!
 もう親方様に襲われるのはゴメンなんです……」

 一通り準備を終えて、ウィンズはリンゴの森を訪れる。
森の木々の中に隠れている、一行を冷静に見つめる影3つ。
イジワルズがここにも現れたのだ。
「ケケッ、まさかウィンズがここに来るとはな」
「今度こそ一泡吹かせてやるわよ」
「おうよ、とっておきの作戦を用意したからな」
ダークネスは、再び含み笑いを浮かべていた――

 しかし、ウィンズが彼らに気づくことはなかった。
「リンゴの森っていうだけあって、リンゴの木がたくさんだな」
辺りを見回しながら、グレアが言った。
「ふわー……いい天気!」
ロットが元気に歩く。天気がいいので気分もよさそうだ。
「ねえ、採っていってもいいかな?」
「いいんじゃないかな、持ちきれるくらいなら」
答えるのはレイ。
「よし、じゃそうしようかな。あそこにおいしいリンゴがあるような気がする!」
そう言うと、ロットはいきなりルートを外れた。
「あっ、待って……」
ルナの言葉は遅かった。
すでにロットは遠くに行った……だけならまだよかったのだが。
「うひゃあああああああああっ!!?」
突然の悲鳴に、残りの4匹は嫌な予感がした。
しかし、助けないわけにはいかない。

 彼らの予感は的中した。
ロットが向かった先は、モンスターハウスだったのだ。
一行を取り囲む野生ポケモンの数は、10匹を軽く超える。
「冗談きついぜ」
「このパターン、どこかで……」
「仕方ない、やるぞ!」
「デハ遠慮無ク」
違うのは、ロットが戦えるようになったということだ。
前に出て接近戦を仕掛けるグレアの隣に、飛び出していく。
「とうっ!」
その場で舞うと、周囲に真空波が巻き起こる。
さらに近付いてくる相手を、木の葉で斬っていく。
「素早いな、ロットは」
飛び道具を放っていたレイは、ロットを見てそう言った。
「前衛といっても、動きまわって戦うタイプなのよね」
ルナは、基地改築の時からロットの戦い方を見ていた。
力で押すグレアとは違い、スピードを生かすという性格を持っている。
強くなったのは、ロットだけではない。
レイとイオンがそれぞれ放つ、でんき技の威力も上昇していた。
そして、ある程度敵の勢いが弱まった頃。
「イオン、ひとつ試してみるか?」
イオンは何も言わない。しかし何をするべきかはわかっていた。レイは仲間達に呼び掛ける。
「よし、みんな集まれ!」
5匹が集まると、レイは垂直に飛び上がる。
さらに、イオンを上に投げ上げる!
次の瞬間、それぞれが電撃を放つ!
「サンダーストーム!!」
黄色と蒼白に輝く閃光は反発し合い、周囲に拡散していく!
色とりどりの雷が降り注ぎ、残っていた野生ポケモンを全てなぎ払った。

「……ふう」
レイとイオンの合体技で、この場にいた野生ポケモン達は全滅していた。
「いつの間にあんな技を?」
「うん、前から研究してたんだ」
ルナの問いかけにレイが応じていると、
「あっ、リンゴだー!」
向こうでは、ロットが木の上からリンゴを取ろうとしている。
そして、イオンはリンゴ回収を手伝わされていた。
何も言わないのだが、疲れた表情を浮かべていた。
「何も出なきゃいいんだが」
そうつぶやいたグレアの耳に、ブーンという音が聞こえてきた。
「この音……まさか!?」
スピアーが1匹、ロット目がけて飛んできた。
「え!?」
しかし、その毒針は目標を突き刺すことはなかった。
野生のスピアーは動きを止めたまま、垂直に落下していく。
ロットのすぐ横にいた、イオンのラスターカノンが直撃したのだ。
「……あ、ありがとう」
イオンは何も言わなかった。

 リンゴを食べながらしばらく休憩した後、
一行はさらに森の中を進んでいく。
「ここかな、最深部は」
並び立つ木々の中に、明らかにサイズの違う大木が1本見つかった。
「あれじゃない?」
ルナがその木を見て言った。イオンは、その木に下がっている実に注目する。
鮮やかな赤色をした、大きなリンゴがなっている。
「オソラク、セカイイチノ木ダ」
5匹は、セカイイチを採りはじめた。

 そんな一行を、茂みの中でイジワルズが見ていた。
「ケケケッ、オレ達の罠に気づいてないみたいだな」
ダークネスは笑いながら、作戦を思い返す。
「このセカイイチの中に、いくつかマトマの実を紛れ込ませておいた。
 超からくて、ほのおタイプじゃなくても炎が吐けるんだ。
 そいつを食べて隙ができたところを、一気に襲う」
それが、今回の作戦である。
「色はちょっと違うが、赤系なのは同じだ。
形もまぎらわしくなるように手を加えておいたからな。引っかかってくれよ……」
「ははは、マトマの実を食べてあわてふためくヤツらの姿が目に浮かぶぜ」
「本当に楽しみね」
「ケケケケッ」

 イジワルズの罠などつゆ知らず、ウィンズはセカイイチを集め終わっていた。
「一応多めに持って帰りましょう。親方さんは不機嫌でしょうから」
ルナの慎重な意見。
「……ん?」
積んであるセカイイチを見ていたレイが、その中の1個を取り出す。
それは他のものよりも、赤みが濃いものだった。
やけに赤いリンゴ。レイはあやしく感じていた。
――1個くらいならいいか。
そう思ったレイは、このリンゴを一口だけかじる。
「……ちょっと、レイ!?」
「ソレハ!」
ルナとイオンが止めようとしたが、もう遅い。
不安でいっぱいになる彼らとは対照的に、
隠れているイジワルズは、必死で笑いをこらえている。
赤いリンゴを、レイは喉の奥まで流し込んだ。

 しかし、レイが炎を吐くことはなかった。
「これリンゴじゃない、すごく辛い。けどおいしい」
そう言うと、レイはその赤い木の実に再びかじりつく。
ルナとイオンは呆然としていた。
「な、なんで平気なの……?」
「ねえ、今レイが食べてるのってセカイイチじゃないの?」
後ろからロットが問う。
「アレハ、マトマノ実。スサマジク辛イ」
イオンが、呆然とした状態のまま答える。
「え?ええっ!?」
ロットはイオンの返答に、驚きを隠せない。
グレアもレイを見たまま硬直している。
よく見ると、目の前にいるレイは少し汗をかいているが
表情は笑顔というほかなかった。
ほどなく、レイは木の実を食べ終わる。
しかし、仲間の方を向くと、皆一様に茫然自失しているではないか。
「あれ、みんなどうしたんだ?」
何事もなかったかのようなレイ。
「レイ……すっごく辛くなかった?普通のポケモンが食べられるものじゃないと思うんだけど……」
「あんなもん平気で食べるポケモンなんて、俺初めて見たぜ……」
ルナとグレアがつぶやく。
「うん、辛かった。この強烈な辛み、病みつきになりそうだよ」
そう言った後、レイは独り言のように付け加えた。
「もしかして、人間だった時の僕も、こんなふうに辛い食べ物が好きだったのかな……」
一行は、セカイイチを持って帰路についた。

 レイの行動に、イジワルズの面々も呆気にとられていた。
3匹揃って、口をあんぐり開けている。
「あ……アタイも初めてみたわ。どうして平然としていられるの……」
「レイ……あいつ味覚がおかしいんじゃないか?」
ルビィもサペントも、それ以上は言葉が出なかった。
しかし、リーダーであるダークネスは大事なことに気づいていた。
「ケッ……襲うタイミングを逃しちまったじゃねえか。レイの味覚のせいで」
今回は、彼らの完全敗北に終わった……。

 基地に戻ってきたウィンズは、ノーテとマウタと合流し
彼らの親方がいる、ギルドの本部にやってきた。
「一応……うちの方針でして」
ノーテに言われ、レイは木の枝を何本も交差させてできた網の上に立つ。
すると、下から声がする。
「ポケモン発見!ポケモン発見!」
あまりにも意外なことだったので、ルナはびっくりした。
「誰の足形?誰の足形?」
今度は別の声がした。足形を識別しているらしい。
「足形はピカチュウ!足形はピカチュウ!」
しかも正解を出している。
「このように、来客の際にはここで確かめているのです」
「いつもはボクの仕事なんですが、今日は父に代わってもらっています」
ノーテに続いて、マウタが説明する。
他のメンバー達も、次々に木の網に乗る。
下から再び声がする。
「足形は、ミズゴロウ!カラカラ!コイル!チェリンボ!」
数秒の間をおいて、入口が開いた。

 ギルド本部は、地下2階構造になっていた。
内部はギルドのメンバー達が修復を行っているが、まだ荒れた様子は残っていた。
ノーテに案内されたのは、ギルドを仕切る親方の部屋。
ふと、ルナは気になっていたことを質問した。
「えーと……親方さんってどんなポケモンなの?」
その表情は青ざめている。
「も、もしかしなくても、すっごく怖いポケモン?」
わかりすぎるまでにわかりやすく、表情に恐怖の色を浮かべる。
しかし、ノーテもマウタも何も答えなかった。
それがルナの恐怖心を増幅させていた。
ウィンズの他のメンバー達も、彼らの反応に不安を抱き始めた。

部屋の中で、親方は後ろを向いて座っていた。
「親方様!セカイイチをお持ちしました!」
ノーテが呼ぶ。
すると……
「やあっ!!」
突然振り向いた!
親方の正体、それは見た目にはそんなに特徴らしい特徴も持たない
普通のプクリンだった。
「ボク、フォリス!セカイイチを持ってきてくれたの?」
その目にセカイイチを確認するやいなや、目が輝き出す。
「わーい!セカイイチ!セカイイチー!」
はしゃぎながらセカイイチを食べ始める。
ウィンズのメンバー達は、想像と全く違う親方の姿に驚いていた。
驚くのは今日で何度目だろうか。

あっという間に数個のセカイイチを食べ終わると、フォリスが一行に近づいてきた。
「わーい、ありがとう!」
フォリスは一行を見回すと、何かを思いついたように言った。
「そうだ、キミ達って探検隊なんだよね?」
いきなりの質問。
「うん。僕達は探検隊ウィンズだ」
リーダーのレイが答える。
すると、フォリスが次の話をしてきた。
「それじゃさ、ボク達と一緒に探検しない?」
「えっ?」
予想外の言葉だった。
「ノーテ!」
気にする様子もなく、フォリスはノーテに説明させる。
「はい!私達は、今度は霧の湖を探検しようと思っています。
 ここからずっと東にある、まだ詳しく探検されていない土地です。
 噂によると、そこにはとても美しいお宝と
 記憶を司る伝説のポケモンがいるといわれています」
ノーテの説明を聞いて、レイは考え事を始めた。
記憶を司る伝説のポケモン、という言葉が引っ掛かった。
「気になるね、そのポケモン」
「記憶か……会ってみる価値はありそうだな」
「レイ、どうする?」
どうやら、考えていたことは仲間達も同じだったようだ。
「よし、行こう。霧の湖の探検に。みんな、それでいいかな?」
一応確認しておく。反対するメンバーはいなかった。
「わーい!ともだち!ともだちー!!」
フォリスがはしゃいでいる。
あまり気にしないことにしたらしいノーテが、説明を続ける。
「このポケモン広場から霧の湖までは、かなりの距離があります。
 なので、その手前の濃霧の森でベースキャンプを張ります。
 そこまでは、いくつかのグループに分かれて行く、という段取りですが、よろしいでしょうか?」
ノーテの質問。
「うん、かまわないけ……」
レイがそう答えるが、途中でルナが遮る。
「それなら、そこまではいつもと違うメンバーで行かない?
 私、ギルドのみんなとも一緒に探検してみたい!」
突然の、しかしルナらしい提案だった。
「賛成!楽しそう!」
ロットも乗り気。グレアとイオンは何も言わなかった。
「僕は別にかまわない。そっちは?」
仲間うちの意向を確認したレイは、ギルド側に問う。
「それ名案!そうしよう、ね、ノーテ!グループ編成、頼んだよ!」
楽しげに答えるフォリス。
「は、はい!」
ノーテは素直に返事を返した。

 それから、ウィンズはギルドの面々と一緒に食事をした。
ギルドでは、全員で夕食を食べるのが習慣だという。
言いかえれば、この席にはギルドのメンバー全員が集まるというわけだ。
ウィンズがこの日ここまでに会ったのは3匹だったが、
ギルドには他に7匹のメンバーがいる。
大声でいつもうるさいデシベル(ドゴーム)、
「きゃー!」が口癖のヒーリン(キマワリ)、
マウタの父親マルグ(ダグトリオ)、
温和な料理担当のミティ(チリーン)、
陽気で活発なギザ(ヘイガニ)、
不気味なほど物静かなデリック(グレッグル)、
そしてギルドに入って間もないファス(ビッパ)。
総勢10匹のメンバー達は、揃いも揃って大食いだった。
親方のフォリスは、ウィンズから受け取ったセカイイチを頭の上に載せて回っている。
しかし、今日はほとんどのメンバーが外出しなかった――いや、できなかったため
通常時はもっとよく食べるらしい。
だが、そんな彼らに負けないポケモンが、ウィンズにも1匹いた。
それは、ウィンズで一番小柄なはずのロットである。
このことは仲間達も今まで知らなかった。
「ロット……よく食べるね」
隣にいるルナが話しかける。
「よく食べないと、たくさん動けないからね!ほらレイ、もっと食べなよ!」
そう言って目の前に積まれた木の実を食べまくる。
対照的に、レイは小食だった。
ゆっくり木の実を食べて消化していく。
この夕食の途中で、濃霧の森までの道中のグループ分けも発表された。
ウィンズは全員違うグループに入ることとなった。

 こうして、長い1日は終わりを告げた。
そして、記憶の手がかりを求めた新たな旅が、始まろうとしていた。




Mission10でした。ここから探検隊の話に入りました。
2回連続で10ページをオーバーした上、今回は今までで一番長い話に。
しかし、執筆前から大体のイメージがあったので
執筆そのものは最高に楽でした。3時間くらいか。

グループ編成については、次回のお楽しみということで。
遠征編に入ります。

2008.04.24 wrote
2008.05.28 updated



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