24 真の決着

Mission24 真の決着


 久々に、ポケモン広場にて大勢のポケモン達が集まった。
トレジャーギルドやFLBをはじめ、探検隊もたくさん来ている。
悪夢から覚めたアリアと、その兄スティラの姿もあった。
そして、広場の中心にいるのはウィンズと、クレセリア。
ウィンズが空の裂け目で出会った、“本物の”クレセリアである。
彼女は、イリスと名乗った。

 空の裂け目から戻ってきた後、イリスはトレジャーギルドにて
未だ悪夢の中にいたアリアを助けた。
クレセリアには、闇を振り払う……悪夢を振り払う力があるといわれていたが
それが実証されたこととなる。

 ということを、広場にて当事者のポケモン達が話しているところだった。
イリスが続きを語る。
「逆に、悪夢を見せる力を持つのがダークライです。
 ルナ、あなたが偽者の私と会っていたのは……全て夢の中だったのではないでしょうか?」
ルナは今までのことを思い返した。
初めて会ったのは文字通り夢の中。2回目もそうだった。
その後はアリアの、そしてパルキアの悪夢の中で。
ルナ自身が夢を見ているわけではなかったのだが、あれも確かに夢の中である。
“現実で”あのクレセリアと会ったことは、1度たりとも無かった。
「考えてみれば、確かにその通りよね」
この返答を受け、イリスが話を再開する。
「ダークライは、幻覚を引き起こす力によって
 偽者の私をあなた達に見せていたのです」
数秒の間、の後。

「ルナを、そしてウィンズを、この世界から消すために」

「ええーーーーーーっ!!?」
放たれた言葉に、ウィンズとイリスを除く全員が仰天した。
地面が揺れるような、驚きの大合唱だった。
「ウィンズを、この世界から……け、消すぅぅぅぅぅ?だってえぇぇぇっ!?」
一番激しく驚いているのは、トレジャーギルドの参謀であるノーテだった。
ポケモン達が落ち着きを取り戻した頃、タピルが疑問を浮かべた。
「でも、なんでダークライはそんな手の込んだことを?」
その質問にもイリスが答える。
「おそらく、ウィンズを恐れたのだと思います。
特に……ルナはダークライにとって、真っ先に消すべき対象なのでしょう」
一同の視線がルナに集中する。
「え、私?」
ロットとグレアが、イリスに聞き返す。
「なんでルナばっかりが最初に狙われるの?」
「確かに俺達全員を消そうとしているにしては、標的が集中しすぎているぜ」
すぐに答えが返ってくる。
「ルナは時限の塔で、星の停止を止めました。理由があるとすれば、それだと思います」
一部のポケモン達が、頭上に?マークを浮かべる。
話が見えないようだ。
「もともと時限の塔を壊すように仕向け、星の停止を目論んだ黒幕。
 それが、ダークライなのです」
再び広場一帯が驚きに揺れた。今度はウィンズも例外ではなく。
どこからか叫び声がする。
「お、おい!ダークライの目的って一体なんなんだよ!?」
「……世界を暗黒に変えることです」
広場全体が、ぴたっと静まり返った。
「時限の塔の破壊に失敗したダークライが、次に目をつけたもの……それが空間のゆがみ。
 それによってダークライの悪夢を見せる力を増幅させ、全てのポケモンを悪夢に包みこむ。
 空間のゆがみを広げているのは、ダークライの仕業です」
「そ、それじゃ……」
ルナが、声をふるわせながら言った。
「はい。あなたのせいで、空間のゆがみが大きくなっているのではありません。
 全てはあなたを追い詰めるための、ダークライの罠だったのです」
そのイリスの言葉に、ルナは何も言葉が出なかった。
なんとかして絞り出そうとする、しかしそれよりも早く。
「よかったあぁぁぁぁーーーーっ!!!」
「きゃあ!?」
突然、ロットが飛びついてきた。
大量に涙を流しているせいか、前後の見境すらつかないようだ。
「ルナ……よかった……この世界で、いらない存在なんかじゃ、なかった……
 生きてて、いいんだ……ううっ……」
なおもすり寄ってくるロットを受け止めながら、ルナの瞳からも涙が出てきた。
同時に、いつかどこかで似たようなことがあったとも思った。
グレアとイオンが、左右からルナとロットを抱きしめる。
そこに、フォリスが近寄って言う。
「何があったのかわからないけど、でも……
 みんな、この世界にいらないなんてことは、あり得ないよ。
 だって、もしルナが、みんなが消えたら、ボクは悲しいもん……あの時だって、ね。
 ウィンズのみんながいるから、ボクたちは幸せなんだよ♪
 それだけでも、生きる意味はあるんじゃないかな」
ウィンズの4匹は、フォリスのいる方を向いた。
「ここにいるみんなや、世界にいる全てのポケモン達が……生きる意味があると思うよ。
 だから、自分がいらないなんてもう思わないで。元気を出して、ねっ♪」
フォリスの丸い目が輝いていた。
ルナは何か言おうとしたが、またしても言葉が出てこなかった。

「ヘイ!しかし卑怯なヤツだな、ダークライは!」
話を元に戻したのは、ギザの一言だった。
続いてイリスが話す。
「表には出ず、裏で悪事を企む。こちらが追っても、必ず逃げ延びる。それがダークライのやり方です。
 けれど、そのダークライが……今回に限っては、ルナ達に来いと言っている」
「罠ダロウ」
「おそらく……いえ、間違いなく」
イオンとイリスがそう言った、が。
「ダークライを止めなければ、世界が暗黒に包まれる……
 だったら、何とかしなきゃ。私、行く!」
そう言ったのは、他でもないルナだった。
今までにないほど、強い決意に燃えた表情だ。
「そうだよね。あたしも!」
「俺もだ。黙って見てられるかよ」
イオンは何も言わなかったが、同行の意志を示す。
そして、イリスも。
「わかりました。私も行きましょう。決着をつけるために」
集まったポケモン達も、次々とこの戦いへの参加を志願する。
「皆さんの気持ちはうれしいのですが……あまり大勢で行くと、ダークライに警戒される恐れがあります。
 ここは、私達だけで行かせてください」
イリスの言葉に、ポケモン達は従った。
ルナは、仲間達の方を向いて言う。
「みんな……ありがとう。でも、1つ約束して。絶対に生きて帰ってくるって。
 もう誰も、犠牲になんかしたくないから……」
仲間達は、それぞれの言葉で約束を交わした。

かくして、ウィンズの4匹はイリスとともに闇の火口へ向かうこととなった。
ポケモン広場からは遠く離れた、小さな島に1つの火山。
その頂上こそが、闇の火口である。
一行は、山のふもとに洞窟の入り口を見つけた。
「やっぱり、暑いね……」
「マグマが流れ出てるぜ。炎の山のようだ」
「みなさん、慎重に行きましょう」

 洞窟の内部にも、マグマが川のように流れていた。
熱い煙が沸き上がっている。
空中を飛行できるイオンとイリスだが、マグマの上を飛ばないように移動する。
「あの熱気に包まれれば、火傷は避けられないでしょう」
「あたしだったら一瞬で灰になっちゃうよー……」
そう言いながら歩くロットの足元で、何か物音がした。
次の瞬間、とてつもない強風が吹いてきたではないか!
「えええっ!!!?」
いきなりの突風に、ロットはなす術なく吹き飛ばされる。
しかも、その先はマグマの海。
「……」
飛ばされる途中、ロットは衝撃を感じた。
強風と逆の方向から。
先回りしたグレアに助けられたのだ。
「気をつけろよ」
「た、助かった……」
ふるえながら言った。
もしあのまま飛ばされていたら、ロットは今頃マグマに溶けていただろう。
だが、2匹の後ろから物音がした。
「これは!」
「何かいるわ!」
マグマが盛り上がり、中から何かが現れた。
体が溶岩でできた、ナメクジかカタツムリのようなポケモンだ。
「マグマッグとマグカルゴか!」
マグマッグは2匹いるので、合計3匹。
一斉に炎を吹きかけてきた!
「うおおっ!」
「あついーーーーーーっ!!」
近くにいたグレアとロットに、炎が直撃した。
グレアはすぐに炎を振り払ったが、ロットは熱さのあまり飛び上がる。
くさタイプは燃えやすいのだ。
ルナが炎を消した。
「2匹とも大丈夫!?」
「俺は平気だ」
「ふえー……」
それぞれ返事をする。
3匹の熱いポケモンは、ゆっくりとした動きで接近してきた。
「炎には、これよね!」
遠くにいたルナが、みずのはどうを放つ。マグマッグの片方に当たった。
マグマッグはそのまま横倒れになった。
溶岩でできた体はやわらかそうだが、冷えて固まったらしい。
「あと、これも効くよな!」
グレアがマグカルゴの背後を取り、堅そうな殻に向けて骨を打ち降ろす。
殻にヒビが入り、マグカルゴは首を下ろした。ぐったりとしている。
残り1匹。その最後のマグマッグを、ルナが狙おうとする。
しかし、変な音がした。
どこからともなく、イガグリがたくさん落ちてきたではないか!
「いたたっ!」
イガグリはルナの頭上に落ちた。そのせいで攻撃に失敗した。
その時、マグマッグの炎がルナを襲う!
だが、炎は明後日の方向にそれていった。
イリスのサイコキネシスによって。
そして、イオンが放ったソニックブームによって残りのマグマッグも倒された。
「片付いたな」
グレアが空中で骨を数回振る。そこに、ルナ、イオン、イリスが集まってくる。
少し遅れて、ロットも。
それから、一行は洞窟を進んでいく。
ロットが独り言のように言った。
「ここで戦ってたら、進化したくなってきちゃったよ。
 進化してこのドレス着れば、炎なんか全然大丈夫なのに」
彼女が着ているのは、はなびらのドレス。
先ほどの戦いでも特に焦げた様子は無い。燃えたのはロット本体の方だ。
しかし、その台詞は独り言にはならなかった。イリスが反応した。
「光の泉に行けば、進化ができるといわれています。
 ですが、そこも空間のゆがみによって……」
「ううっ……」
「一刻も早く、私達の手でダークライを倒しましょう」
「そうだね……うん、わかった」
ロットは、歩く足を速めた。

 立ちはだかる数々の野生ポケモン達を破りながら、
5匹は火山の頂上にたどり着いた。
頂上は火口になっており、熱い空気が流れている。
突然、辺りが薄暗くなる。そして……
「待っていたぞ」
どこからか声がする。声の主は明らかだった。間違いなく、ダークライ。
一行は、周囲を見回した。
しかし、ダークライはどこにも見当たらない。
笑い声だけが聞こえてくる。
その時。
「な、なんだあれは!?」
上空から、赤い炎が近づいてくる!
ルナ達のいる場所へ、真っ直ぐ向かっているようだ。
次の瞬間、赤い炎は翼を広げる。
伝説のポケモン、ファイヤーだ。
隕石か何かのように、一直線に飛んでくる。
「うおお、あっちいいいいい!!!!!」
とてつもない大声が響いてきた。闇の火口の外まで聞こえているかもしれない、そう思わせるほどに。
「なんで熱がってるのかしら!」
ルナが水流を放つ。狙い通りに命中する。
ファイヤーは、その体ごと蒸発し消えていった。

 だがその時、ルナの周囲が真っ暗な闇に包まれた。
仲間達が誰もいない。
「……みんな、どこにいるの?」
その時だった。
「……フフフフフフ、見事だ。ファイヤーを一撃で蒸発させるとはな」
「その声は、ダークライ!?」
「ご名答」
声の主は、一向に現れる気配を見せない。
おどろおどろしい声だけが聞こえてくる。
「だが、それもここまでだ。消えろ」
「いいえ、もう私は自分から消えようなんて思わないわ!」
ルナが返す言葉は決まっていた。考えるまでもなく、言い返した。だが。
「ほう……ならば、これでどうだ?」
次の瞬間、ルナは今度は自分の目を疑った。
目の前に……レイが現れたのだ。
「ルナ……」
ルナはレイを見たまま、全く動かない。
――なんだか、雰囲気が違うような気がする。
反射的に、そんな感覚を覚えた。
現れたレイは、ルナに近づいてくる。
レイの後ろにはダークライ。
「フフフッ、私がこいつを復活させておいたのだ。だが今は、私の手の中だ。
 ルナ、もう1度言う。消えろ。もし消えぬというのなら、こいつを消す」
続いて、レイが話しかけてきた。
「ルナ……こっちに来てよ」
ルナは、返答に詰まった。
レイが目の前にいる。自分が消えなければレイが消される。
しかし、ダークライのことだ。あのレイは偽者という可能性がある――
迷っているうちに、再びレイが話しかけてくる。
「ルナが来てくれないと、僕はダークライに消される……」
見ると、ダークライがその腕をレイの首に絡ませている。
いつでも消せる、という意思表示だろう。
「これで最後だ。お前が消えるか、それともこいつを見捨てるか。選べ」
「…………」
考えた末、ルナは意を決した。
真っ直ぐダークライの方へ行く。
「……物わかりがいい」
ダークライの言葉に何の反応も返さず、ルナはレイとダークライに近づく。
だが、少し距離を離して止まった。
「そうだ……1つ思いついたわ。レイ、めざめるパワーは撃てる?」
 消えるのなら、レイの手にかかって消えたい……」
ダークライに捕えられながらも、レイは頷いた。
その会話を聞いて、ダークライが話す。
「いいだろう。やれ」
ルナは、その場で立ち止まる。微動だにしない。
だが。
レイが腕を振り上げる!
「……っ!」
ルナは防御の技を使った。ほぼ同時に、雷が落ちてきた。
ダメージをゼロに抑える。
「言ったでしょ、めざめるパワーを撃って、と。
 そうすれば、私は防御しないわ。受けてみなきゃ、どんな効果かわからないものね」
ダークライは舌打ちした。
「わかった、今度こそ本当に望み通りにしてやろう」
レイは力を集中する。小さな球体が、いくつも現れる。
今度は本当にめざめるパワーのようだ。
しかし、よく見ると球が黄色をしている。ルナは見逃さなかった。
「やれ!」
声とともに、いくつもの弾がレイから放たれる。
その全てがルナを囲み、一斉に弾ける!
「いやあああっ!!!」
強力な電流がルナの全身に流れ込んだ。
激しいダメージに、ルナは体をのけぞらせる。
だが、持ちこたえた。
「はぁ……はぁ……」
体全体が焦げ、しびれが止まらない。
ルナは思うように動けなかった。
「大丈夫……私、生きてる……」
これは自分に対しての言葉だった。そして。
「……これで、はっきりしたわ。そのレイは、本物じゃない!」
根拠は、めざめるパワーにある。
古代の遺跡にて、レイが放ったこの技はスペクターに対して決定打となった。
ゴーストタイプのスペクターが弱点とする、黒い球。
効果と球の色から、導き出された結論は――ゴーストタイプだった。
だが、先ほどレイが放ったのはでんきタイプ。明らかに違う。
「フフフ……仕方ない。レイよ、やれ!」
再びレイが腕を振り上げると、ルナの頭上に雷が落ちる。
防御の技で防ぎきった。
次の瞬間、ルナが水流を撃ち込む。ダークライに向けて。
それを見たダークライは、黒い波動を放つ。
両者が反発し、爆発を起こす!

 次の瞬間、暗闇が晴れた。
「あ、あれっ?」
ルナが後ろを振り向くと、そこには仲間達がいる。
「ルナ、どこに行ってたの!?突然いなくなったから心配したよ!」
真っ先にロットが声をかけてきた。
「悪夢の中、だと思う」
そして、ルナは再び前を向く。
その先にはダークライがいた。
「あれはダークライの罠、間違いなく」
前を向いたまま、ルナが話を続ける。
「悪夢の中で、私はレイを見た。偽者のレイを。もう少しで消されるところだったわ……」
仲間達は、何も言わなかった。いや、言えなかった。
その時、ダークライの笑い声が聞こえてきた。
影の中から、黒い風体が姿を現す。
「出たな……」
グレアが前に出る。
「フフフ、よくぞ私の悪夢を見破った……。イリスにも破られぬよう、周到に準備しておいたものを……」
ダークライは、黒い体から2本の脚を伸ばしている。
「お前だけは絶対に見逃してはおけねえな」
「あたし、やっちゃうよ!」
ルナが一歩前に出る。
「戦う前に1つ聞かせて。ダークライが時限の塔を壊そうとしたというのは、本当なの?」
目の前のダークライは、表情ひとつ変えずに言った。
「……本当だ。今から話してやろう。冥土の土産にでもするがいい」
それから、ダークライの話が始まった。
「私の目的は、この世界を暗黒に変えることだ。
 時限の塔に細工をし、この星が停止するよう仕向けたのは私だ」
ここまでは、イリスが話した通りだった。
「しかし……レイとカミルが、未来からそれを止めにくると知ったため
 私は奴等を消すため、タイムスリップ中に攻撃したのだ。
 おそらく、レイが記憶をなくしポケモンになったのはその時だろう」
一行は、どう言い返せばいいかわからなかった。
もしこの場にレイがいたとすれば、彼はどんな反応を示しただろうか。
「私はそれで十分だと思った。しかし、甘かった。
 レイはお前と……ルナと出会い、ウィンズを結成し、そして時限の塔の破壊を止めた。
 お前達を放っておいたばかりに、私の計画は失敗したのだ」
ここまで聞けば、もはや明白だった。
ダークライが、ルナ達を消そうとする理由は。
「だから……だから、今回は先にルナ達を消し去ろうと考えたのね!
 自分の計画を邪魔されないように!」
イリスが叫ぶように言ったが、ダークライは無表情のまま言葉を放っていく。
緑の目がルナを見据えた。
「そういうことだ。特に……遺跡の鍵に選ばれ、時限の塔まで乗り込んできたルナは
 最優先で消さねばならない」
ルナも、ダークライを真っ直ぐ見る。
「そのために、私をあんなに追い詰めたの……?レイの偽者まで持ち出して……?」
いつしか、ルナの体が小刻みにふるえていた。
だが、次の言葉を発したのはダークライだった。
「許さない……か?フッ、よかろう。
……では、おしゃべりはここまでとしようか」

 その時、一瞬だけ周囲が暗闇に包まれた。
しかし、その暗闇はすぐに消える。
ダークライの他に、6匹のポケモンが現れていた。
「やっぱり、こんなことじゃないかと思ってたわ!」
イリスの言葉に、ダークライは含み笑いを浮かべる。
「フフッ、なんとでも言え。お前達をここで始末し……私は暗黒世界の王となるのだ」
そして、右腕を広げる。
「皆の者!かかれぃっ!!」

 現れた6匹のポケモンが、同時に飛びかかってきた。
アーボックが、腹に描かれた恐ろしい模様を見せて威嚇する。
「そんなんでビビるかよ!」
グレアはアーボックの威嚇をものともせず、2本の骨を次々と投げる。
どちらも頭を強打した。
「グレア、後ろ!」
「!?」
ルナの声に反応した時には、ムウマージのマジカルリーフが命中していた。
この攻撃によって跳ね飛ばされるが、なんとか受け身を取った。
イオンが無言のまま、左右の腕から稲妻を放つ。
だが、放たれた幾筋もの光が一点に集まっていく。
ドサイドンの角に。
「特性ひらいしん、だっけ?」
「ああ、俺と同じだ」
ロットがマグカルゴの炎をかわす。
そのマグカルゴに、ルナが水流をぶつける。
ブーバーンが放つ炎の拳を、イリスが受け止める。
その時、ボスゴドラが角を突き出し突進してきた!
頭の角は鋭くとがっている。もし突き刺されたら、ただではすまないだろう。
狙われているのはロット。かわすための時間はない。
そこにイオンが割り込む。
「……無効」
頑丈なメタルボディが、ボスゴドラの攻撃を受け止める。
イオンに一撃必殺の技は通用しなかった。
その体から、金属のこすれ合う音が広がる。
ボスゴドラは激しく悶えた。目を見開いて叫んでいる。
続いてドサイドンも一直線に突っ込んできた。
しかし、イリスのサイコキネシスによって動きが止まる。
グレアとロットが同時に接近する。
「一気に決めるぜ!」
「これが受け切れる?」
2匹がかりの連続攻撃に、ドサイドンは倒れ伏した。
並外れた体重が、轟音を巻き起こす。
イオンの閃光がムウマージを、イリスの念波がブーバーンを仕留める。
そして、ルナがボスゴドラにどろばくだんを命中させた。

 6匹のポケモンを全て倒し、一行は再びダークライのいる方を向いた。
これでもまだ、ダークライは表情を変えない。
「ほう……やるものだな。いいだろう、私が自ら手を下してやる」
その瞬間、ダークライの脚が引っ込んだ。
そして、空間を漂い始める。
両腕から2つの球体を投げつける!
黒い球が、グレアとロットを捉えた。2匹は眠り始める。
「うわああっ……」
うめくような声を出している。表情も苦しそうだ。
「フフフッ、悪夢に苦しむがいい」
ルナとイオンが、種を使って仲間達を悪夢から覚ます。
「私が防御を固めます。その間、皆さんは私を援護してください」
そう言ったのはイリスだった。
三日月の体に、白い光が集まっていく。
「させるか!」
ダークライが黒い波動を放ってきた。
ルナとイオンの同時攻撃で防御する。
だが。
「なんだっ!?」
周囲一帯に、黒い風が吹く。
ルナ達4匹は、イリスとダークライの間に立った。
「く……っ……」
力が抜けていく。
だが、負けるわけにはいかない。
ダークライが攻撃を中断する。そして、反対側へ回る。
その時だった。
「皆さん、受け取ってください!」
白い光の球が4つ、クレセリアから放たれる。
ルナ達はそれぞれ受け取った。光の球は、防御壁になる。
再び放たれたダークライの黒球を、完全にシャットアウトした。
「これは神秘の防御。眠りの効果を防ぎます」
「よし、反撃するぜ!」
4匹とも、得意の技を使って遠距離から攻撃した。
ダークライが空中を漂う。ルナ達の攻撃をかわしていく。が。
「むっ!」
イオンの放った銀色のレーザーが、ダークライの左肩を直撃した。
一瞬だけ動きが止まった。
「当たれっ!!」
ロットが木の葉を飛ばす。これまたダークライに命中した。
ひるみはしているが、決定的なダメージを受けたようには見えない。
「イリス、ダークライにはどんな技が効くの?」
「ダークライは、あくタイプです。かくとうや、むしの技なら効果的でしょう」
ルナの質問に、イリスが正確に答えを返す。
「あくタイプか、性格通りだな!」
2匹の応答を聞いて、グレアがダークライに飛びかかる。
すれ違いざまに骨を振り上げる!
「むっ!」
ダークライもまた、右腕を振り下ろした。
三日月型の残像が2つ交錯する。
続けざまに、今度は距離を詰める。
「ていやっ!」
至近距離から、2発の蹴りを仕掛ける。
命中した。ダークライが表情をゆがめた。効果がある。
グレアの視界にロットが入ってきた。
再び攻撃態勢に入る。
しかし。
「おおおっ!!」
黒い風が、ダークライの周囲に巻き起こった。
「うわっ!またこれ!?」
強風にあおられ、グレアとロットは空中から落とされる。
だが……ちょうどその瞬間、ダークライが止まった。
見逃さない。
「アイスコフィン!!」
れいとうビームとラスターカノンを同時に発射する。
白く輝く氷の塊が、空中を漂う悪魔に向けて一直線に伸びていく。
ダークライは素早く横に動いた。だが、氷がその体をかすめた。
黒い体の一部が凍りつく。
右腕を大きく降り、体についた氷を周囲に飛ばす。
「ダークライ、覚悟!!」
今度はイリスが光線を放つ。いくつもの色を持った光を。
一瞬ながら凍りついたダークライに、虹色の光が届く。
「ぐおおおっ!!」
ダークライが空中でよろめく。
イリスが十分に力を集中させた、しかも弱点を突く攻撃。
十分な効果があったことが、誰からも見てとれた。
「まだ……まだだ!私はここで敗れるわけには!!」
瞬間、またしても黒い風が襲いかかる。
ポケモン達から力を奪いつくす、邪悪なる風。
「私達だって、絶対に負けられない!」
ルナが矢面に立ち、防御の技を展開する。
攻撃をしのいだ。
だが、次に聞こえてきたのはダークライの笑い声だった。
「ふははははは!」
見ると、先ほどよりも明らかに素早く空中を飛び回っているではないか。
さらに、上空から漆黒の波動が降り注ぐ。
「ひゃっ!な、何が起こったの!?」
「アノ風ノ技ノ追加効果カ!?」
攻撃の速度のみならず、威力までもが向上していた。
5匹は波動の嵐をギリギリのところでかわしていく。
「これじゃ攻撃に移れないぜ!」
「なんとかして攻撃をやめさせるには……」
ここで、ロットが他の4匹から離れていった。
未だ降り注ぐ黒い波動をかいくぐり、ダークライの真下に近づいていく。
「ロット、何をする気なのかしら?」
「わからねえ……が、信じようぜ。ダークライの攻撃が止まったら、そこがチャンスだ」
「ええ、それまでしのぎきりましょう!」
ある時は防御し、またある時は回避し、ルナ達は波動の雨を乗り切っていく。
その時、ダークライの後ろに何かが見えた。ロットだ。
「後ろか!」
気配を察知し、ダークライが周囲に黒い風を発する。
至近距離で黒い風を受け、ロットは……消えた。
「なっ……!?」
「そんな!!」
ルナ達は衝撃のあまり動きを止めた。
ダークライが向きを変える。再び黒い波動を発射してくる。
しかし。
「隙あり!」
今度は真空の刃が飛んだ。ダークライはまともに攻撃を受ける。
空中でよろめくダークライの真下に、ロットが確かにいた。
「さっきのは分身だよ!見事に引っ掛かってくれてありがとね!」
「お、おのれっ!!」
ダークライが激昂し、両手に黒い気を集める。
だが、そこでまたしても隙ができた。
「こっちを忘れてるぜ!」
グレアが骨を投げつけ、その後ろでイオンが上空に青い光を撃ち出す。
ダークライの反応が遅い。当たる。
骨がダークライに命中する瞬間、幾筋もの光がその骨に向けて集中する!
「サンダーストラック!!」
空中で激しいスパークが広がった。
「ぬう……」
態勢を立て直したダークライは、視界に入ってきたものに目を見開く。
すぐ目の前に、淡い光をまとったルナがいる。その体に水の力が集中している。
「これで!終わりよ!!」
瞬間、今までで最高の威力の水流が放たれる。
ダークライの全身を飲みこみ、空中から地上に向けてたたきつける。
「ぐおっ!ぐおおおおおおっ!!!」
それは、漆黒に舞う悪夢の化身が、ついに地に落ちた瞬間だった。




最終章……いや、最終章目前となるMission24でした。

序盤のロットがルナに飛びつくのは逃避行より。
中盤の悪夢シーンは、原作では違う内容になっていますが
レイがいないのだからということで、それを生かす方向に。
めざめるパワーの効果は、ポケダンではフロアを移動するごとに変化しますが
ここでは本家同様に、「使い手によってタイプと威力が変わる」を採用。
しかし、Mission19のスペクター戦だけでは、あくタイプと判断することもできると気付く。
Mission20でその辺書けばよかったと後悔中orz

物語は、このままEpilogueに続きます。
最後の最後まで、どうぞお楽しみください。

2008.12.11 wrote
2008.12.12 updated



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