Epilogue

Epilogue


「ぐおっ!ぐおおおおおおっ!!」
ダークライが、ついに地に落ちた。
攻撃を終えて着地する私のすぐ隣から、イリスが飛び出していく。
そして、すさまじい威力の攻撃を放った。無言のままに。
「うぐぐっ!ぐぬあああああああああああっっ!!!!」
イリスの一撃を受けたダークライに、もはや戦う力は残っていないようだった。
息も絶え絶えになっている。
「イリス……言ったはずだ……お前には、絶対に、捕まらないと……」
その言葉を聞いて、仲間達がすぐさまダークライを取り囲んだ。
これなら逃げられないはず。
……というのは私の思いこみだった。上空に、時空ホールが開かれる!
それと同時に、ダークライの体が浮き上がった。
「フフッ……この時空ホールに入ってどこの時代へ飛ぶのか、それは私にもわからない。
 しかし!この時代は無理だったが、違う時代から暗黒に変えてやろう」
ダークライがどんどん浮き上がっていく。
時空ホールに吸い寄せられるように。
捕まえようにも、追いつけそうにない。
遠くから攻撃すれば当てられる。
けど、下から当ててはダークライを時空ホールに押し込めることになってしまう!
見る間にダークライが時空ホールに近づく。もうほとんど距離が残ってない。
「フフフッ!悪いな!最後は私の……勝ちだっ!!」
私はあきらめかけた。ダークライに逃げられるのを、止めることができない。
その時だった。

「そうはさせんっ!!」

どこからか声がするのとともに、空中の一点に光が集まる。
空間の神――パルキアがここに現れた。
「お、お前はっ!?」
突然の事態に、ダークライが動きを止めた。
一方のパルキアは、真珠色に輝く右腕に力を込めている。
「空間のゆがみを広げた罪は重いぞ、ダークライ!正義の鉄鎚をくらえっ!!」

グオオオオオオオォォォォォォッ!!!!

「……さらばだっ!」
ダークライがあわてて時空ホールに飛び込んだ。
だが、それと同時にパルキアの一撃が炸裂する!
空間を切り裂く、あの衝撃波。
あまりの威力に、私も吹き飛ばされそうになる。

「ギャアアアァァーーーーッ!!!!」

ダークライの絶叫が響き渡り、
時空ホールは真っ二つに切り裂かれた。ダークライもろとも。
パルキアとイリスは、ダークライが消えた空間を見ながら言った。
「ダークライ……おそらくは、どこかで生きているだろう」
「ええ。しかし、ダークライはすでにタイムスリップに入っていました。
 かつてのレイと同じように、記憶を失った可能性が高いと思われます」
「だな。ひとまず、危機は去ったというわけか」
2匹がそう分析したところで、話が一瞬途切れた。
「さて、オレは空の裂け目に戻るとしよう。空間のゆがみを修復せねばな。
 お前らにも世話になったな。さらばだ!」
そう言うと、パルキアは咆哮を上げた。
そして、真珠色の光に包まれ……飛び去っていく。
……それでは。
「私達も帰りましょう、ポケモン広場に!」

 こうして……ダークライをめぐる、私達の戦いは終わった。
広場に帰ってくると、みんなが私達を出迎えてくれた。
本当に一時はどうなることかと思ったけど、
こうやってみんなに囲まれてると、生きててよかった……って思う。本当に。
だけど……私達にはまだやることがある。
ダークライを倒し、空間のゆがみがおさまった今なら
願いの洞窟に入ることができるはず。
今こそ、レイを……この世界に……


 闇の火口から帰ってきた翌日。
私達4匹は、再び願いの洞窟を訪れた。
正直、まだ戦いの疲れが取れたわけではない。
けど……一刻も早く、レイに会いたい。
それはみんなも同じだった。だから、一緒に来てくれた。
「行こう」
私は、それだけ言った。

 願いの洞窟、そこは予想以上に手強いダンジョンだった。
襲いくる野生のポケモン達は強く、
しかもたくさんの罠が待ち受けていた。
歩いても歩いても、底が知れない深い洞窟。
……でも、私達は負けない。
いくつもの冒険をともにし、どんなことだって乗り越えてきた仲間達がいるから。
そして、誰よりも大切なパートナー――レイが帰ってきてくれれば……
これから先、何があっても大丈夫。そんな気がする。

 長い長い道を通り過ぎて、
ついにたどり着いた洞窟の最深部。
壁の中に、音符の形をしたくぼみがある。
「ルナ……」
「……うん」
私は、歌声の石をくぼみに入れた。
少し離れてみると、空間の一点に光が集まるのが見える。
そして現れる、星型の小さなポケモン――ジラーチ。
願いをかなえる力を持つと、伝説に聞いたことがある。
「キミ……ボクヲヨンダノ……?」
目も口も閉じたまま、直接私の頭の中に語りかけてくるようだった。
さらに続く。
「ネガイゴト……ヒトツダケ……」
その声を聞いて、私は意を決した。
今こそ言う。私の、私達の願い事を。
「レイを……私のパートナーのレイを……この世界に」
ジラーチから、言葉が返ってこなかった。
まぶしい光が目に入ってきて。私は上を見上げる。
その小さな体が、白く輝いていた。
そして、声がした。
「カンジル……キモチ……カンジル……」

気持ちが、伝わってくる……
かけがえのない仲間の、気持ちが……
別れたくない……もっと一緒にいたい……
大切な、仲間達と……

ルナ……

 確かに感じた。レイがジラーチを通して、私に話しかけてくるようだった。
「お願い……レイに……会いたい……」
私は自分の顔がぬれている感じがした。涙が出てきた。
レイの気持ちに触れて、もう耐えられなくなった。
また、ジラーチが話しかけてくる。
「ワカッタ……ヤッテミル……」
次の瞬間、小さな星のポケモンはその場から去っていった。
歌声の石も、消えてなくなっていた。

 私は後ろにいたグレア達のもとに歩いていった。
きっと私はひどい表情をしていると思う。けど、3匹とも気にせずに話しかけてくれた。
ジラーチの姿は見えたけれども、声は聞こえなかったと言った。
あの声は、私だけに……?
「帰ろうぜ、ここにいてもしょうがない」
私達は、洞窟から出た。

 他に行く場所もないし、まっすぐウィンズ基地に向かう。
すでに日は落ち、空には星が輝き始めていた。
静かな空間。いつもと変わらない場所。
……違う、何かが違う。言葉ではうまく表現できないけど、何かが違う。
「あーーーーーー!!」
後ろでロットが声を上げた。
見ると、目の前の空から光の粒が落ちていくところだった。
たくさんの粒が、地上に落ちるところでひとつの形となっていく。
ピカチュウの形に。
「……!!!」
私は仲間達にかまわず、全速力で駆けだした。
目の前に、現れた。ずっと会いたかった、1匹のポケモンが。
私は見境なく飛びついた。レイは無言のまま受け止めてくれる。
……その時、私は思い出した。闇の火口で見た、あの悪夢を。
「……本物?」
「多分」
くっついたまま、改めてレイを見た。
あの時と何も変わっていない。
目と目が合う。
私にはわかる……本物のレイが、私の目の前に確かに存在している。
「夢じゃ、ないよね?」
次の瞬間、少しだけ針に刺されるような感覚がした。
それで、確信した。夢じゃない。私達は、現実の中にいる。
私は再びレイにしがみついた。
――今こそ、言おう。あの時言えなかった言葉を。
「レイ……会いたかった。ずっと会いたかった。
私、レイのことが好き……前から、ずっと……」
瞬間、その黄色い腕に抱きしめられる。
視界がにじんでいく。もう何も見えない。
「レイ……もう私の前からいなくならないでね……」
涙があふれすぎて、それ以上は言葉にならなかった。
願いが、かなった。
私を抱きしめるレイの力が、強くなる。

「……ただいま、ルナ」

                   THE END



 最後の最後、Epilogueでした。Prologueと同じくルナ一人称で。
探検隊ダークライ編の結末と、その後の話。
Blackはまだ願いの洞窟を攻略していないので、ジラーチの台詞はこれでいいのかどうか……。

 というわけで。
1年にわたって書き続けてきたこの小説は、ここに完結を迎えます。
少なくとも長編はこれで終わりです。
今度は短編をいくつか書こうと思っています。ネタが見つかる限り。
冒険を通して少しは臆病が治ったルナとか、
無口なせいで目立たなかったイオンとか特に。
けど、しばらくは休みたい気分。
最後の数回は本当に〆切に追いたてられて書いたので……。
この話も、(今こうして後書きを書いている)明日にはUPするという
そんなギリギリのタイミングで上げたほど。
曲がりなりにも、隔週連載のペースを守り切って終了。

 それでは、改めて一言。

ありがとうございました!

2008.12.11.19:39 wrote
2008.12.12.18:31 updated




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