2009/11/03(火)12:07
「十月大歌舞伎」昼の部@歌舞伎座
十月の演目では、昼の部の「毛抜(けぬき)」が特に見たかった。
というのも、
私は高校3年生のとき、文化祭で
これを同学年のちがうクラスが演じているのを観たから。
ていうか、
それが私の「毛抜」初体験。
高校生のお芝居だからってバカにしちゃいけないのは、
高校1年のときの文化祭で「修善寺物語」を観た経験からわかっていた。
衣装も近所の某テレビ局から借りてるから、すごく立派だし。
大道具も、高校生が作ったとは思えなかったなー。
そんな「本格派」でありながら、
私が「毛抜」にもっとも衝撃を受けたのは、
1メートルもあろうかという、大きな毛抜きが登場したこと。
天井に隠してある大きな磁石の影響で、
右に左にと動いたり、立って踊ったりするからビックリ。
「えー?? これが歌舞伎なの~?」
実際、「ちょっと内容変えてない?」とさえ疑ったくらい。
でも、「ちゃんと」やってたんですよね、これが。
大仰なセリフまわしでマジメにやってるから「歌舞伎」だけど、
言ってみればテレビのコントと同じじゃないか!
…と、18歳の私は思ったわけです。
「歌舞伎」を床の間に祀り上げてたのは、
歌舞伎をやってる人たちじゃなくて、
歌舞伎を知らない私たちだったんだな。
今回、本家本元の歌舞伎座でこの「毛抜」を見て思ったこと。
歌舞伎を考えた人は、ほんとにエライ。
あんなデッカイ毛抜きがあるわけないのに、
テレビのない時代に、わざわざ「ズーム」してくれて、
「どアップ毛抜き」を提供してくれたんだ!
毛抜きがおっ立つ現象から、
当家の姫の髪の毛が逆立つ原因を突き止める弾正(三津五郎)は、
この巨大毛抜きと普通サイズの毛抜きを
お芝居の進行の中、あまり目立たぬように背後から出したり下げたりして、
毛抜きが大きくなったり手におさまるサイズになったりしているのを
「ヘン」と思わせないようにうまくさばいていく。
映像的には「アップ」と「ロング」を切り替えながら進む感じ。
役者でありながら、カメラマンであり調整室のディレクターでもある、という
すごい活躍なのでありました。
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この日歌舞伎を見て連想したのは、
実は志村けんみたいなコントだけじゃありませんでした。
昼の部のもう演目二つ目は「蜘蛛の拍子舞」
花山天皇が出家したあと
空になって荒れ果てた御所に立ち寄った源頼光(菊之助)と渡辺綱(松禄)。
天井から一匹の蜘蛛が…。
と、そのときにわかにあたりは暗くなり、
一同なーんだかヘンな気分。するとそこへ、白拍子(玉三郎)が…。
「どうして?」とか「なぜここに?」とか「怪しいヤツ」とか、
一応のセリフはあるものの、
美女は踊り、男は魅入るのでした。
そして白拍子は踊りながら、頼光の隙をうかがっていましたが、
灯りで映し出された彼女の影が蜘蛛の形であると二人は気づき、彼女を追い払います。
こうして一旦引っ込んだ玉三郎、再び登場。
これが「あの」玉三郎???
真っ白に塗りたくった顔には恐ろしい形相の隈取が。
「女郎蜘蛛の精」っていったって、もう少し色気があろうと想像していたので、
このゾンビも真っ青になりそうな恐ろしいメイクにはまいった。
これで目をしかめ、口を大きくあけて舌をいっぱいいっぱいに出し見得を切ると、
一瞬ひるんで思わず後ずさりしてしまった。
その後このゾンビ玉さまは「蜘蛛の糸」をバンバン撒き散らします。
そして舞台の中央で最後に糸を両手から撒いたとき、
玉さまの背後から、後見の人も一緒に糸を投げているではないですか!
これ、今でいうCG効果ですよね!
兵隊も本当は10人だけど、その後ろに何千人も続いている映像。
「レッドクリフ」でも、海にたくさんの船が浮かんでいる映像など。
火薬もたくさん使うと危ないから、「あとはCGで豪華に」みたいな。
クローズアップの毛抜きに続いて、アナログCGも体験してしまった。
話はこれで終わらない。
玉三郎がやられて、小さな(といっても客にわかるような)クモに代わって、
その小さなクモの息の根を止めようとしていると…
なーんと!
「巨大グモ」に「変身」したのです。
もーーー、
私の脳裏に浮かんだのは、「戦隊もの」でした。
子どもと一緒に「○○レンジャー」を観ながら、
「どうしてやられた後に巨大化するのかねー。無意味だよねー」と
よくつぶやいていたものです。
江戸時代からあるんじゃん。「やられたら巨大化」。
最後は坂田金時(三津五郎)が急に姿を現して「イイもん」が勝つんだけど、
テキが巨大化すると、こっちも合体して巨大化してパワーアップ、という
あの流れにソックリ。
金太郎さん呼んじゃうんですから~。
いやー、
歌舞伎って、ほんと娯楽のなかの娯楽だわ。
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昼の部、
ほかに「河床(かわしょう)」と「音羽嶽だんまり」。
「音羽嶽だんまり」は、今回が初大目見得の藤間大河のために、
父・松禄ほか富十郎、菊五郎、吉衛門など勢ぞろいで花を添えたもの。
「河床」は近松門左衛門の「心中天網島」の一部で、
上方歌舞伎のベテラン・藤十郎が主役の紙屋治兵衛に扮します。
この「河床」については、
この治兵衛さんのあまりのダメンズ振りに辟易して
誰にも感情移入できなかった。
「おまえ、オレと死ぬって約束したじゃないか!」と怒り出し、
自分の愛人を罵倒する男が醜くて醜くて。
女相手に声荒げるは殴りかかろうとするは、ちょっとしたDVだし。
そうかと思えば、これだけコケにした女に対し、
手のひら返したみたいに猫なで声を出すのも、ほんっと気色悪かった。
これで自分は妻子もち店もち、
相手は自分の身に何の保障もない一介の遊女。
何考えてんだろう。
自分さえ気持ちよければそれでいいのか!
こういうのを女のくさったのみたいだっていうんでしょうな。
のめりこめなかったことと、
昼食の直後だったこともあいまって、
実はかなり…zzz…でした。
ちゃんと全部見れば、それなりに面白かったのかな~。
面白いはずだよね、本当は。天下の近松だし。
すみません、シロートで。
※この日は昼夜通しで観ました。
夜の部で出会った「大物浦(だいもつのうら)」の素晴らしさについては、
また日を改めてご紹介したいと思います。