「フェルメール展」
東京・上野にある東京都美術館に「フェルメール展」を観に行ってきました。フェルメールといえば、最近映画になった「青い耳飾の女」とか他の美術館で来日展示のあった「牛乳を注ぐ女」"あとは「デルフトの眺望」などが有名です。今回、この3点は展示されていませんが、全体数の少ないフェルメールの作品としては、7点が集められて展示というのはけっこうすごいことかな、と思って行きました。今回来た中でもっとも有名なのは、通りに面したレンガ色の家と、その入り口から続く長細い路地を描いた「小路」でしょうか。小さな作品ですが、温かみがあって、さすが人気の作品だな、と思いました。もう一つ、私が惹かれたのは「リュートを調弦する女」という作品。左側の窓から射す淡い光が映し出す、フェルメールではおなじみの構図ですが、その光が強調するのはドレスのひだでも、ショールのひだでもありません。ほとんど白と黒だけ、そこに薄いレモン色がセピアがかって重ねられたような色使い。窓の外にふと目をやる女性の広い額と大きな瞳なのです。一瞬「エディット・ピアフ?」と思いました。細くそしてチリチリの髪の毛が、ひっつめの額から後頭部にかけてのシルエットをぼーっとさせています。胸が浅いV字にあいたドレスの襟は白く、影にになった首元は、真珠でしょうか、短めのネックレスとイヤリングだけが光ります。「オランダの民族衣装」的な装いではなく、2,30年前のヨーロッパの女性が来ていたような、「リュートを調弦する女」の持つ、そんな雰囲気のモダンさが他の絵とちがうインパクトを私に与えたのかもしれません。買ってきた絵ハガキはこの2つ。今回展示のなかった(っていうか、もしかして門外不出?)「デルフトの眺望」は、絵はがきもなし。メモパッドが洒落ていたのでそちらでガマンです。プルーストの「失われた時を求めて」には、ベルゴットという登場人物が、パリの展覧会でこの「デルフトの眺望」を見て、非常に感激する場面があります。プルーストはここでベルゴットの目となり、描かれたものを微に入り細に入り「言葉」で表現し続けます。(こちらには「デルフトの眺望」の絵とともに、その一部分が引用されています)実は、私は「デルフトの眺望」の絵を見るより前にプルーストの文章を読んだので、この絵の美しさは、まず自分の頭の中に構成されました。だから、この絵に関しては、特別な気持ちがあるのです。オランダのマウリッツハイス美術館には、この「デルフトの眺望」だけを見せるための部屋があると聞きました。いつか、そこを訪ね、マルセルのように、たった一人で絵を独り占めし、絵の世界の隅から隅まで、なめるように眺めてみたいものです。東京都美術館の「フェルメール展」は、12月14日まで。来日作品以外も、原寸大の写真パネルで観ることができます。