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Tさんは4期で、くうみんの知っているガントモの中では一番病期が進んでいます。ある日病院で会ったときおしゃべりしながら診察を待っていました。
「子宮と骨に転移しているんだけど、もうわたし、手術はできないんだって。見てよ、この検査結果、増悪だって」 差し出された紙を見ると、全身の骨格写真がぼんやりと写っていて、所々黒くなっています。特に腰の辺りが真っ黒に近いのです。 「先生に聞いたの、先生は私に何ができるの?って。そうしたら世間話!って、言うのよ。子宮に転移したのなんか、手術で取ってしまえばいいじゃない。それはできないんだって」 「…そうなの」 「もう、腰が痛くて。痛み止めが効かないのよ。だからそう言ったら薬を出してくれたんだけど、麻って書いてあるのよ!モルヒネじゃない。嫌よ、こんなのって突返したわよ」 「えっ、でも、先生の指示のもとに内服するのはそんなに悪いことじゃないって言うから少し試してみたら?」 「嫌よ!」 Tさんは少し黙ってから言いました。 「ねえ、私ほどひどい人って、ここでもめったにいないのよね。私は一週間に一度こなければならないのに、皆せいぜい3ヶ月に一度だわ。くうみんさんも、Tみたいじゃなくて良かったって思っているんじゃない?」 くうみんは答えることができなくて 「…そうねえ、上を見ればきりがないし、下を見てもきりがないし…」 そう言って口ごもりました。そのうちTさんは診察室に消えていきました。 そんなことないわ。そう言うのは簡単です。 この病気は原因はまだわかっていません。食習慣だと言う説もありますが、Tさんもくうみんも病気になれと思って食事をしていた訳ではありません。 寿命の神様が、 「この中で短いくじを引いた者が死ぬのぢゃ」 と言って、くじを引かせたら、ある人のくじが短かった。泣き悲しむその人を見て、 「自分でなくて良かった」 と思わない人がいるでしょうか。代ってあげると言える人がいるでしょうか。くうみんにはできません。 Tさんみたいじゃなくて良かった。そうは思っていません。けれど、軽軽にそんなことはない、とも言えなかったのです。 Tさんは、気付いたときはすでに4期だったそうです。はじめは温存で手術し、病理結果が出て、取り残しがあるので全摘したのです。くうみんと同じパターンですが、違うのはTさんは再手術を受け入れたこと、病気が4期なことです。くうみんは手術拒否、病期は2期b。 再手術勧告を受けたとき、くうみんも思ったのです。皆、自分じゃなくて良かったと思っているに違いない、と。 実際、だらしないと言う人もいたし、するなら早く、と言う人もいました。 だらしなくね~よ!早くなんてしたくね~よ!他人事だと思って! 後から考えると、励ますつもりで言ったのだと思います。その後も付き合っていますが、いい人ばかりです。でも、その時のくうみんは人の心を慮る余裕はありませんでした。 人間醜い部分もあり、きれいな部分もあるのです。Tさんも、くうみんも、他の人達も同じです。 穏やかな海もあれば荒れ狂う海もあります。どちらも同じ海なのです。 すでに4期なら再手術しないと言う選択もあったと思いますが、家族に説得されたと言っていました。 おじさんは自分で決めろと言いました。どちらも病気の家族を思う心は同じなのですが、することは正反対になりました。 クリックいただければ幸いです。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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