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『VENGEANCE』 4




ザクッ  ポタ・・ポタ・・・


ルジェの放った矢は的に当りその勢いを失った。
代わりに鮮血が地面へと滴り落ちていった。


―俺は・・・生きているのか?


意識を失うどころか痛みさえない状態にmikusukeが不思議に思い目を開けた。
「!!」
そして目に入って来た光景に言葉を失う。
「ト・・ト・・・トリーシャ!!」
目の前では自分を襲ったはずの矢をその身に受け地面でうずくまる妻トリーシャの姿があった。
「何て事を・・・。」
急いで体を抱き寄せる。
「う・・。」
おびただしい量の血がトリーシャの服を赤く染めていた。
「私も昔は戦場に身を置いていたわ。急所を外す事位わけないわよ?」
口では明るく振舞っているもののトリーシャの顔色は悪くなる一方だった。
「今、アースヒールをかける。気をしっかり保つんだ。」
mikusukeがアースヒールの為意識を集中させる。
「こ、今度こそ!」
その隙をつきルジェが再度矢を放つ。


「させるかぁ!」
放たれた矢は獲物に届く前に与えられた衝撃で地面へと落とされた。
「風陣にミコト君!」
アースヒールをかけ終えたmikusukeが思いもよらない援軍に驚いた。
「ミクさん、早くトリーシャさんの治療を。」
ミコトが剣を構えルジェの前へ立ちふさがる。
「すまない。風陣、医療パックは持ってきてあるか?」
「はい!父上、ここに。」
風陣から医療パックを受け取ったmikusukeはその中から黒色の丸薬を取り出した。
「トリーシャ、造血剤だ。早くこれを。」
「父上、それは?」
「これは造血剤と言って薬内に含まれる成分リ・ネージュが体内のホメオスタシスを刺激して血液を作り出す即効性の薬だ。」
「アースヒールで傷は治したものの血を流しすぎて血液が不足している。これでよくなるはずだが・・・。」
「ん・・・。」
mikusukeの言葉通り造血剤を口にしたトリーシャの顔色はみるみるうちに良くなっていった。
「大丈夫か?何故こんなばかな事を・・・。」
「ばかなのはあなたの方です。」
トリーシャから思いもよらない一言が返ってきた。
「あなたが死んだら・・・あのルジェを失った悲しみをまた私達に与えるつもりですか?」
「・・・すまない。」
トリーシャの言葉にmikusukeは反論出来なかった。


「くっ、計画が台無しだ。こうなれば全員あの世に送ってやる!」
ルジェは一度はさしたはずのとどめが不発に終わった事にあきらかにイラつき怒りの表情を見せていた。
「さぁ、覚悟しな!」
弓から槍に持ち替えたルジェがmikusuke達の前に立ちふさがった。














『真説RS:赤石物語』      第1章 『VENGEANCE』-4







「ルジェさん、あなたは嘘をついている。」
ルジェに対しミコトが口を開く。
「何!?私のどこをして嘘をついていると言える?!」
「一度目は古都で二度目はスマグ付近であなたを見かけた時僕はあなたから不思議な印象を受けた。」
「一見冷たく見えるけど実はその瞳の奥にはいつも悲しみと相手を思いやる優しさが宿っていました。今、あなたの前で立つ事でその事がはっきりとわかった。」
「そう・・ルジェは・・・私の大切な妹は本当は優しい子。こんな血を流す様な事はけっして望んでなんかいない。」
ミコトに続いたのは造血剤により体調を盛り返したトリーシャだった。
「トリーシャ、造血剤と言えど限界はある。早く安静にしないといけないのに無茶な事は止めるんだ。」
「大丈夫・・大切な人の為なら体の奥底から力が溢れてくるの。私を信じて。」
トリーシャの言葉にmikusukeは黙って見守る事しか出来なかった。


「確かにあなたの味わった苦痛は私達が知る由もない・・・でも思い出して。」
「夫以外が指揮を取っていたら間違いなく全滅だったあのどうしようもない任務で私とあなたは夫を信じる事を選んだ。」
「結果私は闘う事の出来ない体に、そしてあなたは怪我を負いそのまま行方不明に。」
「うるさい!黙れ・・・・黙れ!私は裏切られたんだ・・・私は・・・」
トリーシャの言葉にルジェが必死で言い返す。
しかしトリーシャはそのまま続けた。
「あれ以来ずっと夫は自分を責め続けた。自分にもっと力があればと。でも自分を責めて何かが始まるわけじゃない。」
「だから私達はあなたを探す為に部隊から抜けた。」
「やめ・・ろ・・・・くぅ・・・頭が・・頭がぁ・・・」
ルジェは頭を抱えその場にうずくまってしまった。
「ルジェ。」
トリーシャがルジェの体にそっと触れる。
「長い間待たせてしまって本当にごめんなさい。」
そして小刻みに震えるルジェの体をそっと優しく抱きしめた。
「本当にごめんなさい。」


ポツン


トリーシャの瞳から一粒の涙が零れ落ちルジェの体を濡らした。
「ぁ・・。」
自分の為に涙を流す姉トリーシャの姿を見てルジェの頬にも自然と涙がこぼれた。


ポゥ


不意にルジェの額周辺が白色に輝いた。
「もう大丈夫。私も夫もこれからはあなたの傍にずっといるから。」
「トリーシャ姉さん・・・私は・・・私は・・・・」
光は段々と色濃くそして強い光を発していく。
「忘れないで。mikusukeも私もあなたを愛している。あなたの事を忘れた日なんて一度も無かった。」
「トリーシャ姉さん・・・」
「私は・・・確かに義兄さんの事を信じて闘った・・・義兄さんに責任なんてないのに・・・それなのに・・・義兄さんや姉さんに何て酷い事を・・・」
「大丈夫。何があろうと全て私が許してあげる。」
「ルジェ、あなたの本当の気持ち教えて。」
トリーシャの真っ直ぐな瞳にルジェも真っ直ぐな瞳を返す。
「私は・・・昔のように皆と笑顔で暮らしていきたい。」
ルジェが涙でくしゃくしゃになった顔を手で拭いはっきりと自分の言葉で力強く言った。


パァン


それに呼応するかの様に光はさらに強い光を発した。
「きゃぁぁぁぁぁ。」
強い光にあてられルジェが声をあげる。
「ミクさん!?」
それを見たミコトも思わず声をあげる。
それに対しmikusukeが冷静に答える。
「ミコト君、落ち着くんだ。あれはブレインウォッシングマジックが解けた証拠だ。」
「今更気付くとは自分でも情けない。ルジェは誰かに洗脳されていたんだ。」
mikusukeの言葉通り光が収まるにつれルジェを取り巻いていた負のオーラが無くなっていくのを感じた。
「うぅ・・・トリーシャ姉さん・・・私は・・・・」
「ルジェ、何も言わなくていいのよ。おかえりなさい。」
泣きじゃくるルジェの頭に手を沿えトリーシャが笑顔をむけた。


ドォォォン


感動の場面に相応しくない轟音と共に突如現れた炎がトリーシャとルジェを襲った。
「全く使えん女だ。まさか私が動くはめになるとはな・・・。」
全員があっけにとられる中、全身に黒色のマントを羽織った男が現れた。
「貴様ら、全員仲良くあの世へ葬ってやる!」











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