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『離盃』 4


「はぁはぁはぁ・・。」
「ふふふ・・・・もう終わりかい?私はまだまだ満足してないよ。あはははは。」
艶夜の繰り出すスキルはミコトが始めて体験するものばかりだった。
その上にベルの攻撃も加わり掴み掛けていた主導権は一気に奪われ体には次々と真新しい傷が増えていった。
「くっ・・・負けるかぁ・・!」
体をふらつかせながらもミコトが剣を出す。
「ふん、時間が惜しい。終わらせる。」
お構いなしにベルが頭上で槍を振り回しながら一気に間を詰めた。
ミコトが力を振り絞り迎え撃つ。


ガッ


動くたびに傷口が響き傷みが体を駆け巡り動きが鈍る。
「くっ。」
地面にまた血飛沫が落ちる。
それはミコトの体にまた新しい傷が出来た事を物語っていた。
「どうした!?」
攻撃の手を更に強めるベルを前にミコトは防戦一方を余儀なくされた。
「ふふ・・・・もっと・・・もっと踊りなっ!」
艶夜は自分の手に付着していたミコトの血を舐め取ると恍惚の笑みを浮かべていた。


「はっ、隙だらけだぞ?」
ベルが槍の柄の部分でミコトの足を払った。
ミコトは体勢を崩し地面に膝をつける形になった。
「ふん、終わりだ。」
ベルが背後からミコトを見下す位置でとどめの一発を放った。


―やられるっ!
ミコトがそう思った瞬間
―目だけで物事を追おうとするな。体で感じる事が重要やで。
修行中、ガラテアの言った言葉が脳裏を過ぎった。


ザクッ


音をたてベルの槍が突き刺した物はミコトではなく地面だった。
ミコトは背後からの攻撃を体で感じ取り体を捻らせてギリギリのところでかわしていた。
「はぁ・・はぁ・・・。」
息も絶え絶えしい状態だがそれでもミコトは諦めた様子を見せず目には力が篭められていた。
そして静かに立ち上がり剣を構えたところで目を閉じた。
「ふん、覚悟を決めたか!」
ベルが地面に突き立てられていた槍を引抜き再度ミコトへ攻撃を仕向けた。


―落ち着け、今自分がいるのは波一つたっていない水面の上だ
ミコトが静かに集中力を高めていく。


―チャポン
ミコトは水面に一つの波紋が生まれるのを感じ取った。
そしてその波紋は自分の方へと近づいてくる。


ヒュン


ベルの必殺の一撃がミコトを襲う。
しかしミコトはその攻撃がどの軌道でどのタイミングで来るのか予測していたかの様な動きでそれをかわした。
「今のをかわすか。やるな。」
ベルが言うと
「俺には負けられない理由がある。自分の為にも自分を支えてくれたギルドの皆の為にもそして・・・バアルの為にも。」
ミコトが答えた。
そう答えるミコトの傷ついた体からは想像出来ない程の闘気が発せられていた。
「バアル!お前の方こそ覚悟は出来ているんだろうな?」
そう言いながらミコトが一歩を踏み出そうとした瞬間
「!?」
ミコトの足元から出現した赤色の鉄格子によりミコトは囲われ身動きを取る事を封じ込められた。
「ちぃ、気に入らない展開だよ。」
その言葉に静観していたはずの艶夜がいつの間にか接近していた事に気づいた。
「よくやった。今度は外さん!」
それを見ていたベルがミコトに襲い掛かる。
ベルの一撃目を盾で防ぎ続く二撃目も盾で防ごうとした瞬間


シュッ


艶夜の放った鞭が盾に絡みつきそのままミコトの左腕から引き剥がされた。
さらに艶夜の鞭は剣を持つ右手に絡みつきミコトが剣で攻撃を防ぐ事を出来ないようにした。
身動きがどれない状況の中ベルが攻撃を繰り出すのがミコトの目に写った。











『真説RS:赤石物語』      第4章 『離盃』-4







ガキィーーーン


子供の頃から今に至るまでの思い出が走馬灯の様に頭を駆け巡る中金属と金属とがはげしくぶつかり合う音で現実に引き戻された。
そこには自分の周りを回りながらベルの攻撃から身を守ってくれた盾とその持ち主であるガラテアの姿があった。
少し落ち着いたところで辺りを見回すとガラテアの攻撃により後方へと吹き飛ばされ尻もちをつくベルの姿、鞭を叩き落とされ悔しそうな顔を浮かべる艶夜の姿、そして少し離れたところからものすごい勢いでこちらへ向かってくる体のあちらこちらに傷を負った戦士の姿が見えた。


「ふぅ、何とか間に合ったな。2人相手によく頑張った。」
ガラテアが地面に弾き飛ばされていたミコトの盾を拾いミコトにそれを手渡した。
「あ、ありがとうございますっ。」
盾を受けとろうとするがまだ艶夜が放ったスキルで動けない事に気づいた。
「これは・・・悪魔のスキルの一つ『ヘルプリズン』だな。スキルを受けた本人が内側から衝撃を与えると壊れるはずやで。」
ガラテアに言われた通りミコトが内側から攻撃を加えると簡単に檻は壊れた。
「悪魔か・・・・昔、書物で悪魔やネクロマンサーが操る不思議な術について目を通した事あるけど実際に対峙するとはな・・・。」
「ランサーに悪魔に戦士が相手か・・・・」
ガラテアが自分達を囲んでいる戦士達を見回しながら呟いた。
「ミコト君、俺の盾はそのままシマーしておくね。自分の盾も自分で使ってくれ。」
「えっ?でも・・」
「これから本気を出す、そうなれば盾はいらない。しっかりついてきてくれよ。」
「はい!」
ガラテアの言葉に押される形でミコトは返事をした。
「本気!?俺との勝負では本気を出してなかったって言うのか!?」
ガラテアを追ってきた戦士が声を荒立てた。
「すまんなキラ、これをすると一気に体力が消耗されるからな。覚悟しろよ?」
「ふざけるなぁ!」
その言葉にキラーボーイズが更に声を荒立てる。


「ふぅー。」
ガラテアが静かに深呼吸を一度した後、一気に闘気を開放した。
「ガ・・ガラさん!?」
隣にいたミコトはガラテアの姿に驚愕した。
ガラテアの目が黒色から銀色へと変色しそれまでの雰囲気とは全く異質の物を感じさせていた。
「これを。」
ガラテアは赤POTをミコトに手渡すと3人目掛け走り出した。


「ふざけるなぁ。」
キラーボーイズとベルが左右から挟みこむ形でガラテアに対し攻撃を繰り出す。
「ディレイクラッシング!」
「エントラップメントピアシング!」
2人の攻撃が容赦なくガラテアを襲う。
轟音と共に多量の砂煙が空中高く舞い上がった。


ドスッ


低く鈍い音がその中からすると同時にベルとキラーボーイズが砂煙の中から弾き飛ばされた。


ヒュゥ


崖下からの風で砂煙が遠くに運ばれるとそこには無傷のガラテアの姿があった。
「くそがぁぁぁ。」
キラーボーイズが怒鳴り声をあげながらガラテアむけ走り出し再度ディレイクラッシングを放った。
ガラテアはかわす素振りを見せるわけでもなくまた防ぐ素振りを見せるわけでもなくただただ斧が自ら目掛け振り下ろされるのを静かに見ていた。
「ガラさんっ!」
斧が振り下ろされるのを静観するガラテアを目の前にしたミコトが悲痛な声で叫ぶ。
攻撃を繰り出したキラーボーイズはもちろんの事それを見ていた誰もがガラテアが攻撃を受け倒れる姿を頭に浮かべた。
しかし現実はキラーボーイズの攻撃はガラテアに当たる事はなく全てを空を斬りそのまま地面に打ち付けられていた。
「なっ!??」
キラーボーイズが不思議そうな顔をした。
何故ならガラテアは最後まで動く事はなくキラーボーイズ自らが攻撃をそらしたからだった。
「はっ!」
ガラテアが攻撃直後の隙をつき反撃に出る。
「くっ。」
咄嗟に鎧の厚手の部分で攻撃を防ぐも衝撃でキラーボーイズの顔に苦痛の色が滲んだ。
「死ねよっ。」
今度はベルが後方からガラテアの隙をつく形で攻撃を放った。
ガラテアはその攻撃にもキラーボーイズの時同様に動く気配を見せないでいた。


ザスッ


そしてその攻撃はまたもやガラテアを捕らえる事なかった。
「ぐあっ。」
ガラテアがベルに蹴りを与え、吹き飛ばされたベルがキラーボーイズと交錯した。
「ミコト、行くぞ」
ガラテアが叫びながら艶夜の元へ走り出す。
「はいっ!」
ミコトも負けじとガラテアの後をついていく。


二転三転した戦局もガラテアが操る奇妙な技により完全にガラテアとミコトにその流れが傾いていた。
しかし、悲しき運命の終着点は刻一刻と戦士達に近づいていた。
その足音を誰に気づかせる事もなく。





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