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大腸肛門専門外科医のひとりごと

大腸肛門専門外科医のひとりごと

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2006.05.31
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テーマ:癌(3537)

【STEP3 手術はどうやるのか?】

大腸がんの手術を簡単に言えば

「がんがある部分の大腸を切り取って、つなぎなおす」

ということです。

もちろん、これだけでなく転移があるかもしれないリンパ節も切除してきます。

がんを切り取るときにはがんのあるところギリギリでは腸を切りません。
見た目にはがんがなくとも顕微鏡で見ればがんがあるかもしれません。

ですからだいたい10cmくらい離して切ります。

ところがです、
おしりから10cmないところにできたがんはどうすればいいのでしょう?
10cmないのですから10cm離せません。

10cmないようなところの大腸がん=直腸がんです。

ここで最初の話をおぼえてますか?
大腸がんの場所が大事というところです。

直腸がんの場合5cm離す距離をとるのも大変です。
いまのところ2~3cm離せばよいとされています。

だいたいのところですが、おしりからの距離が5cmくらいあればなんとかつなぎ直せます。
5cmないところにがんができてしまった場合、ちょっと大変。
がんを完全に切除しきると、つなげる腸がなくなってしまう可能性が出てきます。
そうなればおしりごと腸をくりぬいて人工肛門決定です。

昔に比べて、手術手技の発達、手術道具の進歩などにより
おしりをくりぬく手術をうける患者さんは減りました。
5cm未満の距離しかない人でも、なんとかおしりを残せるようになってきました。

でもどうしても残せない人もいます。
肛門にかかるようなところにできてしまったらアウトです。

実際の切除した腸の写真を見てみたい方はどうぞ。
ちょっとショッキングかもしれませんので、注意してくださいね。

私が思うにお尻を残せる距離は3cmが限度かな・・・

ぎりぎりなんとかつないだ場合でも、そこがうまくつかないこともあります。
これを「縫合不全」といいます。
つかないとそこから便がもれて、おなかの中に広がってしまいます。
そんなことが起きたら、腹膜炎や腹腔内膿瘍といった重篤な合併症がおき、命に関わります。
再手術も必ず必要になり、せっかくつなげた腸もやっぱりだめになってしまうかもしれません。

もしもうまくつかなかった時に、便が漏れて重症にならないように、
一時的な人工肛門を作る場合があります。
この人工肛門は、きちんとおしりがつながったのを確認して閉鎖します。
2回に分けた手術をするわけです。

質問例1:「肛門からの距離はどのくらいでしょうか?」
質問例2:「人工肛門になる確率はどのくらいでしょう?」


【STEP4 新しい手術~腹腔鏡手術~】

この15年くらいの間に大腸の手術にも腹腔鏡を用いた手術が行われるようになりました。

「腹腔鏡」って耳慣れない言葉でしょうか?

腹腔鏡は簡単に言えば、

「おなかを大きく切らず、おなかに穴を開けて、そこからビデオカメラと鉗子をいれて行う手術」

というところかな。

胆石の手術などは今ではほとんどが腹腔鏡で行われています。

腹腔鏡で手術を行うメリットとしては

傷が小さい→術後の痛みが少ない
傷が小さい→術後の回復が早い→早期の退院、社会復帰が可能
傷が小さい→美容的に優れる
圧倒的に出血が少ない


などがあげられます。

逆にデメリットとしては

手術時間が長い
治療成績・長期の予後が確立していない
手術がむずかしい(術者の習熟が必要)
触覚がない(鉗子でさわりますからね)
視野が狭い(カメラでみてるとこしかみえません)→見えてないところで合併症をおこす危険

などでしょうか。

現在、大腸癌で従来行ってきた開腹術と腹腔鏡手術の治療成績が
本当に同等以上のものかを調査する臨床研究が全国の腹腔鏡で
大腸の手術をおこなっているいくつかの施設で行われています。
海外ではすでに同等以上という結果が出ており、おそらくは日本でも同じように
腹腔鏡手術が治療成績において劣ることはないという結果がでるものと考えられます。

そうなると腹腔鏡での手術が今後ふえていくと考えられます。

でもね、腹腔鏡の手術は難しいんです。

慣れないとできません。

ビデオカメラでみながらやる
  =三次元を二次元で見なければいけない
  =距離感がつかみづらい(片目でみるようなもの)
ですから、いままでやったことがない先生が、

「じゃあやるか」といって簡単にできるものではない!

と思います。

初めて助手をやらせた先生は自分のやりたいところに鉗子をもっていくことすら出来ません。
ですから安易に手を出すと、せっかく腹腔鏡で出来る手術が開腹術になってしまいます。

きちんとしたトレーニングを受けている先生、
できれば内視鏡外科学会技術認定医の先生がいる施設でやったほうがより安心です。

技術認定はまだ始まったばかりで、上手な先生でもまだ持っていない先生も多いです。
一つの目安としてその先生がどのくらい腹腔鏡での大腸切除術をやったことがあるのかを
確認しましょう。

質問例1:「この病院では腹腔鏡で手術ができますか?」
質問例2:「先生はどのくらいのご経験がありますか?」


まず、手術と言ったときに腹腔鏡に自信がある施設の先生ならば、
腹腔鏡と開腹術両方のお話をすると思います。

おなかを大きく切る手術の話ししかしない先生ならば
上に書いたような質問をしてみるといいでしょう。

このときに

「腹腔鏡なんてやるもんじゃない」

という先生には二通りあると思います。
「やらない先生」なのか「やれない先生」なのかは大きな違いです。

年配の先生の中には腹腔鏡にアレルギーをお持ちの先生も多いのです。
日本の国手と言われるような名人の先生でも腹腔鏡はやらないという先生もいます。
腹腔鏡に興味があるのならばやれる施設を紹介してもらうのも選択肢としてありです。

今の時代、「やれないから説明しなかった」というのは怠慢です。

「やれないならばやれるところを紹介する」ところまでが義務です。
その上で患者さんが治療方法を選択し、開腹でやるか、腹腔鏡でやるかを決めればいいのです。

残念ながら腹腔鏡での手術はまだどこででも受けられる手術ではありません。
しかし、急速に広がっています。
安全に確実な手術が受けられるように学会も普及、教育、啓蒙をしていますが、
まだ、自分で信頼できる施設を探した方が良いかも知れません。

大腸がんの治療に関しては
「大腸がん治療ガイドライン」
と言うものができました。
大腸癌治療ガイドラインの解説(2006年版)患者さん用です

全国どの施設でも同じような手術がなされ、施設格差がすくなくなるようにというものです。
ここで定められた手術が十分に行われていれば、
どこで手術を受けても大きな差はないと思われます。

ただし、直腸がんの場合、特に肛門からの距離が短いときには十分に担当医の話を聞いて
治療方針を決めてください。納得いかなかったり、わからないことが多いときには積極的に
セカンドオピニオン(ほかの医者)の意見を求め、治療方針が妥当であるかどうかを判断してください。
こちらの施設では残せないと言われたおしりが、あちらでは残してもらえた
ということはあり得る話です。

人工肛門が必ずしもQOLを下げるものではないのですが、やはり避けられるなら、
残せるならおしりを残したいと思う患者さんのほうが圧倒的に多いです。

治療を受けるのは患者本人なのですからね。

大腸癌について調べるなら


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Last updated  2006.05.31 17:13:23
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