2007/03/15(木)00:30
価値感
この間、ピンポーンとやって来た塗装屋の営業マンを家へあげて、ショータンは壁と屋根の塗り替えを頼んだ。
なにを買うのも慎重に検討する性格なのに、150万円もの出費をよくまあ簡単に…と思ったら、半分出してくれときた。
「もうちょっと考えてから頼んだら?」
と、慎重ではない私が言った。家の壁はまだ汚れも色褪せもしていない。私は、死ぬまでこのままでいいと思っていた。
で、ショータンは値切った。
「はい。勉強さしてもらいます」
社員ではなく塗装屋のオヤジなのか、「110万円に」と決めが早かった。「白い壁は虫が寄って来やすい」とか「屋根はやっぱり黒が無難」とか自分の好みも押し付けていた。茶色の濃淡で、3月の初めにやりましょうということになった。
「なんで、ひょっこり来た人に頼んでしもたん?」
「だいぶ前から塗り替えたい思ててん。タイミングが良かったから」
「他との比較もしてみた方がええと思うけどなあ。ここら、みんな茶色の家ばっかりやん。うちが一番すっきりきれいな色やのに、なにも隣の真似せんかて……」
うちはグレーの濃淡で、境目の帯が黒だ。
翌日、ショータンは「色を換えたい」と電話して、またオヤジを呼んだ。私も壁見本を見て、上部をクリーム色に下部をチョコレート色に決めた。
「帯は無い方がええから外して欲しいんやけど」
「いやぁ。あれは接着剤で貼ってますから、めくったら壁がワヤになってしまいますよ。大工も頼まんならんし、工賃もあがります」
「そんなら下部と同じ色に塗ってしもて」
次の日、新聞に別の塗装屋のチラシが入った。ショータンは「来てんか」と電話した。2日後に田舎のおじさん丸出しの営業マンがネクタイ背広でやって来て、「会社から職人が来て、それから見積りということに」とのんびり言った。
「あっちこっち頼んだら、コワーイ人が来て、しょーむないお金ふんだくられるわ。塗らんでも、洗うだけで綺麗になるのと違う?」
ショータンは、先に依頼した会社へクーリングオフのハガキを出した。即座に見積もりの出せないおじさんの方が気に入ったらしい。この会社からはなかなか見積もりの人が来なかった。商売する気がなさそうだ、いい傾向だと私は喜んでいた。
10日めに、二人連れで来て、家の周囲を見て帰った。更に1週間。ファックスで見積書が届いたようにもない。
「見積もりもすぐに出来ない会社、あかんわ」
「あかんな」
昨日、作業服の人が三人連れで来て、家を出たり入ったり1時間あまりショータンと話していた。
ショータンが希望する帯をはがして100万円ということになったそうだ。
「あの帯、めくるの難しいことないんやて。あれが気に入らんねん。客の要望通りにでけへん商売なんか、あくかい」
今日ショータンは、下塗りのシリコンとアクリルの違いを、ペイント会社に電話して訊いていた。
午後、ネクタイ背広の田舎のおじさん営業マンが来て、「壁の色はグリーンの濃淡。屋根は濃いグリーン」と決めて帰った。
顕微鏡は急がないか。海内旅行も……
写真は2千年の樹