虚栄のかがり火 CHRONICLES #179
ディランとクロスビーの珍道中は、69年型ビュイック・エレクトラでルート80をてくてく……じゃないだろうな。ぶっとばして行きました。二人してラリってそうで危ないです。 →69 Buick Electra 225暑くて雲一つない日だったそうです。式服(robe)を着せられ、他の受章者と一緒に壇上に上がって待ちます。ウォルター・リップマン(Walter Lippman)やコレッタ・スコット・キング(Coretta Scott King)がいたそうです。リップマンは「冷戦」という言葉を作った人です。コレッタ・スコット・キングさんは、あのキング牧師の未亡人です。 →現代認識論の古典を読む:-ウォルター・リップマン『世論』- →Coretta Scott King Profile公民権運動のファーストレディという言い回しは妙ですね。とにかく暑かったようです。-------------------------------------------------------I stood here in the heat staring out at the crowd, daydreaming, had attention-span disorder.-------------------------------------------------------"attention-span"というのは心理学用語で、「注意持続時間」と訳します。文字どおり、個人が注意を集中していられる時間の長さを指します。ローブを着せられたディランは、暑くて頭がくらくらして、白日夢を見ているようだったというわけです。-------------------------------------------------------When my turn came to accept the degree, the speaker introducing me said something like how I distinguished myself in carminibus canendi and that I now would enjoy all the university's individual rights and privileges wherever they pertain, but then he added, "Though he is known to millions, he shuns publicity and organizations preferring the solidarity of his family and isolation from the world, and though he is approaching the perilous age of thirty, he remains the authentic expression of the disturbed and concerned consience of Young America."僕が学位を受け取る番が来ると、僕を紹介する人がこんなたぐいのことを言った。「歌い手たち」の中で僕がどんなにきわだっているのか、そしてこれで僕はこの大学でのどのような権利や特典も享受できるようになるのだと。でも、それから付け加えて言ったのだ。「彼は何百万もの人に知られていますが、家族と結束して世間から孤立することを好み、世間の注目や団体などを避けております。そして三十歳という危険な年齢にさしかかっているのですが、若きアメリカの、不安で心配な良心として本物の表現であり続けているのです。」-------------------------------------------------------ヨーロッパの古典的教養がないので、"carminibus canendi"の意味がわかりません。たぶんラテン語だと思うのですが、文脈から「歌」と関係がありそうなので、一応「歌い手たち」にしておきました。【追記】------------------------------ loveminus0さんが教えてくださいました。 「歌い手たち」→「歌曲」と読み変えてください。 ------------------------------------名誉博士号授与式での紹介として悪くないように思うのですが、ディランの反応は"Oh Sweet Jesus! It was like a jolt."でした。"jolt"というのは「激しい衝撃」なんですが、「マリファナ」や「刑の宣告」を指すこともあるそうです。またかよ!「若きアメリカの不安な良心」の部分で、もう身体が震え、後は何を言っているのかちゃんと聞いていなかったようです。まさに逆鱗に触れてしまったのです。でも、それはある程度わかっていたことですよね。ディランはこの歌を作るために出席したのではないでしょうか。 ♪ I glanced into the chamber where the judges were talking, ♪ Darkness was everywhere, it smelled like a tomb. ♪ I was ready to leave, I was already walkin', ♪ But the next time I looked there was light in the room. ♪ And the locusts sang, yeah, it give me a chill, ♪ Oh, the locusts sang such a sweet melody. ♪ Oh, the locusts sang their high whining trill, ♪ Yeah, the locusts sang and they were singing for me. ♪ 部屋をのぞくと裁判官たちがしゃべっていた ♪ いたるところまっくらで墓のようなにおいがした ♪ 出る準備はできていて ぼくはすでにあるいていた ♪ つぎに見たときには部屋にあかりついていて ♪ セミがうたったね それは寒気をおこさせた ♪ オー セミがうたった そのようにうつくしいしらべを ♪ オー セミがうたった 高いすすり泣きのトリルで ♪ セミがうたった そしてぼくのためにうたっていた (片桐ユズル訳)