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Gun's Free

1.

 1.

 早朝。
 薄闇の中、コミュニケータから軽やかな呼び出し音。
 3回鳴って、切れる。
 それが1回、2回。
 3回目の途中で、観念したのか部屋主がそれを取る。
「失礼ですが、どちらさまですか」
 眠気と不快感を隠さない声で応える。と。
「あ!所長!はい、お早うございます!」
 ベッドの上で思わず正座。
「はい、はい、は……い、え」
 掛けフトンを被ったままもそもそと動き枕元のスタンドを点灯。
 しかし、その後は要領を得ない感じのおざなりな相槌と生返事。
 が。
「ええっ!私がですかぁ?!」
 突如、ウラ返った声をハネ上げた。
「は……はい、ですがぁ、ええそうですけれどはい……」
 不平不満というよりビミョーに納得がいかない気配。
「判りました、はい、了承しました。はい、今から準備にかかります」
 受話器を置き、チラリと時計を見る。
 現在、午前4時を少し回るところ。
 が、彼女に残された時間は全然足りない様に思えた。
「ん」
 一つ伸びをし、フトンをハネとばし、起きあがる。
 気持ち、いやかなり殺人的にタイトなスケジュール進行、ではあるが、それはいつもの業務、日常の延長。
 そうであるはずだった。少なくとも今の時点で彼女がそれを疑う理由は無かった。
 まさか、これから。
 事件が決着するまで。
 そう、宇宙世紀という時代に激震が奔る様な事件の渦中に当事者の一人として巻き込まれる。
 そんな、波乱に満ちた未来が今、すぐそこまで迫っていることなど。
 今の彼女には全く想像の余地が無かったし。
 そんな妄想が割り込む余地も全くなくこれからの数時間はちょっとした戦争状態で。

 そう、ちょっとした、あくまで個人的な。
 ささやかな、戦争状態で。

 アナハイム・エレクトロニクス。
 読んで字の如し、電子機器取り扱いの大手でもあるが、ある方面の関係者にはむしろモビル・スーツのメーカーとして馴染みが深い。
 1年戦争。人類史上最大規模の戦争となったこの戦いで華々しく歴史の表舞台に登場し、或る意味主役を張った戦術兵器。汎用装脚装椀戦闘機、通称、MPRFS(マルチ・パーパス・ロールプレイング・ファイティング・システム)、マフュー(ス)。となるのだがこの名称を用いるのは余程偏屈な職人気質の技術者か学者くらいのもので、その形態が概ね人型、であることからか、通常の宇宙服であるノーマルスーツ、と兵科区分である機動兵器、からのモビル、という呼称を組み合わせ生まれた俗称、前出通りのモビルスーツ、或いは単にその頭文字2字でMS、と普通は誰もが、呼ぶ。
 そのアナエレ、月面都市フォン・ブラウンにある本社、工場区画に併設された港湾施設。
 そこに、一隻の軍艦が接岸していた。
 軍艦といってもそういう関係ではよく見かける輸送船や輸送艦、或いは民間警備会社に払い下げのくたびれた老朽艦、などではない。
 知識がない者の目にも、連邦軍所属の現役、しかも新鋭艦であることは判る。
 連邦宇宙海軍所属、ペガサス級7番艦、アルビオン。
 連邦の宇宙艦艇史で強襲揚陸艦という艦種の先駆けとなる、「ホワイトベース」の名で有名なペガサス級。その系譜の正常進化型として系統樹の先端に現在位置していると言える最新鋭艦だ。
 ペガサス級を名乗ってはいるが面影が残っている程度で、様々な戦訓、運用実績を取り込んだ設計は同型艦と呼ぶのが難しい程変容している。
 余裕を持って張り出た艦首艦載機搭載のデッキ部はペガサス級伝統の双胴型だが共通点としてはそのくらいで、全体的に無骨で角張ったいかにも軍艦、それも強襲、という字面の荒事をこなす戦船、として喚起されるイメージそのままだった初代と比べ、大気圏内航行での空力特性も考慮しているのかずいぶんと洗練されたスタイルとなっており、船舶としてのエレガントさと艦艇が持つ凶暴さをバランス良く備えた実に軍艦らしい軍艦、と言えようか。他特徴としては、艦体中央の左右両舷にペガサス級直系を示すシンボルであるかの如く、格納型メガ粒子砲も搭載している。
 取り扱い商品の関係から軍事に縁が深いとはいえ、民間の港湾に堂々と軍艦が停泊している光景は珍しい。
 が、アルビオンのカラーリングはその違和感をやや和らげている。
 それは、宇宙では通例の漆黒、闇を塗り固めた様な防眩迷彩でも、連邦宇宙軍標準の塗装であるネイビーパープルでもなく、まるで客船の様な、ホワイトを基調とし、ところどころに赤をあしらったカラフルなものだった。
 そう、その色調だけは正に往時のホワイトベースそのもの。
 その一種、優美ささえ感じさせ泰然と鎮座する艦の外観からは伺い知れぬことに、艦内、特に艦の要職が詰める司令室周りでは、やや困った、ささくれだった空気が漂い出していた。
 司令室の中央、艦長座席(スキッパーズ・シート)。
 そこに座を占めるこの艦の主、その手元からリズミカルな音が発している。
 人差し指がヒジかけを規則的に叩いている。
 それがパタリと止む。
「シモン君」
 自制に成功した何度目かになる通信担当官への呼び掛けの衝動、そこから実際に他者から認識可能な音声となって口から漏れ出てしまった何度目かの言葉。
 アルビオン艦長、エイパー・シナプス。脂の乗り切った45歳、階級は大佐。
「まだです」
 ジャクリーヌ・シモン軍曹は意識的にそっけなく、形式的答礼。
((しまったー!通信士ちがうぢゃん!接岸中につき内線扱いってコトで一つ))
 彼女自身もまた共有している、内心に生じているじりじり感を表に出さないためにも。
 否。
 ブリッジクルー程ではないにせよ、今艦内に勤務している全員が共有している苛立ち。それは。
 待ち人、来たらず。
 既に全艦に通達されている出航予定刻限を既に5分も超過し、なお今も艦はアナエレの埠頭に縛り付けられている。これから更にどれだけ待たされるのかの目処も立たずに。
 海洋船舶の出航でも、昇降デッキはかなり早く閉ざされるものだが航宙船は更に厳しく、通例では1時間前には所定の乗員乗客は搭乗し着座、離床までの間にも出航前点検が進行し異状が発見されるなら対処しつつゼロアワーに向けた準備を続ける。
 つまり、5分+1時間の遅刻なワケで。
 そして理由についても実は判明していた。
 これは余裕を持って既に積載済みである機材、MS、にアナエレからの随行員として共に乗り組む予定であった人員。その一人にして責任者が、突如、体調不良で倒れた、という。
 何でも、天文学的不運に見舞われたそうで。
 古の地球の活発な火山活動により地球から月まで漂着した太古の嫌気性ウイルス。
 それを、ノーマルスーツに付けて持ち帰ってしまい、その上吸引してしまったのか。月面地表の現場から戻った後に体の不調を訴え、診療を受けるも改善せずそのまま緊急入院へ。
 それはそれで不幸ではあり謹んで御見舞い申し上げる次第ながらどうも事情が判らないのがその後。
 直ぐに代替要員が紹介され搭乗してきてはいさようなら、という想定される普通の当然の展開がさにあらず、矢の様なアルビオンからの催促に物腰だけは実に柔らかに、しかし実際の返答そのものは、只今社内で調整中につき、今しばらくお待ち下さい、という理解に苦しむもの。
 航宙船の航路というものはニュートン物理学の支配により厳格に規定され、今こうしている間にもそれは秒・分単位で狂いゆく。無論、アルビオンが持つ能力はそれを容易に修正し得るが、だからといって余分に加減速をし余分に艦の寿命を縮め、そして余分に推進剤(ロケットの燃料)をバラ巻く不快が消えるものでもない。その請求書をアナエレに叩き付けてやれるにせよ、だ。
「あ」
 シモン軍曹が明るい声と共にスキッパーズ・シートへと振り向いた。
「アナエレから着信来ました、回線開きます」
 我々が望む内容であることを、と内心呟きつつ顔面には平静な表情を形作り、視線をスクリーンへと据えたシナプスは相手の言葉を待ち受けている。
 そして。
「それはつまり、どういうことなのでしょうか」
 シナプスは辛抱強く繰り返した。
「ですからつまり、大変申し訳ありませんが、本社では御用意出来かねるのでして」
 相手は、ひきつった顔ににこやかな何かを貼り付けて、繰り返す。
「つまり私どもは、如何様にすれば宜しいのでしょうか」
 胆力の総てを傾けても、口の端がわずかに歪むのを抑えきれない。
「当社で所有する船舶の一つに、ラビアン・ローズという船がございまして……」
 避けようがない最終結論を早口でまくしたてる。はい、もちろん諸経費は総て弊社持ちでございますので。
 回線、オフ。
 シナプスは軽い舌打ちで済ませた。全員が注視する艦長席にあって、余りに露わであればそれはどうか、だが一方で無機的に過ぎるのも指揮官として戴けない。このサジ加減が絶妙なのだが、戦闘艦とはハードウェアである以前に、搭乗員により構成された組織体であるのだ。それで初めて兵器として機能する。そして、指揮官とはそうした職責を負わされたものである。なればこそ200人からの組織の長として君臨している。
 シモン君、回線を。先ほどまでのイライラを微塵も残さない静かな声で、命じる。
 そう、艦長は既に次の作戦計画に移行している。
「艦内放送よろし、艦長、どうぞ」
「全艦に告ぐ。艦長だ。これより本艦は発進する。最終目標は依然としてトリントン・ベースである。これに、第一目標、”ラビアン・ローズ”が追加される。最終目標到達予定時刻に変更はない。よって、地球への気軽なダイヴを期待していた諸君には大変申し訳ないが、本艦はこれより戦闘機動に突入するものである。各員、その職務を全うされたし。以上」
 艦内に短く警報が響く。
「抜錨。両舷微速」
 いつも通りの抑えた声に。
「両舷微速、アイ」
 アルビオンは静かな闘志を潜め、滑り出る。
 これは、作戦行動なのだ。
 
 無事大気圏への突入、地球への降下を果たした艦は、最終目的地、オーストラリア、トリントン基地に向け今洋上を、MC、ミノフスキークラフトにより這う様な速度で飛翔している。
「お招きに与り、ありがとうございます」
 折り目正しい一言と共に、その、アルビオンが全力発揮してお出迎えにあがった、代替の技官がブリッジに現れた。巻いて肩に垂らしたヘアスタイルがユニークだ。
「失礼ながら、オデビーさんは地球は初めてとか。特等席を御用意したつもりですが、お気に召しますかどうか」
 無限遠に伸びる、蒼く輝く水平線。
 眼下に拡がる絶景に素直な嘆声を発し、彼女はブリッジを窓辺まで足早に横切った。
 ひとしきり眺望を満喫し、しかし彼女は気づいた。
「コロニーの落ちた地で」
 小さく口にすると、彼女は静かに振り返った。
「艦長、シナプス大佐。少し、よろしいでしょうか」
「小官でよければ、なんなりと」
 生真面目に応じる。
「コロニー落着の地……一年戦争最大の惨禍を今に伝える場所、ですわね」
「それは、正に」
 シナプスも深く頷く。
「ジオンの暴虐。でもそれだけの問題だったのでしょうか。ここにコロニーが落ちた意味は」
「さて、どういう意味でしょうかな」
 そらとぼけるのか。シナプスは一見、柔らかく応じてみせる。
「実に、不思議なことが起こるものです」
「不思議、ですか」
 やや語気を強めるルセットには取り合わず、悠然と言葉を紡ぐ。
「軍人の使命とは何か。極言すればそれは護民、の一言に尽きましょう。ジャブローにコロニーが落ちる。仮にもし無事で済むものであれば、無論、何の問題もない。そのまま落とせばよろしい。逆にあの堅牢なジャブローが無事で済まないというのであれば、なおさらそんなものを連邦市民の頭上に落としてよい道理はありませんな。如何なる甚大な損害が発生するにせよ、甘んじて、ジャブローが引き受ける以外に道はないでしょう。つまり何れにせよ、コロニーが落ちる地はジャブロー以外には有り得ない、理屈としては。あれが落下軌道に乗った時点で勝負あったということですな、本来であれば」
「本来であれば、ですか」
 深く頷き、続ける。
「そうしたものが、何故かこうしてジャブロー以外の地に落ちる。とても不思議なこと、と、小官が申し上げられるのはこれくらいですが、さて、如何でしょうかな」
 不思議もくそもなかった。言葉遣いこそどこまでも思慮深い穏当なものだったがそうした修辞上の作法はともかく、意味するところはその実面罵に等しいこれ以上ないほどに苛烈な、当時の連邦軍、戦争指導に対しての、軍人としては最も避けて通るべき、上層批判だった。佐官の様な立場のある人間の口から出た言葉としては、とうてい看過されえないまでの。
 当時の、連邦軍。シナプスがそうであるように当然その多くは未だ現役にある。
「……大変示唆に富むお話で、有難うございました。眺めもとても素晴らしくて。そろそろ失礼致します」
 ほのかに顔を赤らめながらルセットはブリッジを出た。
 深く息をつく。
 仕事がら、軍人と接触する機会は少なくない。が、シナプスの様な人物が連邦軍にいるとは思わなかった。
 考えてみれば、今までに出会ったのは技術将校、エンジニアで、実際に矢玉を掻い潜っている、生粋の軍人と言葉を交わしたのはもしかしたら、今のが初めてになるのかしら。
 なるほど。あれこそがオフィサー、そして職業軍人という人種なのね。
 相手を剣豪と知りながら考えなしに木刀で小突いてみたら、有無を言わさず一刀の下切り捨てられた、ようなさっきの問答に、深く感じ入る。
 いやあるいは。小娘の戯れに座興で応じたつもり、かも。個人的意見、と予防線を引いた上で、個々の表現でも何ら言質を取られるような発言はなかった。”そう言って”いるようにしか聞こえない、だけで実際には一言も”そう言って”はいない。ただ”いやー不思議ですな”と首をひねってみせただけで。
 それに、とルセットは思い直す。確かに私、気の強いほうかもしれないけど。でも初対面に等しい上級士官に相手の職務上での論戦を挑むような無神経、無礼、とは違うから。
 理由はもちろん、オーバーワークに加えての寝不足。アッパー掛かってるところにちょっとした刺激を受けて、言葉が奔っちゃった、というところかしら。
 ん、と一つ大きく伸びをする。
 そろそろトリントン入港かぁ。さてあと一ふんばり、あのコたちを最高の状態で引き渡さなきゃ。そのあとは倒れて爆睡していいから。
 
 オーストラリア。連邦軍、トリントン基地。
 地球上に存在する連邦軍の大規模軍事拠点の一つであり、ハワイ基地と共に太平洋をその管轄下に置く。
 オーストラリアは1年戦争でのコロニー爆撃の爆心地であり、その大惨禍から未だに近隣の居住人口は極めて少なく、為にトリントン基地は周辺の住民感情に最大限配慮しつつ、確保している敷地面積はオーストラリア大陸のほぼ全域に及び、連邦軍本拠であるジャブローに次ぐ広大さを誇る。
 長大な射程を持つ兵装を取り回し、自身、卓越した機動、運動能力を備えるMSという兵器。誰はばかることなくその全能力を存分に発揮できる環境。トリントン基地は、各地の部隊が演習に訪れ、また実験機が持ち込まれて性能評価される、「MSの楽園」として機能している。
 そしてたった今も、新兵の訓練を兼ねた実験機のテストが進行中だった。
 実験機、「パワードジム」1機対、ザク陸戦型、「ザク2-J」3機での、異機種間戦闘、演習。ザクチームが攻撃、ジムが防御というシナリオ。
 オーストラリアの赤茶けた荒野を、4体の巨人が疾駆する。
 いや。
 軽やかに舞い、踊る1体に、他の3体が翻弄されている様子が、素人目にも明らかだ。
 口にレギュレータをくわえるスキューバダイブの装備を身に付けた、一つ目の西洋甲冑。ちなみに身長約10メートルオーバーの巨人。ザク2のイメージが伝わるだろうか。
 ヨロイを着込んだ巨人。いかにも鈍重そうだがそれでも時速100キロ以上は出ている。
 3機のザクは半円状に散開し、数の利を生かしてジムを包囲、しようとしているが巧くない。
 平原ならともかく今回設定されたこの起伏が激しい地形では、散開包囲し十字砲火を形成しようにもまず射線が通らない。なんとか射撃位置に機体を持っていこうとするが、対するジムは当然、棒立ちしてマトになってくれているワケではない。
 どちらかというと曲線を多く持つフォルムで、一つ目の巨人、という表現がしっくりくるどことなく有機的なザクに対し、同スケールでありながら機体の大部分が直線と平面で構成されているジムは大量生産大量消費の工業品、無機的な戦闘機械そのものだ。双眼でも単眼でもなく、フルフェイスヘルメットのバイザーを下げた様な無表情な頭部カメラ部がそれを強調している。「パワード」たる由縁の大容量大出力のジェネレータで駆動される背部のバックパックで機体をブン回している。オフェンス側のザクは全く追随できていない。ジムに引きずられる形で陣形を崩しそして。
「捕捉した!牽制足留めする!」
「突出するな!キース!退がれ!」
「え?」
 ひらひらと舞っていたジムが一転、獰猛な機動を見せる。ザクの射撃をシールドで受け流しながら一気に間合いを詰め。
「わああ?!」
 バズーカ発射。
 外す距離ではない、というより必中距離まで踏み込んでの文字通り必殺の一撃。キース機の胸部、コクピット少し上に着弾。死の刻印にしては不釣合いに陽気な、ペイント弾が描くパッションピンクの花が散る。
「あ~ぁ」
 ザクチームが漏らす失意の嘆きを破って。
「判定、キース機撃破。キース少尉、ライダー戦死。キース!状況終了までそこで死んどけ」
 演習を指揮する統制官、サウス・バニング大尉の声が響く。
 ジムのガン・カメラが記録した、自分が”戦死”する経緯を映像としてコクピットに転送されて来たチャック・キース少尉は抗議の余地もなく、了解、とただ一言力なく呟く。
「キース。あのバカ」
 ラバン・カークス少尉が毒付く。
「2対1か。どうする」
 とコウ・ウラキ少尉。 
「よし、仕切りなおしで挟撃だ。回り込むから援護しろ」
 了解、と短く応じながら3機で失敗したのを2機で出来るかな、とウラキは言葉には出さずに。
 バニングもまた、こいつはうまくないな、と小さく口にすると。
「命令変更。作戦変更、状況、遭遇戦、相互殲滅。復唱!」
 作戦変更、了解!。各機が応答。
 バニングは軽くうなずき、無表情に演習の推移を眺めながら、保って5分か、と弾く。
 同時に別の事も考えている。
 演習終了後のデブリーフィングでアレン中尉がそれをダイレクトに衝いてきた。
「しかしなんでいまさらGM対ザクなんですかね」
 ディック・アレン。パワードジムを駆りザク3機を瞬時に喰ってみせた。1年戦争では戦闘機パイロットとして初期から参戦、GMへの機種転換を経て激戦を生残したベテランライダー。
”1機のホンチョは10機のターキーに勝る”。空戦では数の優位が必ずしも戦力差を意味しないが、MS戦もこれに近い。
「ザク3機以上の価値がある。パワードは使える機体だと実証された。そういうことだ」
「ま、そういうコトにしときますか」
 中尉が言いたいことは判っていたが、大尉は取り合わなかった。 
 現況を踏まえるなら、やることはせめて”逆”であるべきだ。
 新型に熟練兵を乗せてザクを倒して喜ぶのではなく。
 熟練兵が操るザクに新兵が、新型、パワードの機体性能で対抗出来るのか。それをこそ検証すべきだろう。
 あるいはアレンが匂わせた通り、かつてのGMの難敵、09や14、少ないながら確実に存在するドムやゲルググを倒せるのか、をだ。
 が、それはそれとして。
 手続きはともかく、こうして戦力が増強されるのは、素直にありがたいことではある。
 評価試験と称しながら、パワードの正式採用は既定とのほのめかしは受けている。既存のGMが順次改装、アップデートされればだいぶラクにはなる。
 気に入らないこともないではないが、悪いことばかりでもない。
 懸念がないと言えばウソになる、しかしバニングは思考を打ち切った。その先は彼のような人間が立ち入る領域ではなかった。何より彼もまた、実直な職業軍人の一人であった。

 疲れていた。自覚できるほどに。
 物理的、身体的なものではない。
 そうではなく。
 必要とあらば躊躇なく振りかざしてきた錦の御旗、「ジオン再興」。
 現況に照らし合わせての常識的、現実的、実現可能性として。おそらくは無意識野に或る日、ふと生じた一抹の懐疑。
 それが、シミが広がるように拡大し。昨今は。
 無論、その大儀は軽々しく一身に背負えるものではない。
 全精力をその実現に捧げている、直属上官でもあるデラーズ・フリート総帥、エギーユ・デラーズの手腕、疑問視、疑念、などでも更にない。
 だが。しかし。
「ガトー少佐?」
「ん、何か」    
「総裁がお呼びです」
 従兵の呼び掛けにガトーは我に返った。
「……疲れているようだな、ガトーよ」
「!!いえ、決して、その様な事は!」
 デラーズは静かに頭を振る。
「無理もない。貴公には苦労を掛けた。今まで佳く堪えてくれた……」
「……もったいないお言葉を」
 ぎらり、とデラーズの瞳が光る。
「そう、今日まで善く堪えてくれた」
「閣下?」
 デラーズは叫んだ。
「我々は決起する!!」
「閣下?!」
「ジオン再興の為に!!遂にその勝算が立ったのだ!!」
「閣下!!」
 我知らず、ガトーの目に滲むものがあった。

 そう、今日この日の為に。

「バグラチオン作戦を発動する」
 デラーズは厳かに宣言する。

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