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Gun's Free

7.

 7.

「ジャルガ・ンダバル上等兵。当刻より別命あるまで月、フォン・ブラウンでの勤務を命ず。詳細については任地にて確認の事」
 はあ?!。
 当惑どころのさわぎではないわけわかめな辞令を貰ったが、軍命につき問答無用だ。
 フォン・ブラウン。かつてコロニー建造の資材供給源として、その生産、工業活動及びそれに伴う経済活動により、宇宙圏での実体経済確立の牽引役として多大な貢献を果たし、現在も月都市最大の居住人口と経済力を有する一大拠点である。
 そこに行って何をしろというのか。自分はエージェントではない、ネゴシエーターでも。MSとその周辺のパーツと取り扱いしか知らない、エンジニアでメカマンで整備兵だ。
 しかしともかく軍命だ。彼はその日にシャトルで本拠から送り出され航路上でDFシンパの貨客船に支給された偽造IDを手に乗り組み、サイド5を経由し乗り換え月へ。
 フォン・ブラウン国際宙港。降り立ち、人波に呑まれ移動しながらジャルガは何気なく辺りを見渡した。巨大で立派な施設だ。流れ行く人々にも暗い陰はない。ここには自分らの戦いとは無縁の、否無関心の、豊かな経済に支えられた安定した生活が、世界がある。
 だからなのか。自分達の身近で起こされている戦いに無関心を決め込み、この空間を世界の総てだと無条件に自分に言い聞かせて、済ませている。自分達が生きる世界そのものへさえ無関心のままで居られる。
 それは、ある意味幸せな人生なのかもしれない。だが自分は違った。宇宙作業者だった両親をその勤務先ごと吹き飛ばされて、強制的に世界と向き合うことになった。
 作業船を破壊した直接原因は軌道要素から逆算して、”ア・バオア・クー”戦時にジオン軍が撃ったロケット弾の漂着によるものと断定された。事故宙域から回収された物証が根拠だった。
 なのに不思議と、当然そうあるべきジオンへの憎悪は沸きあがって来なかった。これが連邦軍であっても何の不思議もない、とその事自体は冷静に受け止められたのはニュートラルな両親の教育とそれを許した戦時、中立を宣言したサイド6出身であるからだろうか。しかし同時に、自分とは無縁だと思っていた戦争が、「1年戦争」がいきなり自分の人生を破壊してしまったことへの衝撃は大きかった。
 人、何処より来たりて何処へ行くものぞ。
 誰でも皆、何か自分の哲学を抱いて人生を渡っていくだろう。
 自分の場合、なぜ人は戦うのかがテーマになった。具体的にはなぜ1年戦争は戦われたのかの自分なりの納得のいく究明が。
 スクールを退学し、自分もまた宇宙作業者として就業し、勤務を続けながら文献を読み、データを眺め、考えた。それは驚愕だった。現実と整合が取れない。
 自分で導き出した結論が理解出来なかった。何度も検証した。奇怪に歪んでいるのはこの世界の方だ。
 随想に周囲への注意が疎かになってたことはそうだろうがどちらでも大差無かったろう。
 前から歩いて来た男、後ろから近寄った男、隣に並んだ男。
「デラーズ・フリート、ジャルガ・ンダバル上等兵だな」
 誰何ではなく単なる確認の言葉だった。
 抵抗する意志もその余裕も無かった。両腕を拘束され首筋に何かを押し付けられ。
 ブラックアウト。

 何で僕たちここにいるんですか、と窓外に広がる虚空を指差しながら叫びたくなるコウだった。現在、「アルビオン」と随伴するサラミス級巡洋艦、「デンバー」、「タルサ」の3艦は地球の重力圏を脱し、月に昇る航路の途上にあった。
 理由はもちろん判っている。命令も受けた。「アルビオン」はGP-02追討の任を受け、シナプスも野戦任官により准将へ昇格し作戦司令官へ任命。艦載機部隊も当然、「アルビオン」へ継続配備となり、増援としてザラミス級が二隻加わった。
 むしろ、”宇宙に上がった以上おれたちの獲物だ、手を出すな!”とでもいう反応の方が自然に思えるのだがどうやらそうした単純なものでもないらしい。何より「あの”ソロモンの悪夢”だからな。びびってんじゃねぇのか」ベイトの言葉は或いは的中しているのかもしれない。
 事実はもう少し複雑だった。”艦隊組”の関心は既にDFそのものから離れ、アクシズが擁する戦力及びその動向に向けられていた。
 アクシズから艦隊が進発する、大規模な赤外反応が確認されていた。
 連邦からすると理解に苦しむ人事なのだが、まるで古代の神託政治に倣うが如く、アクシズの勢力はまだ未成年の「ハマーン・カーン」なる少女の手に依って統率されていた。電信一本でその彼女への挑発が成功したとでもいうのか、理由はどうあれ、連邦軍にとりアクシズから艦隊を引き剥がすことに成功した意味は小さくなかった。前大戦末期の”ア・バオア・クー”強襲で連邦軍は要塞と一体化した艦隊戦力との決戦を経験していた。要塞を前衛とし迎撃正面のやや後方に遊弋、戦域に向け適宜火力支援並びにMSへの整備能力を提供する艦隊と制宙権を掌握すべく展開するMS群、堅陣に防護された要塞に構築された火力拠点という相互支援体制の諸兵科連合を組む敵軍に対し、手持ちの艦隊戦力と艦載MSを逃れようのない正面攻撃で磨り潰されながらもひたすらに要塞内部へ向けた浸透突破を強行するしかなかった、それは随分と高く付いた勝利の代価として、未だ鮮明に連邦軍将兵に刻まれている悲痛な記憶であった。
 だが連邦軍にも誤算があった。
 敵は稼動全力を投入してきたようだ。そのこと自体はよい。問題はその規模だった。過大だった。それは連邦軍の推定算定戦力を遥かに超過していた。
 直ちに旧公国から徴収したデータが照合された。公国が開戦時に保有していた初期戦力と開戦後に建造された艦船、戦没艦船。結果は直ぐに判明した。おかしい、やはり過大なのだ。DFの推計保有戦力と合算しても計算が合わない。
 データの検証が進むと更に不可解な情報が確認された。観測された赤外反応を解析する作業過程に於いて、既存の公国軍艦船、ムサイ、チベ、パプア等の何れにも該当しないものが少なくない数量で確認されたのだ。
 赤外反応総数での規模の問題、未確認赤外反応検出の問題。既に結論は出ていた。アクシズには1年戦争残存戦力に加え、新規戦力が存在している。
 アクシズは造艦能力を持つ。俄かには信じがたいが、データがそれを実証していた。
 造艦、と一口にいうがその実現に当たってのハードルは極めて高いものがある。まず優秀な造艦担当技術士官、彼のプランを現実化する建造施設、建造に必要な資材とそれを生産する工業力、そして熟練工員。以上でようやく出来上がるのはただの船殻、これに機関に兵装、電装及びそれらを供給するそれぞれの生産基盤が必要とされる。しかしまだ無人だ、これに乗員を乗り組ませてやっと1隻の戦闘艦が戦力化する。だが目の前の事実、観測結果を覆すことは出来ない。アクシズがそれを実行したことに疑いは無い。
 カーンが指導した戦力整備努力は報われたといえる。その投じられた稼動全力の総量は現在、観艦式開催の名目によりコンペイトウに集結しつつある連邦宇宙軍、その半数に迫る戦力と推計されるものだった。
 コンペイトウ正面での戦力比2:1。尚、連邦軍にとり戦って負ける要素は無かったが、無駄に兵を損ねる必要も、時に追われる立場でも無かった。直ちに旧名”ア・バオア・クー”、現、”ゼダンの門”及び月、”グラナダ”に駐留する戦力の抽出、”コンペイトウ”への増派が決定された。
 これで確立される両者の戦力比は3:1。まず在り得ないだろうが敵が攻勢に出ても余裕で防御でき、もちろん、こちらからの積極的攻勢発動により敵を確実に撃破することも可能だ。アクシズ艦隊進発に発する彼ら”艦隊組”のアクシズ殲滅の意向は、既に既定事項として決断されたようであった。
 しかしここで一つの動議がなされた。
「観艦式、は如何いたしましょう」
 連邦宇宙軍作戦本部長、ジーン・コリニーはこれを一喝した。
「事は既に政略ではない、作戦なのだ。民意や世論への配慮は勝利して後で宜しい。貴官らはいつまで南米の呪縛に取り憑かれているのだ!」
 ここに、観艦式開催も正式に順延が決定され、コンペイトウ駐留戦力はその総てが作戦準備行動へと移行するのだった。

 ジャルガはハネ起き、辺りを見回した。
 全く記憶にない場所だった。どこかの公園、らしい。そのベンチに寝そべっていた。
 慌てて自身の身体をまさぐる。偽造IDはない、当然か。マネーカードは無事、あと。
 コミュニケータを見た。愕然とする。記憶が、約丸一日ぶんの記憶がすっぽりと、ない。
 連中が連邦軍警務隊であったことは明らかだった。体が震える。おれは一体連中に何をされたんだ、何を喋らされたんだ。全く記憶がない、判らない。
 おちつけ、落ち着け。おれに一体何が話せる、月に来た目的すら知らずにいるメールボーイに。だから僅か一日で開放したんだ、連中だって無制限にヒマなワケじゃない。
 コミュニケータが手の中で震えた。びびって取り落としそうになる。
 ジャルガは着任中、通信封止を厳命されていた。例え何があっても情報発信は此れを厳に禁ずる。しかしこれは着信だった。
 メールが1件。読む。
 短く簡明な内容だった。『これを読んだらコミュニケータを直ぐに投棄しろ』
 不安がないと言えばウソになるが、結局彼は素直にこの指示を受け取った。そのまま近くの茂みにコミュニケータを投げ捨てる。辞令交付と同時に支給された官給品なので個人情報は無く、別に惜しくはない。
 ベンチから立ち上がり、独自の判断で公園を出た。少し歩いて目に付いた喫茶店に入る。養分の供給は受けたのか、空腹はさほど感じない、アイスコーヒーをオーダーして少しねばってみる。それなりの客足で、ジャルガの近くにも数人の男女が通り掛るが声を掛けて来る者はいない。1時間ほど居座り、場所を変えてみるかと席を立ちかけた時に足元の小さな包みに気付いた。ストローのゴミをさり気なく下に落とし、出来るだけゆっくりと身を屈めゴミと包みを手にし、包みはジャケットの下に押し込む。そのまま席を立ちトイレに、幸い空いていたのでそのまま中に。
 その折り畳まれた小さな紙袋を開く。中に新たなIDと、真新しいコミュニケータが1基。コミュニケータを開いてみる。画面には予想通りに短いメッセージがある。
『上に行け』とのみ一言。
 フォン・ブラウンに限らず、地表面に建設される宇宙都市は大概階層構造を持つ。
 都市は安全で快適な地下に向け発達、開発される。機密、飛来物に対し安全で、空気対流的にも清潔で快適な下層に対し、入植初期に設営された上層は様々なモノが吹き溜まる旧街区として放棄されて行く。平たいハナシが不法入居者によりスラムと化す。
 上、といわれて素直に解釈するとそういうことになる。コミュニケータのナビに従い店を出たジャルガは上に向かって歩き始めた。
 エスカレータやエレベータを乗り継ぎ登り詰めると、確かに空気からして違う一角に辿り着いた。なんというか、街区全体がまるで使い古しのエアロックであるかのようだ。
 あてもなく少し歩いているといきなり手を取られ暗がりに引きずり込まれた。
 いや、それほど強い力じゃない。振りほどき、開き掛けたジャルガの口を相手の手が抑える。「静かに!」
 相手を見る。若い女だ。
「あなた、少しは気をつけて。陸に上がった宇宙作業者(スペース・ワーカ)まんまよ、目立ちまくってるわ!ジャルガ・ンダバル?」
 そうか、すまない。ジャルガは小さく頷く。
「ラトーヤ・チャプラよ」
 彼女は名乗ると、強い光を帯びた瞳でジャルガの顔を覗き込んで来た。
「私が案内する。でもその前に一つ、約束して」
 ジャルガは困惑するしかない。ああ全く、この任務は訳が判らないコトだらけだ。
「彼を、止めて。連れていかないで、御願いだから……」
 語尾は懇願に変わった。
「事情が判らないんで無責任に確約出来ないけど、努力はするよ」
 なんとなく見当は付いたが、そうとでも言うしかない。しかし彼女はそれ以上には言葉を連ねなかった。
 こっち、ついて来て。短く言い捨て彼女は先に立つ。
 随分歩かされた。というより街区を端から端まで縦断させられたようだ。
 確かにここはスラムだ。旧施設の殆どは窓が割れ落ち、随所にストリートアートが殴り書かれ、違法建築が街路を閉ざす。道行く人々も妙に眼光鋭く、顔つきにも余裕がない。
 かつて宙港施設の一部ででもあったのか。シャトルの2、3機はラクに収容できそうな面積と天井に食い込む高さのバカでかいハンガーが視界に入って来て、彼女はその作業者用通行口で足を止めた。ここが終点であるらしい。
 開けて中に入ると、暗い。広大な空間に比べ照明は余りに少なく弱い。遠くから物音がする。
「ケリィ、連れて来たよ!」
 彼女が声を上げると音が止み、静寂が空間を支配する。彼方から近づいてくる人影がぼんやりと浮かび上がる。
「DFのメンテだな。ケリィ・レズナーだ、宜しく頼む」
 差し出された逞しい手をジャルガは安堵の思いで握り返した。色々あったがつまりは整備をすればいいんだな、やれやれ。
「本部から来ました、ジャルガ・ンダバルです。それで、自分は何を弄ればいいんスか。」
 ジャルガの問いにレズナーはちょっと呆れ顔。
「ホントに手ブラで遣しやがったか。すまんが、大丈夫なんだろうな、お前」
 ジャルガは指を繰り、
「ザク、ドム、ゲルは見れるス。あと艦船系も少々手伝った経験あるッス」
 レズナーはぼりぼりと頭を掻き、
「判った、取り敢えず見てみろ。話はそれからだ。こっちだ、付いて来い」
 ぶらぶらと暗がりの奥に向かって歩き出した。ジャルガも黙って続く。

 「アルビオン」では無為な時間が流れていた。否、有為であるべく努力が払われていた。
「熱源反応感知、単位4、距離12000、方位、1-7-6!」
 シモンのインフォメーションに。
「面舵一杯、合戦準備、右砲戦、対宙MS防御!」
 シナプスが声を張る。
「面舵一杯、アイ!」
「対宙防御準備宜し!」
 右舷に防御火線を展開するべくのろのろと首を振る「アルビオン」に対し、襲来するMS隊はムリなくそのケツ目掛け喰らい付いて来る。
「なんというか、見事なまでに教本通りですね」
 嘆息するウラキに。
「見とれててどうするの!キース、援護頼むわよ!」
「了解!」
 バニングはその直援の動きを見ながら。
「ふん、切り込みはやはりウラキか。俺が遊んでやるぞ。お前らは母艦を食え!」
「了解!」
 各機、力強く答礼。
 だが、接近した反応にバニングは眼を剥く。
「なに?!」
 熱源が二つに分離。
「大尉、お覚悟!」
「騙まし討ち御免!」
 ウラキ機の熱源に隠れていたライラ機が躍り出る。
「バニング機、中破」
 判定係のスコットが平静にインフォメーション。
「隊長?!」
「ばかモンシア!」
 バニングの危機に思わず無防備に背を晒したモンシアが墜ちる。
「モンシア機、撃破」
「あーっ!キースてんめぇー、後で覚えてろよ?!」
「えー?そりゃないですよ中尉?」
 MS隊が交戦する中、アデルは一人冷静に母艦を攻撃。
「右舷機関被害増大、出力低下」
 バニング機の無力化に成功したライラとウラキは対艦攻撃を継続するアデル機を狙う。だがベイトがその射線に立ちはだかる。
「右舷、被害甚大」
 母艦直援全機からの全力射撃を一身に浴び、牽制に徹するもベイト機中破。
「よし、ビンゴだ。撤収する」
 バニングは戦場からの離脱を宣言。
「あーあ。兵隊さんたち楽しそー」
 ちらりとモニタから背後の喧騒を振り返り、ルセットは軽くため息。艦の被害状況に合わせダメコンチームも参加している。
「それはちょっと、オデビー技官、不謹慎よ、遊びじゃないんだから」
 さすがにマジメな顔でデフラは嗜めるが。
「死なない戦争は最上の娯楽だって言うじゃない、あんなのネトゲとどこが違うのよ、いい年した大人たちがまったく……ってあーまたエラー吐いたー!もういやー!このぐらいの負荷耐えられなくてどうするのよ何よこのモデル剛性低いは物性曲線ブツ切れだはでズタボロじゃないのー?!もしかしてリビルドした方が早い??恨むわよーにーなー!!」
「それはご愁傷さま。ジムカスの”魔改造”は順調よ」
「じゃ任せた。こっちはFBで手一杯よー」
 フォン・ブラウン、アナハイム・エレクトロニクス本社は未だ混乱から回復出来ずにあった。社屋には警務隊が駐在し続け、会社としての機能はほぼ麻痺状態が続いている。しかしながらその場での決定権の所在は不透明で、アナエレの意志表明が薄弱であることはともかく、軍が完全に代行しているというのとも違った。
 状況が以上の通りなのでシナプスがこれに対し、GP-01の換装と検証試験について「アルビオン」寄港及び要員受け入れ並びに作業支援の申請を行うと、双方共に困惑することになった。
「貴官には要らぬ苦労ばかり掛ける。申し訳ない」
 モニターの中でコーウェンは首を垂れた。
 ジョン・コーウェン、階級は中将。かつてレビルの配下としてMS開発計画”V作戦”並びに連邦軍でのMS戦力整備に尽力。レビル亡き後の戦後も、南米保守派に対しての改革派として軍の組織変革に勤めてきた。GP、次世代MS開発計画の計画、実行責任者でもある。その立場上、先の事件の場にも当然居合わせたのだが避難を急がなかった(道を譲った)ことが逆に幸いし傷一つ無く危難を免れた。現在は南米に現存する高官の一人として、連邦軍の軍制を維持すべく奮闘している。
 今回のこの混乱も、例の事件による影響が大きい。駐留する警務隊の現場指揮官は大佐なのだが彼にも最終決定権は無く、彼にアナエレ占拠を命じた直属上官は例の事件で戦死してしまっているのだ。情報畑の人間が何でMSの試験を見ないといけないのか不思議だが、彼も派閥構造から発生する組織力学の犠牲者の一人であったらしい。で、この大佐を筆頭に部隊は軍のヒエラルキーから切り離されてしまい宙ぶらりん。その上は情報作戦本部長になってしまいダメ元で上げてはみたが、アナエレの占拠解除に機能復元?そんなことは知らん現場で然るべく判断しろと予想通りあっさり投げ返されてしまった。そこで事態解決にコーウェンも乗り出し協議の結果。
「つまり、アナエレが太陽に投げ落とす産廃の中に01の宇宙仕様換装パーツ等が混ざってるかもしれんが、それを勝手に拾って使うのなら別に構わん、と、こうですか」
 さすがにコウもげんなりした。なんと麗しき官僚的な解決方法だ!。
 あのガトーとの交戦が高い確率で想定される以上、戦力の補強、01の宇宙対応換装は最優先事項だった。
「たー。素直にこっちに投げ上げてくれりゃいいだろうによー」
「それが出来れば苦労はない、というところですか」
「よーし!グチはそこまでだ」
 バニングが手を鳴らす。
「けっこうな初速で投げ捨てられるからな、気を抜くと本当に太陽に落ちちまうぞ、作戦のつもりで気を入れろ」
 ランデヴーによる回収実施は明朝。

 初見はそれこそ口もきけないほど驚きもしまた腰も退けたが、冷静に見ていくとそれ程のモノでは無いコトが判明し、安心した。
 要するに”枯れた技術”の集大成で、細かく見ていくと随分と雑な構造も、無駄もある。
 取り敢えず初日、じっくりと全体構造を俯瞰しその把握に自信を持てたのでジャルガは、翌日から可能な細部でのリファインも含め本腰を入れて整備に取り掛かった。もう大丈夫、鼻歌交じりである、よゆーよゆー。
 レズナーはその脇でサポートに付いている。ケリィでいい、というのでそう話し掛けた。
「こんなこと聞いていいのかな。自分はメンテなんで」
「何がだ」
 ケリィさん、は何を賭けて戦ってるんですか。
 レズナーはまじまじとジャルガを見た。
 ジャルガは手元に視線を落としたまま作業を続けている。
 愛する者の為。そして世界の平和の為にだ。そう言ったら、笑うか。
 レズナーは気負いも感じさせず、そう言った。
 ジャルガは手を止め、ケリィの顔を見た。
 笑いませんよ。真顔で答えた。
 ジャルガは視線を戻し、再び手を動かし始める。
「自分は両親をジオンの不発弾で亡くしましてね、それで世界に疑問が沸いたんスよ」
 問わず語りはジャルガのいつもだ。話題はMSではないが。
「この世界はおかしい、って」
「そいつはたいそうな疑問、だな」
「特におかしくなったのは1年戦争からス」
 いつものように、一方的に続ける。
「1年戦争の何がおかしいって」
「何もかも、その最初期から、ですね」
 彼はケリィを見た。ケリィはアゴをしゃくって促す。
 ジャルガは再び手と口を動かす。
「まずザビの勃興。ここから既に不思議なんです」
 いつからかジャルガの口調は改まったものに変わっていた。
「確かに、今のこの民主主義の御時勢に」
「独裁者が。それも一つです。でももっと本質的な部分で、奇妙なんです」
 あ、そのボードお願いします。
 ごそごそ。
「何故ザビの存在が看過されたのでしょう」
「看過?」
「そうです、連邦に、です」
 ジャルガは続ける。
「不安定化工作による敵対勢力の弱体化は連邦の御家芸なんですよ、そうやって反、連邦勢力を切り崩して個別に併合、地球を統合するに至ったって公史にも誇らしげにあります。その連邦が何故、ザビの成長を黙って見ていたのか。これが一つ」
 静寂の中に、鳴らされる小さな金属音。
「そして開戦に至る訳ですが、ここでも連邦は何の手も打っていない。戦闘艦もMSも、魔法でぽんと産まれたもんじゃない。兵器が開発され、試験され、生産設備が整備され、資材が大量生産され、編成された艦隊が訓練を行い。それを全部秘密裏に実現したと?。まさか、連邦がそれ程に無能であるなら地球は反乱続発で元の分裂状態に退行してます。では知っていて総てを見逃したと。それは何故か。これも一つ」
 ジャルガはす、と額の汗を拭う。
「人物、についても不整合が見られます。例えばギレン・ザビ」
「ギレンの、何が」
 ジャルガはまた作業を再開。
「彼のアドルフ・ヒトラーは外交だけで多くの領土を切り取り、1国を併合、7ヵ国との同盟を得ていました。対してギレンは1国との同盟すら為し得なかった。非武装のサイドを武力攻撃で殲滅したのみです。彼が通説通りに政戦両略の天才であるというなら、これは随分と御粗末な話です。そして地球侵攻作戦」
「それが?」
「ケリィさん、あなたならどう戦いますか」
 ケリィは面白げに投げ返す。
「お前さんなら、どうする」
「そうですね、私は素人ですが」
 言い置き。
「完全に制宙権を確保します、ルナ2を含めて、そして」
「ルナ2を含めて。そしてジャブローに蹴り落とす、か。完全な条約違反だな」
「条約なんて破る為にあるんですよ」
 ジャルガは平然と言い切る。
「勝てばいいんです、総てはその後の話です。何故なら」
『歴史は勝者が作る』
 二人はハモった。しばし笑い合う。
「公王暗殺でも同じです。当時の最優先事項は」
「判った」
 突然、ケリィは遮った。
「それで。お前さんが到達した結論は」
「結論、というか」
 ジャルガは言葉を切る。
「つまり、世界は連邦の都合で回ってる、てことス。それも軍の」
「そのまんまじゃないか」
「現実の構造なんてその実、シンプルなもんス」
 かーん、とジャルガは装甲を叩く。
「ザビも、それを傀儡と言うならそう呼べばいいだけのハナシ、スね。飼い犬に手を咬まれたと。これもよくあるハナシで」
 ジャルガは手を止め、強い視線でケリィを見た。
「それに。こうした事実を知って、だから戦い止まないんですよね、ケリィさん」
 ジャルガの言葉にケリィは静かに頷いた。
「世界に対する干渉が無ければ、或いは俺たちは既に恒星間世界に飛び出していたかもしれない。でもしかだがな。だが、この世界は地獄だ。俺たちは連邦に繋がれた虜囚だ」
 ケリィはジャルガを睨み返す。
「誰かが変えなきゃ、この世界に未来は、無い。そして、知っちまったからには逃げられない、戦うしかねぇ。そうだろう、同志」
 ジャルガも、頷き返した。

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