改めて鉄道ネットワーキングチーム報告を考える
JR北海道の経営危機に端を発する、道内鉄道路線網の存続問題に関しては、JR北海道再生推進会議が発表した「JR北海道再生のための提言書」(平成27年6月)を受ける形で、JR北海道から「持続可能な交通体系のあり方について」(平成28年7月)そして「当社単独では維持することが困難な線区について」(平成28年11月)が発表されました。さらに、北海道運輸交通審議会地域公共交通検討会議から、同会議の鉄道ネットワークワーキングチームの取りまとめとして、「将来を見据えた北海道の鉄道網のあり方について ~地域創成を支える持続可能な北海道方鉄道ネットワークの確立に向けて~」(平成29年2月、以下「WT報告」と略す)が発表されました。 道内の鉄道ネットワークを考えるにあたり、公的機関が示したWT報告は、重みを持つものであると同時に、その賛否如何に関わらず、思考の原点となるものであると考えます。 その視点に立脚した上で、もう一度このWT報告を読んでみましょう。http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/stk/houkokutetudouwt.pdf このWT報告に対して、道内の団体等が連名で、その見解と地域公共交通検討会議への要望(以下「要望」と略す)を、座長宛てに提出しています。要点http://www.okhotsk.biz/gingasen_net/全文http://www.okhotsk.biz/gingasen_net/sekihoku_net/wt_kenkai.pdf ここでは、WT報告のすべてを解説するのではなく、要望が指摘するものの中から、特に注視してほしい点を示したいと思います。 第一点。鉄道を守るために、まず先に何が必要か。地域の熱意・工夫なのか、それとも資金なのか。道内の場合、地域(特に市町村)にカネがないから鉄道存続に取り組めないという意見が、非常に多く聞かれます。一方、地域が鉄道存続に努力している姿勢をまず見せなければならない、という考え方があります。本州以西で鉄道存続を果たした地域を見ると、やはりそのような事例を多く見かけますし、国の鉄道存続への支援も、地域の努力の度合いを尺度としている節が見受けられます。 WT報告においても、「地域における検討を早急に開始することが必要」(14ページ)とし、地域の検討・地域の努力を求めています。 要望では、地域の検討・地域の努力を進めるために、まず最初に揃えなければならないものがあることを、明確に示しています。それが「鉄道網をはじめとする公共交通ネットワークの将来像」であり、「国による抜本的な支援」です。 やはり「カネ」が先か、と思われるかもしれません。しかし要望では、JR北海道が著しく不利益を受けている、JR貨物からの線路使用料について、並行在来線事業者が受け取る「貨物調整金」相当額の交付や、施設の老朽更新に対する経費ついて、国の責任と支援を打ち出しています。単に「カネがあるから出せ」「カネがあればできる」ではなく、責任の所在とルールを明確にした上での要求です。WT報告でも触れていますが(9~10ページ)、実際金額はいくらなのか、どのように国に要求していくのかが示されなければ、地域は努力したくてもできない(努力する矛先はどこか、地域の負担、期間等)のではないでしょうか。カネが先か熱意が先かの二者択一ではなく、仕組みを明確にすることと地域の熱意の具体化とを、同時並行で進めなければならないと考えます。 二点目。WT報告では、道内の鉄道網を6つに類型化し、その内3つについては「維持すべき」と明示したものの、残る3つ(広域観光ルートを形成する路線、広域物流ルートを形成する路線、地域の生活を支える路線)については、維持すべきか否かの判断を回避しています。 要望では、北海道新幹線札幌開業(予定)の平成42年を念頭に置き、さらに「観光立国北海道」の視点から、WT報告が類型化した6種類の鉄道網に関して、すべて戦略的に必要とされると、明確に指摘しています。 現に道内へのインバウンドの増加が著しいこと、観光は他の産業との密接な連携の上に成り立っていること、リピーター獲得のための安定した公共輸送網の確保、そして鉄道という輸送手段自体が大きな観光資源であることから、道内全体を「戦略的に」考えた時、これ以上はがす路線は無いと言いきった先見性に、敬意を表したいと思います。 そして三点目。経費負担の問題にせよ、戦略的鉄道網の活用にせよ、道内全体の公共交通ネットワークの将来像が示されなければ、個別の沿線地域で検討を続けても、いずれ行き詰まります。その結果、選択された輸送手段に関係なく、その地域だけのことを考えた「崩壊したネットワーク」の中で個別に公共交通が維持されることになれば、それはやがて、再び維持が困難となる負のスパイラルが発生することでしょう。 もっとも急がなければならないこと、そして急ぎつつじっくり時間をかけて、全道、全国の議論にしなければならないのは、まさに公共交通ネットワークの将来像の検討であるとする要望の指摘は、極めて的を得たものだと思います。WT報告でも、道の役割として公共交通ネットワークの将来像のデザインを掲げている(17ページ)のですから、運輸交通審議会として早急に取りかかるべきだと考えます。