『釣りと自分』遠い記憶・・・ 44『そうそう。鮎を初めて釣った時はどうだったの』
少しの沈黙の後に話を戻すように、僕は言った。
『そうだね。釣ったと言ったら怒られるかな? 友釣りででしょ? あれは親父に竿を持っていろと言われた時だったね。』
『良くは覚えていないんだけど、オトリを移していたのか、何か後ろでゴソゴソやっていたよ。でも、随分と長いと感じたんだ。それは覚えている。』
オトリとは鮎釣りに使う大事なモノ。いや、モノでは無いか。 鮎釣りとは大きく分けて4種類の方法があると思う。 渓太が話していた、えさで釣る方法。他にも渓流で使うような 4~5メートル位の竿で釣る方法もある。 えさ釣りはやって良い川と時期があるので注意が必要だ。 もしかしたら、渓太がやっていたのも、鮎を釣るのには、 禁止された川や時期だったのかも知れない。 しかし、子供だから許されたのか、やって良かったのかは今では調べる事も出来ない。
他には、えさの替わりに毛ばりで釣るドブ釣りもある。 友釣りしかやらない僕は、小田原の早川という川で、すぐ近くでドブ釣りをやっているお爺さんを見たときに、あまりにも釣れるのでびっくりした経験がある。 おそらく、100~200匹が釣っていたであろう。
あとは、コロガシという、簡単に言えばハリを沢山つけて、 川の中をひっぱり廻し、引っ掛けてしまうという荒っぽい釣りだ。 僕は最初に、お客さんに誘われてこの釣り方から鮎を始めた。 しかし、彼に言わせるとこれは釣りでは無いと言う。 いつもコロガシの話題になると嫌な顔をするので、きっと何か訳が あるんだろうと思う。
僕も今に思えば、ふとした事から友釣りを始めてからは、もうコロガシを したいとは思わない。それだけ友釣りというのは、奥が深く楽しいのだ。 そう、この友釣りの友というのが、オトリなのだ。 では、オトリとはつまり鮎そのものなのです。 鮎で鮎を釣る。すなわち友釣り。 なんだかおかしな話ですが、鮎の習性を利用した、唯一の釣りなのだ。 だからこそ難しく、沢山の人が嵌るのであろうと思っている。 |