Responsibility  5




放課後。 今日は図書委員の仕事があった。
先生に本の整理を頼まれる。
何も小さい俺に頼まなくてもいいのに・・・。
認めたくないけど、小さいと上の方にはなかなか届かない。
仕方なく台を持ってくる。
何となく惨め。
それも、まるでイジメか?と思うほど、戻さなければいけない本は上の方の物ばかりだった。
一生懸命手を伸ばしてみる。
「越前君。届かないの?」
図書委員の先輩が声をかけてくる。
「はい・・・。」
言いたくない返事。
その先輩はクスッと笑った。
「越前君って背が小さいね。」
ムッとする。
先輩は女なのにすごく背が高かった。
「でも、男の子だからこれから伸びるんだよね。」
そう言って先輩がその本を戻してくれた。
この感じ・・・。
デジャブ・・・?
違う。
こんなことが前にもあった。
「そう言えば・・・。」
何となく思い出される記憶。
大切な思い出・・・。




『届かないのか?』
高い所の本をどうしても台を使わないで取りたかった時に・・・現れた。
『台を使った方がいいんじゃないか?』
そう言われると余計に剥きになる。
精一杯手を伸ばす。
背伸びもしてみる。
それでもやっぱりあとちょっと届かない。
すると、横からすらりとした腕が伸びた。
『ほら・・・。』
その腕は俺の目的の本を掴むと、その本を俺に渡した。
『ありがとうございます・・・。』
本当はムッとして言う。
人の手を借りてしまった。
屈辱だった。
せっかくあんなに頑張ったのに、簡単に取られてしまった。
しかし、やってもらったことには礼を言うくらいの礼儀はある。
『・・・すまなかったな。』
その人は、俺があまりにムッとした顔をしてるから・・・。
『なっ何で謝るんスか!』
ヤバイと思った。
『お前が取るのを邪魔したな。』
ああ大人だなと思った。
言い方が柔らかい。
傷つけないように注意をした言葉。
その気遣いが出来る人なんだ・・・。
眼鏡越しの瞳が綺麗だなと思った。
『ありがとうございました。』
改めて言い直す。
今度は気持ちを込めて。
『いや、お安い御用だ。』
そう言ってその人は行ってしまった。
その人こそ、
手塚国光。
部活に入るその日のことだった・・・。




「越前君!」
急に現実に戻される。
そう。
あの日はそんな昔のことじゃない。
なのに今は遠い昔のことのように感じる。
あの人はもう居ない。
ここにも来ない。
「越前君はテニス部でしょ?もう行っていいわよ。」
「すみません・・・。」
そう言ってとりあえず図書室を出た。
先輩に言えるわけなかった。
今部活に出てませんなんて。
せっかく時間を潰せたのにとちょっと後悔する。
『手塚を苦しめないでね。』
不二先輩の声が聞こえた気がした。
テニスコートが近い。
俺は遠回りだけど反対から校舎に戻った。
苦しめる・・・?
俺が・・・?
だけどそれは・・・未来かもしれない。
確かにこのままだと・・・。
俺の今この状態を知ったら、そのせいで部長が苦しむことになるかもしれない。
きっと・・・俺は部長の居ない今をどうしたらいいか分からずに過ごしてるんだと思う。
本当はこうしなきゃいけない、ああしなきゃいけないって分かってるのに、だけどその言葉を信じきれなくて。
だからずっと迷ってる。
この姿を見たら。
きっと部長は幻滅するなと思った。
分かってるのに。
あの人が居ないと出来ない。
まるで母親が居ないと何も出来ない子供のように・・・。
改善策も何も見つからないまま。
このまま、ただ月日を重ねていく・・・。
こんな俺を見ても・・・。
それでもあの人は俺を愛してくれるのかな・・・?








鏡の部屋でまだ俺は蹲っていた。
目を瞑った。
静寂が心地いい。
闇が心地いい。
一人になって・・・なぜか気が楽になった。
あの時まではあんなにここに居るのが嫌だったのに。
だけど今はここに居たい気分になった。
『・・・りょ・・・ま・・・。』
また何処からかあの声が聞こえる。
ここには誰も居ないはずなのに。
『りょ・・・ま・・・。』
放っておいて。
『リョ・・・マ・・・。』
一人がいいんだ。
『リョー・・・マ・・・。』
「国光!」
モヤモヤとしていた声が・・・。
だんだんとはっきりして・・・。
「国光!」
それが愛しい人の声だと気づいて・・・。
「国光!国光、何処に居るの!」
急いで探した。
国光は・・・きっと助けに来たんだ。
だって、俺をここから出してくれる鍵は・・・きっと・・・。
「国光!」
やっと見つけた国光は・・・。
鏡の向こうに居た。
「国光!」
「リョー・・・マ・・・。」
「国光!・・・どうしたの・・・。」
国光は悲しそうな顔をしていた。
ふいに、国光の隣に不二先輩が現れた。
「ふっ不二先輩!」
『越前君・・・手塚は僕の物なんだよ。昔も・・・そして今も。』
「そっそんなはず・・・そんなはず無い!」
国光に同意を求めようとしたけど・・・。
国光の首は縦にも横にも動かなかった。
「国光・・・ねぇ国光返事して!」
悲しそうな顔のまま表情は動かない。
何を訴えたいのか・・・分からないよ・・・。
『まだ分からないみたいだね・・・。こういうことだよ。』
そう言って不二先輩は・・・俺の目の前で・・・国光と・・・。
「やめて!」
『・・・フフッ。』
「やめて!」
・・・キスした。
「やめて!」
何度叫んだだろう。
ずっと目を開けてなんていられなくて。
見ていたくなくて視線を逸らしても。
何も変わらない。
『・・・ね、手塚は僕のことが好きなんだよ。あの時・・・あの別れた日から変わらずね。』
俺の声が嗄れた頃・・・やっと不二先輩はやめた。
「国光・・・なんで何にも言ってくれないの・・・なんであの時・・・好きって言ったの・・・。」
『手塚は・・・国光は勘違いしてたんだよ。君が強くて・・・戦いたい相手って感情と好きっていう感情をね。今それに気づいたんだよ。君のおかげだよ、越前君。』
「何が・・・。」
『君がここまで落ちぶれてくれて、国光はやっと目が覚めたみたいなんだ。今の君には好きって感情を懐かないんだって。』
「国光・・・。」
何も言わない。
何も言ってくれない。
もう俺なんて・・・俺なんてどうでもいいってことなの?
『だから君の目も覚まさせてあげるよ。君だって・・・本当は手塚のこと好きじゃないんじゃない?』
「そんなこと無い!」
『本当に?君も相手の強さ、憧れ・・・戦いたいっていう思い・・・。それに惑わされて、その感情を愛と勘違いしてるんだよ。』
「違う!俺は・・・本当に国光のことを・・・。」
『じゃあ、なんで君は国光を手放したの?』
「手放してなんて無い!」
『手放したも当然でしょ?だから、国光は何の躊躇いも無く九州に行ったんじゃない?』
「国光は・・・国光は俺と離れる気は無かった・・・。」
『本当に?そんな風に聞いてみた?』
「・・・。」
『どっちにしても、君が国光を九州に行かせたってことは、国光と一緒に居ることよりもテニスを選んだってことでしょ?』
「俺が・・・テニスを選んだ・・・。」
『そうだよ。君はテニスを選んだ。また国光と対戦したいから・・・だから国光を九州に行かせたんでしょ?』
「・・・違う。国光なら・・・きっと腕を治してまたテニスをしたいだろうと思ったから・・・だから俺はその国光の意思に反対する理由なんてなかったから・・・。」
『反対する理由が無かった?離れるのが嫌じゃないの?』
「嫌だ・・・だけど国光は・・・。」
『何でもかんでも国光のせいにするのは良く無いよ。』
「国光のせいになんてして無い!」
『どうかな?君は離れた不幸、寂しさ、虚しさ、悲しさ・・・全てを国光のせいにしてるでしょ?』
「そんなこと無い。」
『本当に?』
「そんなこと無い!」
『また言い訳?南次郎さんに負けた時と同じように、自分を傷つけないために・・・。』
「違う!」
『何処が?』
「違う、違う、違う!」
『何処が違うの?』
「違う、違う、違う!」
本当は・・・本当は心の何処かで、不二先輩の言うとおりなんじゃないかと思っていた。
俺は初めてのこの感情を言葉に出来なくて・・・似てると思った、『恋』という言葉を当てただけ。
間違えてしまったんだと・・・少しだけ思った。
だけど・・・違う。
違うよ。
だって、国光が居なくなって・・・こんなにも不安で・・・胸が痛くて・・・悲しくて・・・胸が痛くて・・・。
恋しくて・・・恋しくて・・・。
これが『恋』なんじゃないかと思う。
だけど、初めてだから。
それを断言していいか戸惑うけど。
だけど・・・国光が好き。
これだけは間違ってない。
問題は・・・嫌なことを全て国光のせいにしてるかってこと。
それは・・・当たってるかもしれない。
無意識にそうなっている気がする。
『越前君。手塚を諦めてくれるね。』
「嫌っス。」
はっきり言う。
『なんで・・・なんでなの?僕と国光はこんなに愛してるんだよ。』
「俺は・・・国光が好きだから。」
国光の顔が反応してる。
「それだけははっきりしてるから・・・。」
『・・・国光、言ってやって。越前は君からの言葉しか信じないみたいだから。』
『・・・俺は・・・。』
初めて国光が口を開いた。
『俺は・・・不二が好きだ。悪いな越前。』
「・・・そう・・・スか。」
国光は坦々とそう言った。
俺はその場に座り込んだ。
上から不二先輩の高笑いが聞こえる。
『これで分かったでしょ?それじゃあ行こうか国光。越前には・・・。』
後ろから誰かの視線を感じた。
振り向くと後ろの鏡に悲しげな顔をした桃先輩がいた。
『桃城が居るからね。越前、君の運命の人は桃城なんじゃない?嫌いじゃないでしょ?良いと思ってるでしょ?』
「そう・・・スね・・・。」
肯定してしまっている自分。
完敗だ。
不二先輩は、国光を連れて遠ざかっていった。
「待って!」
その声は届いているはずなのに・・・振り返ってはくれない。
「待って国光!」
『桃!』
桃先輩の鏡に菊丸先輩が出てきた。
『これからハンバーガー食いに行こうと思うんだけど、一緒に行かにゃい?』
桃先輩は俺を見ながら・・・。
『・・・いいっスよ。』
当たり前の言葉。
だって俺は・・・桃先輩をふったも同然なんだから。
『んじゃ、行こっ!』
そう言って桃先輩と菊丸先輩も遠ざかっていく。
・・・また一人になった・・・。




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やっと半分を過ぎました。後半になるにつれてちょっとパニックになりそうです(苦笑)
また変な夢が出てきました。やっぱり不安になると悪い夢って見るってワンパターンかなと思いつつ。
あと、この読み難さは相変わらずどうにもできず・・・すみません。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
                                         BYノエ























                           リョ塚SS




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