知識屋
変な店がある。 看板には 『知識屋』 と書いてある。 どうやら、知識を売っている店らしい。 街の外れにある小さな店。 中を覗くと、いつも妙なじいさんが独りで座っている。 今日、A君は思い切って中に入ってみた。 店内には客が四、五人いた。 注意書が貼ってあった。 「このカセットを聴くと、あなたはの頭には100%その知識が復元されます。ただし、販売は現金で。お一人様一日一本とさせていただきます」 (へぇーっ、本当かよ・・・・でも今どきカセットとはな・・・・) A君は棚を見回してみた。 ラベルの貼ったカセットケースが、隙間なくびっしりと並んでいる。 まるでレンタルビデオ店のようだ。 (一体、いくらなんだ?) A君は目の前の「化学反応式」というケースを取って、調べてみた。 3500円。 (意外と安いじゃん。これで分かるようになるんなら・・・) ケースの裏に「効能・用法」として、注意が書いてあった。 「カセットの使用は24時間に1本として下さい。24時間以内に、他のカセットとの併用は危険ですので、お止めください。用法・用量を守れば、効果は3年間保証します」 (・・・・) A君は気になる苦手な「中学数学」の棚を覗いてみた。 「連立方程式・文章題編」3900円。 「一次関数と直線グラフ」3300円。 「平方根・式の計算編」3600円。 どれも欲しいものばかりだ・・・。 親子連れの客が、何やらもめている。 「ヒロ君、英語はいいの? あんた文法苦手でしょ? ほら、比較とか現在完了とか、あるよ」 「いいよ、時間もないし」 「一日30分ぐらい作れるでしょ。毎日テレビ見てるんだから」 「それだけで一ヶ月かかるし、また来ればいいじゃん」 「セールは今日で終わっちゃうのよ」 母親のカゴには、どう見てもすでに30本は入っている。 (1本3500円として・・・・・えっ! 10万・・・・) 奥の方にいる高校生も、10本ほど抱えていた。 「セールは本日まで。セール期間のみ、お一人様何本でもお買い上げいただけます。明日からすべての商品を大幅に値上げします」 壁に大きく書いてあった。 A君は店を出て、まっすぐ家に向かった。 家に着くと、母は台所で調理をしていた。 「母さん、10万円貸してくれない?」 「えっ、何よ? とうとう頭おかしくなった?」 「勉強で必要なんだ。一生のお願いだよ」 「何に使うか分からないで、出せるわけないでしょ。お父さんが帰ってきたら、聞いてみなさい」 「それじゃ、間に合わないんだ!」・・・・ (じいさんの独り言) 今日もまた色んな客が来た。 普段からしっかり勉強していれば済むものを。 みんな一度は学校でやったはずなのに、その時サボるからこうなる。 君は何本欲しい。 200本か。 1本1日。 買うのはいいが、時間が掛かるぞ。 親に迷惑掛けるなよ。 勉強というものは、コツコツやるのが似合っている。 楽して身につくのなら、誰も苦労しないのだよ。 さあ、次は何を並べようか・・・・。 (初出、Nov 16, 2007・・・君はこうならないことを願う)