小説ブログ 「GO!GO!花園」

2010/11/21(日)22:38

(10)兵頭探偵のご名答

夏の夜の怪談 呪われた館の望さんの巻(12)

C国Q市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるGOGO団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。 GOGO花園って何?って方は、第一回のコチラから この章をはじめから読むにはココ 更新が遅れ気味でご迷惑…はかけてないか。おかけしていたらそれはそれでうれしいです。 この巻、ほんとにあと二回!お付き合いください。  ○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●< 呪われた館の望さんの巻(10)兵頭探偵のご名答   その週末を吉田家はめずらしく、家族水入らずで過ごした。土曜の昼にはQ市の中心街の日本食レストランに行き、握りずしのセットを食べ、日曜には家族でバトミントンをして遊んだ。引っ越して以来、忙しくしすぎていたから、これからはもっと家族との時間を持とうと思う、と浩二は言った。   しかし、そんなやさしい夫の言葉も望の心には引っかかった。赤い紙の一件以来、夫はすっかりわたしがどうかしていると思っている。体調はどうだとか、ご近所さんとの人間関係はうまくいってるかなど、いままで言ったこともなかったようなことを聞いてくるし、時々こちらの顔を盗み見て何か変わったことがないかチェックしている。 精神的に病んでいると思われているのだろうか。今日の朝、ためしにわざと大きめの声で独り言を言ってみたら、それこそ幽霊にでも出くわしたかのようなおびえるようた顔をしていた。望は、どうしていいのかわからない。悩みは一向に解決していないのに、夫には相談したら違う方向に持ってかれてしまう。水曜からはまた浩二は出張だ。不安であるが、それも口に出せない。   考えた末、望は思い切って兵頭さんに相談した。急にお化けだの霊だのの話をして、兵頭さんにまで頭がおかしいと思われたら今後のQ市生活がめちゃめちゃになりそうで、一か八かの賭けであったのだが、今一番信頼できるのは彼女だ。そして、その予感どおり、兵頭さんはごくあっさりと問題を解決に導いてくれたのだった。 「ああ、それはね。ネズミよネズミ。」 「は?」 「確かに刃物沙汰があったのはこのマンションかもしれないけど、お化けじゃないわよ。それはまずネズミの仕業ね。すっごく多いのよ、このマンション。6棟の向かいの一階に住んでるインド人、知ってる?」 「ああ、あのすっごい大きいパラボナアンテナが庭にあるうちですか?知ってます。」 「そう、あそこのうちは領事館関係の人らしいんだけど、何でもインドがものすごく恋しいらしくて、あのアンテナもインドのテレビを見るために取り付けたんだって。ここの花園全体に入ってるインドのNHKみたいなチャンネルだけじゃ物足りなくって、もっインドの民放って言うの?あそこのうちのテレビはそれまで全部映るらしいわよ。インドといえばボリウッドだっけ、あの激しい踊りの映画、あそこの奥さんまじめそうだけど、以外に家ではノリノリでああいうの踊ってるのかもね。」   ああ、兵頭さんの話はどこに行くんだろう。普段から話好きで、悪気なく人のことをどうのこうの言うのが好きな人だけど、何でインド人の話なの? 「あの、それで、それがネズミとどういう…?」   望の不安そうな眼差しに気づいた兵頭さんは彼女なりの軌道修正をする。 「ああ、ごめんごめん、で、あのアンテナの横で虫干ししてるの見たことない、チャパティ用の粉。」 「チャパ…粉?」 「そう、カレー屋のナンみたいなやつ。私たちにとってはインドといえばナンだけど、インドでは地方によってはなのかな、全国的になのかな、私もよく知らないんだけど、チャパティってやつのほうが一般的らしくて。なんか、チャパティは発酵させないで作るから簡単らしいのね。」 「はい…。」   話がどんどん遠くに行ってしまう。でも兵頭さんのスピーチは普通の人の2倍速だからこっちが言葉を挟む余地がない。 「まあ、とにかくそれを作るのにあそこの奥さん、インドから1年分の粉を持って来たんだって。なんか、こっちで同じような粉が手に入るか不安になって引越し荷物に入れてきたらしいのよ。っていっても、小麦粉らしんだけど、やっぱりあれかしら、味が違うのかもね、こっちのとは。私たちにとってのお米みたいにさ。それに最近は、ほら、あの事件以来C国の食品の安全性って誰もが不安に思ってることだし。」   望はもうあきらめてってうなずきながら聞くことにした。 「そう、それで、この湿気で虫がわいたら大変だからって、時々晴れた日に虫干ししてるのよ。で、それにに誘われて花園中のネズミがX棟とその向かいのここに集まってきちゃうのよ。 もともとここはさあ、食べ物も豊富でねずみが多いし、大道りと運河に囲まれてるからねずみが出て行かないのよ。で、ねずみは増える一方で、増えたねずみがチャパティいに釣られてくるから、9号棟と隣の6号棟はGOGO花園のネズミの都ってわけ。」   ネズミの都!大量のネズミが9号棟に向かって集まってくる様を想像して、望は寒気を覚えた。ネズミ、確かにキッチンでかさこそやっている音はなんとなくそんな気もする。 「でも、壁を壁の面をなにかが横切るんです。黒い影みたいなものが。ネズミだってスパイダーマンじゃあるまいし、壁面は走れないでしょう?」 「ああ、後はゴキブリね。ゴキも粉目当てじゃないの?この陽気だからきっと大繁殖じゃない? 一回、バルサンみたいの焚いた方がいいかもよ。それで、キッチンの家具の隙間とは、排水溝は目張りしてもう入ってこれないようにするの。」   兵頭さんはゴキブリが苦手なのか、ネズミのときとは打って変わった様子で言葉少なに話をまとめるといかにも気味悪そうに、二の腕をさすった。 名探偵と言えば…C国でも人気のこの人  (つづく…) あなたの周りに話し出したら脱線しても止らない兵頭タイプはいますか?私、酒のむとそうなるかも。 にほんブログ村

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