小説ブログ 「GO!GO!花園」

2010/12/23(木)12:26

サンタクさんの贈り物 第13夜 近くて遠い国

X'mas企画 サンタクさんの贈り物(17)

 ********* X'mas企画 15days of Christmas in 花園 ******  サンタクさんの贈り物 第13夜 近くて遠い国 鈴木家はリンホンにとって初めての外国人家庭だった。初めは、どうしたものか見当もつかなかったが、心配は杞憂であった。鈴木家では、料理と一人息子の大樹の世話はたいてい奥さんの理沙子さんがする。買い物も、奥さんが大型スーパーに週に一度は行くので、リンホンは通勤の途中に市場によるくらいでよい。リンホンの仕事は、掃除洗濯と、奥さんがフラワーアレンジメントとC国語の教室に通っている間の大樹の子守だった。 鈴木家の奥さんの理沙子さんは、きれい好きで、掃除が大変であった。洗濯物も、着たものをすぐ洗うので毎日たくさんだ。基本の仕事以外の雑用を頼まれることもあった。でも、リンホンは、与えられた仕事をできるだけ早く終わらせ、自分から仕事を見つけてしっかり働いた。やっと見つけた、待遇のいい仕事を失いたくなかった。でもそれ以上に、リンホンは鈴木家、特に大樹の事が好きになっていた。 リンホンは、自分がここ数年でなんだかとても変わった気がする。田舎にいたころは、外国人など見かけることは、ほとんどなかったのに、今は外国人ばかりが住む豪豪花園で働いている。大樹を敷地内の児童公園に遊ばせに行くうちに顔見知りになった西洋人の母親が、「ハーイ」と陽気に声をかけてくる。リンホンも「ハーイ」となれた調子で答える。こんな自分を見たら田舎の父は腰を抜かすだろう。 英語に関しては、ハーイとバイバイだけだが、日本語に関しては半年の間にいろいろ覚えた。最近では、大樹と奥さんの短い会話ならだいたいわかってしまう。鈴木理沙子の家にしょっちゅう遊びに来るマギーが驚いて、「私、日本語を習いたくて色々教材を買ったけど、むずかしくてうまくいかないのに…。リンホンはたった半年で、こんなに色々覚えちゃって。あーあ、今度リンホンに教えてもらおうかしら。」などというのを聞くとこそばゆい。自分は少しでも大樹と仲良くなるために、彼の言うことを片っ端から覚えて言っただけなのに。 今は、片言の日本語をしゃべるようになったリンホンであるが、田舎にいた頃の彼女にとって日本は、遠い遠い外国でしかなかった。お金持ちの隣国、戦時の映画に出てくる悪い兵隊の国、そんなイメージしかなかった。 ああ、ちょっと待って。自分と日本との接点はもう一つあった。母がくれた、あのルゴールだ。母がくれたあのオルゴールは日本への輸出用だったC刻で生産されるもののうち、輸出用は国内用に比べて品質の基準が厳しい。その中でも、日本の業者は特にうるさいそうで、日本向けの生産ラインに入ってから仕事が厳しくなったと母はいっていっていたっけ。口うるさい日本人、映画の悪い兵隊の顔とぴったりだ、当時はそんな風に思っていた。 リンホンのオルゴールは今、鈴木家にある。間借りしているアパートは昼間、ほとんど住人がいなくなるので、空き巣が多い。リンホンは盗られて困るもの、いくつかの貴重品とオルゴールだけは鈴木家に置かせてもらっているのだ。 奥さんが習い事に出かけたある日、おもちゃが壊れてご機嫌斜めの大樹をあやそうと、リンホンはオルゴールを取り出して大樹に見せた。大樹はたいそう気に入ったようで、リンホンにせがんでは、ねじを巻いて、何度も同じ曲を聴いた。リンホンは根気よく付き合い、そんなことをしているうちに奥さんが帰ってきた。理沙子奥さんはオルゴールが奏でるメロディーを聴くとすぐ、 「ああ、懐かしい、これ日本の曲よ。私が小学生のとき歌ったわ。音楽の時間に。」 といいだした。そして、 「いま―わたしのおー、ねがあいごとがあー」 奥さんは機嫌よく歌いだした。言っては悪いが調子はずれだ。オルゴールしか聴いたことがないリンホンにも、音が外れているのがわかる。それでもかまわず声を張り上げて歌う。音痴の歌好き。きれいで料理上手で、子どもにはやさしく、何でもできる人だと思っていた奥さんの、そんな一面を知って、リンホンはうれしく思った。 明るい理沙子奥さんの具合が悪くなったのは、それからすぐのことだ。C国の建国記念、10月の国慶節明けのことだった。奥さんは国慶節の休みの家族旅行から帰ってくるとそのまま寝込んでしまい、習い事にも行かなくなった。ふっくらしていた頬が、あっという間に削げ落ちた。 (つづく…) やっと本題に入ったのか?クリスマススペシャル。 明日はイブなので、いよいよ、あの人の登場です。 ポチッと押せば、メリークリスマス! ヨーロッパでは、悪いこのところには悪いサンタが来る国もあるらしい。 さて、このサンタはどんなサンタでしょう?(押せばわかるよ)

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