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テーマ:お勧めの本(7422)
カテゴリ:大人の読書感想文
竹内浩三という詩人をご存知だろうか。正確には詩人と呼べるか 分からないのだが、竹内浩三という人は伊勢出身で太平洋戦争で 23歳という若さで戦死した人だ。彼は当時の若者達がそうだった ように、当然のように徴兵され、当然のように死んで行った。彼 が他の多くの戦死者と異なっていたのは、類稀なる詩の才能を 持ち合わせていたことだった。竹内浩三が死んだ後、家族と友人 たちの力によって、詩集が出版され、近年ようやく日の目をみる こととなった。その詩集を読んだ稲泉連という、同じく23歳と いう若い作家が、竹内浩三の生涯と作品について追い綴った作品 が、この「ぼくもいくさに征くのだけれど」という一冊だ。 竹内浩三の詩の中で、印象に残った一説がある。 「骨のうたう」 戦死やあはれ 兵隊の死ぬるや あはれ とほい他国で ひょんと死ぬるや だまって だれもいないところで ひょんと死ぬるや ふるさとの風や こひびとの眼や ひょんと消ゆるや 国のため 大君のため 死んでしまふや その心や <中略> なれど 骨は骨 骨は聞きたかった 絶大な愛情のひびきを 聞きたかった それはなかった がらがらどんどん事務と常識が流れていた 骨は骨として崇められた <後略> 戦争に行くことを嫌がっていた竹内浩三が書いたこの詩が、 一般的には反戦詩として捉えられているのだが、作者の稲泉連は 青春詩として捉えている。 僕もこの捉え方がしっくり感じた。彼は戦争を全否定していたわけ ではなく、あふれ出る詩を表現したかったのだ。恋愛をしたり、 仲間と音楽を聴いたり、人生を謳歌したかったのだ。意味すら わからない戦争で、全てを奪われることになった竹内浩三が、 その気持ちを綴ったのが、この詩になったのではないかと思った。 毎年夏になると、何かしら太平洋戦争に関連する本を読みたくなる。 それは、自分にとっての「戦争」というものがどうにも曖昧であり、 また、教科書に載っているような「平和」「反戦」という文字が 記号の陳列にしか見えず、腑に落ちていなかったので、すっきり させたいという思いがあったからだ。 この本を読んで、かなり腑に落ちた感はある。 戦争はあくまでも国や地域のイデオロギーや利権を奪い合うための 方法でしかないということ。今、当たり前のように感じている日常 の慈しみを奪われ、人を愛することも、将来を夢見ることも奪うと いうこと。そんなことが、竹内浩三の詩を読んでいて、ひしひしと 伝わってきた。 まだうまく表現できないが、自分の中で戦争というものが何である のか、少し腑に落ちた気がした。 GOLA お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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