今日のヘンな人

　知人に、女難の相が出ているらしき人がいる。特に美男子でもないし、性格が良いわけでもない（悪くもないけど）。ごく普通の若いサラリーマン、という感じの人なのに、異常にモテる。そして、彼に寄ってくる女性がことごとく、粘着質な、怨念の強そうなタイプだから、これはもう、女難と言うしかないのだった。実際、霊能者に女難の相を指摘され、お払いを受けたこともあるらしい。

　そんな彼だが、頼りになる相談相手がいる。お母さん、というほど年上ではないが、お姉さんというにもムリがある年格好の人で、水商売歴の長い美人である。

　明るく、テキパキしていて、気っぷの良い彼女は、くらーく、ねっとりした、びょーきっぽい女達につきまとわれる彼を心配して、なにくれとなく相談に乗っている。端で見ていても、羨ましいような関係だ。男女の仲でもなく、血のつながりもないのに、こんな風に親身になってくれる人がいて、彼は幸せだな～と思う。というか、思っていた、つい最近までは。

　3ヶ月ほど前、彼が突然会社をやめた。彼を知る人がみな、えええーーーっと驚いたことに、退職の理由は「起業」　何しろ、どこといって取り柄の見あたらない、特技も個性もない青年である。けっこう大手の会社に勤めていたのに、何でまた？　そもそも、起業ったって何をするワケ？　と、その話を聞いたほとんど全員が、のけぞって驚いたと言っても過言ではない。

　結局、高校時代の友達だかと組んで、デザイン事務所のようなものを作った、と風の便りで聞いたけれど、デザインだぁ？　ぜんぜん畑違いじゃん。その友達がバリバリのデザイナーならともかく、デザイン修行中の人らしい。それじゃまるで今はやりの、パソコン買ったら仕事をまわすよ、というサギも同然。本人は開業したつもり。でも仕事は来ない。残ったのは、高額で買わされたパソコンの借金だけ、みたいな……

　彼が無謀にも独立し、全然畑違いのことに手を出すことを決心したのは、例のママさんの入れ知恵だったと聞いたのは、最近のことだ。ママさんは、独立の資金も援助してあげた、という話なので、いかに彼女が彼のことに、親身になっているかが分かる、というウワサだったけれど、私はこの時点で、うーん、という気分になった。

　ママさんが独立を薦めた切っ掛けは、彼女が信心している、新興宗教の教祖さまだか、霊能者だか、何だかしらないけれど、何かと相談している人の言葉があったためだそうだ。ママさん自身、二度の離婚も、お店を開く時期なども、その教祖さんだか、霊能者さんだかに相談した結果。そしてある程度成功したのだから、教祖兼霊能者の言うことは、まあ、当たっているのかもしれない。

　起業した彼への援助は、ママさんの純粋な好意と取れないこともないが、名目上の役員として、彼から給料を貰う形式になっていると聞くと、本当に好意だけなんだろうか、とウタガイの心も湧いてくる。彼が成功するとはとても思えないけれど、霊能教祖を信じている彼女は、彼の成功を信じているはず。となると、彼にへばりついていれば、そろそろくたびれてきた美貌を頼みに、不景気の中、水商売を続ける必要がなくなる、と踏んだのではないだろうか。

　彼に女難の相があると、お祓いをしてくれたのも、その霊能教祖らしい。彼に女難があることは間違いないが、最大の女難はおそらく、ママさんだったと思われる。それを排除できなかった教祖さんには、大した力はないと言えるのではないだろうか。