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株式会社SEES.ii

2018.10.08
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ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。


―――――

 6月2日。午後23時――。

 ……気に入らねえ残業だ。……吐き気がしやがる……クソッ、岩渕の野郎……。
《D》名駅前支店の支店長である鮫島恭平は自家用車であるシーマの運転席からイライラと
しながら外の様子をうかがった。
 鮫島は岩渕の命令――というか頼みをきき、とある人物を大須駅まで呼び出し、そのま
ま岩渕の待つローズコートホテルまで案内する依頼を引き受けていた。大須駅は若い男女
や外国人でごった返している。鮫島のいる駅前のターミナルも、商店街へと繋がる道も、
大通りも、幹線道路も、人々の群れでいっぱいだった。
 
 シーマのすぐ近くで口論をしている若いサラリーマンたちがいる。会社を辞める、とか
辞めない、だとかの押し問答をしているらしかった。そいつらはそれぞれに不安げな視線
を交わし、周囲を気にせず語り合い、しきりに何かを互いに訴えていた。
 鮫島も何度か岩渕を説得しようと訴えた。一般論を説明し、川澄のことは放っておけ、
考え直せ、と言った。けれど夕方に外で会った岩渕は――『もう決めたことなので考えは
変わらないから、鮫島さんは例の知人を呼んでください』という意味の言葉を繰り返すだけ
だった。

「……断る、べきなんだろうな……断り切れなかった俺様も同罪か……岩渕の野郎……」
 鮫島は声に出して呟いた。もしこれが澤社長にバレたら、俺はクビになる可能性が高い。
伏見の姫様を利用して成り上がろうとしている社長にとって、岩渕は死ぬまで手放せない
金脈だ。そんな男を、男自身の願いだからと言って葬る手伝いをしたとあっては、鮫島も
タダでは済まない。

『……お願いします、鮫島さん』
 困惑する鮫島にそう訴えた岩渕の目は真剣だった。そんなにも真剣に自分に何かを語る
者の目を、鮫島は彼女以来――伏見宮京子の出現以来ぶりに見たような気がした。B型
肝炎で生活のほとんどを病室で過ごす息子に『必ず治ります』『必ず良くなります』と
訴え続けた姫君の目。それを思い出した。

「……善人ヅラしやがって……どうなっても知らねえぞっ……」
 吐き捨てるかのように言い放ち、薄く笑い、また思う――。
 ……俺も同罪、同類、か。
 心の中で本音を呟く。そこに――シーマの助手席のドアをコンコンと叩く、黒縁の眼鏡を
かけた男が現れた。左手には巨大なトローリーケースの取っ手を握っている。
 鮫島が何らかの反応や態度を示すよりも早く、男は助手席のドアを素早く開き、「久し
ぶりだな、鮫島」と低く言った。
「ああ……久しぶりだな……《偽装屋》」

 鮫島は助手席に座る男と目を合わせた。鮫島はこの男についてほぼ何も知らない。せい
ぜいが自分と同年代であるとか、請け負う仕事の内容ぐらいしか知らない。
「……電話で話した通りだ。今のところ、変更はない」
 できるだけ穏やかな口調で鮫島は言った。特に恐怖や緊張などはしていない。けれど、
かつて、この男の仕事の手伝いをしていた時のことを思い出すと、背筋が凍りつくような
思いがする。……できることなら、できることであるならば、生涯、もう二度と、会いた
くはなかったが……。

「……契約書の内容なんだが……できれば……そのう……」
 岩渕への情が抑え切れず、奥歯を噛み締めながら鮫島は言った。「……頼む。少しだけ
手加減して欲しい」

「……ダメだ。3億のカネだぞ? 返済能力が低下した瞬間、カンボジアに連れて行く。 
健康体のうちにバラさないと価値が下がる。それぐらい、お前も知っているだろ?」
 男の声には何も無かった。
 感情も、抑揚も、憐れみも――何も感じられはしなかった。
 
 ……やはり、社長に一言相談するべきだった。
 闇の商人――日本各地の地下で暗躍するそいつらの商売道具は多種多様であり、全容は
公安組織でも解明されていないとされる。ある商人は銃火器を扱い、別のある商人は違法
薬物を売買し、またある商人は若い女と子供を売買する。
 そして、《偽装屋》の扱う商品はふたつ――保険金詐欺の斡旋と、臓器の売買――。

 ……岩渕も何らかの策は用意しているとは思うが……大丈夫か? まさか、何のアテも
なく《偽装屋》からカネを借りるってワケじゃあ……ないよな?
 汗ばんだ手でシーマのハンドルを握り締め、鮫島はゆっくりとアクセルを踏んだ。
 後悔していた。どうしようもないくらいに、後悔していた。

―――――
 
 ……茶番だ。

 ホスト役の男が「――では、《カーバンクルの箱》っ! スタートは100万円からで
ございます」と言って頭を下げた瞬間――……茶番劇は始まった。

 母の順子が私を伴って川澄の席のすぐ隣に立つと、それを合図に待ってましたと言わん
ばかりに、人民服の男が「1億4千万っ! 8番っ!」と叫んだ。
 そう。茶番なのだ。川澄の限界額などとうに調べがついている。私は小さな息をひとつ
吐き、母の様子を伺った。
 母は驚いたように目を見開く川澄の顔を見つめ、しばらくニヤニヤと笑っていた。それ
から、川澄の席の脇にしゃがんで、「気分はどうだい? アンタの父親と母親は、こうい
うふうにアタシから大事なものを奪い続けたんだよ?」と訊いた。
「……時間もチャンスもくれないってワケか?」
「ええ。悪いけど、兄さんの負けね」
 瑠美の返答を聞いた順子が、突然、「ざまあみろっ!」と叫んで笑い出した。隣にいた
瑠美も母につられて笑みがこぼれた。

「……はじめから、僕をコケにするためだけに?」
 川澄は声を震わせ、殺意すら感じられる目で順子を睨みつけた。けれど、母は笑うのを
やめない。だから私は母に、「……母さん、あとは警察の方々に任せましょう? そこの
バッグに詰まっている現金はどうやって集めたのか? キチンと通報しないとね……」と
言った。「……一生、刑務所から出て来られないように、ね?」と。
 
 母は、笑い続けている。
 瑠美の合図で駆けつけた何人もの警備員が、川澄の腕や肩を取り抑えている瞬間も――
 血の気が引き、顔が青ざめ、頬がピクピクと痙攣しだす川澄の顔を見ている瞬間も――
「やめろ……手を離せ……」力なく呟く川澄の瞳に、強い恐怖が浮かびかけた瞬間も―― 
 母は、笑い続けていた。

 ねえ……どうするの? 岩渕さん。
 瑠美は心の中で、川澄の隣に座り、そっと目を閉じた岩渕の顔を見つめて訊いた。
 そして――……
 ……えっ?
 ……ええっ? ……何?
 次の瞬間――岩渕の行動に、瑠美は驚きの声を上げた。
「……嘘だ。そんなワケがない……そんなこと、あっちゃいけない……ありえない……
ありえないんだよ……岩渕……」
 岩渕は右手を握り締め、拳を天に掲げ――チャペル全体に響き渡るかのように、叫んだ。

「――1億5000万っ! 14番だっ!」

 信じられない。あまりにも、信じ難い行動だった。
 チャペル内がどよめき、招待客がザワザワと騒ぎ始めた。
 よくよく凝視すると、岩渕の背後の席に見知らぬ男がふたりいる。ふたりは列に並んで
座り、背後から巨大なバッグを手渡しした。……片方の男の正体は知らないが、もう片方の
男は知っている。《D》名駅前支店長の鮫島恭平だ。
 
 掲げた拳を下げた岩渕に、鮫島は、「……悪いがよ、招待状がねえもんだから、ワイロに
お前のゼニ、少しだけ拝借したぜ……恨むなよ」と、背後から囁いた。
 ワイロを貰って不審者を通したクズの話など、今となってはもう、どうでもいい。

 やはり、彼は普通の……今まで私が出会ってきたどの男たちよりも、違う……。正論だけ
を言い放ち、緊急事では糞の役にも立たない若い社員……私や会社を騙してカネを奪おうと
した投資詐欺の男……私に対してセクハラとパワハラを繰り返し、私が社長の娘とわかると
とたんに掌を返して媚を売る執行役員の男……経営能力も無いくせに私に求婚し、《R》を
乗っ取ろうと画策した子会社の社長息子……私の脚や胸や顔を、まるで品定めするかのよう
に見つめる成金のIT企業の社長たち……記憶力に乏しく、自意識だけが肥大し、下劣で、
下品で、愚かで、たいした努力もせず、たいした能力もなく、ただただ毎日の性欲と食欲を
満たすためだけに生きているような――そんな無数の、そんな無限に湧いて出てくるゴミの
ようなカスどもとは――……
「……違う。明らかに、違う」
 瑠美は声に出して呟いた。間違いはなかった。
 

 動揺する警備員の腕を振りほどいた川澄が叫ぶ――笑いながら、叫ぶ。
「――あははははっ! 愛しているよっ! 岩渕さんっ!」

 あっ、何?

 突然――瑠美の胸が猛烈にときめいた。
 そう。川澄の歓喜の叫びと同時に、瑠美は確信した……いや、確信しかけていた。
 もしかして私は……岩渕さんのことが……好き、なの? なぜ? ……愛している?
そんなハズはない……でも……かもしれない……この気持ちは、何? ……これは? 
この胸が張り裂けそうな気持ち…………これは……何?
 高瀬瑠美は理解しようとしていた。
 何かが――女として何か大切なものが、今にも生まれ落ち、産声を上げそうだった。

 ……兄は、愛されていた。父に、その母親に。そして、岩渕も兄を助けた。……私は?
私も……私のことは? 私を……助けてくれる人は? ……いるの?

「――1億5500万っ! 8番っ!」
 取引先の筆頭候補である華僑の実業家が叫んだ。だが、それだけだ。何の感情も、何の
思いも、湧かない。湧きやしない。
「……1億6000万。14番」
 岩渕がゆっくりと挙手をし、宣言した。
 彼に……助けて欲しい?
 彼に……守って欲しい?
 もしかして……私は、誰かに……例えば――岩渕さんに……愛され、たい?
 心の奥底で――私は私に、何度も何度も同じことを問いかけた。


「别调戏! 没听这样的展开的!(ふざけるなっ! こんな展開は聞いてないぞっ!)
……1億7000万っ! 8番だっ!」
「……1億8000万。14番」
 瞬時に岩渕が値を上げた。
 岩渕が鮫島に持参させた現金はいくらなのだろう? 2億? 3億? よくわからない。
何にしても相当なリスクで……命の危険さえ感じる額だ。つまり……。
 ああっ。
 再び心臓が飛び上がった。
 川澄が何事かを騒ぎ、母が不安げな表情で私のスーツの袖を掴み、チャペルの会場が異様な
雰囲気に呑まれようともしていたが――気にはならなかった。
 私の心臓は息苦しいほどに高鳴り、全身の毛穴が汗を噴き出す。眩暈がする。口内が渇き、
唾を飲み込む。
 ……死ぬ気なんだ。……この人は死ぬ気で、あの兄を助けようとしているんだ。
 死ぬ? 死んで、消える? 岩渕が死んでしまったら? 消えてしまったら?
 もし、そんなことになったら……この気持ちは、この気持ちの正体は永遠に謎のままだ。
 瑠美は思った。そんなことを思うのは、考えるのは、生まれてはじめてのことだった。 


「……1億9000万だ。8番。……もう諦めろよ、日本人」
「2億。14番」
 オークションは続いている……。

―――――

 6月3日。午前0時――。

 オークション会場に招待された客たちの腕時計の針が午前0時を指すと同時に、とある
伝説上の獣の名を冠した宝石箱の落札者が決定した。
 オークション開始とともに《箱》の値は億を超えたが、その後は中国人の富豪と日本人
サラリーマンの一騎討ちとなる展開を見せた。値段の吊り上げは500万から1000万
単位で進行し、値が2億となってからは500万以下の入札が続いた。
 招待客たちは驚いた。なぜなら、競りの対象である《箱》は、主催者側から『せいぜい
1000万円程度の品』と紹介されたからだ。
 正体不明の《箱》が、どうして億を超える価値があるのか? それは値を競る中国人と
日本人と出品者しかわからない。招待された客たちは、その異様なやりとりが繰り返され
る光景を呆然と見つめるだけだった。

 中国人の声が次第に小さくなり、比例して競る単位も減り続けた。もはや闘志などあり
得なかった。たとえ落札に成功しようが、何らかの損害を被るのは避けられそうにないの
だろう。死ぬ気で《箱》を競り落とす気も、最初から無かったのかもしれない。

 招待客たちは、どこからともなく莫大な現金を用意した日本人のサラリーマンを見た。
「……番のお客様、最終落札額は2億5000万でございます」
ホスト役の男が落札を決定する鐘の音を鳴らす。まばらだが、会場からは小さい拍手と、
感嘆の息が漏れた。
 そこで初めて、その日本人がカネの単位以外の言葉を口にした。招待客の多くは日本語に
精通してはおらず、男が何を言っているのかがわかりずらかった。しかし、別に自分たちに
対して無礼なことを言っているわけでないことは理解できる。
 
 落札したのは、日本人のサラリーマンだ。その男は、こう言った。


「……高瀬社長、瑠美さん。そして……川澄。《カーバンクルの箱》を手に入れたのは、
俺だ。お前らじゃない……この俺だ。ルールは守るんだろ? なら……最後の取引だ」

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 i(最終話)に続きます。















本日のオススメ!!!  Guiano(ぐいあの)氏……。

 Guiano(ぐいあの)氏。以前もツイやブログで紹介させていただいたと思いますが……
元々はニコ動でボカロ作曲のP。flower(子供のような声)使いの中ではトップクラスのP、
だと思う。
 抒情的な歌詞であり、洋楽風、かつエモい。ボカロでは難しいバラードも抵抗なく聴かせる
力がある。…歌詞がワンパターン化しているフシも見られるが、メロディと歌詞が常に斬新で
あるため、気にならない。間奏も長いな……作詞にはあまり時間をかけたくないのかも? 



 Guiano氏参加の楽曲……。





 雑記

 お疲れ様です。seesです。

 実は……引っ越します。
 かねてより会社から打診があったものの、この度、ついに決定してしまいました。
 行き先は……三重県、松阪市デス。
 元々よく出張に行っていたのですが、この際だから「異動しろ」と命令されて💦
 その引っ越し準備やら何やらで時間を食ってしまい、更新も遅れ、SMSなど何も手に
つかない状況でした。少しですが、更新がまた遅れそうです。ネット環境も整えなければ
ならず、生活用品も買い揃えなければ……。(家具家電つきの家ではなく、単純に何もない
マンションを社宅として賃貸します。……めんどい。

 てことで、次回が最終回です。なるべく早く作りますので……。
(最終回前だからかもだけど、ちょっとつまんない。最終回はずっと構想考えていたもので
変更はないけれど……)。箱の正体は? 瑠美さんと川澄は――どうなる? まて、次回。

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓





 好評?のオマケショート 『思えばこの時、会社ではとある陰謀が……前編』


 sees 「次――運転交代しろよ」
 後輩 「……俺~高速の運転苦手なんすよね~……」
 sees 「……知るかい。せめて鈴鹿まで走れや(何でこいつ、営業に就職した?)』

     そう。松阪へ出張だ。
     しかし、seesは知らなかった。これが本社勤務最後の出張になろうとは……。

 後輩 「seesさん、眠くなっちゃいました~……交代してくらは~い……わからん
 sees 「……まだ四日市じゃねえかよ。(松阪まであと2時間くらいか……クソッ)」

     ヘタれな後輩を助手席に乗せ換え、seesはハンドルを握った。
     しかし、seesは知らなかった。これが愛するバネットとの最後の旅になろうとは。

 後輩 「でも~、seesさんて結構、松阪に出張行ってますよね……何でスか?」
 sees 「……(そういえば、そうだな。最近になってなぜ?)」

     命令、だから。と納得するのは簡単だ。しかし……確かに回数が増えている気は
     する。……まさか。

     2日後。

 後輩 「いんや~ダルかったすね~seesさん。手伝いやら研修やら、最悪すよ。早く
     帰りたいっすほえー
 sees 「……ああ(いつも通りの出張内容だ。もしかして、とは思ったが、やはりワシの
     カン違いやったか……)」

     だが――……。
     帰り際――……。

 所長 「ああ~……sees君、来月も(から?)ヨロシクねピンクハート
 sees 「……?」

     松阪事業所の所長、最後の言葉はいったい――?
     ま・さ・か?

     ………
     ………
     ………

  後輩 「……あ゛ー運転ダルいすわ。パイセン~、運転お願いしますぅ~あっかんべー
     まさか、まさか、まさかね……。

 後輩     「seesさ~ん、聞いてますぅ?」
 sees   「うるせぇぞっ!!怒ってる 運転の練習やっ!失敗 愛知入るまで運転せぇやっ!!ぷー
 後輩   「ひぇ~~ショック

     まさかね……。
 

                            つまんねー話、でも、続く。



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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Last updated  2018.10.08 08:33:20
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