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株式会社SEES.ii

2018.02.16
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カテゴリ:ショートショート

ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
―――――

 玄関の扉を開けて家に入る。すると――それまでリビングの方で聞こえていた夫と義父と
義母の話し声や笑い声で賑やかだった家の中が、一瞬にしてシンと静まり返る。
 ――静寂……いや、これは沈黙だ。
 それから、壁ごしに伝わる視線。
 私は無言のまま、足元だけを見つめて2階の自室へと向かう。

 いつからそうなってしまったのかは、覚えていない。たぶん、結婚してから数年は経って
からだと思う。優しかった夫は私と話すことをやめ、笑顔を消した。義父や義母は、まるで
私の存在などはじめからいなかったかのように――私を無視した。
 どうしてそうなってしまったのかは、わからない。どれほど考えても、どれほど努力して
みても、解決はできそうになかった。

 私は愛知県の動物愛護センターに勤めていた。犬や猫や鳥が好きで、それならばと選んだ
職場であった。
 動物愛護センター――とても楽しい仕事ではあるが、同時に――とても悲しい仕事でも
あった。狂犬病などの感染症、保護期間の満期……様々な理由で殺処分される動物たちを
施設内のガス室へと送る時、私は……彼らの声を聞いていた。もちろん、彼らが人間の言葉
を喋るわけではない。けれど、彼らの声は繊細で……儚げで……悲しくて……切なくて……
苦しげで、今すぐにでも心臓が止まってしまうような……それでいて、どこか熱っぽく……
何だか人間の感情表現に近い声だった。
 熱……感情……?
 そう。自らの死の運命を、彼らは知っていたのだと思う。

 死の運命を知った時、彼らは何を思うのか?
 悲しい? 辛い? もちろんそれらはあるのだろう……。
 いや……私は彼らではないのだから、彼らの心中など永遠にわからない。
 そう――。もしも、仮に、万が一……それが私であったならば……――
 ――……思うことは、ひとつだけなのかもしれない……。

 証明のできない考えを頭の中で巡らせながら――私は階段を上っている。階段の先に
ある窓の隙間から射す、満月の月光が、足元を照らし――私は何気なく顔を上げた。
「あっ」
 そこには、見知らぬ若い女が立っている。あまりに突然のことであったためか、瞬間、
私の脳はパニックに陥った。一段下がり、「……どちら様ですか?」と言った、その時――。
 その時、若い女は、両手で持ち上げた何かを……黒い、金属の塊を……私の頭上に……
私の脳天に……叩き下ろした。
「えっ?」
 悲鳴を叫ぶ前に意識が飛びかけ、バランスを崩し、そして……長い髪をなびかせながら、
私は――転落した。直後、意識を失う前、階段上にいる若い女と目が合った。闇に隠れて
顔の細部までは見えないものの……女は、口角をぐにゃりと曲げ、目尻を歪め、頬を吊り
上げた。そう――女は笑っていたのだ……。
 瞬間、私は自分がなぜこんなメに遭うのかを理解した。そして――『死の運命』を知った
者が何を思うのかを、再び、強く、理解した。
 思いを口に出そうとした直前に――首が背骨か、もしくは両方の骨が折れる音が聞こえ
……直後に――私は闇の中に消えた。


 私の命はそこでブツリと切れている。だけど、私は知っている。私をこんなメに遭わ
せたのは誰か、何の目的だったのかも……知っている。いや、そんなことはどうでもいい。
たとえわからなかったとしても、別に、いい。どうでもいいのだ……。
 大切なことはひとつだけ。私が殺処分した動物たちの声の意味……それさえ理解できた
のならば……構わない。それだけで充分、私は私の人生に満足した……。

―――――

 真っ暗な闇の中を歩く。歩く。歩き続ける……。
 そこは海溝を思わせる深い闇の中だった。私は歩き続ける。感覚はない。脚が勝手に
動いているのだ。嗅覚もない、聴覚もない。触覚もない、けれど、歩いているという思い
だけはわかる。
 一瞬、チラッと、光の粒が顔の前を横切っていくのが見える。
 私は直感した。まるではじめから、生まれた時から知っていたかのように――直感した。
 そうか……これが、この光の粒が『生』の世界……。
 今、自分が歩いている世界こそ『死』の世界で、『死』の世界に漂うほんの小さな光の
粒が『生』の世界なのだ……。体の大きな自分では『生』の世界に入れない。指一本入れる
ことすらできない……。そう。自分は死んだのだ……。だから私は歩いた……歩いた……
歩き続けた……いつか、自分が入れる『生の光』を探して……。

 
 そして……奇跡は起きた。
「……アンタに朗報がある……まぁ、たいしたコトはシテやれないがな……」

 それは――『生』と『死』の境目の、とても小さな隙間に住む者たちの声……。彼らは
『生』を終えた時、『生』にこびりついた残滓のような者たちだった。残滓は『生』と『死』
の両方の世界を行き来でき、『生』の世界では『幽霊』だとか、『幻』だとか、『錯覚』だ
とか、『夢』だとか、『気のせい』だとか呼ばれていた。
 ――その残滓が、彼女に奇跡をもたらせた。

「……これまでの汚れ仕事……ご苦労様。アンタみたいな立派な人間……そうはいないよ」
 私は返答しない。したくてもできない。残滓が私に言う。
「……10秒間やる。その間、アンタの声と姿を『生』に戻してやる……」
 ――それだけ?
 残滓は私の心の声を聞いたかのように、言う。嬉しそうに、言う。
「贅沢言うな。アンタ、事故に偽装されて殺されたんだろ? 家族ぐるみでさ。そいつら
何とかしたいとか思うだろ? なら警察にでも化けて出て、真相話して来いよ。案外、
再捜査してくれるかも、だぞ?」
 ――……ああ、そうか。私、殺されたんだっけ……。でも別に、恨みとか、無いし……。
 残滓は饒舌だった。誰かと話したくて仕方ない、という印象だった。
「はあ? ならアンタ、好きなヤツは? 別れの挨拶でもしたいとは思わんか?」
 ――……別れの挨拶?
「そうだ。よくあるだろ? 『余命一ヶ月の花嫁』とか『おくりびと』とか『黄泉がえり』
とか……そういうコトしたいとか思うだろ?」
 ――……挨拶がしたい?
 そう、なのかもしれない。私は……忘れかけていたのだ。彼らの言葉を……彼らの言葉の
意味を……。
 そうだ。私は思った。彼らの言葉の意味を、『生』の誰かに教え、伝えねばならないのだ。
それが彼らの希望であり、宿願なのだ。もしかすると私は、その使命を彼らに託された?

 目の前を飛び回る光の粒に向けて、私は腕を伸ばした。筋肉ではなく、脳内でイメージ
するように――残滓は嬉しそう笑うと、小さな声で囁いた。
「姿と声を10秒間だ。その間は何にも触れられねえし、触られねえ。わかったか?」
 ――……うん。
「まずは場所を指定して、化けて出る時間を指定しろ……時間指定はサービスだぞ?」
 ――……ありがとう。
 顔の筋肉が勝手に動く。
 たぶん、私は今――微笑んでいるのだろうと思う……。

―――――

 犬たちはこの女の姿を見ても脅えはしない。またいつものようにマズい飯を持って来てくれ
たのだろうとしか考えてはいないのだろう。……手慣れたもんだ。残滓は安心して、様子を見る。
「……あなたたちの思いを、少しでも誰かに伝える方法を思いついたの」
 犬たちは真剣に耳を傾け、聞いていた。自分たちの思いが少しでも……少しでも報われる
こと……らしい。正直よくわからんが……何かあるのか?

「今日のお昼ごはんは少しだけ残しておいて。そして夕方のチャイムが鳴ったら、残した
ご飯を咥えて、あの――少しだけ開けてある、鉄格子の窓の近くに放り捨ててみて……
それで、あなたたちの思いは少しだけ報われる……。ずっとあなたたちの面倒を見ていた
かったけど……ごめんね……ごめんね……」
 
 ――10秒が経過した。


「…………?」
『死』の道を再び歩きはじめる女の後ろ姿を、残滓は口を開けて呆然と見送った。殺処分前の
犬や猫なんてどうでもいい。そう思う、そう思っただけなのに……。
 そう。残滓はその身に――強烈な悪寒と、凄まじい戦慄を感じていた。

―――――

 夕方5時を知らせるチャイム鳴り、動物愛護センターにも流れ聞こえた。
 犬たちは残した餌を咥え、窓へ放り捨てた。
 窓辺で佇んでいたオナガが、飛んできた餌を口バシでキャッチして飛び立った。
 餌を咥えて飛ぶオナガを狙い、カラスが滑空した。
 滑空するカラスを見て、野良猫が住宅街で脚を止めた。
 住宅街を走っていたスクーターに乗る少年が、野良猫の出現に驚いて転倒した。
 転倒したスクーターと少年からいくつもの荷物が散乱し、道路上にバラ撒かれた。
 砕けたサイドミラーを拾うサラリーマン。
 タブレット菓子を拾う子供。
 財布や小銭や鍵を拾う少女。
 ノートや文房具を拾うOL。
 転倒した少年を助け起こす、中年男性やカップルの男子高生や女子高生……。
 
 ほんの些細なことで、ほんの少しだけ運命がズレた人々は、それぞれの道へ、それぞれが
歩きはじめた……。どこかの、何かの、得体の知れぬ思いを背に乗せられて……。

―――――

 数日後――。
 女が最後――檻に囚われた犬猫たちに伝えた挨拶がどうしても気になって、残滓は再び
『生』の世界へ意識を飛ばした。そして――信じられないものを見てしまった。
 

 あの女の夫は……緑区の大高緑地の森の中で見つけた。瞬間、残滓は声を失って後ずさり
した。
「うっ……こりゃあ、ひでぇな」
 雑草の上に全裸で転がる――それは死体だった。
「ありえない……そんな……」
 恐怖に打ち震えながら夫の姿を観察する。地面に横たわった夫の遺体には目玉がなく、
苦痛に顔を歪めている。刃物か何かで腹を裂かれた痕があり、胃や腸がだらしなく雑草の
上に垂れている。全身に肉が削がれたようなキズがあり、肉片と血でそこら中がおぞましく
汚れていた。
 ……生きたまま、動物に食われた?
 そう。間違いない。あの女の夫は死んでいる。それも生きたまま、文字通りの生贄にされ
たのだ……。


 あの女の義父と義母は、港区の廃棄された商業施設で見つけた。その、あまりにも強烈で、
あまりにも残酷な死に方に――残滓はガタガタと震えて息を飲んだ。
 商業施設に残された下水の浄化槽の中……汚物と汚水の溜まるマンホールの中に、ふたりは
閉じ込められ……400キロある蓋をこじ開けようと必死にもがき、のたうち回り、何日も何日も
苦しみ続け、やがて――力尽き、絶命していたのだ!


 あの女を殺した実行犯は……正確には夫の不倫相手である(あの女は最後まで知らなかったの
かもしれないが)彼女には、さらに残酷な仕打ちが用意されていた……。
 彼女を見つけたのは昭和区の第二赤十字病院の病室、もちろん患者として、である。彼女の
カルテをのぞき見て、残滓はたじろいだ。あまりにも冷酷で、あまりにも理不尽な仕打ちに、
残滓はただ、ただ――たじろいだ。
 彼女の病名は『原因不明』、症状は『重症心身障害者』……介助なしでは動くことも、食べる
ことも、触れることも、喋ることも、聞くこともできぬ重度の障害……脳機能は著しく低下し、
肺炎気管支炎も併発。死ぬまで、24時間、生涯――苦痛と絶望を強いられる運命……。


 ありえない……あの女、まさかそこまで計算して、あの『挨拶』を? 嘘だろ……?
いやいやいや、あの女は遺族や犯人に恨みは無い、と言っていた……。なのに? どうして?
どうやって? ……理解できねえ。いや……理解なんてしたくねえ……。


 翌日、残滓は『生』の光を完全に抜け、『死』の道を歩きはじめた。
 その事実を誰かに伝えることはしなかったし、伝える相手もいなかった。
 残滓が何を思い、何の結論に至ったのかは、誰にもわからない……。

―――――

 右投右打の元プロ野球選手が、死後、左利きであった可能性が高いと医師に診断された
事例がある。アフリカで生まれた黒人男性が、死後、白人男性と同じ遺伝子色素を有して
いたとされる研究レポートが残っている。もしかすると、死後に開花する才能や能力は
存在するのかもしれない。
 けれど、もはや、それを確かめようとする者はいなかった。ただ――『死』の世界には、
予知のような力を使い、たったの10秒で4人を抹殺できる能力を開花させた者がいるの
かもしれないし――『生』の世界には、残虐非道な方法で人間を殺したいと願う動物たちが
いるのかもしれない……。

 
 確かなことがひとつだけ、ある。
 そこにはただ、闇の中で『生の光』を探す女と、ペットのように横を歩く小さな小さな
残滓の影が、ゆっくりと歩き続けているだけだった……。
 
―――――

                                 了











 
 本日のオススメ!!!
 酸欠少女さユりさん……。

 つい先日新曲配信されたので試聴……うん。相変わらずのイカれた娘っぷりですね。
 スタイルも顔もseesの好みではないし、言動のイカれ具合も好きではない、が、何でで
しょうかねえ……彼女の歌と歌詞にはどこかパワーを感じますね……。歌詞もまるっきり
意味わからんのですが……。オススメです。

           上から新曲の『月と花束』『ちよこれいと』『ふうせん』の3曲。



 一応、『酸欠少女さユり』、載せさせていただきます……。
   



 お疲れサマです。seesです。
 単発ショート復帰1作目、いかがでしたかね。今回は完全オリジナルですが、中身は
『ファイナルディスティネーション』のオマージュ的な品になってしまったス。
 これは去年の12月頃に下書きを済ませていたので、あんまり苦もなく作れました。
制作時間は7時間くらい……かにゃ。内容はまずまずですが、固有名詞のチョイスに
苦労したwwかなり自己満足作。ちとファンタジーすぎたかも、理解不能でしたらゴメン。

 トータル70点くらいかな(笑) やっぱ楽だなーー、ショートはww

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓





 好評?のオマケショート 『死か、自腹か、』

 sees   「なんてっ、たって~アーイドール🎵不倫は文化よ~🎵フッフ~🎵」
       
       とある日。今は亡き?アイドルの名曲を口ずさみながら、seesは港区から
       中区市街地へ続く湾岸一般道を14号と共に爆走していた……。

 sees   「……ん? なんか臭いな……」
       微かなコゲ臭……そして――。
 sees   「――……!」
       ガタガタと揺れる車体、ブレるハンドル、焦るsees。一瞬にしてテンパイ。
 sees   「ホッピング(エンジン不具合による揺れ)かよっ! おいっ、14号っ、
       大丈夫かっ?」
 14号   「……タ、タスケテ、タスケテ、seesサン……涙ぽろり
 sees   「城之内クーンっ! ……じゃなかった。バネット14号ぉぉぉぉっ!!!」
 14号   「……ボク眠クナッテキタヨ……ボク20マンキロハシッタカラ、ツカレタヨしょんぼり
 sees   「……死ぬな……死ぬな……死ぬんじゃあないっ! パトラッーシュッ!ムカッ
       ………
       ………
       ………
       その後、港区のセブンに車を駐車し、相棒のエンジンルームを開ける。
 sees   「あのコゲ臭……やはり点火プラグか、焼き付いてやがる……いつエンジンが
       停止してもおかしくはない……か……コゲくせえし……」
       
       さて……どうするか……。seesは選択を迫られていた。
       1――本社まで自力で戻り、車両整備のブタにブン投げ。ただし、この状態で
       本社までたどり着けるかは不明。走行中に緊急停止した場合はレッカー移動&
       土下座&死。
       2――自力で回復。ただし自腹の可能性が高い。申請すればワンチャン金
       くれるかもだが……seesのボーナス査定のためには……自己犠牲は必至。
       どうする?
       どうする?
       どうする?
       ―――
       ―――
 エネオス 「――プラグ2本と工賃込みで、9000円になりまぁーすっスマイル
 sees   「……カードで」
       2本かよっ! クソがっ……畜生……畜生……しかし……まぁ……。
 14号   「ヮリぃ~ス、seesハoィセ冫★ぉかけ〃τ〃また動けるヨウ~★ぉぉきにダブルハート
       ……なぜギャル語? 若返った、てことか?
       ――まぁ、いいか。まぁ、良しとするか。
       ケガしたまんまじゃ、走るのも辛ぇからな……。

                                 了🚙=333


  こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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Last updated  2018.02.16 21:12:04
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