000000 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

株式会社SEES.ii

株式会社SEES.ii

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X
2017.01.20
XML
カテゴリ:ショートショート
「いいかげんにしてくれないか?」
僕は背後から聞こえる声の主にそう尋ねた。
「……」
答えは無い。だが確かに存在するのだ。偽りの生命を持つ、いわば霊体とでも言うべき存在。
「僕はもうすぐ死ぬ。本望だろ?最後の瞬間くらい自由にさせてくれないか?」
霊体はすぐ近く、そう。ベッドに横たわる僕のすぐ背中の裏にその姿を隠し、低く、
そしてゆっくりと声を発した。
「……確かに、お前の命はもうすぐ終わる。私の使命も……やっと、終わる」
「長かったろ?……少しは気が晴れたかい?」
霊体はゆっくりと語る。
「ああ……、満足だ。これが満ち足りるということか。これで私も成仏ができる。
幸せになれる。幸せを掴むチャンスを得られる。家族を持てる、金を貯められる。もう、
お前たち一族に恨みはない。私の人生はやっと始まる……うまくゆけば転生も可能だろう
……願わくば、またヒトに生まれたい」
そう。霊体は満ち足りた口調だった。
「ああ、清々しい……」
また霊体が呟いた。本当にそう思っている、そんな雰囲気ではあった。
……思えば長い苦しみ、苦痛に満ちた人生だった。どれほど努力しようが決して報われない運命。
愛も、金も、命も、全てが歪められ変えられた。僕の先祖が犯した『罪』とやらの責任を背負い、
僕はもうすぐ死ぬ。死因は先天的な病気らしい。両親は死に、恋人とは別れ、現在は無職。
それらの不幸はすべて霊体の働きらしい。僕の人生を狂わせる事だけが目的の、途方もない
怨念の塊、それが背中から聞こえる霊体の正体……。いつ、どこで、誰がそんな恨みを持たれたのか、
僕には見当もつかなかった。ただ思うことは、
「もう、楽になりたい」
それだけだった。背中から声がする。
「……そうだね。最後だけはひとりにしてあげる。私はもう……成仏することに決めた。
キミと一緒にね」
「……ありがとう」
もううんざりだった。この世界にも、自分にも、絶望しかなかった。死ぬしかなかった。
「……さようなら」
もう声は聞こえず、気配も消えた。僕は目を閉じ、意識を閉じ、心臓の鼓動が止まるのを待ち、
やがて……僕は無に帰した。

―――――

「……終わった」
そう。終わったのだ。この男の家系に憑りつき、恨みを晴らし続けるこの因果に、ついに
終止符を打ち、結した。
「これで成仏できる。転生ができる。新たな人生を歩むことが……」
深呼吸を繰り返し、私は待った。もういつ迎えが来てもいいように。邪悪に染まった心は澄み、
私は待った。神と呼ぶべき存在からの啓示を。そう。私は使命を果たしたのだ。
やがて、待ち望んでいた存在、神からの言葉が届いた。
「こんにちは」
それは思った以上に軽く、あっけないほど若い声。
「……お疲れ様でした」
およそ霊体であり怨霊である自分に向けられたとは思えない、そんな口調だ。
これが神?いや……そう、なのか……?
ぞわりと背筋が凍る感覚がした。信じ難いほどの冷気、緊張が走り、手足が震えだした。
「あ……あなた様は、私を迎えに来られたので?」
質問する。声が震えるのは止めようがなかった。
「違います。恨みを晴らしに来ただけです」
声は確かにそう言った。信じたくは無かった。
「……だ、誰なんだ?あんたは……」
もはや神だとか仏様だとかは思えなかった。ただじわりじわりと、冷気が恐怖に変わろうと
していた。神と信じて疑わななかった声の主は、抑揚のない声で霊体に告げた。
「我々は、あなたが憑りついた家系の関係者です。あなたの撒き散らした不幸で不幸になった怨念の
集合体です」
「……はあ?」そう答えるのがやっとだった。我々?意味が不明だ、そう思った次の瞬間、背中に
多くの視線を感じた。振り返ることはできない、できるはずがなかった。霊体はゆっくりと
意識を向け、そして、感じた。
これは恐怖だ。自分が数多くヒトに与えてきた恨み、怒り、その熱を。

自称する怨念は続けた。
「……彼と深い友情で結ばれ、彼の死後、後を追うように自殺した親友」
背筋に刺さる視線が鋭くなる。
「……彼女と結婚の約束をし、果たされぬまま海に身を投げた青年」
額に汗が流れ、頬を伝った。
「……事故、天災、自殺、あらゆる理不尽の末に殺された、かの一族の巻き添え……」
霊体にとって、『彼』や『彼女』が誰を示すのかは見当もつかない。呪い殺した相手、その
関係者など、いちいち覚えていられない。ああ、それほどの人数は殺してきた。当然だとも
思っていた。そして……霊体は背後を見た。
白い線上に浮かぶ一群の人々。
誰もが顔を醜く歪め……笑みを浮かべていた。
歯が震え、霊体は恐怖におののいた。もはや恨みを晴らした達成感など微塵も残ってはいない。

―――――

どれほどの時間が過ぎたのかはわからない。
自分がどこへ向かうのかもわからない。
そして、迎えが来たようだ。霊体は歓喜した。これで逃れられると、半ば本気でそう思った。
……現れた闇に消えゆく霊体に、眼前の存在は静かに呟いた。
「……具体的に申しますと、そうですね……とりあえず、手足と性器の無い人生を千年。その後、
生きたまま食われる動物を千年。その後は……」

                                        了




添削、校正無し。構想1時間、書き上げ1時間です。つまらない小話ですいません。今後も少しずつアップ予定です。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2017.05.04 23:05:14
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.
X