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株式会社SEES.ii

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2017.01.26
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カテゴリ:ショートショート

―――――

 とある郊外の牧場の草むらで、一匹のオス豚が眠りについていた。彼は特別体が大きいわけでも
知能が優れているわけでもなく、ただ他の豚と同じように生まれ同じように生きてきた。
「……腹が減ったな」
 眠気の取れぬまま目を開き、小さな声で呟いた。餌の時間はまだ遠い、水で腹を膨らませる
気分ではない。かといって運動する気にもなれない。仕方ない。もう少し寝よう。彼は再び
瞳を閉じた。
 自分が人間に飼われている、という自覚はあった。しかしその環境・生まれた種族に不満はなく、
彼はある程度の自由を満喫していた。適当に眠り、食べ、歩き、生きているという認識を得る。
それだけで毎日が完結していた。彼は、そう、幸せだった。
 ある晴れた日、彼の前に白い服を着た人間が現れた。いわゆるスーツと呼ばれる服を着ている。
泥のシミや汚れが一切なく、とても清潔そうだ。自分を飼っている人間たちとは明らかに違和感の
ある男を見て、彼は最初少し怖かった。暴力をふるいそうには見えなかったが、信用はしては
ならない。人間は彼に話しかけた。
「やあ」
 優しそうで、とても爽やかな声音だ。話が通じると思い、彼も返事をした。
「こんにちは、あなたは誰ですか?」
 男は笑ったり悩んだりバカにしたりするそぶりを見せず、ただ微笑みながら答えた。
「私は名乗るほどの者ではありませんよ」男は続ける。気のせいか、微笑みが強くなった気がした。
「突然ではありますが、あなたは今日死にます」
「は?」
 何を言っているのだろうかこの人間は。
「あなたは今日死にます」
「だから、あなたは誰ですか?僕に何か用事ですか?」彼がそう言い終わる前に、男は若干
疲れたように軽く息を吐き、もう一度繰り返した。
「あなたは今日、死にます」
「ええっ?」何が何だかわからなかった。
「どうして?」
 他の疑問など吹き飛んでしまいそうになるほどの驚きだった。男はやれやれと言ったと同時に
両手を広げ、また微笑んだ。今度は呆れたような声だった。
「察する事はできませんか?自分が何のために生きているのかとか、親や兄弟はどこへ消えたのか、
そういう考えを今まで持たなかったのか、どうなのですか?」
 彼は沈黙した。口を閉じると、次第に体が震えだした。どうなるのか、そんな事は他人に
言われなくても分かっていた。彼が想像した瞬間、男が同じことを言った。
「屠殺ですよ。と、さ、つ。あなたは今日シメ殺されるのですよ。電気ショックを与えられて、
あっけなく、抵抗する暇もなくあっさりと」
「嘘だっ」
 彼は叫んだ。そう叫ぶしかなかった。「嘘だ嘘だ」と叫び続けた。やがて叫びながらも、
男の言葉を理解する。そう。男は決して嘘を言ってはいなかった。しいて嘘と呼べるのはたった一点。
今日か明日、近い将来、彼は確実に屠殺され、肉として処理される。そういう運命なのだ。涙が
あふれて止まらなかった。恐怖が全身を包み、前後の足が激しく震えた。涙目になりながらも、
男の顔をちらりと見る。男はただ立って微笑んでいた。何なんだこいつはっ。
「そんな事を僕に教えて何が楽しいっ、何でそれが今日だとわかる?答えろっ」
 興奮する彼に向って、男はまたも冷静に答えた。
「先ほどこの牧場のスケジュール表を拝見しまして……今日の午後、あなたはあちらの事務所の
隣の屠殺場に連れていかれ、電気ショックの後にバラされ、加工される予定らしいです」
 絶句、であった。彼にはもはや叫ぶ気力すら消えかけていた。赤みのあった体はどんどん
青白くなり、体温が急激に落ちた。
「……そんな、今日?」
「はい。今日です」
 ようやく、男の顔から笑みが薄れた。
「……それを、なぜ僕に?」
 おそらくはロクでもない事なのだろう。彼はそう考えた。これまで出会った人間たちは皆、
彼をペット以下の下等な生物、動く汚物くらいにしか思っていないのだろう事は理解していた。
しかし……、
「私はあなたを救いたい」
 それは驚愕の宣言であった。
「私はあなたを救いたい。今日というあなたの運命を変え、希望に満ちた明日を、生きる喜びを
あなたに贈りたい。そのために、力を貸してあげたい」
 自信に満ちた声と顔だった。事実、男の背中からは後光すら差しているかのようだった。
「ほ、本当ですか?」
「ええ、本当ですとも。私は運命を変えられる力を持ちます。あなたから死の運命を遠ざけ、
生きる意味を、生きる喜びを感じて欲しいのです」
 こんな事があるのだろうか?死から免れる方法があるのだろうか?疑問は泡のように浮き上がるが、
やがて泡沫となって消えてゆく。そう。何もしなくても結果は同じなのだ。今日か明日か明後日か、
僕は必ず死ぬのだ……だったら、生きる意味くらいは知って死にたい。
「助けて下さい。どこのどなたかは存じませんが……僕を、僕を助けて下さい」
「はいっ」
 男は即答した。清々しさすら感じる気持ちの良い声だった。その言葉を受け止め、彼は大きく
深呼吸をした。そこでようやく安堵する。これで助かる。延命さえできれば、また生きるチャンスも
残る。方法はわからないが、自力で何とかできるなら教えてもらえばいい。とにかく、今日を
生きることだ。
 彼がそう決意めいた表情で男を見つめると、男は照れたように視線を外した。お礼を言おうと
彼が口を開きかけると、それより先に男が言った。
「では、がんばってくださいね」
 男がそう言った次の瞬間――、男の背後に複数の影を感じた。男たちの影。人間だ。それも彼が
知る牧場の関係者。彼の飼い主たちであった。
「……こいつだな」
 唐突のことに戸惑う彼を無視するかのように、男たちは彼を縛りあげた。手際良く首に縄を括り、
彼の巨体を強引に引く。逃げる隙も、抵抗する余裕も無かった。
「えっ?えっ?えっ?」
 彼が吐いた言葉はこれだけだった。これだけの間に、たった数十秒の間だけで、彼の自由は
奪われた。
 連れていかれる僅かな瞬間、彼はあの男へ振り向いた。
 男の表情は変わらない。ずっと笑みを浮かべたままだった。

 薄暗い部屋に光が灯り、彼は目を見開いた。鈍く光る銀色の机がいくつも並び、盆の上に
横たわる刃物、機械で動くノコギリ、見たことのない光景……微かな死臭すら漂うこの場所、
ここで父と母と兄と姉は死んだのだ。死んでバラバラにされ、加工され、やがて男たちの仲間に
食われるのだ。
「……食われる、か」
 けれども死んで食われる事に嫌悪感は無かった。自分も今まで無数の命を犠牲にしてきたし、
豚という種族に生まれたからには覚悟もしていた。ただ問題があるとすれば、たった一つ。
たった一つだけの不満が残った。
「生きたい。僕はまだ死にたくない。死ねない。死にたくたい……」
 白いエプロンに手袋、ナイロン製のエプロンにマスク、男たちは静かに準備を始めていた。
彼はそれをじっと見つめ、恐怖を鎮めようと懸命に吠えた。
「……」彼の声を完全に無視し、男たちは準備を進める。先ほどの男とは違い、言葉が通じる
訳はない。それでもなお高く大きな声で吠えながらも、彼の脳裏にはあの男の声が響いていた。
『運命を変える』
 男は彼にそう言った。約束してくれた。それを確かに聞いた。地獄に垂れた一筋の光に、
彼はすがりつくしかなかった。希望を抱かずにはいられなかった。男の素性など興味は無かった、
ただ自分は生きたいとだけ強く願い……祈り続けた。
 やがて、彼に電気ショックを与えるべく機械のスイッチが入る。低く動くモーター音に、
彼は心底から恐怖した。「助けて」と何度も何度も祈り、叫び、命を乞いた。
 まばたきするほどの一瞬、彼の体に猛烈な電気の糸が走り抜けた。心臓は焼け焦げ、
脳はぐちゃぐちゃにシェイクされ、口内が血で溢れた。信じ難いほどの痛みが全身を駆け巡る。
即死だ。彼はそう思った。すぐに意識が遠のき、鎖に繋がれた足が天井から引き上げられ、
逆さまになりながら皮を剥かれる。
 そのはずだった。彼は即死する、そういう運命のはずだった……。
「な…ぜ、なぜ、僕は……生きている?この、この……痛みは、痛みはなんで?」
 彼は生きていた。心臓はとうに動きを止め、脳は活動を停止している。意識などあるはずがない。
生きているはずがない。なぜ?どうして?
「ああっ……ああぁぁぁっっ!」
 彼は絶叫した。逆さ吊りにされ、そのまま腹を包丁で裂かれたのだ。ピンク色の内臓がボタボタと
地面に落ち、肉が骨ごと千切れるその様を、彼は見続けた。脳が失われたのにも関わらず、
彼の眼球はその光景を捉えていた。視界の隅では彼の内臓が包丁で細かく切り刻まれていた。
刃が肉に交わる度、彼の心には激痛を伝えていた。
「痛いっ、痛い痛い痛い痛い、痛いーーーーーっ、助けてくれーーーーーっ」
 バラバラにされた体のひとつひとつに五感が宿り、それらは見えない糸によって彼の心へと
還元された。そんな不可思議な現象が起きる要因はない、ありえないのだ……。
「……何で…何で…どうして、何で、死ねない?」
 激痛と絶望の中で、彼は必死に答えを探した。いや、そんなものはとっくに理解していた。
あの男のせいだ。あの男が僕に何か細工した。そうに違いない。
 慣れることなど決して無い、和らぐことなど決して無い、気絶して逃れる事も出来ぬ地獄の
ような痛みの中で……彼は叫び続けた。あの男に対する怒り、恨み、怨嗟の限りを絶叫した。
『殺す、殺す、絶対に殺す!』
 声帯は既に肉の塊と化していた。足も切断され、皮と肉と骨に別れる。内臓は部位ごとに
取り分けられ、余った肉はミンチにされた。
『殺す……ころす……ころ……す』
 それでも彼はまだ生きていた。意識だけが宙に浮かび、絶命する瞬間を繰り返す。何度も何度も
何度も何度も、彼は死ぬほどの痛みを味わった。
 ついに首が胴と離れ、頭部の解体が始まった。耳を切られ、眼球がくり抜かれた。くり抜かれた
眼球はミンチにされるための機械の穴へと放り込まれる。そのほんの少しの間だけ、彼は最後に
残った気力をふりしぼり、少しだけ眼球を動かした。目線の先は部屋の隅。そう、部屋の隅で
こちらを観察する一人の男を凝視した。そうだ。あの男だ。僕の運命を変えるとかほざいたあの男だ。
絶対に許すものか。彼がそう強く誓うと、眼球は機械に落とされ、砕けた。
 残った耳に声が届いた。男か女か、若いのか年老いたのかわからない、まるで機械のような音声。
『約束通り、あなたは今日死にません。ですから明日には死にます。う~ん……あと半日くらいでしょうかね?まあまあ、がんばって下さい』
 彼にはもう見えないが、男はきっと微笑んでいるのだろう。この男の正体は……………。



                                       了

 適当に書きました。誤字脱字文法間違い、多々アリます。失礼しました。









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Last updated  2017.05.04 23:05:47
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