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カテゴリ:ショートショート
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思えば――ここ最近はロクでもない事ばかりが続いているような気がする。 建物を出た瞬間、彼は深い溜め息を吐き、駐車場の隅にある自身の車に乗り込んだ。スターターを押し、やかましい排気音を聞きながら、彼はまた息を吐いた。俺は営業担当だ、文句ならSEに言えよ……。 施工業者のミスから排気ダクトが故障し、「新規開店なのにどうしてくれるんだ」とか「縁起が悪い」だとかで顧客に呼び出され、こっぴどくクレームを言われた後だった。2年間は保全期間内である事、早急に業者を呼び修理を行う事を伝え、謝罪し、自社メーカーの他の設備も総じて再点検を行い……今、やっと解放された。 速度メーター脇の時計を見る。深夜遅く、というよりもう夜明けに近い午前5時だった。運悪く、営業用のバネットは全車出払っており、仕方なく自家用車での出張対応になった。ガソリンのメーターが若干目減りしているように見え、彼は小さな舌打ちをした。ツイてねえな。シャツが汗で濡れ、顔は油脂で気持ち悪い。上司からのメールでは『施工の業者から連絡があった、即日に対応できるとの事。まあ明日の出勤は午後からでいい、報告書は夕方までに提出すれば問題ない。お疲れサン』とあった。正直、ありがたい。 ……せっかく昼出勤にしてもらえたのだ、とりあえず自宅でシャワーとメシと仮眠が欲しい。彼はアクセルを踏んだ。 ――――― 信号が黄色から赤に変わる。ブレーキを踏み、停車する。 アイドリングの際の排気音が、ラジオを超えて耳に届く。うるせえな……。 この車を買ったのはつい先々月――支払いを済ませ、納車が終わったのが20日前。友人が家族で経営する中古車屋で紹介された、格安のセダンだった。価格以外特に気に入った特徴もなく、ありふれた大衆車。日本中どこでも見かける事ができ、どこにでも売っている車種である。しかし……。 信号が青に変わり、アクセルを踏む。 『しゅっぱーつ』 これだ。 最近、彼を悩ますストレスの原因が、今また現れた。 「黙ってろよ……」 二言とも、彼の独り言であった。そう。彼がこの車に乗ってからというものの、独り言の数が異常に増えたのだ。それも乗車中に限定されての事である。社用車では無い。会社への出退勤、自家用車を運転する時でのみ、彼は独り言を頻繁に呟いた。呟きは時に笑い、時に悲しみ、時に怒った口調で……とにかくその数が異常であること、無意識化での言動という事はわかっていた。 『だいじょぉーぶ?』 彼はまた呟いた。まるで唇と会話をしているような気さえした。仕方なく、内心を吐露するようにひとり……言葉を発した。 「精神科に行こうか?ん……今は心療内科か?誰かに相談する事でも無いような有るような……やはりストレスが原因、なんだろうなあ……はあ……疲れる。それにしても、眠いし……眠い……」 夜通しで設備の点検を行ったため、実質不眠で働いたようなものだ。かれこれ24時間以上は起きている。普段から慢性的な睡眠不足とはいえ、さすがに眠い。 まばたきを繰り返していたその時――彼は突如として、驚きに襲われる。 「――やばいっ!!」 アクセルから足を外し、すぐさまブレーキを踏み込む。ヘッドライトの視界の外、朝闇の内側から、何かの小動物――猫が飛び込んで来たのだ。 『ひいちゃえ』 心にも思っていないことを、彼は平然と、ごく自然に呟いた。 嘘……だろ? 驚愕の末――その言葉は、その通りの結果になった。 ――――― 人生最悪の日だ。明け方、無人のコイン洗車場の片隅で、彼は思った。 震える両手でノズルを操り、高圧の水を車の底面めがけて噴射する。落ちていたブラシを拾ってタイヤの裏をこすると、水に混じってピンク色の液体が滴り落ちた。彼はそれをなるべく視界に入れぬよう、必死にブラシをタイヤに当てた。クソッ……何て日だ……ちくしょう。 おそらく、猫は車のグリル部分に衝突し、そのままタイヤに巻き込まれるような形で踏み潰された。骨を砕く衝撃が車体に伝わり、今も男の腕の中に残っている。散々な日だ。 再び車に乗り込み、車載の時計に目をやる。時間は既に朝の7時を回っていた。 帰社するだけならばもう着いていても良いのだが、彼の自宅は出先とは逆方向だったため、もう少しだけ移動しなければならない。 スターターを押し、気を入れ直して出発する。……心身共にぐちゃぐちゃだ。 もうこんな車乗ってられない。次の休み、アイツに相談しよう。安価につられて買ったはいいが、こんなメに遭うならば早々に買い替えるべきだ。手数料でも払えばアイツも納得してくれるだろう……。 信号待ちの間にスマホをいじり、簡単なメールを作成、アイツへ宛てて送信する。 《朝からゴメン。起きたら電話くれ。車の事で相談がある》――申し訳ない気持ちが無いわけではないが……これ以上の疲弊は避けたい。もし車を変えても問題が起こるような、諦めて病院へ行こう。 幹線から住宅街の区画へ入る。自宅は近い。もう少しか……。 彼がそう思った矢先――また呟いた。 『でんわ、でんわ、でんわ』 もはや慣れつつある独り言ではあったが、何か心にひっかかる気がして、助手席に置いたスマホを手に取り――瞬時に目をやる。 着信等の動きは無い……。 しかし……。 えっ? その何も映っていない液晶で、何か、何かの影が、蠢いた。 子供――そう。それは異様ななまでに表情の無い、6、7歳ぐらいの子供の顔だった。子供は液晶の画面いっぱいに顔をさらし、大きな瞳で彼を見つめた。 「うわっ!」 助手席にスマホを放り投げながら、彼は小さな悲鳴を上げた。それに応えるかのように自分の口が開いた。もちろん、それは自分の意志ではなかった。 『でんわ、きてるよ。でれる?でれない?』 瞬間、彼は気がついた。 液晶に光が灯り、着信を教える名前が浮かんだ。先ほどメールを送った、友人の名が表示される。 手に取ろうと腕を伸ばす。だが、腕が動かない。不思議だった。ハンドルから手を放すことが出来なくなっていた。 『ねえ、これ押していい?』 また呟いた。同時に手に力が戻り、スマホを手にする。だが、今度は指先に力が入らない。 違う……これは……。 次第に込み上げる恐怖に耐え、彼は前を見据え運転を続けた……続けざるをえなかった。 ………嘘だ……俺の、俺の体が動かない!! 『これかなあ、このボタン、押しちゃうね』 自分で声を発し、自分で押したスマホのボタンは《スピーカー》と《留守録》のボタンらしかった。ラジオの音声はいつの間にか止まっており、若い男の声が響いた。『もしもーし、運転中か?』と言った。 『例の車の件だけど、あれ用意したのもこっちの不手際でさあー、今お前が乗ってる車さ、アレ、事故車なんだよねー、悪かったね。しかも結構ヤバイ事故起こした車でさー、ほら、オヤジも最近まで海外旅行行ってたじゃん?車の詳細までわかんなくてさー、ほんと悪いケド、車ウチに持ってきてくんない?あれ廃車予定なんだわ。イイ車安く準備しとくからさー、金ももちろん返すからさ、な?とりあえず電話くれな?んじゃあな、よろしくー』 「ふざけんな!!」彼がそう叫んだと同時に、電話は切れてしまった。 事故車だって?それもヤバイ事故って事は……。 強烈な恐怖が尿意となって、彼の股間を濡らした。手足も思うように動かない。 また何かを呟く予感がし、唇が震える。 『ぼくたち、この車にひかれたの』 一瞬、頭の中が真っ白になった。直後に、車を降りようと必死に体を動かした。しかし、右足はアクセルを踏んだままピクリとも動かせない……何か生暖かいものが手足を挟み、重く、動けない……それは、まるで――子供が大人とじゃれ合い、まとわりつくような……。 「助けてっ! 助けてくれっ!!」 彼は叫び声を上げた。これは夢かっ?こんな事があるはずがないっ!! 車は徐々にスピードを増し、あっという間に自宅の前を通り過ぎる。 恐怖に震えながら絶叫を繰り返す。心臓が高まり、喉がカラカラに乾く。声を止めた刹那――彼はまた呟いた。 『がっこういこ、がっこういこ』 ……どうして……何が……子供?……ひかれた? 考えがうまくまとまらない。呼吸すらまともにできない。 ……この車に?……ぼく、たち?……たち?……まさか? 『みんなひこ、みんなひいちゃお』 彼がそう呟くのを、彼自身がそう聞いた……。 午前7時45分――。 住宅街の外れには、かつて彼が通っていた小学校の正門が見えた。多くの児童が通学に集まり、門の内側へと消えていく。 「……どうして俺がこんな目に……」 数秒後、確実に起こるであろう惨事を前に、彼は無意識のうちにそう呟いた。 「……どうして俺がこんな目に……」 児童たちの列は目の前に迫っていた。排気音が轟き、車体が宙に浮かぶほどのスピードを出す。 大声で助けを叫ぶ女がいた。 子供を抱えて建物に入ろうとする若い男がいた。 スマホで写真を撮ろうとする中学生がいた。 ちくしょうっ……何で俺が、何で俺が?……どうして?」 激しい怒りと憎しみの中で、彼は、自分に車を売りつけた、あの幼馴染みの顔を思い出した。どうして俺がこんなメに……それもこれも全部、あの野郎がこんなポンコツを俺に売りつけたせいだ!!と思った。 この子供たちもおそらく、今の自分かそれ以上の怒りや憎しみを持っている。憎悪の対象が生者であれば、幸せな者であれば、それだけで憎いのだ……誰かを利用してでも、何かを利用してでも憎む……それが俺であり、この車であったのだ……そして彼は、こうなった全ての怒りと憎しみを誰かにぶつけなくては気が済まなかった……許せない……許すことなど絶対にできやしない。 彼はこの事態が決着した後、友人とその家族に会いに行く事に決めた。 許さねえ。必ず自身と同じ恐怖を味合わせ、絶望と共になぶり殺す――たとえ自分が死んだとしても、そう……そう決めたのだ。 不意に、シートベルトがカチンと外れる。子供たちの誰かが外してくれたのだろうか?まあいい。これで心おきなく、殺しに行ける……。ドロドロとした黒い欲望が湧くのがわかる。 最後の瞬間――、何人もの児童が連なる列に車を突っ込み――跳ね飛ばされる人々を見ながら、ふと、彼は何か、何か得体の知れぬ気配を感じ、ルームミラーに視線を向けた。すると、そこには……。 『ニャァァァァァァァ……ニャァァァァァァ……』 無表情で、猫の声を発する自分。 『ニャァァァァァァァ……ニャァァァァァァ……』 後ろの席では、子供たちが満面の笑みで、大きな猫を抱えていた………。 ……そうか、ベルトを外してくれたのは、オマエかよ………。 了 今日のオススメはコレ。話には関係ないけど、コレを直前に聞いていれば『彼』の運命は違ったかも。 たいしたこだわりも無く英語タイトル(車ネタだけに…)。 営業の帰りに後輩に運転させて、眠ったフリして構想を考えたテンプレもの(笑)。特にひねりも無く普通の話(世にも奇妙な物語で似た回があったかも)。構想は半日、書きは4時間。添削・校正無し。ブラッシュアップする時間が無い……。整合性に欠けてる、ちょいヒドい。 何かアトバイスあれば、ぜひぜひコメント下さい。 ↑いろいろあったけど、やはり天才。即ポチ買いィィィ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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