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株式会社SEES.ii

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2017.02.17
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―――――

 彼が、私の鎖を解く。
 体のあちこちに触れ、異変の有無を確かめる。
 ……やがて彼は布を取り出し、そっと……私の体を拭き始めた。むず痒い気がしない
でもないが、これは彼にとっては儀式みたいなものなのだろう。まあ、抵抗する気も起きないが。
 彼は満足すると私を持ち上げ、丁寧に降ろし、足を開いて馬乗りになる。するなら早くしろ。
私はそう思ったが、彼は少し焦らすように私を撫でる。コイツ…。
 全ての儀式に満足したのだろう、彼が私の名を呼ぶ。偽りの名だ……しかし、この、
あだ名なのか愛称なのかよくわからない、この名が――……私は嫌いではない。
「……行こうか、エル」
 
 私の創造主である、いわば神である人物の名から拝借したらしい――エル、これが私の名だ。
 彼は――私のハンドルを固く握り、後方を確認し、ペダルに足を据え、ゆっくりと、
力を込めて私を動かした。寸分の狂い無く力が伝わり――車輪が回る……いや、
回してやっているのだ。この――変わり者で、頭のおかしい、バカな男のために……。

 CF1――コルナゴ・フェラーリ。シリーズナンバー1。
 それが――私が、私として生を受けた唯一にして絶対無二の、真の名である。
 世界で初めてカーボンフレームを採用し、極限まで性能を高めたロードバイクの英雄たち。
私はその中でもトップエリートである、フェラーリ社とのコラボモデル、CF1の名を持つ。
神の名はエルネスト・コルナゴ、偉大なる父。
 本来、こんな凡人、レースに出たのは高校生の時に数回だけという、どうしようもない
ヤツに使われるのは心外であり屈辱でもあった。だが――。
「……やっぱりお前は最高だ」
 彼がひとり、ペダルを踏みながら呟くのが聞こえた。
 不思議な男だ……。私の言葉も、心も、何もかもが通じないくせに――このバカは……。

―――――

 準備は整った。女は満足げに頷いた。
 後は――これらを彼に告げ、試練に臨む彼を――ただただ、見つめるだけだ。
胸が躍る、それが自分でもわかる。もう、我慢できそうにない。
 理不尽で、理解不能で、どうしようもない勝負を挑まれたら――彼は逃げ出すだろうか?
わからない。そこまでは、誰にもわからない。……しかし、彼は受けるのだろう。
ああ……。女は細く、美しい腕を肩に回した。自らの胸を抱き、彼の事を思った……。
 あの日、通勤途中で自転車がパンクし、困り果てていた私を――あなたはイヤな顔
ひとつせず、いとも簡単に応急処置を施し、名も名乗らず去って行った……。打算も情欲も無く、
こんなにも優しく接してくれた男性は……彼だけだ。彼の顔を見つめるほど、知るほどに……
他の、低俗で卑しくて下品な、そんな男どもとは何もかもが違う――純粋で、儚げで、
どこか美しい……そう、まるで、雨の中に放り出された子供のような――悲しい瞳をした男だった。
 好き?
 女は女自身に問う。答えは……そう、なのかもしれなかった。そんな感情を異性に持つのは、
実際、初めてのことだった。
 ならば彼にも聞いてみよう。彼が、私の好意を受け取る、その資格があるのかどうかを。
 尊大な考えだな、彼女は思った。

―――――

 何ともイヤな女だ――エルはそう感じた。
 郊外にある大型のショッピングモールの一階にある、比較的小規模な自転車屋に、
エルとエルの持ち主はいた。彼の仕事は自転車の修理と販売、社員は店長である彼ひとりと
オーナーである中年の男だけ。エルは彼が仕事に従事している間は、円形のお立ち台の
上に鎮座させられ、周囲はベルトのパーテーションで仕切られている。自慢の
カーボンフレームは専用のホルダーで固定され、車輪には鎖も付いている。
何とも窮屈な場所だ。
 別に、私を客寄せに使うのは許せるが……しかしこの、『触らないで下さい』の
プレートは何とかならないのか?なぜ手書きなんだ?エルはそう思っていたが、
もちろん口には出せなかった。

 事務所用の小部屋の中から声がする。
「……残念ではありますが、テナント契約の延長は不可能、という結論に至りました」
 女の口調は慇懃柔和な態度だが、どこか相手を小馬鹿にするような、何ともイヤな女だ。
私も女の性別を与えられている。それらも関係しているのかもしれないが……。
「そんなっ!毎月の賃貸料も、契約金も払っているじゃないか?話が違うっ!」
 小部屋からオーナーの悲鳴じみた声が聞こえ、修理の作業を行っていた彼も、
どこか心配そうに事務所を見た。オーナーという男の特徴は人柄の良さだけ、
あの無能がここまで大きな声を出すとは……。
「……半年前の通告はご覧になってますよね?」
「……その時は、売上金の向上次第で再検討しますって、あの担当者が言っていたぞっ!」
 無能が何を興奮しているのやら……まったく……。エルはあくびをした。口や喉と
いった器官は無いが、イメージとして体験はできる。
「その担当者は半年前に退職しております。書面か何か――…それを証明することはできますか?」
 本当にイヤな言い方をする……無能が哀れに思えてきた。徐々にオーナーの体から熱が
引くのがわかる。声しか聞こえていなくても、エルにはそれが痛いほど伝わった。
「……そんなものは、無い……だが、再検討はしてくれないか?売上だって去年より
5%は上がっているっ!検討の余地くらいはあるはずだ。何ならここの社長さんにプレゼン
してもいい……頼みます……」
 オーナーは頭を下げた。もはや立ち退きは既定路線だったのだ。エルは思った。
 懇願など意味が無いだろ……。そう……そのはずだった。
 だが――……、
 この女は……、
 こちらの予想を斜めに上回る――意味不明な提案を、した。
「……この話は、私の独断で進めています。もし契約の延長を希望でしたら、ひとつ――
……私の個人的願望を叶えてくれませんか?」
「『は?』」オーナーとエルが同時に呟いた。最も、エルはイメージによる発言だが。
「……あれを」
 女はエルを指で示した。オーナーはまた「はあ?」とだけ繰り返した。
 ……悪寒が走る。まさか……私の体が目的か?
「……愛知県主催のアマチュア半島レースが近々あります。あれで――……」
 女はアクリルの扉を開け、事務所を出た。オーナーも続く。
「店長さん……」
 女はどこか艶っぽい口調で彼を呼び、修理中の自転車の横にしゃがみ込み、ゆっくりと
口を開いた。
「CF1で、そのレースに参加して下さい」
「……はあぁっ??」彼は悲鳴に近い――驚愕の声を上げた。

―――――

『どうしてっ、どうして、どうしてだっ!』
 大会へのエントリーを済ませた後の帰り道、エルは執拗に彼を責めた。
 理解できなかった。こんな、素人に毛が生えただけのようなトロい男が……
レースだと?バカげてるっ!負けると確定しているような大会に、なぜ出場する
価値があるのだ、私は晒し者になるなど死んでもゴメンだ。
『あの無能に気を使ったのか?あの女に色目を使われたからか?私の立場も考えろっ!』
 私のような、最強最高のバイクを使って惨敗するなど、愚の骨頂もイイトコだ……。
『バカ野郎っ!死ねっ!どうすんだっ!腹を切れっ!』
 似たような罵声を繰り返し、繰り返し彼に浴びせ続けた。クソッ、コイツ……。
 エルの声が届いていたのか、いないのか……ペダルを踏みながら、彼は呟いた。
「……ごめんな、エル。俺は、何か知らないけどさ、走ってみたくなったんだ……キミと」
『……』
 坂道に入り、ペダルを踏む力に強弱が入る。
「……確かめたいんだ……俺に、キミに、乗る資格があるのか、どうか、さ……」
『……』
 エルは思い出していた。あの――、嫌味で陰険な女の出した条件、そして理由を。

1、愛知県主催のアマチュアロードレース大会への出場。
2、成績は3位以内が目標。
3、CF1を必ず使用すること。
4、ゼッケン、及び着用ヘルメット・パンツに当社モール街の広告を貼ること。
 1、2、3、4の条件を全てクリアすれば、テナント契約は延長の方向で社長に進言すること。
 
 なぜ、そんな提案をしたのか……理由は、大会はローカルではあるがテレビ中継されること。
成績上位に入れば宣伝広告にも繋がり、モール全体の活性化を図れること。個人的には、
ロードレースに非常に興味があること……。
 以上が、女がオーナーに出した提案の全てであり、そして、彼にはもうひとつ……。

『……忘れたのか?』
 女が提案した最後の条件……もし、彼がそのことを忘れていたとしたら?
 私は……たとえ杞憂だと知っていても、不安になる。不安になるよ……。
 坂道を抜け、平坦な直線に入る――不意に、彼は、カーボンが溶けそうなほどに、
熱く、エルのハンドルを固く握り締めた。同時に、力強い圧がペダルに込められ
――チェーンが勢いよく回る……。
「エル……お前は俺のものだ。誰にもっ、絶対にっ、渡してたまるもんかっ!!」
 ――タイヤが嬉しそうに回転する……。私は……。

《敗北、つまり失敗した場合、当然――あなたにもペナルティを受けてもらいます。
 そうですね……ソレを、適正価格で私が買い取ります――》

 エルはあの女の言葉を思い出した。怒りが湧く。どうしようもないほどの怒りが。
私が人間であれば、容赦なく殴り、張り倒してしまいたくなるほどの、怒り。
 彼から私を取り上げるという事、それはつまり――私から彼を取り上げるという
事と同義だ。
 ……クソッ、あの女の真意がわからない。だが、しかし……何だ?この苛立ちは……。

 絶対に勝たねばならない……そう。レースという神聖な競技を汚すような、
どんな手を使っても、何が何でも、何をしてでも勝つ、そう決めたのだ。
 たとえ今後――、彼に嫌われて、忌み、恨まれようとも……絶対にだっ……。
 エルは、彼と同じように――理由は多少違うかもしれないが、ようやく、覚悟を決めた。
 いいだろう……、あの女の遊びにつき合ってやろうじゃないか、くそ野郎っ!
 
―――――

 パートbに続きます。
 

   すいません。言い訳ばっかりです。
 三部構成?にしました。調整後、アプします。
 忙しくて、全然書く時間なくて……再度編集しなおすかも……。
 高2の時に書いた長編自作の焼き直しです。当時のコレは某大手の新人賞に応募しましたが、
佳作入選であっけなく終了。悔しい、というよりしゃーないなという感想。
厨二病的すぎたかな?
 人物造形は後出しジャンケン感が強く、個性ゼロの極端な人物ばかり……
メモを何枚破り捨てたか記憶にありません。
 ネタは面白いと思いましたが、いかんせん、ストーリー展開に無理が出てメチャクチャ。
後に引けなくなり……無理くり終了させるという悪手を打つ当時の私……はあ……へえぇぇ……。
 言うまでもなく、実在の人物・個人・製品名とは関係なしのフィクションです。
検索されて質問されても困りますのであしからず。
 
 あとがきもbに続きます。

 
 本日のオススメ曲 ↓ 隠れた名曲として割と有名らしい。Local Busさんは本当に美しい曲が多い。 
         桜見丘 

  May'nさん↓ ダイナミックな歌声かつ、独特な歌詞を違和感無く歌い上げる猛者。オススメ。
  
こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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Last updated  2017.05.04 23:20:51
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