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カテゴリ:短編 01 『愛されし者』
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h―2 はこちらです。 ――――― 「あっ…」 彼を一目見た瞬間――、俺は……一目で彼を好きになってしまっていた……。 年がいもなく、中年で、最近では髪が真っ白になってしまったような……そんな俺が、 他国の、極東の、島国の、名も知らぬ青年に、一目で好意を抱いた。彼の――あの、純粋で、 儚げで、どこか美しい……そう、まるで、雨の中に放り出された子供のような――悲しい瞳を した男……。そんなヤツは、自分の働く工房でしか見たことがなかった……。 コルナゴ・ジャパンの社長である妻に呼び出され、取引先や顧客との商談に使う個室に入ると―― そこには、若い男がソファに座り、向かい合う妻と真剣に話をしていた。部屋の壁には女が ひとり立っており、自分に目礼をする。 「……こちらの方が、修理を依頼されています。休暇中のところ悪いのだけど――……」 「構わないよ」 「ありがとう」 イタリア語での会話だったが、意味は伝わったのだろう。彼は立ち上がり、俺の目を見て、 深く一礼をし、声を震わせて、言った。今にも泣きだしそうな声だった。 「……お願いします……助けてください……彼女を、彼女を助けてください……」 とても礼儀正しく、とても真剣で、とても好感の持てる青年だった。だが、それだけで、 それだけのことで、妻が俺を呼ぶわけがない。コルナゴの工房長である、この俺を。 そう。 彼は、他の客とは違っていた――全く次元の異なる世界から来た客だったのだ。 ――『彼女』を助けてください。 ――『彼女』か……。気持ちが高ぶっただけの妄想ではない。 そう。間違いはないだろう。彼は『資格』を得ているのだ。俺と同じ『資格』を。 「……了解だ。サロンの作業台を貸してくれ。とりあえず見て来る」 「ありがとう。ではこちらの男性にCF1を……それと――」 妻が微笑み、言った。 「ごめんなさいね……主人の喋り方は、ちょっと独特で……抑揚がないというか…… 不自然な感じがすると思うけど、決して嫌がっているわけじゃないから……」 ――――― 中部国際空港、セントレア――。 女は中部国際空港駅から下車し、空港内のアクセスプラザを歩いていた。女の年齢は20代 半ば、家族はなく、健康状態はいたって優良であり、そして……現在、無職であった。女は、 つい1ヵ月までは名古屋市郊外のショッピングモール街でOLをしていた。契約上、社員である 権利は今月末まで有効だが、業務はもうなく、ロッカーの中身や書類も全て処分した。 「……暇つぶしにしては、まぁまぁ……楽しかったかな……………」 女はひとり、呟いた。 あのレースから翌日――。 女は見ていた。ただ――ただひたすらに、ただずっと――ずっと見続けていた……。 彼が大きなビジネスバックにCF1の部品を詰め込み、バスに乗り、新幹線に乗り、タクシー に乗り、新宿にある大きなビルの一階にある、コルナゴ・ジャパンの本社を訪ねるまでの 足どりを、ずっと見続けていた……。 彼が泣きながらCF1の修理を依頼し、女の社長が優しく慰めながら応対したこと。突然、 中年の男が現れてCF1を持っていき、サロンの作業台で何かを呟いていたこと。中年男の 喋り方には抑揚がなく、不自然な喋り方をしていたこと。男はとても精悍な顔をしていて、 どこか彼に似た雰囲気を持っていたこと。 女は見ていた。ずっと、見続けていた。 ふたりは外国人で、イタリア人であること。そのふたりが修理を快諾してくれたこと。 そのふたりが、とある依頼を彼にしていたこと。イタリアで男の仕事を手伝って欲しいと いう願いだったこと。承諾してくれれば、CF1の修理、及び渡航の費用はいらないと言ったこと。 女は見ていた。ずっと、見続けていた……。 即答し、感謝にむせび泣く彼の笑顔を、見た……見続けていたかった。 アクセスプラザからエスカレーターに乗り込む。 生暖かい機械熱の風が頬に触れるのを感じながら、女は思い出していた。 わからない……理解できない……教えてもくれない……。 それは女にとって――そう……耐えがたく、許しがたい、屈辱的ともいえる日だった。 わからない……わからない……。 彼はもう――女の知らない、女が立ち入ることの出来ぬ、違う世界へと行ってしまったのだ。 だが――…… 女は――…… 当然――…… 諦めるつもりはなかった。 例えば――彼が私を殺してくれる。彼が私を犯して殺してバラバラにしてくれるなら、 それは本望であり願望だ。だけど、それ以外の道での別れなど……許せるものか。許して なるものか。まともな人間の考えではない……それがどうした?違う世界に行ってしまう のなら、違う世界に立ち入ることが出来ぬなら……いっそ……。 女は強かった。女は賢かった。強いと自覚するほど、賢いと自覚するほど……女の下腹部は 熱量を上げ、何か、何か得体の知れぬ――おそろしい怪物が、腹の奥で蠢いた。 そう……そんな、そんなおそろしい怪物も、怪物もまた――彼を愛していた。 何をしてでも、何を破壊しようとも、何人をも殺してでも、彼を我が物としたかった。 怪物は……強くて、優しい、彼になら、愛されたいと思った。その資格を、彼は持っていた。 あの、純粋で、儚げで、どこか美しい……そう、まるで、雨の中に放り出された子供のような ――悲しい瞳をした男……欲しい……欲しい……欲しい……欲しくて、欲しくて……もうどうにか なりそうだ……そのためなら、何もかも、世界も、私も、どうなってもイイ……。 女と、女の腹に蠢く怪物は、思い出していた。 あの日の夜――人生で最も幸福な時間が訪れていたことを。 『……部屋がツインの一部屋しかないらしい。アンタが良いのであれば……だが』 確認したいことがあるからとCF1を一晩預けることになり、彼は近くのビジネスホテルへと 足を運び、そして――その日、初めて、私に話しかけてくれた。 部屋に入ってからも、彼はずっと無言のままだった。 一緒に宿泊すること、同じ部屋に泊まることにも、彼は特に発言することはなかった。 返事はそっけなく『はい』と『わかった』だけを繰り返し――それぞれが簡単なシャワーを 浴び、簡単な着替えをし、簡単な食事を済ませ……それぞれのベッドにもぐり込み、ふたりして、 目を開け、エアコンの風が流れる白い天井を見つめ続けていた……。 そう――私は……それをただ、黙ってすべてを受け入れることにした。話したいことは山の ようにあったが、質問しても答えてくれるとは思えなかった……。 ただ――少しだけ、ほんの少しだけ、彼は私に口を開き、私はそれに答えた……。 『……アンタ、帰らないのか?』 「……別に。あなたがいつ私を襲ってきてもいいようにしているだけ」 『……ふざけてるのか?』 「……ふざけてなんかいない」 『……いつまでついて来る気だ?』 「……さあ?死ぬまでじゃない?」 『……迷惑だ』 「……なら、煮るなり焼くなり、好きにすればいい」 『……正気か?』 「……あなたに言われたくない」 『……何が目的だ?』 「……前言撤回になるけど……あなたに愛されたい……あの、CF1……エル、みたいに」 『……無理だ。諦めろ』 「……それを決めるのはあなたじゃない。私よ」 『……知るか……明日の朝、消えてくれ。もう二度と顔を見せるな』 「……知るか……明日も明後日も、私は消えない。消したいなら、殺して」 『……頭がおかしいのか?』 「……ええ。自分でも、そう思うわ」 『……俺は、アンタにとって何の価値もない。それぐらい、わかるだろ?』 「……違うから」 『……違う?何がだ?』 「……あなたはアイツらとは違う。あんな――私を褒めるしか能のないゴミとは違う。私の…… 本当の価値を知らない、私のことを何も知らない、知ろうともしなかった、そんな……ゴミの ようなヤツらとは、違うから……」 彼は、躊躇せず、言った。『俺が知るアンタは――嘘つきで、強欲で、強引で、人のものを 平然と破壊する、イカれた泥棒女……ワガママ言うのも大概にしろ』 「……ちょっと、ひどくない?」 『……別に。俺はアンタが嫌いなんだ。……それだけのことだ」 「……別に。嫌ってくれていいよ。なら、犯して殺せば?いいよ……私は、あなたの奴隷だから」 『……ふざけやがって』 「……良かったね。レースに勝って……もし逆だったら……」 『…………2ヵ月後、イタリアへ行く。2年は帰らない。それでさよならだ』 「……それで?」 『……好きに生きればいい。エ……CF1が修理できる以上、アンタに恨みも怒りもない』 「……そうね。好きにするわ……ふふふ、今日は疲れたでしょ?もう寝る?」 『……ああ。おやすみ』 「……電気、消すね……愛している」 ――それだけだ。私と彼のその日の会話は、それで終わった。 彼は眠らなかったし、私もその日は眠れなかった――たった、それだけのこと……。 目を閉じながら――女と、女の腹に蠢く怪物は思い出した。 あの――コルナゴ・ジャパンの光輝くサロンを。美しく磨かれ、美しく並べられたコルナゴの 名車たちを。美しい顔をした受付の女を。美しい手と、美しい作業着を着たスタッフを。 美しい女の社長の顔を。精悍な顔をした社長の夫を。壁に掛けられた、巨大な『クローバー』の オブジェを……。 それはとても上品で、歴史を感じさせ、刺激的で、購買欲を誘う……そう、コルナゴ・ ジャパンの本社と関連店舗は、工房のネジひとつとっても、本当に……最高の店であった。 ……欲しい。 怪物が腹の奥で囁いた。 そいつはとても狡猾で、貪欲で、冷酷で、強く、賢かった。女は、まるで会話を楽しむ かのように、怪物と心をひとつにして、思った……。 ……コルナゴ、欲しい……全部、欲しい。 ――そうね。ミステリアスで、カッコ良くて、とてもステキな会社だわ。 ……コルナゴ……あのCF1、エルとかいう……メスの……家? ――たぶんね。 ……アイツだけはいらないな。 ――うん。私もそう思う。 ……手に入れて、粉々に砕いてやったら、どんなに気分がイイだろうな? ――そう……うん、私もそう思う。 ……ああ、愛しき君よ。早く、早く、この腹で抱きしめたい……愛されたい……。 ――ふふふ、私もよ。もう少しだけ、我慢して。 幸福な時間を心にしまい……怪物と約束をし、決断し、決意した。あとはただ、 レースのように、ひたすら――駆け登り、駆け抜けるだけだった。 ……時間制限はない。何十年かかろうと……いや、数年で手に入れる。 噛み砕け。噛み砕いて、引き裂いて、内臓をぶちまけろ……。 何もかも破壊して、何もかも、全てを手に入れる―― 手に入れて、捧げよう。彼に、コルナゴの全てと、私と、この醜い怪物を――。 ――――― h―2に続きます。 ↓イアさん……高音域特化型だっけ? ボカロ様のオススメ曲。 DAYBREAK FRONTLINE / Orangestar feat.IA (イアさん) ↓サラ・オレインさん……美しい御姿……美しい歌……憧れマス。 ![]() ↓オススメ楽曲です。 ![]() ![]() ![]() ↓こちらはオモロければでOKス……ポチんと……。 人気ブログランキング オマケショート。ある日の悲劇。 先輩女性01「ねえseesく~ん、今日飲みにいかない?」 「いや…私、忙しいので(ブログ書きたいし)……」 先輩女性02「カワイイ子、紹介したいんだけどな~…」 「…仕方ないですねえ、キリッ(`・ω・´)」 … … … 子?01「どうも~リュウヤで~す」 子?02「seesさんイケメンですね。金持ちそうですね。モテそうですね(*´▽`*)」 … 「……ホストかよっ!!!(# ゚Д゚)」 了っ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.05.04 23:26:31
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