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カテゴリ:ショートショート
短編一覧 ss一覧
――――― 名古屋市中村区にある、ブランド・貴金属のリサイクルショップ《D》の名駅支店店長で ある男は、黒いフェルト生地が貼られた盆の上に並べられた――カフス、タイピン、ネクタイ、 ボタンカバーを見つめながら……心の中で呟いた。 ……ゴミ……クズ……カス……これは、真珠?……クソッ、模造真珠かよ……。 ふと壁に掛けられたシャネルの時計を見る。すでに午後5時を回っていた。昨日、高額査定の 見返りにとアフターの約束をしたキャバクラ嬢の顔を思い浮かべる。……こんな飛び込みの査定など 早く終わらせ、女の待つクラブへ行きたい。そう思った。 「……いかが、です……かね?」 いくつかの間仕切りで分けられたカウンターのひとつで、対面する目の前の中年男は、卑屈そうな 目つきで支店長を見つめ、聞いた。意味不明な薄ら笑いを絶えず浮かべ、『自分は不用品を処分しに 来ただけです』というようなアピールをしている……んだろうな。 この中年の人生や態度や生活に関心はなかった。そして、この中年が持ち込んだ 服飾品の数々にも、支店長は何の関心も持てなかった。 ……ウチの店を雑貨屋と勘違いしてやがるな。 フェルトの盆の上にたいした物はなく、どんなに慈悲深く査定をしたところで価値は覆る ことはない……服飾品でもブランドや付帯する宝石、状態、デザインによっては考慮して やらんでもないが……無理だな……これは、ガラクタだ。 この中年が何か悩みを抱えてウチに物を売りに来るのはわかる。だが、それはこの中年の問題で あり、支店長の知る問題ではなかった。かつて……俺が歯を食いしばり、上司から殴られ、罵られ、 激しく叱責されている間中もずっと――この中年は何も考えず、何も動かず、ロクでもない人生を ただノロノロと歩いてきただけ……というのはわかる。努力や向上心といった精神のカケラも感じ られない、こんなゴミ男など……さっさと叩き出してしまいたい。そう――思った……。 けれど――、 支店長は――、 そうは――しなかった。 この中年に対し……何か、何か不可思議な直感が働いていた。 当然――カネだ。 ……長年こういう商売をしてきたからこそ感じ取れる、カネの臭い。このカンが外れるとは、 正直、考えられないのだが……。 「……残念ですが、これらを《D》で取り扱うのは難しいかと思われます。……どうしても処分 を依頼されるのであれば、少額……での買い取りは致しますが……」 出せ……金目のモノを持っているのなら……。 出せ……出しやがれ……ほら……目が泳いでるぞ……。 支店長は思った。こんなゴミを査定に出しても価値がないことぐらい、このバカだって 理解しているハズだ。これは偽装だ。これは前座だ。できれば温存しておきたい、できれば秘密に しておきたい、そんないわく付きの何かを持っているからこそ、このバカは《D》に来たのだ。 中年は無言のまま肘をカウンターの上に置き、指を組み、顔を沈め、少しだけ溜め息を漏らし、 少しだけ息を整え……何かを、胸のポケットから取り出した。 それは――簡素な、印刷も印字も何もないビニールに包まれたそれを――中年は指につまみ、 支店長の前に差し出し――口元を歪め、薄気味悪い笑みを浮かべた。 「……最初はただの、ボールペンか何かだと思いました……でも袋から開けてみたら、少し…… 違うなって……思って……確認、してみたかった、と、思いまして……でも、誰も……どこも、 信じられなくて……しばらくずっと……ぐずぐずしてしまって……どこに行けばいいのかも わからなくて……大変、失礼、かと思ったのですけど……ここなら……きちんと話を聞いて くれるのかな、と……思いまして……」 まるで警察の事情聴取に応じる犯罪者のように、中年は声を震わせながら、言った。 支店長は、それを見た。じっくりと鑑定し、査定した。 そして――……改めて、その中年から話を聞いた。じっくりと、聞いた。 これは物々交換で得た品であり、サンプルであり、その後大量に手に入る予定であるとい ことを……聞いた。 ――話を聞いて、決断する。 ――当然、即決する。 中年と名刺を交換し、携帯の番号を交換する。それをひとつ預かり、必ず連絡するよう念押しし、 今日のところは何も買い取らず帰らせた……。 支店長は計算をした……それは、至極当然のことだった。 ――それは、gで4500円以上の価値があるものなのだから……。 計算をし続けた……今夜抱く予定だったキャバクラの女を、至極当然のように、頭から消す。 ――それは、黄金だったのだ。 ……筒の部分が純金で加工されたボールペン。しかも先端はプラチナ、工業用ではない……かなり 良質なブツであることは間違いないだろう……。 それが……1本13g、およそ58500円。 それが……840本……49140000円……あのクズから適当に買い取り、独自のルートで売り、 さらに高値でサバければ――相当な儲け……人ひとり死んでもおかしくないくらいの儲け……。 支店長である男は即決した。これは《D》を通さず、自分ひとりで処理することに決めた。 邪悪な計画を瞬時に計算し、いかがわしく、汚らわしい――そんな笑みが自然と浮かぶ……。 ……俺を殴り、罵り、コケにしたバカ社長になど、1円たりとも渡すものか……。 支店長はひとり、辺りに誰もいないことを確認した後――呟いた。 「……最高だ……こんなに幸せなことはないな……」 ――――― 暗闇の中でiPhoneの液晶が灯り、男は目を開いた。 液晶には男が知る店《テーラーチクサ》の表示がされる。 通話に出る必要はない。 男の思惑通り、受信は留守録に切り替わる。スピーカーフォンのパネルを押す。 ……やがて、聞き覚えのある彼の声が、iPhoneから流れ聞こえた。 『……もしもし……私、お客様よりスーツのご注文を承りました……《テーラーチクサ》の 者でございます……お客様ご注文のスーツでございますが……3日後、には完成する運びと なりましたので……お時間ございましたら……お受け取りに当店までお越し下さいますよう ……お願い申し上げます……あの……ご連絡が遅れましたこと……1か月近く遅れましたこと ……大変申し訳ございませんでした……他にも……他にも特別なサービスを……あの……また、 検討しておりますので……どうか……どうか……よろしくお願いいたします…………あの、 失礼いたしました……失礼、します……』 こちらの最終的な意志を、こちらへの最終確認は済んではいないハズだった。 ……にもかかわらず、3日後には完成?……つまり、半ば強制的な契約の締結……か。 男は笑った。別に契約を反故しようなどとは思ってはいない。 彼はあの――物々交換の価値を知っていて?それとも知らないで?……まあ、前者、 なのだろうけど……ね。 過剰な報酬だ。男は笑いながら、思った。 けれど、それでいい。それでイイのだ……。 私は思い出す。あの人が、あの時、私のために淹れてくれた緑茶の味を……。 美味しかった。あんなにも素晴らしいお茶を淹れ、注いでくれて、そして飲ませてくれたのなら ――契約を結ぶ価値はある。契約を果たした意味がある……。 彼と、あの人と、彼の家族が、それで幸せになれるのなら――私は何でもする……私は何でも 用意する……それが何であろうとも……それで彼らが幸せになってくれるのならば…… ――私も、幸せだ。 ――――― 「……素晴らしい。素晴らしい出来ですよっ、ご主人っ」 仕立てたばかりのスーツを着込み、男は鏡の前でポーズを取り、まるでダンサーのように クルクルと回転をし、また爽やかな笑顔を彼に向けた。 だが今、彼はそんなものを見てはいなかった。腹の上で指を組み、震えそうになる腕を必死に 抑え込んでいた。心臓が高鳴り、足も震え始めていた。 「……おそれ、入り、ます」 声がひきつってはいたが、どうしようもなかった。 鏡の前では男が忙しげに動いている。腕を伸ばしたり、脚を開いたり、ストレッチのような 動きをしているのが視界に入る。ついさっき、《D》の支店長が商店街へ向かって来るという 連絡を親父が受けた。親父と母は邪魔だと言い聞かせ、店の奥で待機させている。 ……後は――男の動向を気にしつつ、彼はイスの上に置かれた、あのヌメヌメとした革鞄を チラリと見た。……あの中に、金が? 彼は――思った。 そして――思い返していた。自分と――自分と結婚してくれた、女の顔を思い浮かべた。 「……ウチは確かに覚王山にあるけど……商店街の……ちっぽけな洋裁店……なんだ」 付き合いも長くなり、互いの両親を紹介しようという話になって、彼は家業のことを女に 告げた。恥ずかしかったし、負い目もあった……けれど……何より、そう……何よりも、 彼は、本気で、本気で――女との結婚を考えていた。女に、嘘を言いたくはなかった。 女は、静かに「……そう」とだけ言い、少しだけ顔を背け、少しだけ俯き……それから、 それから……顔を上げ、微笑み、「……知ってたよ」と言った。 女は覚王山日泰寺の方向へ指を向け、「アッチの高級住宅街でさ、私見たことあるんだ…… あなたが、《テーラーチクサ》のチラシを配っているところ……」と言い、笑った。 次の瞬間にはもう――、彼は女を抱きしめていた。そのまま大声でプロポーズをし、 女はそれを――笑いながら、楽しそうに笑いながら、受けてくれた……。 なぜ、妻が俺なんかと結婚してくれたのかは……今でも、何も、わからない。わからない、 けれども……彼は妻を愛していた。心から、愛していた。 ……だからこそ、彼には金が必要だった。手に入れたすべての金を、妻に捧げてもいいとさえ、 思っていた……。 そう――あの日……病院での検査の結果が真実だとすれば……俺はもう、妻の願いを叶えて やれそうにないのだから……。そう思った。 「――さて、ではお支払いの方を……」 呟き声が聞こえ、慌てて男を見る。すでに男は革鞄に手をかけるところまで来ている。 頼む……これが嘘や冗談なんてヤメてくれ……。 強い願望にとらわれながら男の手元をじっと見つめた、その瞬間―― 時間の流れが、 止まったかのように、 風が、空気が、太陽の光が、動きを 止めた。 店内の机、試着室、試着室のカーテン、マネキン、マネキンに着せたスーツ、衣類棚や 装飾品のケース、床や天井にいたるすべてのものが……ぐにゃりと歪んだ。 彼はそれを見て、それを聞いた。 「……失礼。これは、まあ……万が一の場合に備えてと言いますか……例えるなら、防犯装置の 類ですかね……そんなに気にしないでください。私の声以外はちょっと聞きづらいかもしれま せんが、まあ……私が出て行けばやがて終わりますから……」 歪みきった空間の中で、男だけが姿勢を正し、男だけが喋り、男だけが動いていた。 彼はそれを見て、それを聞いた。自身が喋ることは、できそうになかった。 「……契約は果たされました。交換する物は《あなたが100円と判断したボールペン、840本》 ですね?」 彼は答えられない……しかし、彼はそれを見て、それを聞いた。 「……ここに置いておきますね。今回の件、私のワガママを聞いてくださり、本当にありがとう ございました。《テーラーチクサのスーツ》、確かに頂きました……」 男が革鞄から――いくつもの、大量のペンの束を取り出し、机に置く。 それを、彼は見た。そして、聞いていた。 「……一応、念のために伝えておきますが……このスーツ上下とベスト、私は結構気に入って ますよ……これなら、2、300年くらいは着られそうですし……あっ、これは冗談です……あはは……」 笑いながら、男は店の入り口まで歩き、ガラスの戸を開ける。 ……彼は見た。見続け、聞き続けていた。 「……ではまたご縁があれば……あっ、そうそう――奥様に、最後にお会いできず残念でした、と だけお伝えください。……では改めまして――ごきげんよう。さようならっ」 ……彼は見た。1か月前と同じように、爽やかな笑顔と言葉を残し、颯爽と去る男の後ろ姿を…… ただ、ただ……呆然と見続けていた……。 ――――― 店舗奥にある自宅に入り、居間にあるソファに腰を下ろす。 目の前に《D》の支店長の顔がある。景色は未だ歪んでいて……気持ちが悪かった。 支店長はペンを確認し、何かを叫び、喜び、札束をテーブルの上に積んでいく。 彼には何も聞こえなかったし、何もかもが歪んで見えていた。 親父が喜んでいる、母が嬉し泣きをしている……ように見えた。 そこに、妻が帰宅した……どこに行っていたのだろう……。 妻が何かを言っている……空間は歪んで見えたが、何となく、唇の動きを見た。 ……彼は見た。妻の唇の動きを、見続けた。 いまびょういんで、けんさした。 あなた、わたし、にんしん、した。まだちいさいけど……まだまだ、ほんとうにちいさいけど。 妻の顔を見る。泣いていた……泣きながら、俺の腕にすがりつく、妻の顔を見た。 そんな……。 そんな……ばかな……ありえない……ありえない……。 親父が万歳をしている。母が泣いている。支店長が拍手をしている。妻は微笑んでいる。 彼は思い出した……。 あの――病院で、妻のためにと思って相談をしたついでの、ついでに俺自身の検査をしたい からと言われて、検査の結果を聞きに行った時に言われたことを――あの、産婦人科の男の 医者に言われたこと――何を告げられたか、そのことを――。 『……精子の遺伝子異常が確認できました。自然妊娠は不可能です。奥様には……』 他の病院でも言われた。どこの病院でも、同じ言葉を聞いた……。 妻は言っている。 げんきな、あかちゃん、うむ。 景色は歪み、人も物もよく見えない、三半規管に影響したのか、単に酔いがひどいのか…… 意識が急速に遠のいていく。俺は……今、幸せ、なのか? あなた、あいしてる。ありがとう。 妻がそう言っているのが伝わる……ああ……俺も、愛しているよ。 そうだな……俺は、今、幸せ、なんだろうな……。 遠のく意識の果てで――彼は、ようやく、理解した。 おそらくは妻も、あの男と何らかの契約をしたのだ。何かと、赤ん坊を。 けれど……それは別に構わなかった。愛する妻の子であるならば、俺も全力で働き、育てて みせる自信はあった。少しなら金もある……大丈夫……きっと、大丈夫、だから……。 そして……男の子か女の子かわからない我が子に、 誰の精子で妊娠したのかわからない我が子に、 そう――たとえ血の繋がらない我が子でも…… ――教えねばならないことが、ひとつある……これだけは、絶対に、子々孫々まで、 伝えなければならぬことがある……。 《テーラーチクサ》のスーツを着た男に、注意しろ……と。 了 今日のオススメ曲。バンド好きな方なら聞いてもらいたい方々。 数年前に好きなホラー漫画がアニメ化された際に知ったバンドです。 →岸田教団&THE明星ロケッツ_GATE~それは暁のように~_ →岸田教団&THE明星ロケッツ_GATEⅡ~世界を超えて →岸田教団&THE明星ロケッツ_LIVE MY LIFE_MUSIC VIDEO ichigoさん……本当に魅力的な女性です。大好きです。 他にもイイ曲ありますが……タイアップ動画の方がどうしても音質が良くて……リーダーの 岸田さんもカッコイイし……。 お疲れさまです。seesです。 前編の反響が良かったので嬉しかったス。後編はほぼ投げやりス……酔っ払いながら 書いたモノだし……書きなぐりデス。 ラストの妻子さんの話ですが……職場の女性陣に聞いたり、最近の検査キットの取説を見て、 総合的に判断させていただいた内容です。まあ……フィクション、ということで……ここらへん の適当さが顕著に出た、今二話です。反省。 しかし……いかんせん文章構成力がイマイチすね……手ぇ、ヌキすぎたかも……。似た描写多すぎ。 時間あればそういうのもクリアできるけど、早く終わらせて次の話書きたいし……う~ん。悩む。 構想と流れはメモを元にすぐ完成はしたんスが、書き作業は時間かかって半日程度かな。修正は イロイロすると思いまス。 最近は他サイトの投稿小説よく見させてもらいますけど……皆さん気合入ってますよね (具体的なコトには触れませんが)、気合・熱意はseesも見習わねば(^^)/ 次回のテーマは『手紙』もしくは『遺書』もしくは『遭難』です。いろいろ候補がありまして ……ショート予定ですが……一週間以内には書きたいな。 ではまたまた、ご意見・ご感想・ご批判、何でも待ってマス。 皆様へ愛を込めて、seesでした♪でゅわ♪ 岸田教団&the明星ロケッツ♪ ⇩が新曲 ⇩⇨の2枚はオススメっす。 こちらは今2話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!! 人気ブログランキング オマケショート 記念という概念の価値 (本編に登場する《D》とは関係ございません!) 先輩女性03「ねえsees君、sees君、《大黒屋》さんでさあ~、コレ買い取ってくれるかな~」 「えっ?何スか??」 先輩は静かに、そしてゆっくりと――エルメスのバッグから何かを取り出した……。 seesの背に緊張が走る……けれど、それは、本当に、本当に――どうでもいいものだった。 先輩女性03「……すごいでしょ(^^)。都道府県の記念硬貨20枚だよ(^^♪テヘヘ」 ……… ……… ……… 「………う~ん、大丈夫だと思いますよ('ω')ノ」 (だから何なんだよっ!!てか20枚だけかよっ!!そのバッグ売れやっ!!……ていうか 銀行で両替しろやぁっ!!) 了っ!! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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