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株式会社SEES.ii

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2017.04.13
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カテゴリ:ショートショート
短編一覧     ss一覧 
―――――

 4月9日――。
 少年は地下鉄名城線、名駅行きの電車に乗っていた。車内には多くの人々が乗っている
のが見えた。少年は携帯電話の時刻表示にチラリと目をやり、薄暗い地下鉄の車内を見た。
 
 ……少年は知っていた。これから自分が誰と会い、何を話し、何をしようとしているのかを。
それはこの国では許されないことかもしれない、犯罪であるかもしれない……ということを
少年は知っていた。
 だが、そんな犯罪めいたことをしなければ……自分は今の自分よりももっと辛いさまざまな
ことを抱えることになるのだろう……。
 車内の乗客を見回してみる。自分より年が上であろう人々の姿を見て、ぼんやりと思う。
たったそれだけのことで、息苦しいほど憂鬱になった。だらしなく口を開けて眠る男、大声で
話す若い男女、化粧をする若い女、ボリボリと頭をかく白髪の老人、虚ろな目で地下鉄の
真っ暗な外を眺める老婆、電車の窓に反射する情けない顔をした少年……。みんなが同様に
何かに悩み、もがき、苦しみ続けているように見える……。
 吐き気がしてくる。自分はこんな大人になりたくない――少年は思った……が、今の自分の
悩みを解決しなければ……おそらくは、自分も、彼らと同じような道を辿るのだろう。そんな
ことはないよ、と誰もが言って慰めてくれるのだろうけど、そんな言葉を信じられるほど、
少年は子供ではなかった。

 茶が屋坂の駅に降りる。
 地下から地上へ昇るエスカレーターの上で、少年は思い出していた。Aという少女のこと、
1年前に行方不明になったAという少女のことについて考える。少しだけ、考える。
 彼女はいったい、どういう人だったのだろう?
 Aは勉強が好きだったのだろうか? スポーツが好きだったのだろうか? ディズニーや
サンリオのキャラクターが好きだったのだろうか? どんな音楽を好み、どんな服装が好き
だったのだろうか? そして…僕のことはどう思っていたのだろうか?
 そうだ。僕は彼女と付き合っていた。好きと言い、好きと言われた人だった。だが、僕は
Aという彼女についてあまりにも知らない。
 僕は彼女の性格を知らない。彼女の愛も、喜びも、怒りも、悲しみも、楽しいと思える
ことですら、知らなかった。
 そうだ。僕と彼女の付き合いなど、ほんの短い間だけなのだから。
 それでも――僕は彼女のことを知りたいと思った。知らなければ、少しでも知らなければ、
彼女の居場所など永遠にわからないのだから……。

 駅の入口の前で、ひとりの男から声を掛けられる。
「……ご通行中すいません。この人を探しています。見かけましたら……ご連絡を……」
 男は白髪混じりの頭髪に汗を浮かべ――悲しそうな顔をし、疲れたような声を出し、少年に
ひとつのポケットティッシュを配った。ティッシュの裏紙には『探しています』と大きな字で
印字され、携帯電話の番号と自宅らしき電話番号、住所、連絡先氏名、そして……――『B』
という少年の名前と顔が印刷されていた。
 少年がAという少女を探すように、男もまた――Bという少年を探していたのだ。
 そして――
 ……本当に、本当に偶然かもしれないこと……これは妄想であり、夢であるかもしれないこと
……何の確証にも、何の証拠にもならないことを……少年は知っていた。
 ――少年はBを知っていた。より正確にいうならば……
 ――少年はBと同級生であり、Bとは顔見知りであり……そう……そうなのだ。
 あくまでも推測、あくまでもカン。誰にも相談できないし、する意味もないように思えた……
そんな些細なこと。少年が知りたいのはAの場所であり、Bの場所ではない……。けれど……
けれども……知りたい、知らなければならないのだ……。Bのことをもっと知らなければ、僕は
永遠にA、彼女に会うことはできない……できなければ、僕の人生が前に進むことはない……。
ティッシュの裏紙を見つめながら、少年は思った。
 
 たぶん――僕は、Bの居場所を知っている。
 
 知っていて、無視をしていた。
 AとBが無関係であると聞かされ……ただ聞かされただけであるにもかかわらず、少年は
その言葉を信じてしまった……。信じてしまったが最後、Bのことなど頭から消えて失せ……
そのうちに戻って来るだろうという結論に達し、すべてを忘れてしまった……。そう――……
1年近くの間……つい一週間前まで――この駅の前で、この男から、このティッシュを受け取る
まで――少年はBという人間の存在を……忘れていた。

 意を決し、男に話しかける。
 Bの父親であるらしい、この男なら、おそらく、Aを探す力になってくれる……いや、少し
違う。これは……誘いなのだ。共犯になってくれ、という誘いだ……。
「……おじさん。お話があります」
 ……もう、後には戻れないかもしれない……。少年は思った。
 ……僕は、犯罪を犯すことに……大層なことをするつもりはないけれど、そう決めた。

 西の彼方にナゴヤドームが見える。そこから強い風が吹き、桜の花びらが舞う。力落ちた
花びらは、地下鉄の入口へと吸い込まれ……薄暗い地下の闇へと消えていく……。
 

―――――

 男は棒のように突っ張った足を懸命に動かして、道行く人々にポケットティッシュを配って
いた。足の裏が焼けるように熱かった。
「……ご通行のところをすみません。この人を探しています。見かけましたら、ご連絡を」
 何度同じセリフを繰り返しただろうか?……なぜ、俺がこんなメに?
 男はさっきから、ずっとそれを考えていた。
 自分の息子が行方不明になって1年、こんな場所にいるはずがないことは明白だった。
母親が息子を心配し、探そうと努力する……父親が息子を心配し、探し人のビラを配り歩く。
それが当然の行為のようにも思えるし、男にも理解はできた。だが、問題なのはその背景だった。
 理解できないのは、本当の親子でもないBという少年のために自分が疲れ果てている、という
事実だった。妻と呼ぶ女とは内縁の妻であり、婚姻届など出した覚えはなかったのだ。
 ……愛知県の行方不明者は平成28年で5677人……全国じゃ8万人だ……よくあることなン
だよ……それなのに……畜生……畜生が……。
 内縁である女と女の家族への義理、自分の親や世間への体裁、自身の職場での評価……どれも
これも、いっそ捨ててしまいたくなる衝動を必死に抑え、男は地下鉄の駅の前に立ち続けた……。

 本当に何を考えてやがる……あのクソガキ……。
 そうだ。本当に理解できないのは、あの、Bという義理の息子だ。適当に金を与え、適当に
喋りかけ、適当に優しくした……そのつもりだった。母子ともに生活の面倒を見て、厳しいことは
何ひとつ言わず、世話もやかず、ある程度は自由にさせてきた。それなのに……消えやがって……。
 背伸びをし、痛み始めた腰に手を当て、空に向かって長い息を吐きながら――男は思い出して
いた。Bという少年のこと、1年前に行方不明になったBという息子について考える。少しだけ、
考える。
 ……家出、だよな。
 この1年、何度となく繰り返した考えを、男はまた考えた。
 Bという少年はちょっと図々しい感じだったが、悪いヤツとは思えなかった。こいつは母親に
似て素直な性格だと……そう、勝手に思い込んでいた。Bにどんな理由があったのかは知らない。
わかっているのは、去年の4月10日、名城公園に花見へ行くと言ったきり戻らなかったこと
だけだ。Bという息子の心の奥には……ひょっとして俺の知らない、本人さえ知らなかった
心の闇でもあったのか?……わからない。今ではもう、確かめようもなかった。
 
 ――不意に、男は背後から呼び止められた。
「あの……おじさん。お久しぶり……です」
 振り返ると、今さっきティッシュを配った少年が、男の顔も見ずにうつむきながら言った。
 男は自分の足元を見つめる少年を見つめ返し、小さな声で「……キミは?」と聞いた。
「……あのう……おじさん……僕は……Bの同級生で……そのう……実は、お話があって…」
 ひとり言のようにブツブツと喋る少年の声を聞きながら、男は少年のことを思い出そうと
した。少年は確かにBの同級生であり、家に何度か遊びに来たこともあった……が、それ
だけだ。それだけのことしか思い出せないと考えた、瞬間――その瞬間だった――
――男の脳裏に、ある人物の顔が思い浮かんだ。
 警察に聞かされた、Bと同時期に行方不明になったAという少女のこと……。そうだ……
この少年は確かAの……。
 男がBという息子を探すように、彼もまた――Aという少女を探していると、そう誰かに
聞いた記憶がある……。
 そして――
 ……本当に、本当に気のせいなだけかもしれないが……これは勘違いであり、いらぬ誤解を
招くだけであるかもしれないこと……何の確証にも、何の証拠にもならないことを……男は
知っていた。
 ――男はAを知っていた。容姿ではない。正確にいうならば……
 ――男はAの、とある特徴のようなものを知っていた。つまり………。
 あくまでも推測、あくまでもカン。誰にも相談できないし、する意味もないように思える……
そんな些細なこと。男が知りたいのはBの場所であり、Aの場所ではない……。けれど……
けれども……知りたい、知らなければならないのだ……。Aのことをもっと知らなければ、俺は
永遠にB、息子に会うことはできない……できなければ、俺の人生が前に進むことはない……。
 ティッシュの詰まったトートバックの紐を握り締め、男は思った。

 たぶん――俺は、Aの居場所を知っている。

 知っていて、無視していた。Bとは無関係であると思い込んでいた。だが一度だけ、一度だけ、
その考えを改めようと決意した瞬間があった。
 Bの私室に残された、あの感覚と――
 名城公園に残された、あの感覚は――
 それは何か?――。
 手掛かりを探そうと名城公園に足を運ぶたびに、男はそれが何なのかを思い出そうとしていた。
しかし、AとBが無関係であると学校や警察から聞かされ、脳裏にぼんやりと浮かんでいた『何か』
はかすれていき、やがて完全に消え去った。
 ……AとBの携帯電話は未だ発見されていない。ふたりの最後の位置情報もバラバラで、追跡
不可能のままと聞いている。……何なんだろう? いったい俺は何を忘れてしまったのだろう?
「……おじさん。お話があります」
 少年が決意めいた、真剣な表情で言った。
 もはやAとBの生死などどうでもよかった。こんなティッシュを配る日常を、一刻も早く
終わらせたかった。そうだ……少年の話を拒む理由など、どこにもないのだ……。

―――――

 少年と男がまもなく訪れるであろう、名城公園北園の桜――。
 名古屋城さくらまつりのシーズンになると800本のソメイヨシノが咲き乱れる、桜の名所。
 そして――少年と男が知る、名城公園の桜の知識はそれだけだった。
 そう――少年と男は知らなかった。
 桜という生き物はバラ科モモ亜科スモモ属であること。落葉広葉樹であり、日本では固有種、
交配種を含め600種以上の品種が確認されていること。
 ……そして、遺伝子的に不安定であり、一代限りの突然変異も稀ではないこと……。
 
 名城公園にあるソメイヨシノは、すべて接ぎ木によるクローンではあるが……果たして、
本当に、そうであると言えるのだろうか? 何せ800本もあるのだ……1本か2本、
桜のようなモノが混じっていても……誰もわからないのかもしれない……。

―――――



  『AとBと桜、のようなモノ』 中 に続きます。






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 アヴリルさん……何でもアリの破天荒歌手。セレブであるハズなのに、そういう雰囲気を
感じさせない素敵な方です。来日公演の時、チケットが手に入っていれば……畜生……。




 お疲れサマです。seesです。
 今回は本当に疲れた(まだ終わってないスけど)。うん。THE自己満足。
前半、ホントわけわからんスね(笑)。
 ……どうせなら季節感を出そうと考えたのがダメだった。桜をテーマにしたのはイイが、
縛りがキツイ……。『愛されモンe』に展開が似てて動揺……。前半らしく伏線ぽいのを
イロイロ作るけど……弱いなあ。いろいろ後で修正する……んだろうな。
 イイ物を作ろうとすると本当にキリがないス……まあ反省スね。後半は書くだけなので、まあ
……時間作ってすぐにアゲます。夜は野球見たいし(^^)/テヘ
 それでは毎度のお願いデスが、ご意見ご感想、具体的な内容に関してはブログ本文にての
コメント回答で、よろしくデス。でわでわ、待ってま~す。seesより愛を込めて♪



 Avril Lavigneのアルバムす。実はsees、これ全部持ってます……。


こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!

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次長   「バレねえようにヤレッて、いつも言ってンだろうがっ!!(# ゚Д゚)激オコ」

     そして……ブログではなく、始末書を書くseesでした( ノД`)シクシク…。

                              了……。





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Last updated  2017.05.04 23:21:27
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