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株式会社SEES.ii

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2017.04.22
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カテゴリ:ショートショート
短編一覧     ss一覧     前編はこちら     中編はこちら     
―――――

 20時を過ぎ、桜へのライトアップが終了する。青白いLEDの街灯が照らすベンチの上で、
少年は、沈黙を続ける男をじっと見つめていた。いや……男は黙っていたわけではなかった。
頭を抱え、膝の上で指を組み、ブツブツと何かを呟き続けている。
「……花びら……触媒……発芽……必要なのは……人間の体液……花びらが、捕食する?」
 男が手を震わせ、膝を震わせるのを見た瞬間、まるでそれが感染するかのように――少年の
体にも恐怖が満ちた。自分たちがとんでもないものに関わっているのだという恐怖。けれど……
もう、少年は――後には引けなかった。
「おじさんっ! 教えてよっ! あれは……あの桜はなんなのっ?」
 男は、先程まで凝視していたプレートのはめられた木を指で示した。「……全部が何かの
イタズラじゃなければ、だが……もし万が一、あの説明が真実だとしたら……」
 男はそこで言葉を切り、歯軋りをして俯いた。
 俯いたままの男に少年は聞いた。「……AとBは、もう戻っては来れないの?」
 男はゆっくりと顔を上げた。
 驚いたことに――男は笑っていた。そう。混乱しきってくちゃくちゃになった顔に、無理
やりに笑みを貼り付け……笑っていた。
「……ああ、たぶん……いや……きっと、2人は、苗床にされたんだと思う……」

 ソメイヨシノではなく、桜でもない、モノ。
 男は、少年に聞かせた。あのプレートに刻まれた文言と意味を……そこから汲み取れる
情報と、男自身の注釈を交え……それから、「たぶん、信じられないと思うし、俺も信じられ
ないことばかりだ……」と言った。

 花びらを触媒とし、人間の体液と化学反応させることで発芽させる植物。
 花びらと言っても、正確には人工授粉後の花弁、というところだろう。
 発芽した瞬間、食虫植物のように人間を捕食し、苗床を形成するための土壌にする。
 おそらくは一代限りの突然変異の桜。
 おそらくはソメイヨシノと酷似していただけのモノ。いや、クローンの突然変異の可能性もある。
 おそらく、コイツの子供はコイツにはならない。ただのソメイヨシノに戻るだけ……。
 おそらく名城公園――北園とは、こいつを隠すために作られた庭園かもしれないこと。
 ……つまりは、他の生き物に卵を産み付ける、アナバチのような植物……。

「どうして……いったい、誰が……何のために?……」
 語り終えた男の目を見つめ、少年は呻いた。想像したこともない、夢で見たことすらない話
――そう。少年である少年にとって、そんな話は漫画やアニメと同じだった。
「わからない。どこの国のヤツで……誰かなんて、俺には何も……わからないんだ」
 すぐそこに佇む――桜のようなモノを凝視して、男が首を振った。「信じられないのは
俺も同じだ……こんなこと信じられるわけがない。だから……別に信じなくてもいい……」
 男の言葉はとても信じられるようなものではなかった。けれど、信じるしか――信じるしか
選択肢がないのもまた――少年である少年にはしかたのないことのように思われた。
「……おじさん。僕は……」
 少年の声に重ねるように、また男が呟いた。「……信じられないんだよ……信じたくないん
だよ……さっきから、さ……痛いんだよ……腹がさ……猛烈に痛いんだよ……」
 少年が呆然と見る中で――男は腹を抱えて呻きだした。ベンチに横になり、激しく息を
喘がせた。もがき苦しむ男を見て、少年が叫んだ。「おじさんっ! おじさんっ!」
 少年が男の肩に触れようとした、その時――まさにその時――溜め池の向こう岸から、
光の筋が輝いた。

 こちらに誰かが、ひとりではない数人が、向かって来ていた。少年が助けを呼ぼうと、
池の淵まで駆けようとした時――男が少年の腕をつかんだ。
「……いいか。よく、聞け……俺が今から言うことを……絶対に……守れ……」

―――――

 少年が闇の中に消えていくのを見届けると、すぐ近くから男たちの声が聞こえた。視線を
向けると、そこには3人の男たちが立っていた。全員が同じ作業着を着て、ひとりが荷車、
工事現場で使うような一輪車を押していた。年齢はバラバラで、若者と中年と老人だった。
「こんばんは。大丈夫ですか?」
 中年の男が前に一歩踏み出すようにして、これっぽっちも男のことを心配していないような
口調で聞いてきた。後ろの老人と若者は無表情で男の全身を凝視している。
 男は、おそらくは自分とたいして年齢の違わない男を見つめ、呻くような声で「……アンタ、
あそこの、管理会社の人間だな……1年くらい前に……俺はアンタに会っている……」と言った。
「あぁ。そういやお前さん、あの――何だっけ? あのガキ? Bだっけ? Aだっけ? 
アイツらの親御さん?」
 中年がニヤニヤと笑い始め、それにつられるかのように他の男たちも口々に、「……俺の
ことは覚えてる? さっきタコヤキ売りつけたの、俺なんだけど……タネ入りのタコヤキ、
美味かったろ?」とか、「……もうひとり中学生くらいのガキがいたハズだが……」とか、
「……たまにいるんだよ……オッサンみたいなことに気がつくバカが……」とか、「……交番に
報告すんのもめんどくせえしな……」とか、「……おい、さっきまでいた――あのガキは
どこ行った?」とか聞きだした。
 ――そう。
 1年近くも市街を彷徨い、気絶するほどの腹痛に顔を歪ませながら……男はついに、あらゆる
ことがらを、その瞬間、理解した。
 あの桜のようなモノを管理し――警察をもグルにして――行方不明者をエサに苗床を作り――
まもなく自分をもエサにしようとしているのがコイツらだと――男は理解した。
「……どうして………どうして……こんな、ことを? ……なぜだ?」
 声が震えていた。凄まじい怒りが湧き、痛みを少しだけ和らげていた。
「あぁ?」
 中年はベンチに寝る男の顔は見ず、背後の老人に「ガキを探してきてくれ。たぶん、堀川の
橋付近だろ……市街への道はあそこが近いしな……」と言い、胸のポケットから煙草とライター
を取り出して火を点け、長く白い煙を吐き出した。老人の男がどこかへと消えていく。
「理由は……カネだよ」
 呟くように中年が言った。「低コストかつ短期間で、ソメイヨシノの苗木が栽培できるんだ。
買い手は海外を含めてくさるほどいやがる」
「……外道が」
 あまりの怒りに再び声が震えた。そんな自分の声を聞くのは初めてだった。
「……愛知県の行方不明者は平成28年で5677人……全国じゃ8万人だ」
 中年はそう言って、少し笑った。「……よくあることなンだよ……」

「ぐえぇっ」
 瞬間――目が眩むほどの激痛が下腹部で破裂した。同時に驚くほど多量の血が喉を逆流し、
口からドクドクと溢れ出した。これほどの激痛。これほどの苦痛。自分の腹の中の内臓が、
ぐちゃぐちゃに溶かされていくのがわかる……凄まじい恐怖に、頭がガクガクと震える。
 けれど……意識を失ってしまうわけにはいかなかった。
 息も止まるほどの激痛に耐え、男は中年の目をじっと見つめた。「……あの、Bは……
Aという女の子は……どうした?」
 若い男が無言でベンチの脇にしゃがみ込んだ。そして、両手をメガホンのように口元へ添え、
重症患者に呼びかける看護師のように――言った。
「てめーのバカ息子はな、夜遅くまでココのっ、このベンチの上で、仲良くイチャイチャ
ベタベタしてやがったのが悪いんだよっ! この俺がっ、優しくっ、帰るよう注意して
やったのにもかかわらず、だ。好きだの付き合うだの、アイツは嫌いだの別れるだの……
すげーイラついたからよ。直接ぶん殴って口の中にタネを押し込んでやったんだよっ!」
 それだけ言うと、若い男と中年は、勝ち誇ったかのように笑っていた。
「……事務所の裏にプランターがある。2人してイイ苗木だ。日付もあるからすぐに見つかるぞ……
もうすぐ出荷だしな……何なら見るか?」
 中年が笑いながら言った。
 
 男は血まみれの唇を動かして、呻くように言った。
「……助けてくれ……カネなら少しはある……俺の財布の中にキャッシュカードがある……
暗証番号を教えるから……全部やるから……助けて……くれ……」
 激しく息を喘がせながら――瞬間、男は見た。男たちの目が、黒く、汚らわしい欲望を宿して
輝いていたことを。
「……そうやって素直に言えばイイんだよ。ほら、番号は?」
 ベンチで血ヘドを吐く男を見下ろして、中年が太い声で聞いた。「サイフはズボンの裏か?」
 男は込み上げる血を飲み込み、「ああ……番号は1209……俺の誕生日だ……」と言った。
「どれどれ……おい、ケツを動かせよ……」
 若い男が笑い、男の体を揺さぶる……
 ――その時、
 ――その瞬間、
 ――その刹那、男は、背もたれと腰の間に寝かせていたスコップを右手に取る。同時に、
最後の、残っていたすべての力と体重を乗せ――若い男の眼球めがけて突き入れた。
「ぎっ! ぎゃああああっ!」
 若い男が絶叫した次の瞬間、スコップを抉るように引き抜く。ボトリと何かが落下し、
若い男は順路の上でのたうち回った。
「……俺のぉっ!……俺の目がっ!……」
 笑みが消えた中年は、同僚であろう若い男を一瞥し、「静かにしろ」と冷たく言い放つ。
 朦朧とする意識の中で、男は……小さく、笑った。
「……ざまあ、み……ろ……ハハ……ハ……」

 中年の男は冷静に、低く、抑揚のない口調で告げた。
「これから……お前の妻も家族も全員を始末する。もちろん、あの小僧もだ。……個人情報
なんてのは簡単に手に入るしな……何か、言い残すことはあるか? ……ああ?」
 中年はまた勝ち誇ったかのように微笑んだ。
 ……しかし、それは――男も同じだった。
「……そんな時間……あるのかよ? なあ……コレ……知ってるか?……ツイキャス……
って……生放送って……知ってる……か?………ベンチの下に、俺のiPhoneがあるけど……
知ってた?……ハハ……ハ……」
 
 欲にまみれた、ケダモノたちの咆哮が――夜の公園に響き渡る……。
 iPhoneが踏み砕かれ、激高する咆哮がまた響く……それらを聞きながら、男は――
思った。……時代遅れなんだよ。……過去に捨てられた……ゴミだ、お前らは……。
 
 ……最後に、言い残し……たい……こと……ね。
 思い残すこと、後悔したこと、心残りは数えきれないほどあった……。けれど、男は
多少なりとも満足はしていた……。ティッシュを配るだけの人生に、少しだけ意味を
くれた……あの――ケツの青い、幼稚な、正義漢きどりのクソガキ……そんなもののために、
そんな見ず知らずの子供のために……くたばる……か……それも……まあ……いいか……。
 
 腹がパンパンに膨れ上がり、骨が溶け、手足が土のようにボロボロと崩れ落ちる。
今にも何かが皮膚を破り、生まれようとしているのがわかる……。

 男は、目の前であたふたする男たちへ向け――最後の言葉を言い放った。
「……プロの野球選手……なりたかった……なあ……ハハ……アハハ……」
 子供の頃からの夢を呟き――男の肉体は消滅した。

―――――

 4月11日――。
 朝陽が昇る直前――未だ薄闇が漂う、北園の溜め池とフェンスの間の僅かな隙間。傾斜の
ある、雑草が茂る僅かな隙間に身を這わせ続けた少年は、やがて――立ち上がった。
 花壇の隅に隠してあった、自分の携帯と男の財布を拾い――少年は歩いた。ブルーシートの
張られたベンチと、桜のような植物の前で一瞬だけ立ち止まるも……やがて、また歩き続けた。
園内を歩いている間も、地下鉄名城線の名城公園駅に着いても、タクシーに乗っている間も、
家に帰って母親に抱きしめられている間もずっと、ずっとずっと――少年は泣き続けていた……。

―――――

 桜の季節が終わり、春も終わり、梅雨の季節に入ろうとしても……少年のことを探そうとする
人間は現れなかった。
 あの、Bの父親とは面識も少なく、携帯で通話したこともなく、あの日の行動を共にしたと
いうだけの間柄であったため、僕の居場所を探る手掛かりも少ないのだろう……ということに
した。不安がないわけではないけれど、いつまでもビクビク震えているわけにはいかなかった。
 一度だけ、あの場所の様子を見に行ったことがある。少年と男の予想通り、あの桜のような
モノは消え、深い穴の上にブルーシートが敷かれていた。あの白いプレートも、ベンチも、
跡形もなく消えていた……。それだけだ。それ以上のことは、知らないし、誰かが教えてくれる
とも思えなかった……。


「……そういえば、アンタさ……将来は何かやりたい仕事はあるの? 大学に行きたいなら、
キチンと父さんに相談しなさいね」
 母が少年に聞いた。
「……うん。勉強したいことがあるんだ……」
 母は「へえ……何?」と聞き、少年の目をじっと見つめた。
「……植物のこと。被子植物とか、裸子植物。花とか……木とか……桜の木、とか……」
 母は少し驚いたようだったが、やがて少し笑い、微笑んだ。
「……イイんじゃない。ヤル気があるのはイイことよ。それに……最近のアンタ……」
 少年の顔をいたずらっぽく見つめて母が言った。
「……少し大人っぽくなった。イケメンね」

 そう……なのかもしれない。少年は思った。
 そう……少年の小さな恋も、短い冒険も終わった。少しだけ大人の男に近づけた、
そう思うことにした……。
「……キミらはどう思う? Aさん。B君……」
『…………』
『…………』
 少年は自室のベランダに置いた2つのプランターに話しかけた。2つは小学生くらいの高さの
桜の苗木で……植物で……人の問いに応じる生き物ではない……。そんなことは誰でも知っているし、
常識で、当たり前のことだった。
 ……けれど――僕は知っていた。
 どうすれば、コイツらが僕に口を開くかを……。

 ハサミで枝を少し切る……すると――
『……やめて……許して……お願い……いやだ……いやっ、いやーっ!』
 ライターで幹を炙る……すると――
『……やめろ……やめてくれぇ……ああああーっ! ……ああああーっ!』
 どこかで聞き覚えのある、少女と男の子の悲鳴を――
 ――少年は聞いていた。ずっと、ずっと聞き続けていたいと思った……。
 
 この会話が夢か幻か、そんなことは、少年にとってどうでもいいことだった。聞こえるのなら、
それが事実であり、現実なのだから。現実であるならば、それは、ヤツらの特徴に違いなかった。
特徴があるのならば……探すことができる。
 そう――あの桜のようなモノもきっと、似たような悲鳴をあげるに違いない。
 少年は決めた。
 その日が来るまで――アレを燃やして灰にするまで、アレの断末魔の絶叫を聞くその日まで……
アレの子供を、アレの子供たちを、ひとつ残らず燃やし尽くそう――と。
 少年は、手始めに、この――
 2本の苗木を、灰になるまで燃やす尽くすことに決めた。
 
 
 あっ………そうだ。
 おじさんのことはどうしよう……どうしようかな……。
 少年は溜め息をつき、少し笑った。 


 

                                   了








          本日オススメ→ “酸欠少女”さユり 『birthday song』 
           独創的! → “酸欠少女”さユり 『ミカヅキ』


      酸欠少女さユりさん ↑ 実際は少女、という年齢ではないそうですが、かなり
                  独創的な存在感と歌唱力です。……かなりの努力を
                  されてきたようなチカラを感じます。今後、注目したい
                  方のひとりです。できれば……何年も歌って欲しい、そう
                  いう風に思います。




 お疲れサマです、seesです。今回は感情と表現を抑え、季節感?と会話を重視した内容す。
オカルト風味が強いのはいつものことですが……ホント、伊藤潤二先生みたいな話スね。
納得の、妥協駄作っスね。まぁ…星新一先生も、ぶっちゃけ変な話多かったし、まあいいか(笑)
《早く読めて、そこそこオモロイ》がseesの基本方針とはいえコレはちょっと……自己陶酔的な
文章も好きですが……やはりご訪問者様には、感謝と娯楽を常に提供し続けたいものですwww。
 ……構想は1日。書きは3話で17時間くらいかにゃ?

 さて、次回ですが……やはり短編集を充実させたいっすね。中途でダレないよう、展開、
構成、固有名詞の設定はキチンとしたいな~♪
 でわでわ、今回のご意見・ご感想、具体的なご指摘はブログ内での返信ということで……
コメント、待ってま~す。長らく封印していたフェイスブックも解放しました(単に使って
なかっただけ)。おもろいページがあればぜひ教えてください。
 ご拝読、ありがとうございました!seesより、愛を込めて♪



 ↓←酸欠少女”さユり 1stアルバム「ミカヅキの航海」アルバムと、
                ↓オススメ楽曲です。 ↓試聴してみてくださいス↓


 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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 恒例?のオマケショート 『禁断のエンブレム』

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                                 了……。





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Last updated  2017.05.10 13:15:26
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