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株式会社SEES.ii

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2017.04.27
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カテゴリ:ショートショート
短編一覧     ss一覧     中編はこちら
―――――

 腐ってやがる――老人は思った。
 夜20時のコンビニの前の駐車場の車の中で、若い男女が執拗に唇を合わせているのが
見える。別の駐車スペースでは高校の制服を着た少年たちがタバコを吸っている。老人が
コンビニに入ると、若い男と中年の男が立ち読みをしている。レジには女の店員が2人いたが、
みすぼらしい老人を迎える声は聞こえなかった。
 インスタントのコーヒーを買い物カゴに入れ、ビールの缶を買い物カゴに入れようとしたその時、
「ちょっと、おじいちゃん」という女のカン高い声が聞こえた。振り向くと濃い化粧をした
若い女が舌打ちをして老人の背後に立っていた。
「はい……どうかされましたか?」
「トロトロしてないで、そこどいてっ、アタシ急いでるから邪魔しないでっ」
 濃い化粧をした若い女は身長が高く、小柄な老人を見下すように言った。
「ああ……はい」
 老人は触れていた缶ビールを離し、脇に逸れた。女は何種類ものチューハイを何本か
無造作に買い物カゴに投げ入れ、「ホント、誰のおかげで年金もらえると思ってんの?」
と吐き捨て、レジに向かった。
 老人はレジで精算を行う女の後ろ姿を見つめて唇を噛んだ。
 ……どいつもこいつも、腐ってやがる――老人は思った。けれど、老人が思うのはそこ
までだった。もし俺が今、コイツらと同じ年であったなら、きっと俺もコイツらと同じように
振舞っているんだろう、と思った。
 
 店員からレシートを受け取って、老人は自宅に戻ろうと歩き始めた。少しだけ、心の中で、
『この国も、この国に住むヤツらも全部が腐ってやがる……。いや、違う……本当に、本当に、
腐ってやがるのは――俺だ……俺なんだ……』と呟き、深呼吸をした。次の瞬間にはもう、
自分が何を考えていたのかを忘れていた。忘れてしまおうとした。
 腰の痛みを我慢して、70歳の老人は歩き続けた。

―――――

 自宅のマンションに戻ると、ポストに入っていた郵便を机に置いた。ヤカンに水を入れて
ガスコンロに火を点けてから、老人はそれらの郵便物に目を通した。通販会社からのダイレクト・
メール、電気やガスや水道や電話会社からの請求書や領収書、ピザやソバの出前のチラシ、
知人からの葉書、成人向けDVDのカタログ、自治体発行のタウン誌……。その中に上質の
和紙でできた白い封筒が紛れていた。老人の名で宛てられ、丁寧な毛筆で書かれている。
 裏返してみる。差出人の名前はない。もう一度裏返して見ると、郵便局のハンコや切手すら
皆無であった。ほとんどの郵便物をゴミ箱に捨て、差出人の不明な手紙だけを持って、老人は
ソファに腰を下ろした。
 ……何だ?
 老人は封を切り、折り畳まれた上質な便箋を開いた。そこには細い硬筆で書かれたキレイな
文字が並んでいた。

 はじめまして。
 突然、このような形での手紙をお許しください。
 私の名や、私の容姿や、私の経歴をあなたはご存知ないと思います。けれど私は、あなたを
ずっと見続けていました。あなたの経験されたこと、あなたの行い続けた懺悔と後悔と贖罪を、
私はずっとずっと見つめていました。あなたの誇り高い決意と、意志を貫く精神力、誘惑に
屈しなかった強い心に、私と私の仲間たちは、心から敬意を表します

 私と私の仲間たちは、あなたの罪を許し、あなたの願望を叶えてあげたいと考えています。
 何も知らないクセに?
 そう思われますよね。とても不快な心境だと思います。しかしながら、この手紙を破り
捨てるのはもう少しだけ待ってください。
 これは宗教への勧誘ではなく、セールスの類でもありません。あなたの願望を安全に、
誰も傷つけることなく、完璧に実現できるチャンスをお知らせするための手紙です。強制
ではありません。金銭の応酬は一切ございません。義務などが発生するわけではありません。
 もうお察しではありませんか? 今から、あなたの人生を終わらせるための道具を提供いた
します。あなたの現世での
働きが評価され、その身の罪を自らの手で終結させる自由を
提供いたします。本来、
自死というものを私と私の仲間たちは許してはいません。ですが、
あなたが望むのならば、
それを叶えて差し上げたい、というのが我々の結論です。
 ふざけるな、そう思いたい気持ちは汲みますが、これはあくまでも自由意志です。信じるか
信じないかはあなた次第です。我々は嘘を告げません。
 この手紙を読み終えた数分後、あなたはあなたの罪による償いが未完全ながらにある程度、
達成されたことを知る
でしょう。
 どうします? 残りの人生を謳歌しますか? それとも、誰にも知られていなかった
真実を解放し、最後の贖罪を望まれますか?
 これはあなたの人生にとって、最初で最後のチャンスになるかもしれません。最後に
残った罪を精算し天に昇るか、真実を隠し抱いて罪を放棄し生き続けるか。
 どちらを選択しても、我々のあなたに対する敬意は変わりません。
 
 さあ、玄関の新聞受けを見てください。
 チャンスの猶予期間は24時間です。
 どうか、後悔のない道を選ぶよう、我々も祈ります。
 
 それが、便箋に書いてあることのすべてだった。
 老人はその手紙を3度繰り返して読んだ。老眼鏡を外してテーブルに置き、ソファから
立ち上がった。 
「……バカバカしい」と呟きながら、沸騰するヤカンの火を消し、先ほどの郵便物の
置かれた机を見た。知人からの葉書をつまみ上げ、裏返し、視線を下げた。内容は実に簡素で
あり、適当で、人間的な情緒をまるで感じさせない文章だった。

 慰謝料の件ですが、もう結構です。私も再婚して40年になります。あなたの年金を削って
まで金銭をいただくのは気が引けます。あの事件のことは忘れて、あなたも残りの人生を楽しんで
ください。ごきげんよう。さようなら。
 
 それが、葉書に書いてあることのすべてだった。
 老人は葉書を持ちながら台所へ向かい、使い古したマグカップにインスタントのコーヒー
を淹れ、安物のコーヒーミルクと三温糖を入れ、安物の小さいスプーンでかき回した。
右手でカップを持ち、左手に持った葉書をもう1度見た。そして、熱いコーヒーを一口
すすってから、食器棚にある引き出しの中に葉書を押し込んだ。似たような内容の葉書を
押し込むのは、これでもう……5枚目。それが、それだけが……長年カネを払い続けた、
最後の人物からの、最後の葉書だった……。
 
 ……結婚式で誓ったんじゃないのか? 
 ……アイツと、永遠の愛を、誓ったんじゃないのかよ? 
 ……畜生……クソが……どいつも、こいつも……。
 老人は思った。思い続けた――自分が間違っているとは思えなかった。
 ……忘れる? 
 ……できるわけがない。できるわけがないんだ。
 ……1度でも約束し、誓い合ったのなら、それを死ぬまで果たすのが当然のハズ……だ。
そのハズなのだ。そうじゃなきゃ、ならないんだ……。
 法的に解決しているから? そんなものは関係ないっ! アイツは……アイツらは……
そんなこと絶対に認めてはいない……そのハズだ……そのハズなのに……畜生……畜生……
畜生……畜生が……。

 深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせ、しばらくためらい、それから――老人は玄関に
視線を向けた。

―――――

「バカバカしい……」そう呟きながら、老人は金属製の新聞受けの蓋を開けた。
 瞬間――全身を戦慄が走り抜けた。
「……うわっ! ……あああぁ………あああぁ……」
 老人は呻いた。呻きながら後ずさり、それが――そこに、玄関に置かれた靴の上に落下
するのを見た。それは――新聞受けにも入る程度の、細長い、鉄パイプのような形をしていた。
「……そんな……嘘だろ?」
 思わず口に出して老人は言った。
 そう――老人は、かつて、これとそっくりなものを見たことがあり、今、瞬間的に、その
体験を少しだけ、少しだけ過去のことを、思い出した……。

―――――

 パイプ爆弾。金属やプラスチック製のパイプの中に火薬を詰め、両端を固く密閉し、
信管や時限発火装置で爆発させる。
 材料は基本的にガス管や水道工事用の鉄パイプが使用され、容器のパイプそのものの
破片が爆発の威力を上げる。ガラスや細かな金属片を内部に詰め込むこともある。
 殺傷能力は低いが、低予算でも大量に生産が可能であり、20世紀のアジアや中東でも
数多く生産された。日本では学生運動の最盛期に製造・使用が確認されている。

 
 俺は知っている……俺は、これを見たことがある……だが……。
 小さな目を見開き、老人は目の前の爆弾に見入った。
 ……少し、違うのか? 俺が昔、見た物とは……少し違う。
 パイプの中央には小さい穴が空けられており、信管と雷管らしき機械のコードが穴の中へと
繋がっている。ただ1点……それら全てを連結、ガムテープで固定し、中心に据え置かれた装置に
関しては、老人の記憶にも残ってはいなかった。
 それは……100円ショップか何かで購入したであろう、キッチン用のデジタルタイマーだった。
 デジタルの数字は、23:10:05。数字は少しずつ減っている……。
 05……04……03……02……01……00……そして、タイマーの数字が23:09:59と変化する
瞬間を――老人は呆然と見つめた。

―――――


   『放棄か、贖罪か、』 中 に続きます。









          本日のオススメ→共感覚おばけ / ササノマリイ
                  戯言スピーカー/ ササノマリイ
                  ハルニキミト / ねこぼーろ(ササノマリイ) feat.初音ミク


 ねこぼーろ、ことササノマリイさん↑  イラスト・映像・作詞作曲・ボカロ曲の提供まで
                    マルチに活動されている方。米津玄師氏と同じく
                    天才肌であり、非常に独特な感性の持ち主。
                    seesはマルチな方に憧れる傾向があり、すぐ好き
                    になりました。まだまだ知名度はないかもですが、
                    一度動画を見るなり、聞くなり損はないと思われます。
                    応援します。




 お疲れサマです。seesです♪ 今回は予定を変更しての即興ショートです。
 下書きやメモなしの走り書き。実質6時間くらいの書き込みのみ。修正は後ほど少しずつ……。
 最近、個人的に困惑する事案が少々ありまして|д゚)……急遽、高齢男性をテーマにし、
自分なりの生活なり考え方なりをイメージしました。書いて表現してみると、かなり心境も
スッキリして、今はイイ気分です(^^♪ しかしながらテーマも重く、扱いが難しいので、
感情移入なり親近感なりはないかもデス。字数ないし……( 一一)。わけわからん内容…。
 まあ……今回はエンタメ色も薄く、つまらない話、ということにして下さい。
 タイトルは……、しっくりこないな……。宮沢賢治様みたいなセンスが欲しいナ。
 でわでわ、予定外即興ショート――ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。
 ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ。
 ご拝読、ありがとうございました。seesより、愛を込めて♪



 ↓ササノマリイさんのオススメ楽曲です。リーズナブルです。↓


 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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 恒例?のオマケショート 『理想と現実』

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  sees    「……はい。(イカサマやぁぁぁ、こんなのイカサマやでぇぇぇ)………(´;ω;`)グス」
     まあ、アレはアレでうまいけど……しかもメンタイ味かよ……普通やん……。


                                   了……。





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Last updated  2017.05.04 23:22:53
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