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株式会社SEES.ii

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2017.05.02
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カテゴリ:ショートショート
短編一覧     ss一覧     前編はこちら                
―――――

 いつもと同じ、40数年間同じ、ひとりきりの朝食だった。
 メザシの干物をトースターで焼き、インスタントの味噌汁を用意し、昨日の残りの飯を
電子レンジで温めた。窓から見える朝日を見ながら、老人はいつものように質素な食事を
とった。ゆっくりと飯を噛み、粉の残る味噌汁を味わった。メザシを頭からかじり、ゆっくり
と昇る朝日を見つめ続けた。そして――かつて老人と共に食事をし、共に仕事をし、共に夢を
語った仲間たちのことを思った。仲間たちはみんな死んでしまった……俺はひとりで生きて、
ひとりで死ぬのだ。そう思った。

 いつもと変わらない、ひとりきりで食べる食事だった。だが老人は、寂しいとは思わな
かったし、わびしいとも思わなかった。……そう思わないようにしていた。
 寂しくなどない、わびしくなど、ない。
 それでも――時には、どうしようもなく寂しさやわびしさが募ってくることがある。何年か
に1度だけ、そんな時がある。そんな時、老人は、自らの罪の重さを考えた。
 何も得てはいけない。何も欲しがってはいけない。何も文句を言ってはいけない。何にも
頼ってはいけない。何にもすがってはいけない。それが、老人が自らに課した罰だった。
 そうだ。俺は罪人なのだ……俺に許されたことは、生きることで……罪と罰と共に生きる
ことであり……それが、それだけが……誇りなんだ。俺は……罰を全うして……死ぬのだ。
 そうだ。何も欲しがらない、何も得てはいけないと誓った自分が、「寂しい」などと言う
わけにはいかなかった。「わびしい」などとは、口が裂けても言うつもりはなかった。
 老人は無言で飯を噛み続け――ふと、顔を上げ、テーブルの隅にある爆弾を見た。
 爆弾のタイマーは14:00:00ちょうどを指していた。


 差出人不明の手紙と、真贋の不明なパイプ爆弾、それが自宅に届いた直後から、老人は
何度も電話に手を伸ばし、警察に通報しようとした。誰か来てくれ、そう言おうとした。
だが、老人の中の何かがそれを制止させた。

 ――あなたの願望を叶えてあげたいと考えています。
 
 老人は思い出していた。この手紙の送り主はたぶん、かつての仲間たちの身内の誰かに
違いないだろう……。もし、この爆弾が本物であれば……俺は、どうすればいいのだろう?
 静かな恐怖に老人は身震いした。
 死ぬのは怖くなかった。だが、それで自分の罪を精算できるとは思えなかった。

―――――

「……誰も傷つけず、誰にも迷惑をかけないのであれば、俺は……いつ死んでも怖くはない」
 呻くように呟き、ようやく立ち上がり、フラフラとした足取りで隣の和室に向かった。
 そこには春の朝日の光が柔らかに差し込んでいた。老人は仏壇の前に跪き、そこに飾られた
1枚の写真を見つめた。写真に映る仲間たちはいつものように、老人を見つめて微笑んでいた。
 
 ――最後に残った罪を精算し天に昇るか、真実を隠し抱いて罪を放棄し生き続けるか。

 老人は目を閉じ、何度かゆっくり深呼吸を繰り返した。思い出そうとして思い留まる、
考えようとして考えを止める……いつもならそうするハズであったことを、老人は――
……思い出し、考えた。
 脳裏に蘇るのは……若く、強く、勇気があり、自信に満ち、将来を夢見た……――
――……どうしようもなく愚かで、浅はかで、醜く、おぞましく、汚らわしい自分の姿――。

―――――

 全共闘運動が失速した1970年代、男は大学卒業後に名古屋のカルチャー雑誌の出版社に
就職した。当時は共産主義者や社青同解放派、新左翼諸党派を始め日本赤軍による事件が多発し、
出版社の需要を見越しての就職だった。
 全共闘の影響は名古屋の地でも発生したが、日本大学や東大ほどの規模はなく、全国でも
比較的穏やかであったのも、男にとっては少なからず好都合ではあった。政治の毒に犯される
ことなく就職し、仕事も多く、前途は揚々のようにも思われた。
 男と男の仲間たちが任されたのは政治や娯楽を扱った大衆誌であり、男と仲間たちは毎日の
ように全国を飛び回り、取材と編集の毎日を送っていた……。

 ある日、男はとある政治団体に取材を申し込み、承諾を得て、メンバーの集まる家屋へと
足を運んだ。家屋は美濃市の山中にあり、ひとりで訪れることが条件だった。
 家屋の中へと案内された男は、そこで様々なものを見た。30代と思われる男や、20代後半と
思われる女性。廊下の脇で横たわる男や、ボサボサの髪を掻きむしる女がいた。また、特定の
政治思想の書かれた書籍、特定の政治思想を唱える者の肖像画があり……《全共闘》とペイント
されたヘルメット、ゲバ棒と呼ばれる鉄パイプ、粉塵マスク、日本刀、わけのわからない薬品や、
包帯や、角材や、投石用と思われる棒があった……。誰が、どう見ても、大学生やOBの集まりには
見えそうになかった。
 しかし――彼らが学生ではないこと、彼らが過激派と呼ばれる団体であることを、男は知って
いた。知っていて、取材を申し込んだのだ。
 覚悟の上だった。自分の恐怖と引き換えに良い記事が書けるのなら、恐怖などいくらでも
くれてやるつもりだった。
 団体の代表らしき男が現れ、対面のソファに腰を下ろした。当然だか、そいつとは面識がなかった。
自分とほぼ同年代の年齢で、三角巾のような布を口元に巻いていた。

「我々は革命に命を捧げ、腐敗した政府を打倒する」
 男は、そう宣言する彼の素性を知らなかった。彼の家族や、彼の生い立ちを知らなかった。
つまりは、知る必要があるとも思えなかった。男が知りたかったのは、そこらへんに群生する、
過激思想をもった若者の半生ではなかったのだ。
「あなた方の目的はわかりました。……次にお聞きしたいことはですね、あなた方のメンバーの
数や武器や規模を教えて頂きたいのですが……」
「……武器? ……だと?」
 彼は首をわずかにもたげ、目元を歪めた。それは――そう、笑っているようにも見えた。
それはとても子供じみた、手に入れたオモチャを自慢するかのような笑みだった。男は迷う
ことなく「はい、ぜひ拝見させてください」と答えた。特ダネの匂いが脳を刺激し、口の中に
唾液が滲み出た。
「……本物はない。……見本の模型しかない……」
「……構いません。事情はお察しします。団体、個人の詳細、ここの住所は伏せさせていただきます」
 男がそう言うと、彼は背後の部下らしき青年に耳打ちし、「少し待て」と言った。そして、
そのまま――戻って来た青年は、アレを、そこに、置いた。

―――――

 老人は静かに目を開き、仲間たちの写真を見つめた。
 その写真は40数年前、まだ健在であった仲間たちと6人で、快晴の空に太陽が輝く夏の
伊勢湾で釣りを楽しむ前に撮影したものだった。あの時はもちろん、それが6人中5人が帰らぬ
人になろうとは夢にも思わなかった。
 老人は自分がそれを撮りたいと言ったことや、仲間が「特ダネの記念だな」と笑ったことや、
「社内に飾ろうぜ」と笑ったことを思い出した。
 その時の仲間たちの楽しそうな声や表情や体の動きを、一緒に会社を大きくしようと掌を
重ねた瞬間を、未来を夢見ていたであろう若者たちの笑顔を、老人は思い出した。
「……許してくれ……許してくれ……みんな……俺はどうすれば……どうすれば、お前らに
許してもらえるんだ…………」
 呻きながら、老人は言った……

 ――そして、どうして自分だけが生き残っているかという、事実の――真相に震えた。

―――――

 老人の自宅の押入れの奥には、古い1冊の雑誌が眠っていた。
 特集記事として紹介された内容は、過激派と呼ばれる特定政治団体の活動状況に関する
記述であった。記事ではメンバーの個人写真や政治思想、主な資金源、アジトと思われる
家屋の見取り図などが図と写真込みで特集されていた。その中には、彼らが使用すると
思われるパイプ爆弾の模型の写真もあった。また、その威力、その殺傷能力について、
担当した記者はこんな私見を述べている。

『……パイプ爆弾は殺傷能力も低く、極めて貧弱な破壊力しか生み出せない粗悪品であり、
彼らの政治思想と同じく幼稚と思わざるを得ない……壁を破壊しても、家屋は破壊できない。
ボートは沈められても、船は沈められない。人を殺傷できても、組織は崩せない。貧困な
思想を振りかざす彼らを、危険なオモチャで危険な遊びを繰り返す彼らを、警察は断固
放置してはならない……』

―――――

「……幼稚なのは、俺のほうだ……悪意を煽り……調子に乗って……自分のことしか見えてい
なくて……働いて、働き続ければ……誰かにカネを払い続ければ……自分の罪が消えると勘違い
して……虫のイイ話を……そうやって……自分に酔って……俺は……最低のヤツなんだ……」
 
 老人は目を開き、声に出して言った。
 人生のほとんどを労働に費やした――ひたすら休みなく働き続けた小柄な老人は、発声した
だけで痛む喉を咳き込ませ、膝と腰の疼くような痛みに――……
……――耐え続けた……ひたすら耐え続け、ひたすらに耐え続けた……。

 視線を脇に向ける。そこには、今夜にも爆発するかもしれない時限爆弾が――かつて見た
ことのある爆弾とそっくりの、人ひとりくらいしか殺傷のできぬ、粗悪な、パイプ爆弾が、
そこにはあった。
 
 デジタルのタイマーは、ちょうど10:00:00を切っていた……。

―――――


   『放棄か、贖罪か、』 後 に続きます。









        本日のオススメ→ マキシマム ザ ホルモン "え・い・り・あ・ん"
     途中から壊れる(笑)PV→ マキシマム ザ ホルモン "小さな君の手"
    いろいろやりやがったPV→ マキシマム ザ ホルモン "予襲復讐"


        マキシマム ザ ホルモン様www↑  説明いらない、ですね。
                           好きだなあ……この歌詞とスタイル。
                           ナヲさんと生田斗真氏のデート写真は
                           本当に衝撃でした……。




 お疲れサマです。seesです♪ 今回はマジで焦った回でした。
 淡々とした文章……つまんないかも( 一一)sees的には好きですが……。
 高潔な人。孤独で、こういう生き方しかできない人、というイメージでしたが……キツゥ。
やっぱりメモと下書き、人物構成は大切ですね(◍>◡<◍)♪ …後編は短くする予定。
 楽天で小説書いておられる方々は本当――皆さま気合入ってますね……seesは週1か、
10日で2本が限界スね……。変なの載せたくないしな……。次回作は単発ショートしたい
けど……ぐるじいズ、字数的に……。中尺の短編は鋭意制作中です。
 
 でわでわ、適当即興ショート――ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。
 ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ
 ご拝読、ありがとうございました。seesより、愛を込めて♪



 ↓マキシマム ザ ホルモンさんのオススメ楽曲です。
                   一家に一枚はあってもイイのでわ?↓


 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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     ……
     ……
     ……
     つ、つまんねえ……。いつもは外野だしな……大声出せないからストレスも溜まるし、
     外野に行ってもこの格好じゃなあ(スーツと社員証と社員章アリで問題起こしたらマジ
     クビだし)……そして、――中日の負け確試合……平田ぁ……大島ぁ……白竜監督……。
     
     ……サムイ('Д')ブルル。
     ……寂しい(seesひとり)。
     ……チアドラの写真撮るsees……我ながら、キモい。
     ……誰か、誰か、誰か私と……話を……シテ……。
     ……サムイヨォ……ダレカァ……エアコンノカザムキ……カエテ……カエテ……。


                                 リョウ……。





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Last updated  2017.05.04 23:23:16
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