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株式会社SEES.ii

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2017.05.20
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短編一覧     ss一覧 
―――――

 名古屋市中村区にある、ブランド・貴金属のリサイクルショップ《D》の名駅支店店長で
ある岩渕誠は、不自然なほどに顔を歪ませ、深く息を吐きだした。
 ……冗談じゃない。
 心の中で岩渕は呟いた。
 この女は善人で優しくて見た目にも本当にイイ女なのだが、メリットの皆無な頼みを
引き受けるほど、岩渕はヒマではなかった。
「……もう一回、聞いてもイイですか? 私に何を手伝え、と?」
「うん。一緒に探して欲しいの。この店の奥にあるアレと同じ……じゃなくて、私の家から
盗まれたアレ――山崎の50年、シングルモルトウイスキー……2011年の……クリスタル
ボトルの……」
「はいはい……ウチの店にあるのとは別の、とはどういう意味ですか? 盗まれたものと、
ウチの店に飾ってあるアレとは、何が違うんです? ナンバリング以外に何かあります?」
 岩渕は口を尖らせた。
「……盗まれた山崎の50年は、特別なんです。アレじゃないとダメなんです……」
 女は目元に涙を浮かべ、今にも泣きだしそうな顔をした。嘘じゃないみたいだが……。
「盗品だろ? ……警察は?」
「……全然頼りになりません。もう2週間も連絡がないし……ただ『名古屋かな?』みたいな
こと言ってただけで……私、ずっと探してて……」
 岩渕は、ふうっ、と溜め息をついた。
「お嬢さん、私ね、ただの質屋で、リサイクル業者。探偵のマネなんてできないの」
「……でも……でもっ、さっきは――『困ったことがあれば、助けます』って……あれは
嘘なんですか? ……嘘を言ったんですか?」
 そう言うと女は、VIP用の特別応接室のテーブルの上に顔を沈めた。
「おいおい――泣くなよ、もうっ……」
「助けてください……お願いします……他に頼れる人がいないんです」
 女はそれだけ言うと、「……私だけじゃ、何もできなくて……何も知らなくて……」と
呻くように呟き、大粒の涙をポタポタとテーブルに落とした。
 
 ……どうしてこうなる?
 いつもなら――こんなバカ女、さっさと叩き出すか、警察に引き渡すかの2択だ。
 カネにならない……謝礼もロクに出そうにない……この女は見た目こそイイ女だが、
窮している若い女を手籠めにする外道趣味はない……おそらくは浜松か美濃、彦根か伊勢、
そこら辺の――名古屋周辺の地方都市から来た、田舎モン……小金持ちのお嬢様、といった
身の上だろう……本当に、たいしたカネにはなりそうにないな……。
 だが――
 本当に困ったことに――
 岩渕はこの女を叩き出すことはしなかった――
 いや……しなかったのではない、できなかったのだ。
 クソが……ツイてねえな。今朝から厄介事しかねえ……。
 岩渕は思い出していた。今朝――、自身の軽い思いつきで乗った地下鉄での出来事を。そこで
起きた最低の出来事を。そして――目の前で泣きじゃくる、この変な女との出会いを……。

―――――

「答えなさいっ! あなた、私に痴漢したでしょうっ!」
 突然――化粧の濃い派手な女が、東山線の名駅プラットホームに降りようとした岩渕の腕を
掴み、悲鳴に近い叫び声を上げた。周囲にいた通勤途中のサラリーマンや高校生の笑い声が
ピタリと止んだ。そして――派手な女のヒステリックな叫びが、駅の構内に響き渡った。
「痴漢ですっ! この人痴漢ですっ! 誰かっ、誰か駅員さん呼んで来てっ!」

 ……俺がっ? 痴漢だと?
 瞬間、岩渕はそれを知った。
 周囲の人々が一斉に自分を凝視し、卑しい者を見下すかのようにヒソヒソと囁いた。
 岩渕は女を無視して腕を振りほどき、改札への階段を登ろうとした。だが、間に合わなかった。
次の瞬間、岩渕は見てしまった。周囲には体格の良い男たちが立ち塞ぎ、岩渕の逃げ場を
完全に封鎖するのを見てしまった。
「違うっ! その女のカン違いだっ!」
 恐怖に息が止まり、全身の筋肉が緊張した。
 動けなかった。見知らぬ男のヌメヌメとした手が腕に絡まり、歩くことも、逃げ出すことも
できなかった。
 女は狂ったかのように叫び声を上げ、汗で濡れた長い黒髪を振り回していた。
「ヒト違いだっ! その女の間違いだっ!」
 女の叫びと重ねるように、岩渕も叫んだ。
 周囲からは「クズ野郎」だとか、「社会のゴミ」だとか、「死ね」だとか囁く声が漏れ聞こえ、
パシャパシャと携帯電話で写真を撮る音が続いた。
「……やめろっ!」
 凄まじい恐怖に駆られて岩渕は叫び続けた。「写真を撮るんじゃないっ!」
 怖かった。このまま自分がどうなってしまうのか、想像するだけで怖かった。そして、その時、
その瞬間――かつて感じたことのないほど強い、別の感情が沸き上がって来たのを感じた。
 別の感情――それは、絶望、だった。
 岩渕は善人ではなかった。人を騙したり、陥れたり、何かを奪ったりしたことは無数にあった。
だが、それだけだった。違法、合法、下法の区別は弁えていたし、大抵の問題はカネで解決できる
よう配慮はしてきた……そのハズだ……そのハズなのに……なぜ、俺がこんなメに遭わなくては
ならないのか? ……理解できない……理解できるハズがない……。
 脳の中心部が蕩けるように思考を停止し、岩渕は思った。
 ……助けてくれ……誰か、誰でもいい……俺を……助けてくれ……頼む……。
 その時――。
「あのー……」
 若い女の声が聞こえた。見ると、そこには――可愛らしく、幼げで、世間の厳しさなど
微塵も知らなさそうな……それでいてどこか品があり、どこか美しい――ひとりの若い女が
立っていた。
「……何? アンタも被害者?」
 岩渕の腕を掴む女が、自分よりも一回り年下であろう女の目を見つめて言った。
 ……助けてくれ。
 そう願ったつもりだった。けれど、声はまったく出なかった。
 ……頼む、助けてくれ……頼む……。
 低い声で女が言った。「……なら一緒に訴える? この野郎……絶対に慰謝料払わせてやる」
「えーと……」
 若い女はそう言うと、両手をスカートの上で重ね、お辞儀をするかのように腰を曲げた。
「……たぶん、あなたのお尻や腰に触れたの、私です。……この男の人が吊り輪に手を入れている
のは見てましたし……それに、ほら……この男の人、アタッシュケース? 持ってたみたいですし
……不可能なんじゃないかなっ、て……私、この人の手前にいましたし……あっ、そうだ、今から
でも吊り輪を調べてもらうっ、てのはどう……ですかね?……あと……言い忘れてましたが……
本当に、ごめんなさいっ!」

―――――

 ペコペコと頭を下げる男を、伏見京子はじっと見つめた。
 名古屋の酒屋や質屋を巡り歩いて10日ほど経つが、こんな経験は初めてだった。聞けば、
男は名前を岩渕真と名乗り、名古屋でも有名なリサイクルショップの支店長だと言った。
 京子は自分の目的である山崎の50年が、彼の――岩渕の店にもあると聞き、共に歩いて
店舗へと向かった。
 自分の目的を聞いて岩渕は戸惑っているように見えたが、それは当然のことだろう。だが、
京子には岩渕の都合などに構っているヒマはなかった。
 盗まれた酒を取り戻す――バカなことだとは、わかっている。そう。大学生の女の子が
見ず知らずの大都会で1瓶の、それも盗品を探すなんて、とてつもなくバカげた、とてつもなく
危険なことだ。手がかりなど、ない。その兆候すら、まったくない。けれど……もしかしたら、
もしかしたら……この人は……この男の人なら……手伝ってくれるかもしれない。
 ……そのために恩を売った? ……善意じゃなく、打算? ……迷惑じゃない?
 自分に聞いてみる。
 私のことを『助ける』って言ってくれたから? そう言ってくれるのを期待したから?
 もしかしたら……そうかもしれなかった。ただ、誰の手でも借りたい、それだけの理由なの
かもしれなかった。
 京子は隣で歩く男の顔を見つめた。たぶん30代なのだろう。30代の前半。不細工では
ないし、アイドルのように整った顔ではない。それに男の雰囲気……この人の周りにはどこか、
私の知っている男たちとは違う独特な雰囲気が……まるでオーラのようにうっすらと漂っていた。
そして、あの時――京子を見つめた、男のあの目――あの状況を……今にも警察に逮捕される
かもしれないという状況下で……男は笑っていたのだ。そう。男の目は笑っていたのだ。
絶望を望むかのような……退廃的な、どこまでも孤独で、どこまでも悲しい目……。
 京子はまた視線を男に向けた。この人が良い人なのか、悪い人なのかは、正直わからない。
けれど、男の目を見つめるのは、正直――嫌いではなかった。

―――――

「……泣くのは勘弁してくれ」
 岩渕が声をかけると、女は顔を上げ……男の目をじっと見つめ、すがるかのように言った。
「……お願い。少しだけでいいから……手伝って……何かアドバイスだけでもイイから……
少しだけ……力を貸して……お礼なら、何でもするから」
「アドバイスって……しかし……」
「詳しいことは……まだまだ話せないことはたくさんあるけど……岩渕さん、お願い……」
 繰り返しながら、女は涙を流し続けた。「……悔しいの……どうしても、取り戻したいの」
 岩渕は軽い舌打ちをし、少しだけ溜め息をつき、深呼吸をするかのように空気を吸い、思い
切り吐き出した。
「……ブラックマーケットって、知っているか?」
「……え?」
 女はくちゃくちゃになった顔に触れ、目元を指で擦った。
「……大須に行くぞ。……まあ、その前に――その顔何とかしろ」
 そこでようやく……今日初めて、伏見京子と名乗る女は――微笑んだ。

――――― 
 
『《D》に置いてあるサントリーシングルモルトウイスキー山崎50年57%700ml――
(《D》の店頭価格では税込14000000円)』
 これは元々投機目的で入手した企業の社長から買い取ったものである。ナンバリングされた
ボトルは管理も徹底され、盗品であれば間違いなく通報、売買情報は警察を含めて共有される。
つまり、窃盗に成功したとしても、それを現金化するのは非常に困難である。
 だが、しかし――……。

―――――

 『姫君のD!』 bに続きます。









         本日のオススメ→  神様のおくりもの/イナメトオル
         ホント、爽やか→  恋愛裁判/イナメトオル
    再生回数の差は気にしない→  恋愛裁判 /miku

              
              40meterpこと、イナメトオルさん。↑ 
            seesの大好きなGUMI様の楽曲Pのおひとり。
            深夜のバラエティ番組で拝見しました。毎日の
            ようにYouTubeで生配信の作曲・演奏動画提供……
            サービス精神旺盛な方は、seesもすごく好き。



 お疲れサマです。seesです。
 久しぶりの更新――忙しくてですね……失礼しました(ボーナス査定が( ;∀;)ヒイイ……)。
 
 楽天ブログでは初?の固有名詞キャラ2人を作成しました。イイ機会なので、適当な短編作り
ましたので、適当にくっつけて公開します。テーマはズバリ、コメディ風のラノベ風です! 
なるたけ暗くならない話を混ぜつつ、5~6話での完結、1か月弱での完成が目標です(まあ……
生暖かい目で見て頂ければ幸いです)。ちなみに…… 『過剰な報酬』のスピンオフ仕様です。
……今後の短編に合わせ、他にもキャラ制作進行中でございます……慣れてないケドw
 そうそう――いつもFBでイイネしていただいている方々、この場を借りて感謝します。
 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。次回は早めに更新予定♪
 ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ。
 ご拝読、ありがとうございました。seesより、愛を込めて♪



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         あのセリフを……言いたかった……ただ、それだけなのに……。

                                了"(-""-)"。





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Last updated  2017.06.02 10:33:25
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