009158 ランダム
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株式会社SEES.ii

2017.05.26
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―――――

「いくつか、確認しておきたいことがある」
 ハンドルを握ったまま男が聞き、京子は外の景色を眺めるのを止めて振り向いた。男は
正面を真っすぐ見つめ、長い息を吐いた。
「……はい」
「アンタの探している酒……見つかったとして、どうする? 警察に届ければイイのか?」
「……はい。できれば穏便に解決して頂きたいのですが……必要とあれば……」
 男は正面を見据えたまましばらく考えて……それから、ようやく思い出したかのように、
「それと、カネは持っているか? ……現金だ」と言って京子の顔をチラリと見た。
「……はい? ……2万円、くらいは」
 カネが必要、という意味がわからなかったので、京子はもう一度聞いた。「現金、ですか?」
「……必要経費は、後でアンタに請求してもイイのか?」
 乱暴な口調で男が言った。数時間前までの――あのペコペコとしていた男の人の口調の変化に、
そのあまりにも急激な変化が、それが何となく、おかしかった。
「大丈夫です。まずは……見つけ出すことが目的ですから」
「大丈夫です……か。……少しばかりカネを持ってきて、正解だったな……」
 男はカーナビを操作し、オーディオの音量を下げた。そして、「何日かかかるかもしれない
……俺にも仕事がある……ずっと付き合ってやれるワケじゃない」と軽く手を振った。
「いいんです……手伝ってもらえるだけで……それだけで、嬉しいです」
「だけどな……京子さん……」
 男は京子の名を呼んだ。名前を呼ばれた瞬間、京子の下腹部が冷たくなった。
「――それより、岩渕さん、この白い車――カワイイですね。何ていう車ですか?」
「……フィアット500だ……ルパン……の車だよ……」
 男は少し照れたような顔をした。
「とってもカワイイですね。私、この車大好きです……岩渕さんって、もっと黒くて大きい
車に乗るのかと思ってました」
「……いや、コイツだと、路地とかも走れるし……小回りとか、排気量もまあまあ……」
「実用的なんですね……」
「いや、高級車だと……客や会社の手前もあるし……」
「こんなにカワイイ車に乗っているのに……何で、今朝は電車に?」
「いや……それがさ……」

 他愛のない会話だ。男の目を見つめながら、京子は思った。このまま――この人と名古屋の
観光に行くことができるのなら、それはそれで構わないと思った。
 この人? 
 ふたりで観光?
 そう。この人……そして、この人の目――どこまでも孤独で、どこまでも悲しい目……。
 そう。私は……まさか……。
 この、名前と職業しか知らないような……こんな、今日、初めて会ったばかりの……
自分よりずっと年上の……自分とは全く異なる世界で生きてきた、この人に……。
 そんなことを思うのは初めてだった。そんなことを思うのは、そんな感覚を持つことは、
生まれて初めてのことだった。

―――――

 大須――。
 大須観音を中心として神社仏閣が点在し、巨大な商店街を形成する名古屋でも有数の
商業観光地区。4本の国道で囲まれた正方形の区域には、1200以上の飲食店や商業
施設がひしめき合い、古くから音楽・演劇・演芸の街として知られる。多国籍な文化概念を
持ち、国内外の観光客も多く、祭りやイベントが毎週のように行われる――……。

「――……これが、まぁ、表向きの『大須』だな……簡単すぎる説明で申し訳ないが……」
 名古屋市中区大須――。大須観音(北野山真福寺賽生院)の手前にある、NPC24h
大須パーキングにフィアットを駐車し、スマートキーでロックをかけて岩渕は言った。
「……まずはメシだ。……好き嫌いはあるか?」


 大須――。
 大須観音を中心とした各寺院のナワバリ争いは凄惨を極めた。信長公・秀吉公の力によって
平定されるまでは、毎日のように僧侶たちの戦争が繰り広げられた。戦後は弘道会系の
暴力団、旧・山口組系の司興業(6代目山口組組長、司忍氏の所属していた団体)が大須を
支配し、朝鮮・中国系のマフィアが混在する無法地帯であり、治外法権区域(実際は外国人
組織犯罪の抑止力的な意味合いもあったらしいが)。現在でも治安は愛知県内でも断トツに
悪く、強盗・恐喝・窃盗は日常茶飯事である――……。

「――……まぁ、地元の住民なら誰でも知っている話だな……コリアタウンと在日外国人の
商店街にはできるだけ近づきたくはないが……」
 パーキング近くにあるシャポーブラン大須本店でナポリタンを注文した後で、岩渕は大須に
ついての説明を終えた。女は真剣な眼差しで岩渕を見つめていた。化粧をしているとはいえ、
女はとても子供っぽく見える。やはり20歳そこそこなのだろう。
「……まずはどこへ向かうのですか?」
「……軽く情報収集だ。この近くに《D》の大須店がある。……そこの支店長の川澄、
というヤツは俺の後輩だからな……無理矢理にでも情報を聞き出す」
「……ごめんなさい。本当に……」
 岩渕の目をじっと見つめ、すがるかのように女が言った。「……いつかはわからないけれど、
このお礼は必ずします……だから……だから……」
「いや……そんなことを考えるのは後でいい。それよりも……確認したいことがある」
 女の大きい目を見つめ返して岩渕は言った。「……本当に、名古屋の街に酒が持ち込まれた、
という確証があるのか? 警察の話がウソだとは言わないが、アンタは他にも確証があるから
こそ、ココに来た、違うか? それとも、名古屋の人間が犯人とでも?」
 女は少し驚きながらも、悔しそうに唇を噛んだ。
「……実は、犯人は捕まっているんです」
 そう。岩渕は何となく察しはついていた。女の口からは、窃盗犯のことは何ひとつ聞いて
いなかったのだ。
「……だろうな。警察が犯人を確保した時点で、酒は行方不明になっていた……いや、他の
共犯者によって名古屋に渡った、ということか?」
 女は何かを言いたげに口を開くと、また閉じ……無言のまま男の目を見つめ、視線を外し、
しばらく何かを考え――……やがて、ようやく、顔を上げ「……私の知っていることは……
少しだけ……本当に少しだけですが……お話し、します……たぶん、信じられないと思うし、
信じてくれないかもしれないけど……」と、重い口を開いた。


「――……つまり、だ。妻子のある公務員が借金返済のため、借用書を持った債権回収業者に
そそのかされ、教唆された金持ちの家に盗みに入り、例の酒を盗み出した。翌日、名古屋にて
借用書と引き換えに酒を交換し、後、逮捕される。酒は債権回収業者に渡ったきり、その野郎
の腕に抱かれたまま――行方知れず……か」
 女はコクリと頷いた。
 ……女の言葉が全て真実だと仮定すると――
 債権回収業者、というのは偽装――ガセだ。消費者金融から借用書を買い叩き、犯罪に加担
させることで口を封じ、いざとなれば尻尾ごと切り捨てる……。警察から逃げるだけの知恵を
持ち、犯罪者と不良債権者の心理分析に長け、それなりの経済力を持つ組織犯罪――……。
 ……最悪だ。
 ……相手が悪すぎる。
 ……経済マフィアの可能性も高い。
 そして、何より、あの酒を盗み出した、あの酒の価値を知っている、ということは……。
「……他に、その……実行犯の公務員は、何か言っていたか? 酒を渡した相手のこととか、
特徴とか、言葉とか……」
 岩渕が尋ねると、女は首を傾げ――やがて、小さな声で「……羽根」とだけ呟いた。
「……羽根?」
「そう。ええっと……私が実際に見たわけじゃないから、詳しいことはわからないけれど、
その借金取りの相手の人は、年齢は50代くらいで……高級そうなスーツを着ていて……
それで、その人のネクタイピンが、天使の羽根の形をしていたらしいの……」
 
 ……天使の羽根を持ち、あの酒の価値を知っている者。
 ……あの酒の価値を、見ただけで瞬時に判断できる者。
 ……マネーロンダリングに詳しく、盗品をもカネに変えられる錬金術師。
 ……そんなことは、俺にもできる……そんなことぐらいは、朝飯前だ……。
 ……つまり――俺と同格か、それ以上の外道……。
 ……最悪だ……畜生、同業者の可能性、大、じゃねえかよ……。


 心臓が高鳴り始めた岩渕に、今度は女が、伏見京子が尋ねた。
「……岩渕さん、コレ……何です?」
 苦笑いを浮かべた京子が、目の前の料理を指差す。指先が微かに震えている。
「……鉄板焼きオムナポリタンの味噌デミグラスソース……注文通りだぞ?」
 口元をひくつかせる21歳の女の顔を見て――32歳の男は少しだけ、笑った。

―――――

 名古屋マリオットアソシアホテルのスイートルームで、男は持ち込んだアタッシュ
ケースから、オーク材による特製の木箱を取り出した。取り出した木箱はふたつある。
その内のひとつを、今夜、ここで、ひとりで、ゆっくりと楽しむ予定だった。
 もうひとつの木箱の中身に関しては……そうだな……ただ眺めるだけにしよう……。
これは特別なのだ……これは……そう、宝なのだ。とてもカネでは買えそうにもない。
私が運命に導かれた――いわば神からの贈り物なのだ……。
 特製クリスタルボトルの山崎50年……プレミア価格は14000000万円以上……これは、
それ以上の価値がある……。私にふさわしい、私にふさわしい日が来るまで……これは、
大切に保管しよう……。

 この山崎を手に入れた時の、あの、どうしようもない……役場で働いていた不良債権者の
男の顔を思い出す。そうだな……私は、あのゴミのような男に感謝する。
 ……よくぞ、私のために働いてくれた。今夜空ける予定の山崎の、最初の1杯は、貴様の
身を案じて飲んでやろう……拘置所は寒いだろ? 感謝しろ。

 男は視線をスイートルームの窓へ向け、眼下に広がる名古屋の市街地を眺めた。窓ガラスには、
2つの木箱が鏡のように写っている……。
 そして――片方の木箱の側面には、『菊』のような花の絵柄が彫られていた……。

―――――

 『姫君のD!』 cに続きます。









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          岡崎体育さん――↑
          説明不要かもですが……えー楽しいです。ポップから
          リリック、ポケモンソングまで幅広く活動し、幅広い
          層から支持されている方……まあ、簡単に説明すると、
          ……クリエイター寄りの天才さんです。電気グルーヴを
          尊敬されているようですが……私個人的にはもう……。



 お疲れサマです。seesです。
 ……1話目はツカミの意味を込めての高速展開で話を進めましたが、2話目からは比較的
ゆったりと進める予定です(あ~…ページ数に余裕あるって、最高やな)。大須でのお話は
主に先輩や上司(地元民)に聞いた話を元にしています。「違うがや」と言われても、sees
困っちゃう(*^^)v。何事も生暖かく見守って欲しいデス。…それにしても、ひどい文章力だ
……結局、いつものような感じになってしまうseesの話……( 一一)ムム。
 ちなみに~、お話の鍵である山崎の酒ですが、楽天でも出品されてましたね。限定すぎるけどw
 
 
 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。更新早めにできるようガンバリますっ!!
 ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ。
 ご拝読、ありがとうございました。seesより、愛を込めて♪



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 一同  「何だと~っ!! 聞いてねえぞっ!!!! (# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)ムカー!!」
 sees  「言ってないし、言わないし、今言ったし(^_-)-☆ヘヘヘ」
 次長  「sees君……」
   sees      「あっ、次チョー、大丈夫ですよ。お土産、いっぱい買ってキ・マ・ス・カ・ラ♡」
 次長  「実はな……さっき、聞いたんやが……社長もな、行くそうだ……平日の升席で……
      もしも、日程、カブってたら……どうするんや? 俺がチケットの中身、聞いて
      来ようか?」
 sees  「……え?」
 次長  「それ、升席のA席やろ? だで……隣やったら……」
 sees  「…………いや、私のことは……社長には……伝えないでください……たぶん、大丈夫
      ……ですから……ハハ……アハハ……」
      まさか、ね……。

                                了( 一一)ウムム






Last updated  2017.05.29 23:20:42
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