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株式会社SEES.ii

2017.06.02
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―――――

 後輩の川澄が任されている《D》の大須店は、シャポーブラン大須本店の近くにあった。
 ……川澄のヤツ、店にいるといいんだが。
 門前町通りの出入口から自動ドアを抜ける。60平方メートルほどの広い店の中には、
数え切れないほどたくさんのブランド品が並び、何人もの客たちがさかんに商品を手に取り、
大声で騒いでいた。
 川澄は探すまでもなかった。かつて岩渕のことを先輩と慕っていた男は、入り口の奥の
時計コーナーのカウンターで、中年の男相手に高級時計を売りつけようと微笑んでいた。
 ……わざとらしい顔だな。
 瞬間、この男は信用できるのだろうか? という疑問が湧いた。
 後輩とはいえ役職的には自分と同格……隙を見せれば今後の昇進にも関係する……いや、
今はそんなことを考えている場合じゃないのだが……。
「……とても良くお似合いです。こちらの時計は……」
 しきりに口を動かしながら、川澄は視界の外にいる岩渕に気が付いた。
「……すみません。少々、お待ちください」
 わざとらしい口調で川澄は客から離れ、すぐ近くに立つ岩渕の顔を見つめた……そして、
わざとらしく口元を歪めると、わざとらしく舌打ちをした。


 ひとしきりの挨拶が済んだあと、《D》大須店の2階の事務室のテーブルに向かい合って、
岩渕は川澄に今日のことを話した。朝から痴漢の冤罪騒動に巻き込まれ、伏見京子と名乗る
女に助けてもらったこと……京子の探している山崎の50年のこと……山崎の50年がこの
名古屋の地に流入しているかもしれない、ということ……酒を持ち去った男のことと、天使の
羽根のようなタイピンを付けていた、ということ……京子の手伝いを引き受けてしまった、
ということ……それから……大須の盗品売買、ブラックマーケットについて教えてもらいたい、
ということの話をした。
 川澄は岩渕の話をじっと黙って聞いていた。
「……何か聞いてはいないか? 最近入ってきた高級酒のこととか?」
 すべてを話し終えたあと……ここまで、店に一緒に入って来てから一言も発しなかった京子が
口を開いた。「……信じていただけないのかもしれませんが……どうか、川澄さんのお知恵を
お貸しいただけませんか?」
 しばらくの沈黙があった。1分……2分……。
 まあ、それが当然の反応だな。こんなバカげた話、聞くだけ時間のムダなのだ。
 岩渕がそっと息を吐いた時、「……社長には?」と聞く川澄の声が聞こえた。
「…………」
 今度は岩渕が沈黙した。最も相談したくない――そういう相手のことを思い浮かべた。
「……覚醒剤はもちろん、血液や眼球、臓器売買、絶滅危惧種の皮や角、かなり危険な取引を
するヤツらも……大須にはいる……俺らはそういうヤツらとは縁を切った、そのハズだろ?」
「…………」
 岩渕は沈黙した。沈黙し続けることしかできなかった。
 川澄は呆れかえるかのように顔を天井に向け、長い息を吐き、両手を首の後ろで組んでから、
「……心あたりなら、ある」と言った。
「えっ?」
 思わず聞き返す。
「……その、天使の羽根の中年男――たぶん、だけどな……会ったことがある……」
「本当ですかっ!」
 女が立ち上がり、叫んだ。それから……「教えて下さいっ! どこに行けば、その人に会え
ますかっ?」と、声を張り上げて言った。

―――――

 ――信じてもいいの? 《D》の彼らを、信じてもいいの?
 そう質問されても、わたしには答えられない。
 ――信じてもいいの? 彼を、信じてもいいの?
 そう聞かれても……やっぱり私には答えられない。
 ただ……私は彼を、信じなければならないのだ。10歳以上も年の上の男が、こんなにも
自分のために動いてくれる……この恩は、絶対に忘れてはならないのだ。
 ――なぜ? 
 わからない……なぜ、彼がここまでしてくれるのか。はっきりとは、わからない。なぜなら、
私は彼に自分のことを何も話していないのだから……。
 ――いつか、言うの?
 わからない……そう、本当に、わからないことだらけなのだ……。
 ――……一目惚れでも、した?
 わからない……そういうことも……本当にわからないのだ。なぜなら、私は今まで、人を
好きになったことはないのだから……。


《D》の大須店開業の日、その――中年の男は現れた。聞けば、その男も大須でリサイクル業の
経営をしていると言う。店の名は《プチタンジュ》、フランス語で≪小さな天使≫の意味らしい。
同業者ということでの挨拶と、地域の情報交換をした後――それっきりだという話だ。男の風貌
に特徴らしいものはなく、スーツを着て、天使の羽根らしきタイピンを付けていた――。
 川澄の話によれば――開業の日に自分の名刺の完成が間に合わず、互いの名刺交換は見送られた
らしい。ただ、男の口調は丁寧な標準語であり、羽根のタイピンの印象が強く、記憶にもはっきり
残っていたということだった。
 彼は川澄から聞いた店名と、店名から検索した複数の店舗の住所をメモして、私と一緒に《D》
の大須店を後にした。
 彼は私にメモを手渡して、「大須だけで3店舗か……1軒1軒回るしかないな……」と呟いた。
それから唇を、色が変わるほど強く噛み締めて俯いた。
 俯いたままの彼を見つめて、私は1分待った。それから……もう1分待ち……それからまた、
もう1分だけ待った。彼は俯いたまま、何か考え事をしているらしかった。
「……どうしましたか?」
 さらに1分待ってから、下を向いたままの彼に私は聞いた。「……手分けして探しましょうか?
……2人なら早いし、集合場所を決めれば……」
 彼はゆっくりと顔を上げた。
「……京子さん。アンタは帰れ」
「えっ? 帰る?」
 彼はあの目で京子を見つめていた。あの目――退廃的な、どこまでも孤独で、どこまでも
悲しい目……善人のようにも見えるし、悪人のようにも見える、あの目。
「そうだ。帰れ。アンタは自分の家に帰れ」
「嫌よ……ここまで来て、帰らないわ」
 大勢の人々が行き交う歩道の隅で、汗ばんだ両手をスカートの上で重ねて京子は言った。
「私……あなたと一緒に《天使》の店に行くわ」
「ダメだ」
 彼は断言した。「かなりの危険が伴う場所だ。暴力団や半グレの連中が経営してやがる
のは間違いない。だから、アンタは帰れ」
「嫌っ。帰らないっ」
「帰れっ、アンタの家の山崎が見つかれば連絡する。いいから帰れ」
「嫌っ、絶対に帰らないっ!」
 そうだ。京子はもう決めていたのだ。たとえ何があろうと、盗まれた山崎の50年を取り
戻すと決めていたのだ。「……あれは、あの山崎の50年は……ある御方の、ある御方の
ために特別に作らせた……私の命よりも価値のある品、なんです……私の家の、歴史や、
誇りや、祈りが込められた……大切な宝です……だから、絶対に帰りませんっ!」
「……今度はアンタ自身が盗まれて、韓国や中国に売り飛ばされちまうかもしれないぞ。
死ぬまで鬼畜の……奴隷だ……それでもイイのか?」
「売り、飛ばされて……奴隷に?」
「ああ、そうだ。ヤツらは日本人の若い女が大好きだからな。死んだら死体――臓器ごと
売られるだけ、死んでも家には帰れそうにないな……アンダーグラウンドってのは、映画や
マンガの世界じゃない……そういう場所だ……」
「いいわ……覚悟はできてる」
 京子が断言し、年上の男は、はぁー…っと長い溜め息をついた。それから、まるで何年も
付き合ってきた恋人のように優しく……ちょっと不自然な感じだけれども――微笑んだ。
「おいおい、マジかよ……どうなっても知らねえぞ……」
 彼が言い、京子は笑った。怖いけれど……もう、後戻りをする気はなかった。

 岩渕は何事かをブツブツと呟き続けている。「……何て日だ……最悪だ、最悪だよ、畜生。
……全部が上手く運べば《D》にも利益はあるかもだが……はぁ……後で社長に何て言われる
のか……報告しなくちゃ、ダメ……だよなぁ……はぁ……」
 ――それが、京子にはおかしく、また笑いが込み上げた。

―――――

 まるで炎の海のように――果てしなく眼下に広がる名古屋の夕景を見下ろしながら、私は
ゆっくりと山崎の50年の注がれたグラスを傾ける。
 これは皇室御用達、カガミクリスタルの江戸切子《菊つなぎ》――中身は50年もの歳月を
要して熟成された山崎のシングルモルトウィスキー50年。私にふさわしい、私の努力に
ふさわしい酒とグラスだ。
 
 私のすぐ背後――ルームサービスのワゴンの上には、山崎のウィスキー、アイスペール、
つまみとして用意させたスモークチーズ、スモークサーモン、牡蠣の燻製、ドライフルーツ、
いぶりがっこ、数種類のナッツ、それらが少量ずつ皿に盛られて並んでいる。
 そのワゴンの皿の奥に置かれた携帯電話から、今、部下の男の声が響いている。
『……大須の3号店と2号店に、妙な探りを入れてる男女がいます』
 男は応えた。
「……警察か?」
『違うみたいです。女の方は学生みたいな、若い女です……ただ――男の方は、《D》の名駅
支店長です……確認もしました』
「ふぅーん……具体的には? 何か探し物か?」
『……山崎の酒です。オーナーが持ち出された……その……』
 嗅ぎつけてきたか……それとも? まぁ、警察でもない商売敵がウチの店を見学しようと、
何を買おうと、何の探りを入れようと問題はない……互いに犯罪か、犯罪まがいの商売を
していることは周知の事実だ……しかし……。
「……確か、《D》の名駅店にも、アレと同じ酒があったよな?」
『いや……俺はよく知らないですが……』
 使えない男だ……これだからゴミは困る……。使い捨てのゴミだろうと、クズだろうと、
それなりの経費に見合う働きを見せてくれなければ、ゴミは来世でもゴミのまま……。
 50平方メートルはあろうマリオットアソシアホテルのスイートルームの窓辺に座り、
私は《菊つなぎ》を傾ける。グラスの中で丸い氷がゴロリと転がる。
「……1号本店にそいつらが現れて酒のことで問い合わせたら――オーナーが会うと言って
時間を稼げ。私も後でそちらに向かうことにする……」
『……了解しました』
 通話を切り、私はまた――夕景から夜景へと移りゆく、壮大な名古屋の街を眺め見た。
 ……わざわざ酒の名前を出してまで私の店を見学? バカなのか、アホなのか……挑発か、
取引か。またはそのどちらでもない? ……まあ、何だろうと、別にいいか。
 
 《菊つなぎ》を傾け、中身の液体を口内に入れる。ゆっくり、ゆっくり、舌を泳がせるかの
ように味わい、喉の奥へと滑らせる……瞬間、口の中に素晴らしい風味と余韻が満ちる。
 うまい……ああ、うまい……そうだ……渡すつもりは、ない。絶対に渡さない……コイツは
私のものだ……。当然、ヤツら――《D》の山崎も、私のモノにする……1滴も残らず飲み
干す……それだけだ……それだけのことなのだ……。

 儚げな余韻に浸りながら、私は《菊》の彫刻入りの山崎のことを考える。
 超高級酒である《クリスタルボトル仕様の山崎50年》――その中の、山崎の同一商品の
中でもさらに別格、非常に稀有な存在について――。
 おそらくは、サントリーと、山崎蒸留所に直接製造を依頼した特別仕様の1点モノ。つまり
……少なくともコイツは、それだけの、大いなる……国宝級の価値がある。
《菊》の木箱は、未だ開封すらしていない……。そう――木箱にすら美麗な装飾が施された
酒など、これまでの人生で未だ見たことはない……つまり……こいつの正体は……おそらく……。


《菊》の意味に思いを巡らせていた、その時――ワゴンに置かれた携帯電話が、機械的な
メロディを奏でる。まぁ、そうだろうな……そういうことだ……。そう、わかっている。この
電話の相手がどこの誰かなど、私にはすべてわかっているのだ……。

―――――

 『姫君のD!』 dに続きます。









          本日のオススメ→ DAOKO『拝啓グッバイさようなら』 
            某専門学校CM→ DAOKO『ダイスキ with TeddyLoid』 
 何を歌っているのか本当わからない→ DAOKO『さみしいかみさま』

 
 DAOKOさん↑……デビュー当初は顔出しNGであったが、解禁になって知名度が大幅に
アップ。意味不明の歌詞にデジタル丸出し?のメロディ……そういうの、本当に好き。
 今後はもっとメディアに露出して欲しいケド……そういうのイヤそうだなぁ……。



 お疲れサマです。seesです。
 ……相変わらず更新頻度が遅くてすいません。PC開いても動画見るだけで眠たくなる……。
 
 さて、楽天外から訪問される方々、この場を借りて少々の発言をお許し下さい。……seesは
ショートショートの書き手です。長編小説でも使える内容を、5分程度で読める内容に削る
手法を基本採用しております。強引だとか、無理矢理だとか、そういうご批判は正直――うざい
です(スジ違い。星新一先生の本読んでくれ……変な展開ばっかだぞ)。明言はしません
でしたが、株式会社sees.iiでは自社ブログに様々な制約を設けています(まぁ、後付けの
ものも多いですが……w)。無駄に字数を費やして、つまらない……そう……つまらないのなら、
せめて形だけでも整えたい……その程度の制約ですが……。

 えー今話は……まあ、適当に作りました……過去最低かも……て感じです💦💦。
 
 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。更新早めにできるようガンバリますっ!!
 ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ。
 ご拝読、ありがとうございました。seesより、愛を込めて♪



 DAOKOさんのアルバム↓内容濃くてリーズナブルです。ぜひ♪


こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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      ――その場に居合わせた全社員が、seesの顔に向け――
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 一同  「おいっ、seesっ!!  そりゃねーだろーがよっ!! 他にねーのかよっ!!」
      そんな……('Д')ダメナノ?
      皆様方、こんな理不尽な仕打ちがあってよいのでしょうか?( ;∀;)エ、マヂデ?……。

                                 了(*_*)。






Last updated  2017.06.02 23:42:57
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