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株式会社SEES.ii

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2017.07.27
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カテゴリ:ショートショート

ss一覧   短編01   短編02
―――――

「……畜生っ……畜生っ……」
 呪うように呟きながら、男は奥歯を噛み締めた。


 4月に入ってすぐに、男は直属の上司にあたる中年女性から事務所に呼び出され、アル
バイト契約の6月末での打ち切りを言い渡された。
「……悪いんだけど、6月いっぱいで辞めてもらうことに決まったから」
 男の顔をまともに見ず、口速に女上司がそう告げた。彼女は事なかれ主義で温厚な人……
だと思っていた……。
「辞めてもらうって……それって……クビってことですか?」
「うん……まあ……そういうことになるかな……」

 
 男は地下鉄に乗っていた。ヌルヌルとする吊り革に掴まり、窓ガラスに映った自分の顔を
見つめていると……様々な考えが頭の中を巡った。
 地下鉄の窓ガラスに映ったその男は、本当に冴えない顔をしていた。体も小さくて、
痩せていて、ひ弱で貧弱で、何にも取柄がなさそうだった。見た目が悪いだけではなく、
その男は勉強もスポーツも苦手で、言いたいこともハッキリと口にできず……自信もなく、
周りからも信頼されず……頼りなさそうで、何の才能もなく、卑屈で、卑劣で、下品で……
面白いことを女の子に言うこともできず、気の利いた行動で周囲の役に立つこともなく……
とにかく……とにかく……どこを、どう探しても、その男にイイ所など何ひとつ見当たら
ないように思われた……。
 もし俺が女だとしても、こいつだけは好きにならないだろうな。こんな男とだけは、絶対に、
絶対に、愛し合いたいなどとは思わない……だろうな。
 それを今、男は痛感していた。
 そう。女上司と話し合うことなどお門違いだったのだ。一度決定したことを覆すなど、絶対に
不可能だったのだ。彼女は彼女にとって正しい判断を下したのだ……彼女はまともな、とても
真っ当な人間だった……それだけのことだった。

「……畜生っ……畜生っ……」
 なぜ、俺はこんな人間に生まれた?
 わからなかった。男にはそれがわからなかった。どれほど考えてもわからなかった。

―――――

 男は子供の頃よく泳いだ河川敷の公園にいた。地元の住民が作ったであろう花壇の前の
ベンチに腰を下ろし、キラキラと輝く河川の流れを見つめていた。
 いい天気だった。
 今朝はハローワークには行かなかった。川沿いに歩き、次の転職先を考えようと自問自答
していたが、考えがまとまることはなかった。しかたなく、ペットボトルのお茶を買って、
河川沿いの道を当てもなくさまよった。
 ボートの係留場で遊ぶ子供の声や、堤防をランニングする高校生の掛け声が聞こえる。
花壇に雀たちが舞い下りて地面を一心に掘り返している。風が花の葉をなびかせていく。
かつては男もここで遊び、楽しい時間を過ごしていたこともあったのだろう。
 だが、それだけだった。もうすべてが、何もかもが過去のことだった。
 
 そろそろ行くか……。
 河川のある方向から響いている若い女の悲鳴に気づいたのは、男がベンチから立ち去ろう
として間もなくのことだった。

―――――

 ほんの10数m先の係留場に視線を向ける。若い女の絶叫は続いている。何かあった?
何か事故でも起きたのだろうか?
「いやっ! いやーっ! 助けてーっ! 誰かっ、誰か助けてっー!」
 強い興味と関心にとらわれながら河川の中央に目をやった、その瞬間――
 男の脳の機能と体の制御のすべてが――、
 まるで光の速さで流れ過ぎ、
 世界が、
 一瞬で、
 何の疑いもなく、
 何の支障もなく、
 ただ、
 流れて、
 過ぎた。
 ――男はそれを感じ、動いていた。
 子供が溺れていた。3歳か4歳くらいだろうか、幼い男の子が河川の水流に飲み込まれ、
流速のまま下流へと流されようとしていた。ストロボが焚かれたかのように男の頭の中は
真っ白になり、思考のほとんどが停止した。シャツとジーンズを脱ぎ捨てて河川へ飛び込み、
溺れる子供に追いつこうと手脚を必死に動かした。
 ――男はそれを感じ、動いていた。
 ヘドロのような粘液が口の中に侵入する。重さが増したスニーカーを水中で脱ぎ捨てる。
子供が両手をバタバタさせながら、かろうじて水面に顔を出しているのが見える。背後から
また女の悲鳴が聞こえた。そして、男も叫んだ。
「おおーいっ! 大丈夫かーっ!」
 男は叫んだ。ぎこちなく泳ぎ、呼吸もままならない状況で、声の限り叫んだ。
「おおおっーーいっ!」
 大声で叫び続けながら、男は泳いだ。泳ぎまくった。水の流れを無視し、水の抵抗を考えず、
ただがむしゃらに泳ぎ続けた。

 それが――男の記憶のすべてだった。

―――――

『はじめに言っておきますが……あなたの運命は変わりません』
 幼い……小学生か中学生くらいの男の子の声が耳に響く……。男は思った。ここはどこ
なのだろうか? 自分は何をしていたのだろうか? 男は体を動かそうともがいた。けれど、
手足は何か柔らかいものに包まれ、手応えがまるでなかった。無重力状態で浮遊するスペース
シャトルの乗組員のように、男は空間をフワフワと漂うだけだった。
『……あなたの心臓はすでに停止しています。脳機能が停止するのも時間の問題です』
 少年の声がまた響く……。男は目を見開いた。けれど、そこは自宅でも病院でも水中でも
なく、ただ真っ白い空間に自分が浮かんでいるだけの状態が見えた。腰を屈めて1回転する……
できた。2回転してみる……できた。そこは、空中に重力なく浮かんでいるだけの状態に
思われた。今度は男が口を開いてみた。
「……キミは、誰だい?」
 返事はすぐに聞こえた。
『……あなたは、死んだんです』
 もう一度、聞いてみた。
「……ここは、どこだい?」
『あなたはーっ、死んだんですよぉーっ! わかりましたかーっ?』
 幼げではあるが、少年の声は男を蔑むかのような口調だった。
「……どういうこと……俺は、いったい……あの時? ……何が起きて? ……キミは誰?
……あの……死んだって……」
 しどろもどろになって男は言った。
『……あなたは河川で溺れた子供を助けて死んだ。水中で力尽きたんです。酸欠で心機能が
停止して、脳波もすぐに消える予定です……わかりませんか?』
 少年の声が尋ねた。その口調は幼げではあったが、高圧的であり、明らかな侮蔑を含んだ
ものに間違いはなかった。 
「……キミは誰だい? ……俺が……もう、死んでいるだって?」
 声を強ばらせて男が言った。
『頭の悪い人ですねえ』
 少年の声は笑った。『ボクは150年くらい先の未来から来ました』
 少年の声はまた笑った。自分よりも遥かに劣る、まるで犬か猫にでも話しかけるかのような
口調で笑い、話し続けた。
『学校の宿題で《あなたの歴史》ていうのがあってさ、自分のご先祖様がお世話になったり、
命を救ってくれたヤツとかにイロイロと話を聞いてたんだよね。……まぁ、記憶に残らない、
アンタみたいな死にかけの状態じゃないとダメなんだけど……今回はツイてたよ~。まーた
ロクに話もできないジジィやババァじゃつまんないし……』


 少年の声は言った。
『溺れてた子供ってのは、ボクのご先祖様。わかる? バカそうだからわかんないかな?』
 込み上げる混乱と絶望に、男は、かつてないほどに脚が震えていた。

―――――

 男は話した……自身の生い立ちや、自身の性格や、自身の悩みや、自身の抱える苦境について
話して聞かせた……。両親は離婚していないこと……結婚もせず彼女もいないこと……カネも
なく貯金も残り少ないこと……特技もなく趣味もなく何の才能もないこと……。そう。少年に
質問されたコトだけを詳細に話して聞かせた……。
 そんなことをペラペラと喋る気などなかった……喋る気分になどなれるハズがないのに……
なぜか――男は少年に向けて話して聞かせた……。
『じゃあ次は……』
 少年の声が言うと――いつの間にか、男は自分で自分の体がコントロールできていないことに
気がついた。おそらく、この空間そのものが少年の支配下に入っているらしかった。自分の
脳の記憶をほじくり返され、さらには自分の声帯と脳の一部を操り、情報を吐き出させて
いるのだろうと思われた……。
 ただ、ひとつだけ――
 ひとつだけ救いがあるとすれば――
 それは《心》だった。
 いくら肉体を支配されようとも、男の心の中までは読み透かされることはなかったのだ。

『おっさんの人生って最低だね。本当にクソみたい』
 少年の声がまた笑った。『それにブサイクだしさ。整形しようとか思わなかったの?』
「……思いませんでした」
 言いたくもない言葉を言わされ、男はギリギリと歯軋りをした。見えないハズの子供の
姿を想像し、怒りを込めて睨みつけた。目の前にいる子供は敵だった。そう。それは耐え
難いほどの屈辱であり、蔑みであり、暴力だった。
 怒りと絶望――。
 そんな言葉が、真っ白であった男の心の中で何度も何度も明滅した。
 これまでの人生で、その言葉の本当の意味を考えたことはなかった。けれど、今日――
この状況が今、まさにその瞬間のことなのだと――嫌というほど強く思い知らされた。
 そう。これが怒りなのだ。これが絶望なのだ。どちらかに偏っていようが、すべてがドス黒く、
ドロドロに塗りつぶされていった……。溺れた子供なんか助けるんじゃなかった、とも思った。
 
 もうすぐ俺は死ぬ……俺の人生は、おしまいだ……こんなガキに馬鹿にされて……馬鹿に
されたままで終わるのか? ……畜生っ……畜生っ……。
『……生まれ変わったら家畜にでもなりなよ。ボクが美味しく食べてあげるからさ』
 激しい苛立ちが込み上げるのを覚えながら、男は思った……。
 
 ――絶対に、殺す。
 周りのものすべてが敵に見えた。

―――――

 男が最後に見たものは、ボートの係留場で抱き合う親子の姿だった。
 ぐったりとはしているものの、まだ息のある我が子を抱き締めた母親は――我が子を
命がけで助けてくれた男には見向きもしなかった。
 我が子を抱き締めたままの母親は――座り込むだけで立ち上がろうとはせず、ましてや
河川に飛び込もうとする気配は皆無だった。
 ひとつの感謝の言葉をも発することのない母親は――精根力尽き、ゴボゴボと水中に
沈む男の存在など、まるで初めから無かったかのように――
 ――弾けるような笑顔で
 ――本当に嬉しそうに
 ――ただ、ただ、涙を流し続けていただけだった。それだけだった。それ以上でも、
それ以下でもなかった……。

 
 男の心機能が停止し、脳機能が停止しかけ、脳波が最後の電気信号を発信する……。
 河川の深い水底で――
 薄れゆく意識の中――
「……畜生っ……畜生っ……」
 呪うように呟きながら、男はまたしても奥歯を噛み締めた。
 その時だった。
 ドクンッ……。
 停止したハズの心臓が再び脈動を再開し、次の瞬間には……停止しかけていた脳が力強い
信号を発信した。信号は少年の声よりもずっと強く、ずっと賢かった。それもそのハズだ。
何しろ、すべてが自分自身の本当の声なのだから……。
 
 
 信号は男に聞いた。
『……本当は自殺したかったんだろ? 死にたかったからこそ、お前は子供を助けようとした。
最後くらいはカッコつけたかった、それだけのコトだろ?』 
 信号は男に教えた。
『……あのガキの言う未来は、ただの記録だ。お前は死にたかったからこそ、わざと死んだ。
けどな、お前が生きたいと少しでも願ったのなら、結果は簡単に変わるもんだ……』

 
 そして、男は蘇った。
「あああああああああーっ!」
 ただ蘇っただけではなかった。激しい怒りと憎しみが、男のすべてに強靭な意思と力を
宿らせていた。
「うおおおおおおおおーっ!」
 大声で叫びながら水面へ浮上し、係留場に佇む母親の足首を掴んだ。自分でも信じられ
ないくらいの力を込め、母親を子供ごと水中に引き摺り落とした。驚愕する母親の顔面を
力いっぱいに殴打し、子供を水面下に押し込めた。

「何が未来だっ! 何が《歴史》だっ! 俺の人生はっ! これから始まるんだよっ!」
 ブクブクと水底に沈む母親と子供の目を見つめて――男は笑った。現時点では、あの少年の
声と、この母親と子供には何の関係性もないと思われた。けれど、母親と子供が苦悶と苦痛に
顔を歪めて絶命しようとする瞬間――

 ――男は、あの少年の悲鳴を聞いたような気がした……。 



                                  了









          

  
       本日のオススメ→ SALU / LIFE STYLE feat. 漢 a.k.a. GAMI, D・O
 散歩中なら絶対コレ→ SALU / WALK THIS WAY
  ソフィーさん最高→ SALU / 夜に失くす feat. ゆるふわギャング (Ryugo Ishida, Sophiee)

       
       SALUさん↑ ご存知の方も多いかとは思いますが、ヒップホップのラッパー。
       これまであった『日本人のラップはダジャレ』みたいな価値観を大きく覆した天才。
       リズム・リリック・アート性、全てが才能の塊であり、英語歌詞も堪能。
        個人的見解で申し訳ないが……車の運転中や作業中には不向きかも。リリックを
       楽しむのであれば、散歩、ゲーム、ネット遊泳なんかには絶対にオススメです。レゲエ
       ・ハウス(要はベース音重視の楽曲)などとの相性も良く、コラボ楽曲も多いス。ぜひ。




 お疲れサマです。seesです♪ 
 たいしたこだわりもなく英語タイトルww
 今話はあんま時間もなかったので、焼き直しっス。seesの雑誌デビュー当時のショートの
ひとつです。どれを魔改造しようか悩みましたが……エグさ、で選んだかなぁ……。若いス。
救いようのない話ス。しっかし、久しぶりの単発ショートッすね🎶

 コレ作った時まだ10代であったため、内容が支離滅裂としていますが……何とか焼き直して
読めるように改造しました(笑) ……(あの時、もう少しカネを貰えていれば……(*_*;ハァ)
 
 楽天様とフォロワー様方のおかげでseesのブランクも少しずつ解消されてきたように
思えます。この場を借りて感謝を……<(_ _)>ハハァー

 次回もショート予定かな? また近いうちに短編03作りますかね……。『姫D』も概ね
好評??で、一安心ス。しかし、不快だった方も多かったと思います……失礼しました。
 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて🎵



↓SALUさんのオススメ楽曲。偏見持っている方こそ、ぜひ、お試しあれっス↓
    

 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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 オマケショート 大相撲特別編02 『伝統?』

 隣のオヤジ(酔)「……姉ちゃん姉ちゃん、コレコレコレ~……(^^)/デヘヘ」
 巡回販売員(女)「………ありがとうございま~す」

 sees      「……???」
          それは十両の取組前での出来事であった……。マス席隣に座るオヤジが
          巡回する女性販売員に何かを渡している……。
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 たっくん    「……ああ、ありゃ~、『おひねり』だな」
 sees       「えっ……おひねり??」
 たっくん    「チップだよ、チップ。カネだカネ」
 sees                 「な……何ぃぃぃぃっ!!! ワシ知らんぞ、そんなシステムゥッ!!」
 たっくん    「(._.)フゥーー……でかい声だすなよ~いっちゃん(seesの愛称)ww」
 sees       「……何の意味が……いったい、何の意味があると言うのだっ!!」
 たっくん    「伝統芸能や伝統文化にはそういうチップが不可欠なの、ご祝儀みたいな
          モンだよ……実際に名古屋場所で目にするとは思わなかったケドな……」
 sees       「……ウチらもあげたほうがイイの、かな?」
 たっくん    「……おひねりなんてのは、金持ちの遊びだよ。ヤリたいだけの自己満足
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 sees                 「たっく~ん( ;∀;)イケメーン、そうだね。ワシら、ピュアだもんね(^_-)-☆」
          
          涙目になるseesを、なぜか、本当になぜか――たっくんは睨みつけた。 
 たっくん    「てめーは飲みに来ただけだろーがぁ!!! いつまで銀色のヤツ飲んでんだよぉ!!」
 sees       「ひぃぃ……(*_ _)スイマセン」
          seesは思った。
          ウマすぎたのだ……『紀文』さんのチー鱈、『鈴廣』さんのカマボコ、『なとり』               
          さんの茎ワカメが……ウマすぎる……ウマすぎたのだ。seesは何も悪くは
          ない……悪くはないのだ……すべては、この銀色のヤツが悪いのだ🍺テヘヘ

                                  特別編03へ続く……。
            と思ったけど、やめときます。ちょっとひとりよがりだったかも、反省。







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Last updated  2017.08.07 22:51:17
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