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株式会社SEES.ii

2018.01.30
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―――――

 10月20日。午後4時40分――。
 困惑と驚愕に顔を歪ませて、目の前に立つ安藤がゆっくりと言葉を発した。
「……信じられない……どういうことだ? ……何が起きている?」
 安藤は唇を震わせて澤の顔を見つめた。次いで周囲を見まわし、それから背後を見ま
わし、そのあとでダメージを負いアスファルトに倒れた何人かの部下を見つめた。そして、
ようやく自分たち《警備部隊》の数が減り、《D》の数が減っていないことを理解した。
「おい……傭兵ども……それとも、非国民か? 売国奴か?」
 引きつった顔で自分を見つめる安藤に澤は言った。「お前は……お前らみたいに血と
カネしか興味のないようなゴミどもは……この街に不要なンだよ……まさか……自覚が
ないわけ、ないよな?」
 安藤は血まみれになったジェラルミンの盾を見つめた。それから「……そうかもな」
と声を震わせて頷いた。
 安藤は澤と同じくらいの歳だろう。頭髪が白く短く、肌が浅黒く焼けていて筋肉の
隆起が装備の上からでもわかる。その筋肉で覆われた肉体が未知の恐怖に脅えている。


「ぐげぇっ!」
 弾き倒した《D》にトドメをさそうとした警備隊員は一歩進んで盾を水平に持ち替えた。
しかしそれ以上前に進めない……。隊員が足元を見つめた時、違和感の正体がわかった。
脚の骨を折った《D》の若い女が隊員の脚にすがりついて離さない……。
「このっ、クソアマッ!」
 両手ですがりつく女の顔面を蹴りあげようとした瞬間――隊員の内臓に激痛が走った。
今さっき倒したハズの《D》の男が蘇ったかのように立ち上がり、隊員の脇腹に前蹴りを
食らわせた。蹴りは油断していた隊員の肝臓を一瞬にして破壊した。
「ひっ」
 隊員は地面に倒れ、胃液吐き散らし、涙を流して激しく悶えた。

 激しい乱闘の末――。
 ひとり……ひとり……またひとり……。
 安藤は自分が指揮する隊の人間が次々と倒れ伏し、《D》の人間たちが誰ひとり欠ける
ことなく動き続けている光景を――信じ難い驚きと、凄まじい恐怖に囚われて、見た……。
口から赤い泡を吹いて悶絶する隊員を……奪われた盾で執拗に叩きのめされている隊員を
……土下座して許しを乞う隊員を……焼けたフライパンに放り込まれたエビのようにのた
うちまわり、苦しげに「安藤隊長……」と助けを呼ぶ隊員を――見た。見続けていた……。

「……格付けは済ンだな」
 澤は呆然と立ち尽くす安藤に向けて――まるで逆転の満塁ホームランを打った野球選手
ように――勝ち誇って微笑んだ。「……永里……あの女のところへ行く。止めるなよ?」
「それは……無理だ」
 恐怖に震えながら安藤が応える。
「無理?」
「ああ……『行け』なんて言えるわけないだろ? 私も……ケジメをつけなきゃならん」
 恐怖に震え続けながらも、安藤は微笑んだ。
「……そうか、ケジメか……不器用な生き物だよ。『男』ってヤツは……」
 低く笑い返すと、澤は視線を左右に動かした。「鮫島っ! 宮間っ!」
 左右から同時に現れた男女が安藤の盾と腕を掴み、体を抑え込む。――刹那、澤は
固く握った右の拳を思いっ切り――微笑む安藤の顔面に叩き込んだっ!
「うぐぅ!」
 安藤が悲鳴を上げた次の瞬間、左の拳を安藤の顔面に叩き込む。右……左……右……
連続で……叩きのめす。
「ぐぐぅ……うぐぐ……ぐぐっ……」
 血ヘドを吐いて、安藤がくぐもった呻きを漏らす。そのまま膝から崩れ落ちるも――
男の目は意識を失ってはいなかった。「……お前らは……何だ? なぜ……立ち上がれる?
なぜ……立ち向かって来れる? あれだけ痛めつけてやったのにっ……なぜだ? ……
その力は……何だ? 小銭を集めることしかできねえような……中小企業の、クズ共が…
…こんなことは、ありえない……ありえねぇんだよ……」
「……知らん。まぁ……しいて言えば……アレだ……頼まれたからだよ」
 澤はそう言って笑うと、血まみれの長い髪をかきあげる宮間有希と、ボロボロになった
スーツのホコリを払う鮫島恭平の顔を見つめた……。
「……そうね。結局はそう考えるのが妥当かも。それにしても、不思議ね。姫様のお声を
聞いたあたり、だっけ? 何だかあなたたちに対する怒りも憎しみも……今はあまり感じ
ないわね……」
「……ステゴロなんて久しぶりだからな。俺はそれだけでスッキリしたぜ?」
「……これだから元プッシャー(麻薬売買人)は……頭、イカれてんじゃない?」
「うるせえぞっ! 元ポン引き女(売春斡旋業者)が……中間マージンで食うメシはさぞ
ウマいんだろうなぁっ!」
 安藤は愉快そうに笑う3人を交互に見つめ、それから――自身と、自身の隊の敗北を
認めたかのように……静かに……瞳から力を抜いた。

「……『やっつけて』とアイツに頼まれた。皇女殿下にも応援を頂戴した。負けるワケ
にはいかねえ……それだけだ……それだけのことだ……」
「……そうか……そう、なんだよな……」
 安藤は力なくそう呟くと、震える腕を懸命に持ち上げて、《ユウリクリニック》の3階
を指で示した。「……察しもついてると思うが……爆弾は院長室だ……さっさと避難しろ。
5時になったら、ボンッだ……」
 その瞬間――
 安藤を除く、《D》も《警備部隊》も関係ないすべての者が――
 驚愕と戦慄に身を震わせた。

「岩渕の野郎……そこに居るのはわかってンだよ……畜生が……」
 低く呻くように、澤は呟いた……。

―――――

 終わった。
 駐車場での戦いが終わり、京子の手を振りほどく。彼女が俺の名を呼ぶ声を聞く……。
そして、自分の価値と、未来のことを考える。頭を抱えてしゃがみ込み、ひたすら考える。
 ユウリの言う通り、俺は不良品……なのだと思う。何の価値もない男だとも思う……。
なぜ、そう思う? ……簡単だ。俺は廃棄されたのだ。父にとって、母にとって、家族に
とって……俺という人間は何の価値も無いのだろう……そんな自分が、そんなゴミのような
男が自分を捨てて、都合よく他人に成り替わろうとした。自分を捨ててしまうような――
あっけなく全てを諦めてしまうような――……最低な人間。たとえ一度でもそんな決断を
したバカな男を――彼女はどう思うのだろうか?
 
 彼女は、『そんなことはない』と言ってくれるのだろう……。けれど、その言葉を
簡単に信じられるほど、俺は子供ではない……。

 暴力・窃盗・恐喝……積み重ねた悪しき過去は、努力と贖罪によって晴らされると思う
のは間違いだ。
 早ければすぐ――そして、遅くともやはりすぐ――俺の素性は世間に発覚し、京子とは
引き裂かれるのだろう……。
 別にそれは構わない。殺されようが、死刑になろうが、そんなことはどうでもいい。分を
わきまえず調子に乗って裁かれたヤツは、有史以来、腐るほどいる。……結局、出会って
しまったことが罪なのだ。……こんな結末が、俺にはふさわしい。
 ただ、俺のせめてもの願いは、《D》に謝りたい、裏切るようなマネをして申し訳ない
と、心から謝罪したいということだけだ。
 たとえ皆に殴られ、蹴られ、裏切り者として解雇されたとしても――謝り続けたいという
ことだけだ。
 だが、たぶん……それも難しいだろう。
 こんな男の話を誰が聞いてくれるのだろうか? 身勝手な自己愛だけが肥大しただけの、
『愛』の意味すら理解できぬような不良品の謝罪を、誰が受け入れてくれるのだろうか?

「……京子、教えてくれ。お前はどうして、俺や、みんなや、両親から愛された? ……
いったいどこで、そんな方法を学んだんだ? ……教えてくれ……俺はどうすれば……
どう生きれば……俺の望む生き方ができる? わかんねえんだ……どうしてもわからないん
だよ……」
 気がついた時、京子は震えながら泣いていた。
「……大丈夫。心配しなくても、いいよ。……不安に思わなくても……いいよ……」
 そう言って岩渕の前に膝を下ろし、ギュッと強く抱き締められる。互いの額が触れ、
暖かい涙が岩渕の頬に流れ落ちた。
「……心配しすぎなんだよ……考え過ぎなんだよ……だから、もう、泣かなくてもいいよ」
 岩渕を抱き締めて京子が言った。「……ほら、外にいるみんなの声を聞いて……誰も、
あなたのことを嫌ってなんかいないよ……」
 彼女が言った、まさにその時――窓の外から自分を呼び、自分のために叫び、自分の
抱える闇をすべて打ち砕くかのような――《D》の声が響いた。


「悪かったよっ! 今回の件はすべて俺に責任があるっ! 許せっ! 申し訳ないっ!」
「コイツらから話は聞いたわっ! 煽った私にも責任があるっ! ごめんなさいっ!」
「岩渕っ! 爆発するぞっ! 姫様連れてさっさとそこを出ろっ! 危険だっ!」
「岩渕っ!」
「岩渕先輩っ!」
「マネージャーッ! 急いでくださーいっ!」
「ケガ人とクソ野郎共はアトラスに乗せましたーっ! あとは岩渕さんたちだけですよーっ!」
「永里のことは放っておけっ!今すぐ降りて来いっ!」
「――ズラかるぞっ! さっさと来いっ! 《D》に……ウチに帰るンだっ!」


 涙をぬぐい、京子の手を取る。迷いはない。何もない。あるわけがない。
 ふたりで院長室の扉を抜け――階段を駆け下り――玄関を走り抜け――《D》の皆と
一緒に走り抜ける――。
 ふたりでフィアットに乗り込み――エンジンに火を入れ――アクセルを深く踏む。


「悪いが……今日、俺が言ったこと、泣いたこと、全部忘れてくれ」
 京子は少しだけ驚き……少しだけ笑い……少しだけ、いたずらっぽく微笑んだ。
「それは……ムリか、な……」
「コイツッ……今度、覚えてろよ……」
 京子が笑い――そして、岩渕とふたり……ルームミラーの中で爆炎を上げる《ユウリ
クリニック》の残骸を見つめ続けた。運転席の窓を開き、ユウリの顔が印刷されたパンフ
レットを放り捨てる。
 顔の皮膚が燃えるように熱かった……。


―――――

 k-2 へ続きます。





 休憩です。


 最近お気に入りの楽曲ス。よろしければ、試聴後にk-2へ。ふぃ……。ごめん
ちょっち更新待ってて……今月末までには……。一話分の前編仕様、短い。ごめん。
修正すらしてない。ごめん。また作り直す。また来てください……。








Last updated  2018.02.07 01:05:31
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